第14話 奪還&救出大作戦①
俺達がユーダイモニアに向かい始めた頃、アリシアはマロ漁港を訪れていた。
「…そうか、では確かにその一行はサヴマの祠へ向かったのだな?」
「ええ。こちらを出発する時に確かにそのように仰ってましたよ」
「承知した。ありがとう」
アリシアは宿の受付の女性に俺達のことを尋ねていたようだ。
(ふむ、そろそろここへ到着するかと思って来てみたが
…どうやら入れ違いになってしまったようだな)
そこへアリシアに声を掛ける一人の商人。
「お姉さんの今言ってた連中ならここへ来る途中すれ違ったぜ?」
「なんと!それは真か?」
「ああ、俺はユーダイモニアから来たんだが、途中街道ですれ違ったんだ。多分彼らは方向的にユーダイモニアに向かったんじゃないかな?」
「そうか、ユーダイモニア…では私も向かうとしよう」
「あ、待ってお姉さん。剣士なんだろ?良かったら護衛がてら同行してもらえないか?妻と娘が待ってるんだ。少しでも安心して帰りたい」
「ああ、構わないよ。では早速…」
『ドォォォーン!!!』
『きゃぁぁぁ!!』
外から凄まじい爆発音と人々の悲鳴が。
「何事だ?」
「マブロス帝国だ!この町の警備兵は全員始末した!!」
「ッ!?」
「んでぇ?この中に聖剣持ってる奴はいるのぉ?」
魔晶アーマーを身にまとったディミトスは一人の逃げ回る市民を捕まえる。
「君さぁ、聖剣持ってる奴知らない?隠してもいい事ないよぉ?」
「し、知らない!知らないです!!」
「そっかぁ、使えないねぇ…じゃバイバーイ」
『グシャァ!』
ディミトスは市民の頭を握り潰してしまった。
「くっ、外道め…」
アリシアは商人と身を潜ませ考える。
「ど、どうするんだ?剣士さん」
「よし、お前らここを封鎖しろぉ!今からマロ漁港はこのディミトス様が支配する!!」
『はっ!』
身を潜ませているアリシアは商人に耳打ちする。
「…商人、走れるか?」
「あ、ああ」
「街道に出る門は一つ、私が道を切り開く。貴殿は全力で走れ!」
「剣士さんは?」
「私のことはいい。家族が待っているのだろう?ここにいては殺されるかもしれん。あとユーダイモニアで貴殿のすれ違った者達、ソウジとリリムという者のはずだ。彼らに会ったら絶対にマロ漁港には近付くなと伝えてほしい。私の大事な仲間なんだ」
「わ、わかった!」
「よし、それでは行くぞ!」
アリシアと商人は門に向かって走り出した。
アリシアはマブロス帝国の兵士達を一太刀で確実に仕留めていく。
そして門が閉まる寸前、商人だけを外に逃がしたところで、後に続いたマブロス帝国の兵士達を仕留める。
「頼んだぞ、商人」
「あれぇ?何か騒がしいと思ったら…君何余計なことしてくれちゃってるのぉ?」
「…貴様が大将か?」
「そうだよ、俺が隊長のディミトスさ。このマロ漁港は俺が支配すると言ったはずだよねぇ?」
「貴様は丸腰の市民を傷付けて何がしたい?武人の心はないのか?」
「ギャハハハハハ!!何言ってんのお前?俺が殺したいから殺してるだけだろ?」
「…外道が!」
アリシアはディミトスに斬りかかる。
しかしアリシアの剣はディミトスの左腕に弾かれ、そのまま地面に叩きつけられる。
「かはっ!」
「バカだなぁお前、生身の人間が魔晶アーマーに勝てるとでも…」
『ピシッ!』
「ん?へぇ…ヒビが入ってる…俺の魔晶アーマーに…」
先程まで小馬鹿にしたような笑みを浮かべてたディミトスの顔から笑みが消える。
「テメェ!!よくも俺様の芸術品に傷付けてくれたなぁ!!!テメェは楽に死ねると思うな!!!俺様が直々に地獄の苦しみをたっぷり味あわせてから殺してやる!!!!」
「......」
ディミトスは憤慨し、もう既に意識のないアリシアを何度も踏みつけた。
「おいお前ら、この女地下牢に突っ込んどけ!」
『はっ!』
アリシアは兵士達よって着ぐるみを剥がされ、地下牢に拘束されてしまった。
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アリシアがマロ漁港に到着する少し前、俺達はユーダイモニアに到着していた。
「はわわわわー!人もお店もたくさんです!!」
「我が王都ゼニスが世界一の都市だと思っていましたが…世界は広いですね」
「何かあちこちで商売の話してんのかな?」
「商人達の街ですからね。商業都市...想像以上です」
「ウマ、イッパイ!」
サバオの指差す方を見ると、数十台の馬車が並んでいた。
