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〔墓守り紋次の物語〕  作者: 猫屋敷 中吉
78/122

限界突破

よろしくお願いします。


 もう、どのくらい歩いたっけ……。


「ゴホッ、ゴホッ。すまんな、劉備殿。ッゴホ、ゲホッ、ケホッ」

「……別に。コフッ、コホッ、いいよ」


 降りしきる灰の中、俺はオッサンを背負って歩いていた。

 このオッサン右足、怪我が酷くてな。自力で歩くことも出来んから仕方なく。


「コホ、コホ、ケフ、コッ、コホッ……」


 点々と続く足跡。

 咳が止まらない。

 今は夜。明かりはある。さっきより勢いを増した火山の噴流が光源。


 単色の世界。

 川沿いの木々も草も、まるで雪に覆われた銀世界にも思える。

 実際は全てが灰かぶりの世界で渓谷が壁となり、ここは世間と隔絶された世界に思える。

 

 でぶが重いな。

 こいつを助け出した後もヤバかった。

 岩壁に沿って迫り来る溶岩流。

 そこからギリギリ逃げきれたと思ったのも束の間、元来た道の半分以上を赤黒いマグマに覆われていたから。

 およそ四百メートルのダッシュを余儀なくされて、しかもでぶのオッサンを背中に背負いながらだからマジで地獄、死ぬかと思った。


「ドドドォオオオオオオオオオオオオオッ!」


 爆発する火山。

 腹にまで響く爆音に、思わず見上げてしまう。

 流れる溶岩は山肌を覆い尽くし、今歩いている河原もいつ襲われるか気が気じゃない。

 噴石に意識を取られ、自ずと歩みも遅くなる。本来なら、こんなちんたらしてる暇は無いのに。

 

「コホ、コホ……。ゴホ、ケホ、コホ……」


「……田上さん、大丈夫か?」


「あ、ウオッホンっ! ケホ、ケホ。……大丈夫、喉がやられたみたいで。ッゴホ、ゲホッ、焼けるように痛いんじゃ。ゲホッゴホ、ゴホッ、……」


 オッサンの咳が止まらない。

 マスクは渡してある。

 素材は当然、俺のフンドシ。

 こいつの目の前で俺用と二人分作成したからな。嫌がる様子も無く素直に付けてくれたけど。


 当然と言えば当然。

 こいつすっ裸だし。

 代用出来るもんも持って無いし、子供じゃ無いんだから贅沢は言わせん。

 お陰でフリチンコンビの逃避行になるが、現状そんなことを気にしている余裕は俺達には無い。


 オッサンが辛そうだ。とにかく急いでここから脱出せねばならん。


 疲れた体に鞭を入れながら先を急ぐ。しかし重い足取りは遅々として進まない。とうに体は限界を迎えている。倒れてしまいたい。

 

 粉雪のようだった。

 しんしんと降り積もる灰は足首を隠すほどで、踏み締めるたびに灰が舞い上がり、俺の目を執拗に刺激する。


 掻きむしりたい。

 やめとけ、もっと酷くなる。

 目薬が欲しい、リットルでさしたい。

 どこにあんだよ、このバカちんがっ!


 一人で葛藤しながら歩き続ける。


「っぁ!」


 足を引きずるように歩いていた俺は、飛び出た岩に躓いて前のめりに倒れてしまった。


「ッゲホ。おいっ、大丈夫かっ! ケホ、コホ、り、劉備殿、劉備殿っ!」


 オッサンの声が遠い。

 頭が朦朧とする。

 諦めたくなる。

 もう限界かも……もう、無理ぽ。

 走馬灯の出番かも知れん。

 欲望丸出しのアホな願いが湧いてくる。

 走馬灯さん。どうせ流れるならイエ姉とイチャコラしてるシーンか、モモとイチャコラしてるシーンでお願いします。


 神社で願掛けをするように、走馬灯さんに今まで経験の無い、事実無根の無理な妄想をリクエストしていた。と、そんな時だった。


「── ンジッ! モンジッ! ッッモンジ!!」


 遠くで俺を呼ぶ声かする。


 誰だよ、っせぇなぁ! 俺はこれから幸せな夢の中に堕ちるんだよ、放っとけよっ、たくっ!


 毒を吐くうつ伏せの俺。

 重たい瞼を開けると、大きな鹿に跨がった白い女の子が見える。巻き上がる大量の灰を置き去りにして、怒涛の勢いで駆けてくる。


 眉間に皺が寄る、こめかみに青筋が立つ。

 あのバカッ! こんな所にまで押し掛けやがって。危なねぇだろうがよっ、本物のバカかコイツはッ!!


