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〔墓守り紋次の物語〕  作者: 猫屋敷 中吉
42/122

掴んでくれた手は、強くて暖かかった

 よろしくお願いします。


 爆発に身を縮めるモンジ。

 背中にビシバシと破片やら木屑があたる。

 爆音に混じって瓦礫の崩れ落ちる音と、尻切れの雄叫びが聞こえてきた。


 暫くすると静寂に包まれる室内。

 恐る恐る顔をもたげ、振り返る。

 もうもうと粉塵が舞い、すこぶる視界が悪かった。

「バキッ──ダンッ、ドンッ」数秒遅れで、かつて天井だった破片が落ちてきた。


 アイツはどうなった!?


 咄嗟に頭を守って、身をすくめた。

 煙る視界の中で目を凝らす。爆発に巻き込まれたであろう奴の安否が気になったからだ。予想以上の爆発だったから、恐らくは……どうしても、最悪を想像してしまう。


 予測も出来たはずだろ、狙って仕掛けた事だし。今更である。

 こう、イザ現実になってしまうと──人を殺してしまったと思ってしまうと……体が勝手に震え出す。俺は怖気づいたんだ。


 胸の下で、じくじくと鈍痛がする。

 空の胃袋がギュウッと搾られる感覚に顔を顰めた。直接、心臓を鷲掴みにされた気分になる。やたらと呼吸が荒くなった。


 怖かったんだと思う──『人を殺した』かも知れない現実が。


 俺は、不意に昔の事を思い出した。それこそ幼稚園ぐらいの話しだ。


 クソガキだった俺は、お店に誰も居ない事をいいことに駄菓子屋で、一個十円のガムを万引きしてしまった事がある。ほんの出来心ってやつだが。


 結局、罪悪感からか盗んだガムは食べる気がしなくて。困った挙句に、どうせバレるんだからと軽い気持ちで、母親に告白したんだ。

「ごめんなさい」って。そしたら、もの凄く悲しい顔をされて。


 ホント、恥ずかしい記憶なんだと思う。


 そのあと、怒るでも悲しげな目で母親はこう言ったんだ。


「トイチ、よく聴いてね。あなたも分かったと思うけど『物を盗む』って悪い事なの。悪い事をすれば必ず誰かが見ているの。他人でも無いし、神様でも無い、あなたが必ず見ているのよ。だけどね、トイチ。あなたは悪い事をしたと自覚したのだから、正直にお母さんに告白したのよ」


 最後に母さんは「言ってくれて嬉しい」って、悲しそうな微笑みを浮かべていた。


 話しの内容より、大好きな母親にそんな顔をさせた自分に腹が立って、悔しくて、情け無くて。


 母さんには、いつでも笑っていて欲しかったから。

 俺は涙と鼻水で顔をグチャグチャにしながら、何度も謝っていた。

 

 この時、初めて知ったんだ。

 悪いことはすれば必ず自分に返ってくるって。幼いなりに、思い知ったんだ。

 

 そうこれは、もう会う事の出来ない人との、悲しい思い出。けど、決して忘れてたく無い懐古的な記憶。



 頭の片隅に正義が疼く。元々俺が持っていたもんじゃない、母親から強く影響を受けたものだろう。

 だからこそ自分の中にいる母親が、尊敬する母親の笑顔が、俺に可否を下す。


 俺の正義はそこに在ると、今はそう思えるから。


 敵を殺すのは是か非か……母親に委ねた。


 頭の中に、生前通り若造りした母親(40代ではあるが20代後半に見える自称美人)の面影が現れる。


 俺は母親の答えを静かに待つ……。


 ──母親は……タハッて、微妙に崩した顔をして見せた。


 イマイチ分からん、仕切り直す。


 俺の中では、答えはとっくに出ている。それを含めて、覚悟を決めたのだから。


 脳内では、母親の面影が揺らぐ。


 ──母親は……口を曲げて、目を瞑ってしまった。


 いやいや、さっきからよくわからんて。もっかい、もう一回だけ、仕切り直しだ。


 もし、奴の生死が最悪の結果になったとしたら、俺はそれ相応の報いを受けるつもりでいる。当たり前の事だ、男に二言は無い。今度こそと、答えに縋る。


 よりクリアに、母親の面影がハッキリと映った。


 ──母さんは……苦笑いを浮かべ、ほどなくして口を尖らせ俺を一瞥、次いでプイッとそっぽを向き背中を見せてきた。


 なんだっ、そりゃっ!

