届かぬ領域
よろしくお願いします。
清光らの、強引な『モンジ姉弟誘拐事件』の二時間前に遡る。
襲撃に備え、特別警戒中の森山村入り口前。
夜半過ぎ、仮設門の前では村の若い二人組が門衛を任されていた。
彼等は簡易的な椅子にだらしなくもたれ掛け、気持ち良さげにうつらうつらと舟を漕いでいる。
とってもお疲れのご様子であった。
若い二人のみならず、村の住民はすべからず昼は村の復興作業に追われ、夜は持ち回りなれど村の警戒、警護と、なにかと忙しい毎日を送っていた。
よだれを垂らし、イビキまでかく彼等は、警護とは名ばかりの惰眠を貪っていた。
当然である。重労働と連日に続く尋常ならざる緊張状態に、ほぼ全ての村民達はかなり疲弊しきっていた。
── 全ては、林下砦にいる奴等の所為で。
篝火に照らされ、こくっ、こくっと、首を上下させている若い二人組。
そんなおり、右側の若者がパチリと目を覚ました。
垂れていたよだれを無造作に袖で拭い、ぼぅーと足元を眺めている。
「んんっ?」
異変に気づいて彼は、おもむろに首をもたげた。
「ん〜〜?」
視界には暗い森が映る、その手前には道と。
村の入り口前には見慣れた街道が延びていた。
村の住人にとっては、町まで行商や買い出しに行く際によく使う、言わば勝手知ったる街道である。
訝しむ彼は、街道の奥から音のようなものが聴こえた気がした。
「んんん〜〜!?」
「……──ン!」
て、何か聞こえたッ、こ、これはっ──。
「── って、敵襲?」
声を張り上げ慌てて動きだす若者。
「あっ!」しかし気が動転、椅子から転げ落ちそうになるも、ぐっとこれに堪えた。
おののく彼は生唾を呑んで一旦静止。
聞き間違いかもと、冷静さを装い暗闇へと目を光らせる。
視線の先にあるのは、木々の枝葉が包み込み、月明かりも届かぬ黒い街道。
ポッカリと大口を開けた、ただ暗いだけの天然トンネルの、はずだった。
耳を側立てる彼。
「ヒヒ──ンッ!」
やっぱりッ。
馬の嘶きが暗闇を貫き耳朶を打つ。
「は、早くっ、みんなに知らせなきゃっ!」
『ッパカ、ッパカ、ッパカ……ッヒーン、ヒヒーンッ! パカッ、パカッ、パカッ……』
数頭、数十頭!?
瞬く間に増えていく蹄の音、それと鳴き声。
泡を食った若者は急いで立ち上がり、その拍子に椅子をガタッと倒してしまう。己自身も椅子に足を取られ、ひっくり返ってしまった。
転げた体で指先と足先を駆使し、彼は地面を漕いて相方へと駆け寄っていく。
「居眠りこいてる場合じゃねえっ、おいっ、起きろッ! また奴等が来たぞっ!!」
確信に似た思い込みで、未だ呑気に秒針を刻む相方を力一杯揺すった。
「おいっ、おいッ! 奴等が攻めて来たんだぞっ!!」
起こそうとして、叫び声をあげた瞬間だった。
暗がりから馬に跨る鎧武者が、矢のような勢いで飛び出して来た。
間を置かず、次々と暗闇を裂いて姿を現す騎馬軍団。
「なっ、なっ、な──っ!」
勢いよく街道を駆け抜ける騎馬軍団に、彼はその場でコテンッと腰を抜かしてしまった。
眼前、一寸先を恐ろしい速さで通り過ぎていく騎馬隊。
猛烈な勢いの荒くれ武者等は、そんな若者を歯牙にも掛けず走り去る。
目を白黒させ言葉を無くしてしまった彼は、尻餅をついたまま硬直していた。
一方、無理矢理起こされた相方は夢うつつで眠気まなこを晒す。目の前の事実をふわふわした眼差しで眺めていた。
「はあ──」
溜息しか出ない、圧巻だった。
長蛇の列。
一目で精鋭と分かる、一糸乱れぬ隊列であった。
濃緑一色の壮美な騎馬軍団に、若者の表情は疑心暗鬼から羨望の眼差しへと変化していた。
蹄を鳴らし、砂利を斯き上げ、秩序のとれた隊列が彼等を素通りしていく。これはこれで、彼等にとっては報告事案であった。
それもそのはず。
見開いた双眸に騎旗が映る。
よくよく見れば田之上の家紋が……騎馬武者の背中で、これ見よがしにはためいていた。
── 領主様の騎馬隊!?