 放った言葉のブーメランが、一周回って俺にも刺さる。

 

 人の事言えんな俺は。

 少し……いや、違うな。

 ちょっぴり……ん〜、いまいち。

 まぁまぁ……こんぐらいだな。


 まぁまぁヘコんでる俺の目の前に、ヤックルに乗ったバンビがあっと言う間に到着。

 ドデンと鹿から転げ落ちる。

 何事も無かったように衣服をはらい。ケホケホと咳をして、ガニ股で迫ってきた。


「馬鹿モンジッ! あたしは怒っているんだからねっ!!」


 どうやらご立腹中だったらしい。

 らしいと言うのも、こいつが目出し帽みたいな顔が全部隠れるタイプのマスクをしてたので、感情まで読みきれんかっただけの事。


「勝手に手を離して、勝手に危ないことしてっ! 一人でいっつも背負いこもうとして──」


 プンスカするバンビが俺のうなじら辺に文句をぶつけてくる。


 俺は甘んじて受けながら、こいつの顔に意識を奪われていた。

 てか、バンビの両耳の下で紐を結ぶタイプのマスクに注視していた。

 俺は思い出していた。かの有名なヒーロー物の漫画で映画にもなったあの名作を。


 『変態〇面』を思い出していたんだ。


 ……いやぁ、マジでこいつ、自分のパンツ被ってんじゃねぇのぉ? そう勘繰ってしまう。


「── ちゃんと、聞いてんのっ!」


「は、はい」


「いっつも一人で突っ走って、いっつも一人で解決しようとしてっ! あたしをもっと頼りなさい! あたしに心配させないでっ! あたしを一人にしないでよっ!」


 バンビさんにえらい剣幕で怒られました。


「は、はい。すいません」


 色々反論したい所だが、彼女の迫力に押されて、謝る事しか出来ません。


 頼れか……。

 別に格好付けてるとかそういう事では無く、実際向こうの世界にいた時から一人なんだから、そうしないと生きて行けないと思ったから俺は、頼れなかった、頼れる人がいなかっただけなんだ。


 でもバンビは、俺のこの性分が気に要らないらしい。事実この世界でも紋次は認知されているけど、トイチの俺は誰にも知られず一人なんだから……。


 なんかそう思うと結構へこむ。

 生きる活力みたいなのが湧いてこん。

 こうなったら、走馬灯さんにもう一度頭を下げて、キュンキュン走馬灯映像を脳内スクリーンに流してもらわんとイカンな。


 また灰に埋もれる俺。

 見兼ねたバンビが口を開く。


「怪我はっ!」


「無いでつ。疲れただけでつっ!」


「まったくもうっ! ホラッ、帰るよ! ちゃんと立って!」


 下馬したバンビさんが俺の体から灰をはらって、起こしてくれる。

 そんなちまちました俺達のやり取りに、四つん這いのオッサンが割り込んできた。


「……のぅ、お主はワシ等を助けに来た者か? ワシは田上坂寅(出之領領主)と言うもんじゃ。小娘よ、お前こそはワシの名前ぐらい知っておろう? 後生だ、まずワシから助けろ。褒美はたんまりとくれてやるから……」


 このでぶタヌキ、俺がヘバッたと見るやバンビに媚を売り始めやがった。性格までタヌキだな。


 バンビを見る。

 知らん顔してる。

 スーンとすましてオッサンを見下ろす。そしてこの子の答えは、こうだった。


「……知らない。お前、誰?」


 確かに知らんがな。

 ちょっとウケた。

 笑いを堪える俺とバンビは怪訝な表情を浮かべ、手の平返しのオッサンは、顔を引きつらせて、まさにタヌキの置き物みたく固まってる。


「はっ!? お前もワシを知らんと! ぐぬぬぬっ。ま、まぁ、良い。小娘、お前は名を何と申す。助けてくれたら必ず褒美を取らす故、ほれっ、名乗ってみよ」


「……あたしは、バン……。バンダ〇ナムコ」


 シレッと偽名を使うバンビ。

 いや、それって昨日、俺が何の気無しに教えた無駄知識っ! 

 しかも、バン〇イナムコって人名ちゃうし! 語尾に『コ』が付いてるから女の子っぽいけども。


 次いでに無闇に本名名乗るなって、口を酸っぱくして教えたからな。早速ここで生かされるとは、この子の応用力半端ねぇなぁ。恐るべし、バンビちゃん。


「おお、バ〇ダイ ナムコ。ナムコちゃんかえ、良い名前じゃな。それでは早速、ワシは足を怪我しておるに、手を貸して貰えんか?」


 俺の事などノー眼中で、バンビに手を伸ばすマッパのオッサン。俺を支える彼女は、冷たい目線でオヤジを見下ろす。


「……あたしはこの人を迎えに来ただけ。お前の事は無理」


 ハッキリと『ノー』を突き付けるナムコちゃん。

 パタンと、オッサンの伸ばした手が落ちる。


「ほ、褒美じゃぞ! ワシからの褒美じゃぞ!」


 食い下がるオッサンに、更なる冷徹な目線を送るナムコちゃん。


「何度も言わせないで、あたしはこの人だけ(、、、、、)を迎えにきたの。お前は死ねばいい」


 その言い方はちょと……。

 ガックリ項垂れるオッサンが可哀想に思えて来た。平民風情の俺ですけど、武士の情けと助け船を出してやる。


「……ナムコちゃん。せっかく俺が助け出したんだから、俺こと劉備はこのタヌキを拾って帰りたいんだけど、どうかな? ちゃんと俺からご褒美を用意するから機嫌直して。ねっ、ナムコちゃん」