「すげぇ!あんなにいっぱい!?」
『ここに世界中の商品が集まって、ここからこの大陸全土に運んで行くんだ。昔は荷車引いた商人が数え切れない程いたんだがな?』
「ふーん...鉄道とかあれば楽なのになぁ」
「鉄道?」
「ああ、それにいつも思ってたんだけどさ、何で金貨や銀貨なんだろうって」
「そりゃあお金ですからね?」
「いやそうじゃなくて、小切手とかあれば楽なのにって...」
「小切手?」
「だって大量の金貨を運ぶなんて大変だし危険だろ?だからさ...」
「面白そうな話をしてるね!是非詳しく聞かせてくれないかしら?」
振り返るとそこには黒髪の大人っぽい女性、ブラウスにビスチェスカートのいかにも品の良さそうな女性が立っていた。
「失礼ですが...貴方は?」
「急に声をかけてしまってごめんなさい。ユーダイモニア四代目市長のエヴァンシアよ」
「市長!?これは大変失礼致しました」
「構わないわよ。見たところ...君達は商人ではなさそうだけど?」
「訳あって旅をしております。その途中こちらに立ち寄らせていただきました」
エピステーメーが丁寧に対応する。
「そう、旅人...腕も立ちそうね?」
「ソウジさんだけ雑魚なんですけどねぇ☆」
「雑魚説広めるな!」
「そんな事よりも、そこの雑魚の君!」
「雑魚説広まった!?」
「先程君が話していた事、非常に興味があるわ!ちょっと場所を変えて話さない?」
「構いませんけど...」
「それでは私の屋敷に行きましょう。君達も一緒にどうぞ」
エヴァンシアに連れられ街の中心地へ行くと大きな屋敷に着いた。
「市長、おかえりなさいませ!」
「ただいま、客人を連れてきたの。私の部屋に案内するわ」
「かしこまりました」
門を入ると大きな噴水があり、様々な植栽が。まさに豪邸といった感じだろうか。
「すごい!大きなお屋敷ですねっ!」
「すげぇ...豪邸じゃん」
「市長さんはこちらに住まわれているのですか?」
「この大きな建物は議会や商工会、他の催し物の時に使うの。私の家はあれよ」
エヴァンシアの指差す建物を見ると、いくつか家が並んでいて、その中の一番小さな家だった。
「何というか...だいぶこじんまりとしたような...」
「私は独り身だからね。あれでも広すぎるくらいだけど」
「...俺のワンルームより広いけど...」
「ん?ワンルーム?」
「あ、いや、何でもないっす」
「中へ案内するよ」
エヴァンシアに案内され、家の中へ入ると外観よりも広く、俺達がテーブルを囲んで話をするには十分な広さであった。
テーブルに着くと、メイド服を着た女性がお茶を持ってきてくれた。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
「市長さんっていうからもっとド派手な生活をしてるのかと思いました。これだけ大きな都市ですし」
「フフ、私は私腹を肥やすことに興味はないの。商業を発展させて人々の生活を豊かにする、その先に人々の幸せがある。それがユーダイモニアの理念。私はその為に在ると思っているのよ」
「素晴らしい理念ですね。ソウジ、是非市長さんに協力させていただきましょう!」
「協力ったって何すりゃいいんだよ...」
「ソウジ君、先程君が話していたこと、詳しく聞かせてくれない?革命を起こせそうな気がするの!」
「そ、そんな大袈裟な話じゃ...」
するとリリムが俺に耳打ちをする。
「ソウジさん、あなたの世界の文明はこちらで実現出来るかどうかは置いといて、全部革命的なお話なんです。とりあえず思い付いたことだけでもお話してみていいと思います」
リリムの言葉にこくりと頷くと、俺はエヴァンシアに話し始める。
「まず鉄道ってのがですね...」
俺は自分のわかる限り鉄道の説明をする。
「...って感じで、人も荷物も馬車よりも効率よく輸送できるって感じです」
「うーん、坑道で使われているトロッコのようなものかしら?でも決まった道しか通れないとなると...どうなの?」
「逆に時間の無駄なく運べると...」
「ソウジ、恐らく市長さんの懸念材料は魔物です。馬車であれば危険と判断された道は避けて通ることができます。しかしその鉄道では...」
「う、うーん...それは俺に言われてもなぁ」
「あと動力源は?まさか人が引っ張ったり押したりではないでしょう?」
(うーん、蒸気機関車やらってあるけど俺じゃ仕組みなんてわかんねーしな...)