「「こりゃあ、一大事だっ!」」
若い二人は顔を青くさせるも、呆気に取られて動けない。
予想外の援軍、領主様直下、最強騎馬軍団の登場に丘に上げられた魚同様、口をパクパクと開閉させるだけだった。
愕然とする彼等に何者かが近寄ってくる。
隊列から離れた一騎が減速しつつ彼等に迫ってきた。
馬上より眼光鋭く見下ろしてくるのは、鎧を纏っていても判るほどの筋骨隆々の男だった。
威圧感をともない騎馬武者は、開口一番にこう告げてきた。
「馬上にて御免! 森山村の門衛にござるなっ。村長、川辺元忠殿への伝令をお頼み申す。林下砦の攻略受令致し、領主、田之上厳元様率いる騎馬隊五百騎により討伐致し候。以上、言伝、宜しくお頼み申す! では、火急にて御免ッ」
血気盛んな荒馬を御しながら、精悍かつ険しい顔つきの騎馬武者が早口でまくし立てる。
彼は言い終わるとすぐさま反転、疾風のごとく隊列の中へと戻っていった。
狭い街道を一例で駆け抜ける騎馬軍団。
急な事に暫し呆然としていた若者二人。
その前を、大層な兜飾り、一際豪華な甲冑姿、凛とした佇まいの騎馬武者が通り過ぎていった。
紛れもない、常之領領主『田之上厳元様』そのお方である。
手綱を握り厳元は、ひときわ渋い表情で先を急ぐ。
ひとえに領主としての責務を果たす為、そして何より、父としての責任を果たす為と厳元は焦る気持ちを抑えて強く、手綱を握り締めていた。
♦︎
村長宅。
夜通し続く年寄り衆の会合に、元忠は出席していた。
村の復興修繕計画、人員の配置、備蓄物資の分配、医療薬品などの慢性的な不足、等々、ざっと思考を巡らせるだけで際限なく出てくる難問に、年寄り衆を含め皆で頭を悩ませていた。
と、そこに、扉を蹴破らんばかりの勢いで、転がり込んでくる若者二人組が目についた。
何事かと、年寄り衆と元忠は両目をひん剥く。
動揺丸出しで若者二人は、十人程いる村の重鎮等を一瞥。口から泡を吐き出しながら、今しがたの事態と伝令を矢継ぎ早に語った。
「なっ、なっ、なにっ!」
座敷の中に驚声が響く。
報告と同時に、間髪入れずにバンッと、豪快に長机を叩いたのは、村長の元忠だった。
弾かれたように上半身を立ち上げ、信じられんといった表情を見せている。
けれどそれも一瞬のことで、若者二人を怯えさせた凶暴な面構えをスゥと溶かし元忠は、間を置かず、ほのかにフフッと笑ってみせた。
村長の和らいだ面差しに、途端に安堵する二人組。
元忠は先程まで貼り付いていた、疲弊しきっていた顔色を、ゆくりなく明るいものへと変えていく。すっくと立ち上がり、一同をぐるっと見回した。
「……皆の衆、今しがたの此奴等の説明通り、賊の討伐、しいては綿姫様の救出に関して、この上ない吉報がもたらされた。これで村を襲う脅威も潰えたといって、過言ではなかろう。……皆の衆、良く耐え抜いた。大変ご苦労であった」
村長の労いの言葉で、にわかに湧き出す若い二人と年寄り衆。
領主、厳元様の迅速なる行動に満面の笑みを湛えた年寄り衆からは、絶え間ない賛辞があがる。もとより元忠も上機嫌で言葉を繋いだ。