「ワ、ワシをタヌキだとっ!?」


 両目ひん剥いて激怒するオッサン。

 俺もカチンと来る。


「おう、オッサン。本来ならお前なんかに、同情なんて皆無なんよ。俺を見捨てて一人で助かろうとしたんだからな。だとしてもな、だとしてもだっ! 放って置くのも忍びないから、俺からの有難い情けをかけてやってるんだ。しかもだ、テメェみたいな薄情ヤツは、タヌキ呼ばわりでも上等な方だろっ!」


 俺の文句にたじろぐオッサン。

 ゼェゼェ息を切らす俺に、上目遣いのバンビが話しかけて来た。


「モ、劉備がご褒美をくれるの? ……劉備がそう言うなら、助けてあげても良かったりもする。うん」


 照れながら。

 その代わりにと言いたげに。


 分かってるよ。

 お前には『天空の剣』か『ロトの剣」を作っちゃる。ダンボールでな。約束だ、期待しとけ。


 バンビの機嫌が治った所で。

 さて、ここで問題です。

 気になっていたマスクの材料について、ナムコちゃんに聞いてみました。

 そこで彼女は何と答えたでしょう。

 シンキング、ターイム!

 チクチクチクチク……。

 はい、時間でーす。

 では、正解は……。


「それ以上聞いたら殺す(、、)


 でしたー!

 マスクの材料の正解は『殺す』でした。

 女の子に聞いちゃダメなこともあるんだね ♪

 みんなも勉強になったねっ、またねぇ、アデュー!


 だそうです。

 でもバンビとのおふざけで頭がスッキリしてきたな。

 それに俺達、ノーパンコンビからノーパントリオに進化したしな。バージョンアップだ。から元気がモリモリだぜ。


 そんなこんなで、でぶのオッサンを二人掛かりでヤックルに乗せて、バンビも乗せ、ぶらつく体で俺も乗り込もうとしたその時だった。

 あのムカつく声が聞こえて来たんだ。


「おう、緑目の餓鬼! 奇遇だなぁ、貴様とこんな所で出会うなんてなあっ!」


 耳障りな声のした方へと視線を向ける。

 そこには既に、火山をバックに二十数名の焦げ茶色の集団がいたんだ。


「……ナムコ。ルーラは使えるか?」


「うん。使える」


「だったら、お前は先にオッサンを連れて戻れ。俺があいつ等の気を引── ゴンッ! ッ痛!」


 バンビに思いっきりゲンコツ貰った。


「何回言わせるのっ! さっき、言ったよね。あたしに頼れって」


 ゲンコツを落とした右手を摩りながら、バンビは俺を睨む。


「前に自分で言ってただろっ、定員二名までだって。ヤックル入れて三人はお前無理だろっ!」


 勝算は無くはない。

 俺一人ならあいつを降ろせば何とかなる。

 ただ、こんな弱った体であいつを降ろしたとしても、果たしてこいつ等を守り切れるかどうかが分からんから、この決断に至ったんだ。

 なのに、石頭のバンビときたら……。


「モンジ言ったよね。あたしは勇者だって。どんな困難にも立ち向かえるって、世界を救えるって」


 世界って。

 いやいや、そこまでは言って無い。

 無理なもんは無理だって、逃げるのも勇気だって教えておくんだった。


「あのさバンビちゃん。時には逃げるのも──」


「おいっ! そこの白いお化けっ! 貴様だろ、変な術を使ってワシの邪魔ばかりするヤツはっ!」


 俺の話しを遮って、今あいつ何て言った。

 お化け?

 バンビに向かってお化けだとっ! ふざけんじゃねえぞ、テメェ。ぶっ殺すぞ!


「テメェの目は節穴かっ、馬鹿! こんな可愛い子ちゃんがお化けな訳ねえだろっ、馬鹿! 目ん玉腐ってんのか、この馬鹿! テメェは死ねっ、馬鹿!」


 怒りを抑えきれんかった。

 拳を振り上げて吠えていた。

 だって我慢出来る訳がねぇ。バンビは最高にいいヤツなんだ。面白くて優しいヤツなんだ。

 バンビを馬鹿にするヤツは許せねぇ!