 

 心なしか、背中越しの肩がふるふる震えてるようにも見える。笑ってやがるな、コンチクショーは。

 まぁ、もともと明るい人ではあったけども。


 結果は、答えは出ずじまいになった。

 人殺しに是非も無しって事なのか? それとも、自分で考えろってことか? 俺にはサッパリ分からん。


 混乱する俺の頭の中から、いつのまにか母親の姿は消えていた。グッバイ、マミー。今度こそ、よろしく頼むぜ。


 なにわともあれ、心が沈みかけたタイミングで母親の顔が見れて、まぁまぁ、気持ちが楽になったかな。

 

 横穴のお陰で風通しの良くなった室内。吹き抜けた風が粉塵を(さら)い、さして待たずとも視界が開けて来た。


 澄んだ夜空に満ちる月。

 薄暗い室内に差し込み、幾筋もの月明かり。

 細かな埃がまるで、ダイヤモンドダストのように煌めく。


 俺は爆破した現場に体ごと向いた。おのずと目を細めていた。顔を顰めるほどの惨状に、言葉を失なったんだ。

 壁や天井には、大小様々な形に穴が空き、崩落寸前。。壁板の其処彼処(そこかしこ)に、血やら肉片がビッチリとこびり付いていた。


 敷き詰められた畳も散々な有様。

 斜めったり、捲れ上がったり、更にはひっくり返った物まである。さしずめ台風一過の様相を呈す。

 

 そんな部屋の惨状を前に俺は、ミッション、オブ、ポジティブ。スパイのように気配を消して、奴の本体を探していた。

 

 奴そのものが、消え失せていたから。


 確かに、血や肉片は飛び散ってはいる。だが、人ひとり分とは言えない、ましてや、あの巨体なら尚更であると。しかも爆発の直後に、奴の叫び声が聞こえた気がしたから。


 奴は居るはず──それなら何処へ行った?


 モンジは一歩、前へと踏み出した。

 ギシッと、大きな音を立てて床が軋む。悲鳴を上げた床が、いつ抜けてもおかしく無いと言っている。

 だけど気になる。奴の生死が気になる。俺が殺人犯になるかどうかの分水嶺なんだ。


 答えを出せずじまいの俺は、どうしても確かめたかった。


 ゆっくりと忍足で進むモンジ。爆心地はもう目の前だった。ゆらゆらと、何かが下から舞い上がっているように見える。

 近付くことでやっと分かってきた。畳の奥で、舞っているものの正体を。


 舞っていたのは粉塵では無く、火の粉と煙である。おまけに熱風付きで。


 四つん這いで恐る恐る近付き、煙る箇所、爆心地を覗き込んだ。熱っつ、煙いッ! 

 瞬間ひるみもしたが、顔を逸らして恐る恐る観察する。やはりだ、床が抜けちまってる。


 爆発で床が抜け落ちていた。

 床をぶち抜いた事に驚きもしたが、更に下の階、二階の床までぶち抜いて、一階、火の海の中に猛牛男はいた。


 あんな下まで落ちたのかよ!? びっくり仰天である。


 しかもだ、床板を二層もぶち抜いたくせに奴は、ピンピンしていた。

 一緒に落ちた床板を上手い具合に下敷きにしていて、奇跡的に奴の体は炎に呑まれずに済んでいた。


「アイツ、アホみたいにタフだな。ほとんど怪獣だぜ」


 モンジに軽口が戻る。

 俺は安堵の表情を見せていた。

 顔面を焼くほどの熱風に、立ち登る煙。

 何より奴が生きていた事に、目を細めながらモンジは、口元に笑みを浮かべている。

 ほおぉと深く息を吐いて、不安で固めた体をスゥと溶かした。まずは良かったって事で、やれやれだな。

 

「!?」


 ボコンッ! 安堵したのも束の間。唐突に何かが外れた音がした。次に、体に感じる浮遊感に襲われた。


 モンジの体を支えていた、床が、畳が、一気に抜けたッ、落ちたッ!


 瓦礫と共に時間の進みが遅くなる。無くした重さと視界に広がる炎の絨毯。

 恐怖心で満ちた頭の中に刷り込まれた知識、恐い映像『地獄絵図』が幕を開く。


 遥か下は火炎の海原。ここから落ちたら、ただじゃあ済まない。多分、俺、死ぬ──。

 カタコトの思考の前面に『死』の一文字が刻まれた。


 と、その時──。


 ッガッシ! ビンッ! 


 重さが戻った!? 義手を固定している肩紐が肉に食い込む。──ッッ!?


 モンジは痛みに顔を(ゆが)めた。痛みの対価でとして、落下する筈の体がピタリと止まった。


 眼下を蹂躙する炎に炙られ、熱を全身に浴びるモンジ。赤々とする視界を上へ、天井へと向けた。


 またまたビックリである。そこに、居るはずの無い人物がいたんだ──モモッ!?