「これで憂いも消え去り、もう恐れるものは何も無い。我々は心置きなく村の復興に全力を尽くそうぞ」
座敷の空気が明るく弾ける。
歓喜の火花に油を注ぐ村長の言葉は、戦勝ムードを更に加速させていった。重苦しかった会合の雰囲気もどこ吹く風で、騒がしい賑々しい場所へと変わる。
安寧に彩られた彼等の表情ではあるが、瞼の下に未だ残るクッキリとした隈そのものが、何より彼等の極度な疲労のあとを物語っていた。
喜びに沸く会場。
年寄り衆の面々から調子に乗って、酒だ、酒持って来いと、騒ぐ輩がいる中、元忠はついつい本音を漏らしていた。
「ふふっ、やりおるのぉ厳元様も。しかし、厳元様も領主である前に人の親であったという訳か、ふっ、行け好かんのぉ。……あとは繁忠、お前は必ず生きて戻って来いよ」
慎重派で知られる厳元様の、異例とも呼べる迅速な対応に元忠は、覚えず口端を緩めていた。
年々落魄する己の技量を呪いつつ、領主である御大の行動に羨望を孕む言葉に皮肉を込めた。
そして一緒に、普段は照れが邪魔して表に出せない本心。出来過ぎの息子に対して、親としての仁愛を呟いていた。
♢
「ゴ、ゴゴゴゴゴ──────────」
稲光が重い雲を伝う。
月を隠した重厚な黒雲が森を覆い尽くしていた。
「ッシ!」
襲い来る刃をものとせずにモンジは、柄を握り鯉口を切る。
瞬間の軌跡、直線上に現れた黒い背中にその目を眇めた。少年と黒服の間に隔たりが消失した。
── ッ今しかない!
迷いなど微塵も無かった。モンジは前を走る黒い背中に刀を、射出していた。
超速の刃が直線に閃く。
風を斬り裂くそれはまるで、銀の閃光、闇を突き破る銀の弾丸のよう。
鞘より超速で射出された白刃が、奴との繋いだ線をなぞり飛翔、宵闇に光りの白線を描く。
「ッ死ねぇ!」
「── ッ!」
瞬時に視線を剥がし、白線の結末を見届けること叶わずモンジは、頭上より迫る銀線に半ば強引に身を翻していた。
♢♢
「── しつこいガキだ!」
飛び道具を無効にする為と、黒服は敢えて木々の合間を縫うよう、高速で駆け抜けていた。
そこかしこに潜む野党の気配に、彼は覆面の下に笑みを浮かべている。
森に潜む砦の残党。いい足止めに使えると瞬時に判断した黒服は、わざと奴等の近くを通り過ぎた。
別に仲間でも何でも無い。いいように使わせて貰う。警戒させたこいつ等を、後から来るあのガキに宛てがう為だ。
策が嵌る。
描いた通り残党共はあのガキを敵とみなし、襲い掛かっている。術中にまんまと嵌る少年に黒服は、鼻を鳴らし、その黒覆面の下に含み笑いを作った。
上手く逃げ切れる筈、だった。
不意に、怖気が襲う。背後からの威圧感に黒服はぞっと体を震わせた。そして。
「ットス」
──んっ!?
腰を押された?
「──あっ!」
にわかに信じられない光景に全身を青くさせた。視線を落とした先で、腹から刀が生えていたからだ。
視認してから数瞬、いきなりの鋭い痛みが脳天を突き抜ける。
腹から刀だとぉ!?
