第24話 エルフを救え!①
カジノからカエラを連れ出した俺とアリシア。
俺たちは今、エピステーメーたちのもとへ合流しようとしているのだが――。
「貴様、その手を離さないか」
「アンタこそ、主から離れな」
「……いや、お前ら二人とも離れろよ」
二人は俺の腕を掴んで離さず、結果として俺は両手に花の状態になっていた。
「ソウジ達が戻ってきたようですよ……おや?」
エピステーメーが眼鏡をクイッと上げる。
「ソウジさん、女性が一人増えていますね……どなたでしょうか?」
「おーい、みんな! カエラを連れてきたぞ!」
「……連れてきたのはいいですけど、これはどういう状況ですか?」
「ソウジさん、もしかしてハーレム展開を作ろうとしてます?」
「や、やっぱり……へ、へへへへへへへ変態さんです!!」
「ちげーよ!!!」
俺は、カジノでの経緯をみんなに説明した。
「なるほど。まあ、ソウジらしいというか、作者好みの展開というか……」
「……なんの話だよ」
「ソウジさん、一発逆転ドリームはどうなりましたか?」
リリムが目を爛々と輝かせながら、俺たちのところへ突っ込んできた。
「そんな時間あるわけねえだろう」
「なんでですか!?」
「それで、聞きたいことってなんだ、主?」
「主!?(×4)」
「ソウジさん、今度はそういうプレイですか?」
「今度はってなんだよ!!」
リリムはなぜか興味津々といった顔をしている。
「変態さん……最低です……」
「なんでそうなるんだよ!」
人目のない場所で話をしたかったため、俺たちはカエラを連れて魔装船へ戻ることにした。
魔装船に戻った俺たちは、一旦それぞれの部屋で着替えを済ませてから、リビングに集まって話そうということになった。
着替えを終えた俺は、ついでにトイレも済ませておこうと扉を開ける。
「……え?」
扉の向こうには、ちょうど着替えの途中だったのだろう――カエラの姿があった。
「なんだ、主?もしかして……色々手伝ってほしかったのか?」
「ち、違っ……つか、何でこんな所でそんな格好で何してるんだよ!?」
「何って…アンタがなかなか下着を返してくれないから……今こうやって着けてたんだろ?」
「あ……」
『チャキッ!!』
その時、俺の背後から抜刀する音が聞こえた。
「……ソウジ?」
※優しい声の殺意
「ア、アリシア!?ち、違っ……これは……」
アリシアは俺の前を通り過ぎ、カエラの前に立つ。
※トイレ前が封鎖されました。
「貴様、ソウジを誑かしたな!」
「何を言ってるんだ?主は、い・ろ・い・ろ(強調)手伝ってほしくてわざわざ着替え中のアタシのところに来ただけだろうが。この堅物女が!」
「あ、あのー……とりあえずトイレに入らせてもらえないかな?」
「かっ、堅っ!?誰が堅物だ!!大体色々って何だ!!」
「……男にはな、色々あるんだ。そう、誰にも言えない…色々な?だからトイレが必要なのさ」
カエラは切ない表情で語り始めた。
「ば、馬鹿な……一体、一体何があるというのだ!」
アリシアは戸惑いを隠せない。
「知りたいか?アリシア」
「カエラ……覚悟はできている。詳しく聞かせてくれ」
「お前らそこをどけぇぇぇ!!漏れたら社会復帰できなくなるぅぅ!!!」
「サバオ、よーく見てください?あれが三角関係ですよ」
「サンカクカンケー?」
サバオに耳打ちをするリリム。
「お前は何を教えてるんだよ!!!」
アリシアとカエラ。
どうやら彼女たち二人の間に、謎の友情が芽生えたようだ。
なんとか無事にトイレを済ませた俺は、リビングに向かった。
そこでみんなと合流し、改めて話をすることになった。
「それでは、カエラ、色々聞かせてもらいたいのですが…」
「もちろん。それが主の願いなら構わないよ」
カエラはあっさりとうなずく。
「何でも聞いてくれ。アタシの知ってることは、全部話そう」
まず聞こえてきたのは、クサレマグロの声だった。
『相棒よ。また随分といい女を連れてきたな。しかも今度は全くタイプが違うじゃないか』
「剣が喋った!?」
「あー、そのことについては、あとで詳しく教えるから……」
「では、単刀直入に聞こう。エルフ狩りについて、知っていることを教えてほしい」
アリシアがカエラに問いかけた。
「エルフ狩り……」
カエラは少し考えるように目を細めた。
「そうか……アンタたち、あの女ったらしから依頼を受けたんだな?」
「え? エリアスのことを知っているのか?」