 歯を食い縛るモモが俺の義手を掴んでいたッ!


 右手で義手を、左手で階段手摺を掴んで、顔を真っ赤にしたモモが、そこにいたんだ。


「モモッ、お前なんで──」


「ふんぐぅー」と、顔全部を絞り、その食い縛る口から白い歯を覗かせながら、少女は堪えていた。


 俺を落とすまいと、必死な形相で頑張ってくれている。でも、なんでッ。

 見れば、紫色の忍び装束の左肩口に黒い染みのようなものが広がっていた。


 昨晩の傷口が開いているッ!?


「モモッ! いいから手を離せッ! ……お前まで道連れにしちまうッ。モモッ、もういいッ、手を離せッ!!」


 懸命に叫んでいた。余裕が無さ過ぎるッ。

 このままじゃあ、遅かれ早かれ二人ともお陀仏だ。だから頼む、言うことを聞いてくれッ!!


 モンジの懇願にモモは、薄く眼を開け、無理矢理の微笑みで応える。辛そうな彼女の鼻先からひとつ、汗の雫が落ちて来た。


 唇をギュッと結んだモモは、栗色の瞳に強い意志を宿す。けれども彼女の小さな体は既に、限界を迎えていた。


「──」


 小声で何かを呟いた彼女。両手が麻痺して来る。とうとう力尽きて少女は、手を離してしまった。

 モンジの全身に再び浮遊感が襲いくる。


 でも、さっきとは違う── ッ!?


 ──少女は、自らを繋ぐ階段手摺の方の手を離していたんだ。少年と繋いだ手は強く握り締めたままで。



「バッ、ッ!? 違ッ……!」


 一瞬、意味が分からなかった。コイツ、俺と落ちる選択しやがったッ! バカじゃねえのかッ!


 戸惑うモンジ。呟きと驚愕を残して二人は、自由落下を始める。けれど、繋いだ手は離れない。

 離すまいと握られたモモの手は、モンジをしっかりと捕まえて離さない。


 ──正直、嬉しかったんだ。ひとりじゃ無いって、そう思わせてくれた少女の手が──。


 ック! モンジは急いで彼女を手繰り寄せ、両足でガッチリホールドした。腕の中で彼女の頭を抱え、抱き締める。

 間髪入れずに叫んでいたッ!!


「ッオン!!」

 瞬時に反応する『黒の式神 じいぃ』。腰巾着よりブワァッと宙に広がり、二人を包む。


 ──少女を守るように、モンジが背中を床に向けた直後。


「ドゴオォォォォォォオオォォォォン!!」


 城中に衝撃音が響き渡る。

 火に(まみ)れた一階床が震え、次いぞ突き抜け二人は、地下室まで落ちていった。




「うおッ! 今度は何だッ!?」


 一足遅れで階段を降りてきた繁忠と土門が、姿を見せる。床の抜けた三階の惨状に、言葉を吐いた繁忠は口を噤んで驚嘆する。


「これは、しかし……」


 続いて口を開いた土門の呟き。

 しかし、吹き上がる熱風と煙で一瞬たじろぐも、腕を回して口を塞いだ。続くはずの台詞も塞いでしまった。

 先頭に立つ繁忠は階下より振り向き、晒した渋面で土門へと視線を上げた。


「姫様は地下だなッ。急ぐぞッ!」


 土門の了解も聞くまでも無しと、前のめりで動き出した繁忠に土門も続く。二人は滑るようにして階段を降りていった。


♢♦︎


「ゲホッ、ゴホッ。モモッ、モモッ、平気かッ? ッモモ!」


 薄暗く、大量に砂塵の舞う地下室でモンジは、ひとり孤独に声を張り上げていた。


 ただひたすらに少女の身を案じて。


「──!?」


 ガララッと、遅れて瓦礫が降って来た。庇うように彼女を抱き締め、背中を丸める。


 続いて──ドオンッとブタ、もとい、猛牛男も降って来た。奴は落ちるついでに、地下室の扉らしき物も破壊しやがった。何してくれてんだッ豚野郎!

 

「い・だ・い……。だ・ず・げ・で……」


「ッ!?」モモの安否よりブタの安否確認が、先に取れるとは……。ってかコイツ、喋れたんかいッ。


 軽い火傷と左足欠損した姿で、地下室の中央あたりで大の字で転がっている。取り敢えずコイツは後回しだ、無視しとこう。生きてるのも解ったし、もうどうでもいい。


「ッひ!」


 次いで、奥の方で小ちゃい悲鳴が聞こえたが、これも無視だ。今の俺にとっちゃあモモの方が、百万倍大事だからな!