 仮に本人が許しても、俺が許したくねぇ。


「おいっ、テメェ、そこで待ってろ! テメェの鼻っ面に──」

「もういいよ」


 歯軋り全開で拳を突き出す俺を、バンビは止める。


「っえ!」


「もういい……。あたしの為に怒ってくれて……ありがと」


 そう言って。

 彼女は馬上からしなだれ掛かるように抱きついてきた。

 無理な体制で抱きついてくる彼女を俺は支える。

 間断なく、つらつらと暴言を吐き散らしてくるキチオヤジは完全スルー。

 俺はありのままの気持ちを彼女に伝えていた。


「なぁ、気にすんなよ。誰がなんて言っても、お前は最高に可愛いんだからな。これだけは嘘じゃないからな」


 慰めているつもりじゃ無い。俺の本心だ。


「モンジ、あたしのこと好き?」


 不安気な声だった。

 前回のおさらいだろう、家族的な意味と取る。


「あ、当たり前だろ」


 彼女が俺の首に回したその腕に力を込める。

 苦しくもあり、心地よくも感じる。


「……そっか、あたしも好きだよ。……モンジだけでいい。モンジがあたしを好きで居てくれたらそれでいい。……ありがとう、モンジ」


 俺の肩にオデコを置いてバンビが囁く。彼女の吐息で首がくすぐったい。

 

「こっちこそ、お前のお陰で色々と気付かされたんだぜ俺も。バンビ、ありがとな」


 顔をあげたバンビと目が合う。

 煌く蒼い瞳に見惚れてしまう。

 微笑む彼女が、どこか大人っぽく思えて。

 何故か頼り甲斐がありそうに感じてしまって。

 俺は素直な気持ちでお願いをしていた。


「何か打開策があるなら教えて欲しい。俺の頭じゃあ何にも浮かんでこない」


 バンビの表情が明るくなる。どこか自信に満ち溢れているようにも見える。


「ふ、ふ、ふ。任せて。あたし、限界突破して見せるから」


 限界突破!? 

 何それ、めっちゃ気になるんですけどっ!

 不敵に笑うバンビが少年心をくすぐるような、わくわくワードを出してきた。





 一方、俄にザワつき始める霧隠れの軍団。


「巳波様、彼奴等の中に田上坂寅殿がいらっしゃいますが、どう致しましょう」


 大岩の天辺で仁王立ちの巳波に、霧隠れのひとりが耳打ちする。

 

「あー、確かに。あれは田上殿だな。どうするも何も、助け……。はっ、はぁー、今いい事思いついたぞ。この期に乗じて、田上殿に死んで貰うってのはどうだ? それも面白かろう」


 下賤な笑みの巳波に、家来の男が表情を曇らす。


「坂寅殿のご子息はまだ幼かろう。しかも妙にワシに懐いておってのう。もし、坂寅殿が討ち死になされて、ご子息の道虎様が当主となるなら。……操るのも容易(たやす)かろう、ワシの傀儡としてな」


「……なるほど」


「……見てみろ、この有様では今回の戦に加わった重鎮どもも既に死んでおろう。全滅でもしてくれりゃあバンバンザイ。なあ、面白くなってきたと思わんか? ワシ等の悲願はもうそこまで見えておるんじゃ。ワシが領主の座を奪いとる日がな」


「新たな忍びの里ですな」


「そう言うことじゃ」


「……滅びた忍びの里より、巳波様について来て正解でした。それでは皆に伝えて参ります。坂寅殿の暗殺の命を──」


 そう言い残すと、ひとりの忍びが伝令を持って集団へと急ぐ。


「ハッハァー。やっとワシにも運が回って来たわい。百地がなんじゃい。飛び級で当主まで駆け上がってやるわ」


 まさしく取らぬタヌキの皮算用。

 上機嫌な巳波の元に、大本命の獲物となった坂寅本人がのこのこと近寄っていく。モンジ達を身限った行動である。


「おいっ! お前は確かっ、巳波と申す者よの! ワシは田上坂寅じゃっ! こいつ等は当てにならん。ヌシがワシを城まで連れて行けっ!!」


 ひょこひょこと片足を引き摺りながら歩み寄る坂寅に、巳波は満面の笑みで答える。しかしその頭上には、鎖付きの分銅が勢いよく回る。



「なんなの、あのでぶチン。わざわざモンジが助けてあげたのにっ! もういいよね、あんなヤツどうなっても。ほらっ、モンジ。早く帰ろっ!!」


 俺達に三行半をくだしたタヌキオヤジに、バンビは酷くお怒りの様子だ。


「……なぁ、なんか様子がおかしく無いか? あの巳波ってヤツ、俺達じゃなくタヌキに殺気をぶつけてんぞ。あいつ等、仲間、じゃあ無いのか?」


 そう、俺は以前より、こと殺気や視線に敏感になっている。

 反射神経や動体視力も格段にあがっている。

 もしかして紋次が前に言っていた『同化・定着』の影響を受けてる証拠かも知れん。

 いや、今は俺の事は後回しだ。このままじゃあ、オッサンがヤバいんだ。


「バンビ聞いてくれ。さっき言ってた限界突破の話、時間がかかるなら今から進めてくれないか。俺はオッサンを連れ戻してくる。たぶんだが、鎖の射程に入ったら、あのオッサンは終わりだ」