遅れる思考。
貫いている箇所、脇腹から猛烈な痛みが黒服を襲う。戦慄と懸念に時を奪われる中で彼は、少年の仕業だと本能で悟ってしまった。
「ックソ、ッガキ!」
あり得ない。何故に、何を失敗した。常人なら私の動きを捉える事など、ありはしない。なら……あ、あのガキが常人では、無いっ。
『森山村に手練れがいる』厳伍の残した言葉が脳裏をよぎる。あのガキがまさかっ……。いや、しかし、多分、そうなのだろう。
憶測の域ではあるが、かの少年を『手練れ』であると結論づけた黒服は、無理矢理にも自らを納得させた。
「か、かはっ!」
視界がブレる。足の力が抜けていく。肩に担いでいる娘が、異常に重たい。もう、倒れてしまいたいぐらいだ。
刃の先から赤が滴る。
溢れ落ちる血流が膝下にあるシダの葉に落ち、大きく揺らす。朦朧とする視界の中、いつしか黒服は痛みに耐えかね、その歩みすら止めてしまっていた。
おもむろに膝から地に崩れ落ちた彼は、娘の体を取り落とす。力無く横たわる娘の体。背後では断末魔が重なり、敢えて見ずともその惨状には想像がつく。
──『モンジ』。驚愕で歪んだ顔で彼は、少年の名を深く心に刻んだ。
「【……ヌシには死んでもらう】」
地の底、冥府より聞こえし声に心底震えた。
音も消え、全てが静止したような寂然たる森の中で黒服は、黄泉へと誘う異界の声に、目を剥き肝を凍らせる。
自分に歩み寄る少年の気配に寒気立ち、身の毛がよだつ。肌を突き刺す圧迫感に、開ききった瞳孔を硬化させる。
絶望以外の選択肢は無いと、私は終わりだと、背後の少年に強要される。
武人の矜持。
せめて、己を屠る相手を一目だけでもと。
彼は油の切れた木偶人形のようにギギギと、首と眼球を後ろに回した。
ぎこちなく振り返った黒服が見た光景、視界に映した光景に、開ききった瞳孔が揺らいだ。
「待たせたな」
「ッピギャギャーッ、ドォオオオオオオオオオオンッ!」
この声に呼応するかのように落雷が木を貫き、燃え盛る。そびえる杉を真っ二つに断裂させ、稲妻が落ちた。大気に伝播した振動が、容赦なく彼の内臓を震わせた。
稲光り閃光は、愉悦、憎悪、歓喜と、三者三様の表情を照らし出し、森を震撼させていた。
歓喜に彩られた黒服。
落雷が落ちる直前黒服がみたものとは──悪鬼の形相を成す少年、その後ろに──背後にいた人物の顔、己の主の姿を映したからだ。
「待たせた」
「と、殿っ!」
「【──】」
雷光に怪しい笑みを浮かべる獅子面。
若干、煤けた相貌、ギラつく紅目。
眼光より揺らめく赤光の残線を描き、赤毛はモンジの背後から剛腕を振るった。
瞠目する黒服の眼前で、悪鬼の形相を崩さぬまま瞬時に義手を持ち上げる少年。
「ッパァアン!」
爆砕するッ!
振り抜かれた赤毛の一撃。それを受けた少年の義手が、破裂した。
鉄片、木片を宙に飛び散らせ義手は弾け飛んだ。しかし既に少年の姿はそこには無いッ。
「しゃらくせぇッ!」
すぐ隣りで聞こえた御殿の声に、息を呑むのも忘れ黒服は視線を滑らす。
黒服が視線を向けた先。
まさに横たわる娘を拾いあげようとする少年に、獅子が矢のような蹴りを喰らわす瞬間であった。
目も反応も振り切られた!?
ぐっと、奥歯を噛みしめる黒服。暗然たる思いにさせられるには、十分過ぎる理由であった。
世界がまるで違うと。
この二人は次元が違うと、自分はまだその域には達していないのだと黒服は、漫然たるやるせなさに貶められていた。
「おいっ、背骨! さっさと血止めして娘ぇ連れて、テメェは戻ってろ!」
不意に投げられた主の下知。
蹴りで少年を飛ばした御殿は、自らが時間を稼ぐと仰っる。いいのかこれで。
「しかし、殿っ……」
「はんっ! テメェはワシが見込んだ男だ。こんなとこで、おっ死んじゃっちゃあ困っからな。はっははん!」
まだまだ働いてもらうと豪快に笑い殿は、懐から掌ほどの薬箱を私ごときに渡してきた。寛大なる殿に報いねばならん。この身を賭しても。但し、今ではないッ!