「知ってるも何も、エルフ狩りの件で最初に依頼をされたのはこのアタシだからな」
「どういうことだ?」
カエラはそのまま語り出す。
「……アタシは、元々とある組織のリーダーだったんだ。エルフ狩りを始めた張本人が所属していた組織のな」
「ーーーーーーッ!?」
「まあ聞いてくれ。組織と言っても、アタシたちはマブロス帝国に占拠された町や村を解放する為に戦うレジスタンスだったんだ。アタシはそのリーダーだったってわけさ」
「レジスタンス…そうか、形は違えど、君も私達と同じ志だったのだな」
「しかし、ある日突然、おかしな奴が一人、レジスタンスに入ってきてな…」
「おかしなやつ?」
「ああ。奇妙な術を使う奴で、アタシのレジスタンスの仲間や拠点にしていた町の人たちは次々とその妙な術で洗脳されていった。そして……そいつは勝手にエルフ狩りを始めやがった」
「…元々レジスタンスの活動に興味はなかった、いや、利用しようとしていたようにも思えますね」
エピステーメーはメガネをクイッと上げる。
「アタシたちは人々を解放するためのレジスタンスだ。そんなアタシたちがエルフ狩りなんて…コイツをこのまま放っておくのはまずいと思ったアタシは、この危険因子を完全に排除しようとしたんだ。信頼できる仲間たちを連れてな」
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「おい、ネメルヴァ!お前を危険因子と見なし始末させてもらう!」
「危険因子?何のことです?」
「とぼけるな!お前、エルフ狩りをして奴隷商に売り飛ばしているらしいじゃないか」
「……レジスタンス活動には資金が必要です。それにエルフ狩りとは人聞きの悪い。力のあるエルフはこちらで有効に使い、いらないエルフは必要としている人間に引渡す。何か問題がありますか?」
「ふざけるな!アタシはそんな話聞いてない。お前、エルフを集めて何を企んでやがる?」
「……はぁ、黙って見ていればいいものを…馬鹿な女だ」
「ぐはぁ…」
「がっ…!」
「カ、カエラさん……逃げ……て…」
「なっ!?」
何が起こったのか、カエラの仲間たちは苦しんでおり、そのまま息絶えてしまう。
「ネメルヴァ!お前何をした!?」
「気付かなかったか?お前達がここに来た時からすでに私の術中にあることを」
「ッ!?」
ネメルヴァがそう言うと、先程まで見えていなかった無数の糸のような物が露見する。
「お前は勘がいいからな。他の奴らには仕掛けさせてもらった。この様に…な?」
ネメルヴァが指をクッと引くと、倒れていたカエラの仲間達が無惨にも破裂して飛び散る。
「ネメルヴァぁぁ!!!」
カエラは激昂し、ネメルヴァに斬りかかる。
「ッ!?」
しかし、次の瞬間、先程まで張り巡らされていた糸が槍のように変化し、カエラの左胸を貫く。
「ガハッ……」
「ほう、咄嗟に体勢を変えて心臓は避けたか?抉りとってやろうと思ったのだがな?」
ネメルヴァは踵を返し、その場を立ち去ろうとする。
「ま、待て……」
「もうお前に用はない。お前にとって最も屈辱的な死を与えてやろう」
すると、レジスタンスの戦士たちがカエラの周りに集まる。
「お前ら……?」
「お前の声は届かない。さあ、戦士たちよ。その女を辱めて殺せ!」
ネメルヴァの声に、戦士たちは一斉にカエラに迫る。
「ク、クソ!やめろ!!アタシだ…やめてくれ…」
「彼らには狂戦の呪術もかけてある。殺されたくなければ殺すしかない」
そう言い残すと、ネメルヴァはその場を去る。
「ふざけるな……アタシが……アタシがお前らを……殺せるわけないだろ…」
次の瞬間、一人の戦士がカエラに斬りかかる。
カエラは間一髪躱す。すると、戦士が何かを呟いていることに気が付く。
「…カエラ…さん、早ク…殺シテ……生キテ……」
「!?」
他の戦士たちも同じように呟いている。
そして、戦士たちの頬には涙が伝っている。
彼らは既に意識はない。
しかし、カエラを心から慕う彼らは潜在的に呪術と抗っていたのだ。
「うわぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
カエラはこれ以上仲間たちを苦しめたくない、解放してやるんだ。そう自分に言い聞かせながら戦士たちを仕留めていく。
「すまない…すまない、皆……」
こうしてレジスタンスは壊滅し、カエラは拠点となる町から姿を消した。