「ムゥー。聞いてあげてもいいけど、ご褒美にチュ、チュウをつけてくれたら、モンジの言うこと聞いてあげる」


 チュウ? 前にオデコにやった、おまじないのヤツか。あん時はすんごい嫌がってたのにな。変なヤツ。


「あぁ、了解だ。何回でもしてやる」


「な、何回も!? ……何回もはいい。一回でいい。恥ずかしいから」


 照れ照れのバンビは俺から離れて、馬上にて姿勢を正す。


「戻ってきたら教えて、あたしは精神集中してるから。……あとこれ邪魔」


 そう言って仮面型のマスクを外したバンビは、懐にそっとしまう。

 目を瞑りすぐに瞑想状態に入った彼女に、戦場で無防備な姿を晒すのはどうなの? と気にしてしまう。

 それでも、奴等の意識はタヌキオヤジに向いたまま、今だけならと俺も腹を決める。


「ヤックルさん。俺が居ない間、この子をお願いね」


『立っている者なら誰でも使え』懐かしい我が家の家訓に従い、ヤックルにお願いする。


「やっぱ、裏切りタヌキでも死なれちゃあ、後味悪いもんな」


 人死にに若干のトラウマを抱える俺は見過ごせない。疲労に震える足を、両手で叩いて活を入れた。


「ふうー。じゃあ参りますか」


 俺は霧隠れの連中を気にしながら、オッサンの背中を小走りで追っていた。




 雲上岳の噴火は勢いを増している。


「あー、これは、これは、田上様。ご機嫌麗しゅう」


「阿呆っ! 機嫌なんぞいい訳無かろうっ! それより早う手を貸せっ、歩くのも辛いんじゃっ!」


 火山を背景に巳波は薄ら笑みを浮かべていた。

 傘の役割を果たすみたいに、彼の頭上で回る鎖付きの分銅が降りしきる灰を弾いている。


「オッサンっ、お前はバカか!? あいつをちゃんと見ろよっ、オッサンを殺す気だぞっ!」


 俺はオッサンの肩を掴んで現実を突きつける。オッサンは怪訝な顔を作り、耳を貸そうとはしない。


「何を抜かしておる阿呆。彼奴はワシの家臣ぞ。そのような事がある訳無かろうっ」


 俺の手を振り払い歩き出すオッサン。

 ムッときた俺。


「っどわ!」


 オッサンは灰を巻き上げて盛大にコケる。

 俺を無視するオッサンの足を、引っ掛けてやった。


「小僧っ、何をっ、ッぶ!」


 わめくオッサンの頭を踏んづける。

 

「グググゥゥ、小僧の分際でワシの頭を──っ、ぶっ、がへっ、ごべっ!」


 暴れるオッサンの後頭部を何度も踏んづける。


「ジタバッタするなよっ、世紀末が来るぜっ ♪ 」


 思わず懐メロを口ずさんでいた。周りの景色もそれっぽいしな。

 それにしても、人様の頭を踏みつけるって、あんまりいい気持ちはせんな。絹さんに至っては、楽しそうに俺の頭を踏んずけてはいるけど、あいつはどっかおかしいんだな。


 “ ッヒュン ”


 風切り音に反射的に義手を構える。すぐさまグルグルと左手に巻きつく鎖。


「おい、緑目の餓鬼。ふざけるのも大概にしろ、坂寅は渡さんぞ。貴様も次いでにここで死ね。……おい、お前等の出番だ。あいつを殺せ」


 来るッ!

 オッサンの頭を踏みつつ、小刀を構える俺。頼みの綱はバンビちゃん。

 バンビちゃわん、早くしてくれぇ〜。この人数に小刀一本じゃあ、心許ねぇ〜!