「...それでしたら魔晶石がいいかと」
「魔晶石?それってあの帝国の奴らが言ってたやつか?」
「リリムから話は聞きましたが、帝国の使っている魔晶石は魔物から取り出し軍事利用するというものでしたね?魔物から魔晶石を取り出して利用するというのはどれ程のエネルギーを秘めているかわからないので、禁忌の術とされているのです」
「待って、マブロス帝国ではそのようなことを?」
エヴァンシアは驚く。
「はい、私達はその魔晶石の力を使ったマブロス帝国の者達と対峙していますが、普通の人間では全く太刀打ちできない感じでしたね」
「そう...マブロス帝国、今後は警戒しなくては...」
「まあマブロス帝国のそれは言うなればそれは天然物の魔晶石といったところでしょうか、僕の言う魔晶石は原晶石と呼ばれる鉱物に魔力を込めて使う魔晶石です。もちろんこれは合法です」
「えーと...養殖の魔晶石ってか?」
「この原晶石を魔晶石として使う方法でしたら、必要な魔力だけを込めて使うことができるので、エネルギーの暴発等の心配はありません。まだ実用されている例はありませんが、魔法で人々の暮らしを豊かにする一つとして僕は長年研究をしていたんです」
「そうか、エピステーメー君の言う魔法で人々の暮らしを豊かに、私の理念とも一致するわ!流通の強化は商業で人々の生活を豊かにする為の大きな武器に!」
「しかし研究にはかなりの時間を要するかと...」
「そうね、でもこれは必ず実現すべきことね。我が街にはイリアスという者がいるんだけど、彼は天才的頭脳の持ち主なの。今はマロ漁港で他国の船と難しい商談を任せているんだけど、そろそろ戻る頃だから是非紹介させて!彼にもこの計画に参加してもらいたいしね。それではソウジ君、もう一つの話も?」
「小切手の話すね?えーと...」
俺が小切手の話を始めた頃、とある男が門番に必死の形相で話しかけていた。
「ッ!?一体どうなされたのですか!今すぐ手当てを...」
「いい、それよりも今すぐ市長に...ゲホッ...会わせて...」
只事ならぬ様子に兵士は男に肩を貸し、エヴァンシアの元へ向かう。
「...なるほど、これも魅力的な話ね?ソウジ君どうかしら?この街に留まって私と一緒にこの世界に革命を起こさない?」
「はわわわ!!ソウジさんが引き抜きにかかってます!!!」
「わかります。僕からしてもソウジの話は魅力的なものばかりですから」
「で、でも俺は旅が...」
「君は戦闘は不向きなんでしょ?だったらその才能、ここで活かすべきだと思うの!!」
エヴァンシアはすごい勢いで迫ってきた。
「むむぅー...ソウジさんは雑魚ですし市長さんの言ってることはわかりますけど...ブーブー」
「おや?リリム、ヤキモチですか?」
エピステーメーはメガネをクイッと上げる。
「ち、違いますよ!!市長さん、ソウジさんは一応(強調)聖剣を抜いた方ですので、これからの旅に欠かすことはできないんです!!」
リリムは強い口調でエヴァンシアに言い放った。
「え?ソウジ君が聖剣を...嘘ぉ??」
『本当だぞ?若作り娘。コイツは我の相棒だ』
「え?剣が喋った??って、若作りって何よ!!!私はまだ29歳よ!!!」
聖剣に向かってギャーギャーと騒ぐエヴァンシア。
「クサレマグロさんのネーミングセンスもなかなかですよねぇ...」
