7-2.「キセ・帰る」
結局、殆ど収穫のないままにあたしは彼女と別れて、ご主人様の元に帰った。
何のために出かけたのかわからないけれど、これはこれで気晴らしにはなった。
自分の胸のモヤモヤがなんなのか、はっきりと答えを出すことはできなかったけれど、部屋でうじうじ考え込んでいるよりは建設的だった・・・はずだ。
行動範囲が狭すぎたのもいけなかったのかもしれない。
たまには……ご主人様からさほど離れない距離の範囲で、出かけたほうがいいのかも。
ご主人様はあたしを部屋に迎え入れると、よく迷わずに帰ってきたな、とよしよしと頭をなでてくれた。
「別に方向音痴じゃないわ、あたし」
つんと拗ねて見せると、
「では、遅くならないうちに帰ってきたのが偉い」と言い直した。
それはまるで幼い子に言う言葉のようで、あたしは小さく笑う。
こんな言葉をあたしを引き取った叔父がかけてきたことはない。
あたしを慈しんでくれた親が死んでなかったら、こんな言葉をかけてくれただろうか?
「どうした?」
「いいえ、別になんでもないわ」
彼はあたしの親でもないし、そもそもペットか生きた着せ替え人形扱いするような相手だった。
でも、言葉の端々に、それなりの愛情が感じられる気がする。
だからこそ、離れがたい。
今まで、どんな種類の愛であれ、物心付いてから与えられた事がなかったから。
「・・・なるほど、腹が減ったのか。今用意させよう」
別にお腹がすいていたわけではないのだけれど、いい子にしてろと再び頭を撫でるご主人様の手が気持ちよくて、こくんと頷いた。
目を閉じると、ご主人様があたしの髪を滑るご主人様の指の感触を強く感じ取れた。
この優しい手が、あたしは好きだ。
――この手を失いたくないのだ。
女性嫌いのご主人様。
あたしは女として見られてはいないから、今はまだ大丈夫・・・なのだとしても。
あたしは体の成長を止める事もできないし、いずれは老いるだろう。もしもっと女らしくなったら、彼はあたしを拒絶するのだろうか?
老いた時、ご主人様は果たしてあたしを傍においてくれるだろうか?
――――わからない。
だからこそ、確認してみたくなった。
一つ思いついて試してみる。
「今日は着せ替えしたくないの。御飯食べたらそのまま眠りたいわ」
ご主人様は少し黙り込んだが、暫くしてわかったと頷いた。
その間、あたしはずっと顔を見つめていたけれど、ご主人様の表情は全く変わらなかった。
着せ替え人形じゃなくなっても、あたしはご主人様の傍にいる価値はあるの?
ご主人様の表情から答えは見つけられなかった。