「………アレッ?」


 呆ける俺。

 待てど暮らせど奴等が襲って来ない。

 首を捻る僕ちん。


「おいっ、貴様等! 早く殺れっ! ……どうしたんだっ、サッサと動けっ!」


 俺と鎖の綱引きをしながら、敵さんも焦っている。

 動こうと一歩を踏み出す奴等は、バタバタと倒れてゆく。結局、元気なのは大岩の上で吠えまくる巳波ってキチオヤジだけだ。


 でもこの現象に思い当たる節がある。

 たぶんで、火山ガス。

 高濃度の二酸化炭素は毒になる。

 昔親父に、山の怖さを説かれた事がある。

 実例で、八甲田山で演習中の自衛隊員が窪地で意識不明の重体になったと聞いたことがある。原因は二酸化炭素中毒。

 火山ガスの代表的な物は、高濃度二酸化炭素と硫化水素。腐卵臭のある硫化水素と違って、高濃度二酸化炭素は無色かつ無臭。気づけ無い。

 風の無い今日みたいな日は、多少の窪地があれば何処にガス溜まりが出来てもおかしくない。

 たぶんで、こいつ等の症状はそれっぽい。


「クッソッ、使えん奴等めがっ! 貴様等から殺してやろうかっ! ああ"ッ!!」


 苛立つ巳波が仲間を恫喝する。俺はこの鎖好きのオッサンに無性に腹が立ち、叫んでいた。


「お前等っ、そっから早く逃げろっ! 死んじまうぞっ!」


 痙攣する奴等は逃げ出す事すら出来ずにいた。

 もう手遅れだと思う。それでも叫んでいた。


「まぁ、いい。餓鬼とジジイの始末はワシがしてやる。元々そのつもりだったからなぁ」


 頭巾ごしでも分かる。

 悪擦れした巳波は野蛮な笑みを浮かべている。

 ヤツは右手に鎌を構えて、鎖を引く手に力を込めた。

 左手が引っ張られる。

 両足で踏ん張る。

 俺は逆手に構えた小刀を前に突き出し、ヤツと対峙する。

 敵はひとり、倒せる自信は無いけれど、これなら時間稼ぎぐらいは出来るはず。

 俺と巳波で睨み合う、そんなおり……。


「ドドドォオオオオオオオオオオオオオッ!!」


 突然の近場での噴火に驚く。

 ヤツの背後で爆発が起きた。山の中腹辺りからだ。

 焦る俺。こんなことしてる場合じゃないっ!


 巳波も爆風に煽られ、よろめく。

 振り向いた巳波は驚愕に見開いたその目に、猛烈な勢いで雪崩打つ黒煙の塊を映していた。


 ── まただ、火砕流ッ!


 固まる巳波。キレる俺。


「バカッ! テメェも逃げろっ!」


 緩んだ鎖は難無く外れ、俺は足元のデブの腕を掴んで走りだす。


「オッサンッ、急げっ! 走れッ!!」


 一刻の猶予も無い。

 そもそも火砕流から逃げきれるのか疑問に残る。

 絶望感に苛まれながら俺は、半ばオッサンを引き摺りながら無我夢中でバンビの元に走っていた。


「モンジッ! あたしの手を掴んでっ!」


 タイミング良すぎっ! やっぱ、バンビは持ってんな、涙がちょちょ切れそうだ。


 ヤックルに跨がりバンビが駆けてくる。

 ちんまい鼻の穴から鼻血を流して。しかも両方から。


「バンビーッッ!」


 バックにどデカい火砕流を背負いながら、俺は義手にオッサンを引っ掛けバンビに右手を伸ばす。


「ッモンジー!」


 火砕流もお構い無しにバンビは突っ込んでくる。必死な形相で細い腕を伸ばしていた。


 俺とバンビの手が触れ合う。ギュウと硬く結んだ。


「限界突破ぁああああああっ! ルゥゥッ、ラァァァァァァッ!!」


 蒼い目を剥いてバンビが叫ぶ。

 鼻血が噴出し、バンビの鼻穴に真っ赤な鼻提灯が膨らむ。

 パンッと鼻提灯が弾けた瞬間に、俺達はその場から姿を消していた。


 絶句する巳波。

 彼の視界を覆うのは熱風を纏う巨大な黒煙だった。

 残された巳波はヨロヨロと頼りない足取りで大岩から下りる。岩を背にしてその身を縮めた。


「き、貴様等! ワ、ワシの周りに集まれっ、ワシを守れ! おいっ、聞いてんのかっ!」


 動かぬ家来に憤る巳波。

 間を置かず、遂にその時は訪れる。

 一瞬で黒煙に包まれ大岩。吹き荒れる暴風。灼熱の煙が彼等を襲う。


「グゥアアアアアアアアアアアアアアアッ!」


 衣服が溶けて体が溶ける。

 肺が焼かれて喉が爛れる。

 両目が潰れる。顔が崩れる。指先が落ちていく。

 灼熱の黒煙に包まれて巳波は、その身を生きながらに焦がしていく。


 この惨事から、巳波と霧隠れの集団を見かけた者は誰もいない。



♢♦︎♢



 灰色の世界から、瞬時に草むらの光景が目に飛び込んできた。


「「エーッ! おごっ! ぶほっ!」」


 空間から投げ出される俺達。

 普段より雑な飛ばされ方に焦る。

 ヤックルが驚きひと跳ねする。騎乗中のバンビの体が投げ出されて宙を舞う。


「こなクソッ!」


 俺はバランスを崩した自分の体を放って、彼女と繋いだ手を引っ張る。

 ナイスキャッチ! っんなぁぁぁぁ!