その時のカエラの頬には、大粒の涙が伝っていたという。
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「仲間たちはあっさりと殺され、アタシも奇妙な術で、危うく心臓をえぐり取られるところだった。このタトゥーは、その時の傷を隠すためのものさ。そして、アタシは…アイツらを……」
カエラはグッと拳を握りしめる。
「結果、アタシはなんとか生き延びることができた。
しかし町の人たちからは“仲間殺しのカエラ”――なんて呼ばれるようになってな。まあ奴の奇妙な術で町の人たちに記憶を刷り込んだんだろうが。それからアタシは町を出た。そして数ヶ月前、この街に流れ着いた時、あの女ったらしに声をかけられたってわけさ」
「そのネメルヴァってヤツ、ちょームカつくね!私マジキレそうだわ!」
「そうですよ!カエラさんは何も悪くないのに!」
「まあ奴を殺さない限り、町の人たちの記憶操作が解けることはないだろうさ。それにアタシが仲間を殺したのは事実だしな」
「で、でも……」
リリムはカエラのあまりに壮絶な過去に、これ以上の言葉を失ってしまう。
「その…その戦士たちってさ、苦しんでたんだろ?結果は最悪だったかもしれないけどさ、カエラは皆の心を救ってやったと思うぜ?もしそこでカエラがその戦士たちに殺されていたら、その戦士たちどうしただろ?」
俺は思いつく限りの言葉をカエラにぶつけた。
「主…」
「私もそう思う。強力な呪術をかけられても、潜在的に抗える屈強な戦士たちだ。もし君をその手にかけたとなったら、彼らは全員その場で自害していたかもしれない」
「潜在的に抗える、それだけ貴方の事を慕っていたのでしょう。アリシアの言う通り、もし貴方を殺したとなれば彼らは自害したでしょう。潜在的に罪の意識を持ったまま…ね」
「…ありがとう、皆」
そして、カエラは話を続ける。
「あの女ったらしはどうやら膨大な人脈を使っての情報収集がすごいようでな。どこから聞いたのか、アタシが元レジスタンスのリーダーであること、そのレジスタンスの一員がエルフ狩りの首謀者であることを知っていた」
「それでカエラに声をかけたってことか」
「ああ。エルフ狩りの組織を潰す。傭兵ならいくらでも出す、ってな。だが、アタシは断らせてもらった」
「なんで?」
「あのネメルヴァは危険だ。ネメルヴァを何とかしたい気持ちもあるが、関係ない人たちを犠牲にするわけにはいかない。だから、あの女ったらしには情報も一切提供していない」
「カエラがいなくとも情報さえあれば、彼は大量の傭兵を雇って討伐要請をするでしょうね」
「あの女ったらしのことだ。アタシのここまでの経緯もある程度はわかっているだろう。上手くいけばアタシの心情も利用できると思ったんだろうさ。本当にいけ好かない奴だ」
「いけ好かない奴…か。同感だ!」
アリシアとカエラはガッシリと握手を交わす。
カエラはなんの事やらわかっていないようだが。
「なあ、カエラ。俺たちはそのネメルヴァって奴をぶっ飛ばしてエルフたちを助けたい。だから、情報を教えてほしい。一緒に戦ってくれとまでは言わない」
ソウジの言葉に、カエラはわずかに目を伏せた。
「主……いくら何でも主を危険な目に遭わせるわけには……」
「主の命令だぞ。聞けないのか?」
俺はカエラに優しく微笑みかけた。
「……主」
すると、それまで黙っていたクサレマグロも声を出す。
『我からも頼む。久々に胸糞悪い話を聞いた。そのネバネバとかいう者、粉々にしてやりたい』
「お前は本当にやりそうだから怖ぇよ……」
『表面上やるのは相棒だがな?』
そして、その場にいた全員、やる気に満ちた目をしていた。レジスタンスの戦士たちの無念、何よりカエラの心の闇を晴らしてあげたい、その気持ちはカエラにも伝わったようで、
「ありがとう……ありがとう、アンタたち。アタシは、やっと一歩踏み出せるんだな…」
カエラの瞳から大きな涙がこぼれた。
「よし、それじゃあ早速作戦立てよーぜ!」
俺たちはこの後、ネメルヴァ討伐・エルフ救出の為、カエラを中心に夜更けまで話し合うのであった。
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ーーおまけ小話ーー
【作者の好み?】
「んがっ!!!!」
「またか…主。もはやワザとだろ?」
「いい加減にしろよ!作者ァァァァ!!!」