「我は志大才疎、この場には見合わんようです」
「はんっ! ほざけっ!」
意気消沈し、深々と頭を垂れる背骨の戯言に短く否定で返す赤毛は不敵に笑う。
はんっと、嘆息を切って地を蹴り、赤毛は少年へと迫る。黒服が届かぬ領域の決戦が始まる。
もっと精進せねばならん。いづれ訪れる殿の、遥かなる野望の為にも。背骨は改めて自らに、御殿への忠誠と誓いを立てた。
いづれくる、いちなる世界の為に。
♢♢♢
くっそっ! あと少しで届かんかった。指先でも引っ掛かりさえすればっ。くっそぉ!
奴等の隙を突いて、イエを連れ去ろうと速攻を賭けたモンジではあったが、彼女に手が届く寸前に邪魔をされた。
無防備を晒した体に渾身の蹴りもらい、豪快に弾かれ、下草を薙ぎ倒しながら十メートルはあろう距離をゴロゴロと転がった。
果ては木に激突、左肩口をしこたま強打しうずくまっていた。
「ぐ、っぐぐ……」
強打した肩より腹のほうがダメージがデカい。
脇腹を押さえて荒い息のモンジは、鼻と眉間に盛大に皺を寄せ苦痛に耐えている。
「(おいっ! だ、大丈夫なのか!?)」
「【……無、問題】」
問題大ありのコイツの態度に戸惑う。
今はコイツに頼るしか無いと、半ば縋るような思いでモンジは、一切の懸念を呑み込んだ。
「(イエだっ、イエ姉だけでいいんだ。頼むっ!)」
「【……承知】」
視界の奥。赤毛が静かに迫りくる。既に戦闘態勢、黒服は自らの治療を始めている。
まだ間に合うか。
いや、まて、見覚えがある。
アイツが使っているあの薬は確か……。麻酔薬!? そうだ、この世界には痛みをゼロにするとんでもねぇ薬があるんだ。俺も散々世話になったやつだ。
このままじゃあ黒服はすぐに復活して、またイエ姉を連れ去っちまう。くっそ、どうする。どうすりゃいいっ。
悲壮感を漂わせ、砲身のみを残した左手を見つめるモンジ。彼が考察している間も刻々と事態は動く。
モンジの意志とは関係なく、コイツの意志で少年の顔が動く。
コイツはギュッと瞼を閉じて数秒、押し黙る。次に瞼を上げた時には、少年の瞳に覇気が灯っていた。
「【……押し通すのみ。……さき、様を救う】」
「(──さき様!?)」
押し出されるように、モンジは飛び出していた。
クッソ、コンニャろう。相変わらずガン無視かよ。まぁ、いい。もう慣れっこだ。
雷鳴が鳴く。
ボツボツと顔面を叩いていた雨垂れは、気付けば本降りとなっていた。全身を容赦なく打ちつけてくる雨粒。
「【── ッシ!】」
大地を蹴りつけるモンジ。
一触即発であった。まるで放たれた矢のように少年は、彼我の開きを平明に喰らう。
視界はイエしか映さない。彼女さえ救えれたら何も要らない──たとえこの命と引き換えでもッ。
腹に据えるは鋭い刃。
強い信念を抱えてモンジは、孤独に疾走していた。
当然の如くに赤毛が出しゃばる、行く手を阻む。あぁ、分かりきったことだ、無問題。
秒速で赤毛が急接近。
奴の獅子面がハッキリと見える。
愉悦に染まる笑み、鮮血色の眼球を爛々と輝かせている。
「【── ッ!】」
モンジはその身を更に低くし、両足に膂力を注いだ。
「はっはああっ! 小猿、ワシを存分に愉しませろやっ!」
「【───】」
目前、赤毛が吠える。間髪入れずにモンジと赤毛は接触──そして爆発した。
ありがとうございました。