 少女を受け止めると腰を捻って反転、空を見上げて背中から地面に落ちる。


「っごほぉ!」


 案の定、背中を強打。

 小石が刺さる。結構痛い。

 無理に捻った腰イワす。

 夜露に濡れた草に頭が埋もれた。


「ぶはあー、げほっ、げほっ。バ、バンビッ、大丈夫かっ!」


 自分の事などそっちのけで、バンビを気遣う。


「……ふ。呑気なもんだ」


 文句と一緒に笑みを零す。


「すぅ、すぅ、……スケコマすぅ、ムニャムニャ、すぅ、すぅ……」


 どうやら疲れ切ったみたい。

 スヤスヤ寝ていた。

 仰向けの俺を布団代わりにして、抱っこちゃんスタイルのバンビは既に夢の中。


 白髪が灰まみれ。

 俺は彼女の髪を優しく撫でて、灰をはらう。

 安心しきった様子で眠る少女。よく見れば全身灰で汚れている。


 定員オーバーで飛んだからなぁ。

 でも成功させちゃうんだから、ホント格好良すぎだろ。

 ……無理したんだろうなぁ。


 そう思うと、彼女がとても愛おしいく感じて、つい抱きしめていた。


「ちっちゃいのに……」


 普通に考えて、とんでもない能力だ。

 でもこうして抱きしめると、ただの痩せっぽちな女の子で、可愛い眠り姫。


「……なぁ、前から思っていたけどさ。お前ってスゲェよな。俺、いっつもお前に助けられてるよな」


 眠り姫に語りかける。

 口元に巻いていたマスクを外して、鼻から下を真っ赤に染めた彼女の顔を拭う。


 程なくして綺麗になった彼女の寝顔はまるで、穢れを知らない天使のようにも思えた。

 しかしそれは、あくまでも良く言えばの事で。

 逆に悪く言えば、その普通と違う見た目から、穢してはいけない存在、近寄りがたい存在にも思えてしまう。


「あたしを頼れか……」


 バンビの言葉を思いだす。


「あのさ、お前こそ、そうじゃ無いのか? バンビ、お前こそずっと誰にも頼れず、ひとりだったんじゃ無いのか?」


 言えなかった事を、言い辛かった事を俺は質問をしていた。


「俺はたまたまお前の症状を知っているから、普通に接する事が出来るけど。この世界じゃあ、お前の症状は認知されて無いだろ。バンビ、お前今まで、よっぽど辛かったんじゃ無いのか? 我慢してたんじゃ無いのか?」


 この子の受けた暴言を思い返して、それでも耐えている彼女を思い返して。

 決して幸せとは言えないバンビの半生を想像して、言葉を続ける。


「なぁ、泣きたい時は泣いていいんだぞ。怒りたい時は怒っていいんだぞ。俺が全部受け止めてやるから。役不足かも知れないけど、お前こそ俺を頼ってくれよ」


 あどけない彼女の寝顔に語りかける。

 殻を外した素直な自分の気持ちで。


 ボヤける視界。

 頭も回らない、力も入らない。

 俺の体力も限界突破しているらしい。……猛烈に眠たい。


「おいっ、平民共っ、ワシを助けろっ! ワシは出之領領主、田上坂寅ぞっ、おいっ誰でもいい、ワシを──」


 村の入り口でタヌキが喚く。

 この騒ぎに集まってきた野次馬連中にオッサンは、助けを乞うている。

 どうでもいい。

 醜態を晒すオッサンの声を、ぼんやりと聞き流しながら俺は、白髪の頭を撫でていた。

 瞼が重い。

 目を瞑ると俺は、そのまま意識を飛ばしていた。


「水じゃ、水を持ってまいれっ! 喉が焼けそうだ。ヒリヒリする。おいっ、お前っ、何をしておるっ。早う水を持ってこんかっ!」


 不遜の振る舞い。

 高圧的な態度の坂寅に誰も近寄らない。

 むしろ離れていく。


「……クソ愚民共がっ! これだから平民なんぞは嫌いなんじゃ!」


 助けは期待出来ぬと、坂寅はズルズル右足を引き摺り街道に出た。そこで通りのど真ん中で寝そべる大男に目をつける。


「おうっ、お主。どこぞの豪の者とお見受け致す。のぅ、ワシを助けてくれんか? 褒美はたんまりと用意すれでのう。おい、起きてくれんか。おい」


 通りで未だ大の字で寝そべるのはおでん君。

 体を揺すられ不機嫌全開で隻眼を開く。


「………だ、誰だ。誰だ、お前。ど、ど突くど」


 これにおでんは超絶塩対応。卑しい笑みを引きつらせる坂寅。


「……こ、こ、殺す」


 おでんの脅し文句に、坂寅は雷でも食らったみたいにその場で飛び上がる。

 殺気立つおでんの凶暴、凶悪なその悪人面に恐れ慄く。

 のっそりと立ち上がるおでん。


「ひっ、ひいぃぃー!」


 坂寅は悲鳴をあげて後退り。

 おでんの身長は二メール強、胴回りは大人三人分、手足は巨木並み、腰巻ひとつで全身毛むくじゃらの木菟入道(ずくにゅうどう)