「ええ、僕なんてナルシスですからね?」
エピステーメーはメガネをクイッと上げる。
『市長!失礼します!!』
一人の兵士が勢いよく扉を開けた。
「来客中よ?一体...ッ!?」
後から入って来た兵士に肩を預けた一人の血まみれの男性を見てエヴァンシアは驚愕した。
「イリアス!酷い怪我じゃない!!一体何があったの!?」
「...マロ漁港が...マブロス帝国に占拠されました」
「ーーー!?」
「そう...その怪我は帝国にやられたの?」
「いえ...これは...ここへ来る途中の...魔物に...」
「護衛はいなかったのかしら?」
「護衛を...お願いした剣士の方が...いたんですが、僕をマロ漁港から逃がす為に...うぅ...」
「わかったわ、ありがとう。すぐにイリアスを医務室へ!」
「はっ!」
イリアスが兵士に担がれた時、俺とふと目が合う。
「あ、あなたは!?」
「え?」
「ソウジ...さん...ですか?」
「そ、そうだけど...」
「よ、良かった...僕を助けてくれた女性剣士の方から...伝言です...」
「え?それって...」
「マロ漁港には近づくな...」
それを伝えると、イリアスは意識を失う。
「お、おい!」
「大丈夫です。気を失っただけです。出血はありますが致命傷にはなっていません。ここまで必死で走ってきたのでしょう」
エピステーメーはメガネをクイッと上げる。
「ソウジさん、今のって...」
「ああ、間違いない。アリシアだ!」
「アリシア、ダイジョウブ?」
『その剣士、我に心で語りかけてきた者か?』
「あの爺さんの話だとそうだと思うけど、お前その時起きてたのか?」
『いや、我は直接話してはいないが念が残っていた。それを辿れば安否くらいはわかるぞ?』
「クサレマグロさん!お願いします!!」
『......生きてはいる...が、かなり弱っているようだな』
「早く助けに行かないと!」
「そうですね、ソウジさん!すぐに行きましょう!!」
「待って、ソウジ君!リリムちゃん!もしかしたら罠があるかもしれないし、それに住民もいる。ヘタに突撃するのは得策じゃないわ!」
「で、でも...」
「うぅ...アリシアさん...」
「ソウジ、リリム。市長さんの仰る通りです。無策で行くのは危険過ぎます」
「じゃあどうするんだよ!?アリシアは俺達の大事な仲間なんだぞ!!」
俺はエピステーメーの胸ぐらを掴み声を荒らげた。
「...」
『まあ落ち着け、相棒よ。こういった荒事なら我に任せるがいい』
「え?」
『我に案がある』
『…...』
「…上手くいくのか?」
『我を奪取する為にアテがあるかもわからない街を封鎖する等馬鹿の発想だ。敵は馬鹿だ、必ず上手くいく』
「なるほど、さすがは伝説の魔剣士クサレマグロです。わかりました、僕も全力を尽くしましょう!」
「ガンバルー!」
『…伝説の魔剣士と言うならちゃんと名前を言ってくれ...』
「あの、私は何をしたら?」
「若作り娘はここで構えていればいい。万が一の時ここの指揮者がいないのでは話にならんからな」
「私は29歳よ!!わかったわ、皆さんのご武運を祈ります。すでにこの大陸の統治国であるネブリナ国には使者を派遣しました」
「よし、それじゃやるぞ!」
『おおーっ!』
こうして俺達のマロ漁港解放及びアリシア救出大作戦は幕を開けるのであった。