 禿げた頭の悪人面に、可愛いらしい花柄の眼帯を着けてるそのミスマッチさで更に、彼の不気味さを際立たせている。


「お、お、お前。う、美味そうだな」


 おでんの眼差しは、獲物を狩る肉食獣の目だった。

 ギザギザに尖った歯を見せつけて、おでんは狂人の如く笑った。


「ひいいっ、やあぁぁぁぁぁぁっ!!」


 脱退の如く逃げ出すタヌキ。いや、坂寅。

 四つん這いで逃げる坂寅の格好は、どう見ても肉食獣に追われているタヌキにしか見えない。


 街道を必死に逃げる坂寅は道の奥、暗闇の街道の先から迫り来る蹄の音に、光明を見出す。


「ひぃぃぃ、お侍様! お侍様っ! ひいぃいいっ、助けてくだされ、人喰いがおりまするぅぅぅ!」


 一方、この蹄の音の正体とは。

 日立峠を抜けてこの『東川村』を目指して急いでいた、陸之領領主『清代 公寛(しんだい きみひろ)』率いる騎馬隊である。


 いち早く坂寅に気づいた緒方が、公寛の軍馬に馬を寄せる。


「殿っ! 飛んで火に入る夏の虫とは、正にこのことですなぁ! どういった経緯か判りかねますが、ほれっ。街道の先に田上坂寅がおりますぞっ!」


「……よく見えるなぁ、緒方よ。途轍もなく目が良いんじゃないか? ……どうもワシには、タヌキにしか見えんな」


 馬上にて緒方からの指摘に、公寛は目を凝らして首を捻る。


「ガァ、ハハハハッ! 視力は戦を左右する大事な武器。常日頃から遠くを見るのが良いと聞き申す。殿もしっかり精進なされよっ。しっかし、五万の軍勢を蹴散らし眼前に大将首とは、我が殿は恐ろしい強運の持ち主じゃ。誠に天晴れな殿じゃのうっ!」


「……強運ね、ハハハ」


 運のみで公寛は今回の戦の幕を引く。

 実力皆無。濡れ手に粟で勝利をもぎ取った彼からは、乾いた笑いして出て来ない。

 されど彼も一国の将。大将首を前に兜の緒を締め直す。


「緒方! お前は田上坂寅殿を確保しろ。正木! 田上殿が一人でおるのは腑に落ちん、オトリかも知れん。隊に最大の警戒を促せ。田坂! 左翼はお前が仕切れ。牧! 右翼はお前に任せた。村民に万が一があってはならん。十分に注意しろっ!」


「御意ッ、御意にっ! ハッ! お任せを」


「よしっ、村まで蜂矢陣形で突貫をかけるっ!」


「「オオオオオオオオオオオオッ!」」


 騎馬隊二百五十名の血気盛んな吠声に大きく頷く。 

 みるみる内に騎馬隊の陣形が矢印の形に変化する。 

 先頭を走るは緒方。公寛は緒方のすぐ後方で自身の愛刀を高々と夜空に掲げて、振り下ろす。


「抜剣ッ! 突撃じゃああああああっ!」


「「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」」


 気炎万丈、地響きを立てて突撃する騎馬隊を前に、坂寅は腰を抜かし地面に黄色い水溜まりを作る。

 アッサリと坂寅捕縛を果たした公寛率いる騎馬隊は、勢いそのままに村の中央まで雪崩れ込む。ついで、残党狩りの体を成す。


「残党は一人残らず捕縛しろっ! 今回の戦の詳細を知りたいっ、殺してはならんぞっ!」


 馬上にて指示を飛ばす公寛の前に、家臣の一人である田坂が近寄り、片膝を折る。


「殿。村人の証言が取れました。どうやらこの村に残党はおらんとの事です。ただ」


「ただとは何じゃ、申せ」


「はっ、ただ俄に信じがたい話しではありますが……」


 言葉を濁す田坂に公寛は口を尖らす。


「気にせん。早う申せ!」


「ははっ! 田上殿は子供二名と共に忽然と姿を現したとの、証言で有りますっ!」


 慌てて早口になる田坂に、目を見開き難色を示す公寛。


「は? なんじゃそりゃ!?」


「あ、あと一名、この男も忽然と姿を現した大男で、田上殿が親しげに近づいていたとか……」


 絵空事、尻切れ蜻蛉の話しに公寛は呆気に取られる。


「よ、よくぞ申した。その者等も城に連行せえ」


「っは!」


 走り去る田坂を見送りながら、信じられないといった表情で公寛がこう呟いた。


道聴塗説(どうちょうとせつ)ほど愚かな事は無い。故に、ワシがこの目でシッカと確かめてやる」


 火口より赤々と迸る噴流。公寛は雲上岳を眺め、目を細める。


「……時の氏神様の顕現(けんげん)か? ……まさかな、あり得ん」


 そう呟くと、火口の上空、赤く燃える夜空へと視線を流して彼は、深い溜息を溢していた。

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