「モモッ、モモッ。くっそ、コイツら邪魔だな。……『オフ』」


 モンジの式神解除で『黒い小さな悪魔』達は、スルスルと巾着袋に帰って行く。黒く大きな塊から、サーッと二人の姿が現れた。


 悪魔達のお陰で五体満足、無事でいられるのは確かだ。そんなのは分かっている。だがしかし、今はそんなのどうでもいい。最優先はモモだッ。

 モンジの中で『じいぃ』の評価が爆上がり中なのは、言うまでもない。


 改めて俺は、腕の中の小さな少女に言葉を掛ける。


「モモ、モモ、大丈夫か? もも、もも」


 焦る、焦る、焦りまくる。

 顔はキレイなもんだ。だけど、肩だ、肩に出来た滲みが広がっている。どうする、どうするっ、どうするッ!


 パニクる俺は、彼女の体を無意味にペタペタ触りまくり、顔を覗き込む。


「モモ、モモ、モモ、返事して。もも、もも、もも」


「……あ、……う、……モンジ、さん?」


 か細いが、返事をしてくれた!


「ッもも!!」


 嬉しさのあまり、思わず彼女を抱きしめてしまった。

 モモの体は細くて華奢で、細身の俺でもスッポリ覆えるぐらい頼りなくて。


 俺の胸の中でモモは体を密着させて、小さく息を吐いた。ほどなくして、ふにゃと全身を預けて来た。


「モンジさん……良かった」


 そう囁いた彼女の表情は伺えない。だけど、その小振りな耳が朱色に染まっているのは分かった。


 無意識だった。

 無意識に俺は、少女の頭を撫でていた。

 抱きしめたまま、慈しむように。


 ドキンッと心臓が跳ねた。俺、いま何した? 頭、撫でちまった? 


 不覚にも俺はこいつに、キュンと来ちまった。


 うおぉぉぉぉぉ! こんなチビッコ相手にときめいただとぉ! おごばあぁぁぁぁ! ロンリーウルフ(自称)と呼ばれた俺が、ロリコンウルフ(自覚)になっちまったぁぁ! うごぉぉぉぉぉぉォオ!!


 モンジが悶えまくる。

 茹で上がるモンジを他所に、撫でられた事で彼女は、よりいっそうモンジの胸へと顔を押し付けてくる。

 離さないって言ってるみたいに、キュッとしがみついて。グリグリと、グリグリ、グリグリと額を擦り付けながら。

 ポニーテールが左右に揺れる。モモの細いうなじが、後れ毛が──か、可愛い。ぶひゅー、モンジは撃沈した。


 と、そこに……。


「モモッ!? モモなの? そこにいるの?」


 粉塵も落ち着いた地下室の中、薄闇に澄んだ鈴音のような声が木霊したんだ。



♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢



「ドガアァァァァァァァァァン!!」


 砦内部からの爆音に、皆から視線の集中砲火を浴びる絹さんは、戸惑い中である。片手を顔の前でブンブン振って否定する。


「私じゃあないわよッ!」


 皆んなからの誤解を受け、語意を強める絹さん。少々、いや、かなりご立腹中である。


「確かに、爆矢を打ち終えてから暫くしてからの爆発でしたからねえ。一概に『姉御』の所為じゃありませんて」


 愉快な仲間達四人衆の一人が、絹を援護する。

 ちなみに、今回の絹さんの男気溢れる活躍に、いつしか彼等は絹さんの事を『姉御』と呼んでいた。

 呼ばれる度に口元を緩める絹さんも、満更ではない様子である。


 砦の南門より、二十メートルほど離れた距離である。

 外の援護部隊は、ひとつ所に纏まっていた。

 今は、爆矢も撃ち尽くした事で手持ちぶたさとなり、三ヶ所に別れた配置を一つにまとめ、雁首を揃えている。

 迷彩戸板三枚並べた後ろで身を潜め、息を殺し彼等は、砦の成り行き次第で作戦行動を立てていた。


 そんな合間も砦からは、ゾロゾロと賊供が逃げ出している。開いた東門の先にある森へと、我先にと算を乱し逃げ込んでいた。


 私達は南門近くにいるけど……。コッチに気づかなきゃいいけど……。


 柳眉を(ひそ)め、不安げな表情を見せる絹。四人衆の声に、取り繕うよう平静を装った。


「姉御、次はどうしやす?」


「あ、姉御ね! 私の事ね、フフンッ。えー、そうね。最悪、爆矢が終わったら速やかに森に身を隠せって、繁忠は言っていたけど……。やっぱり、心配になるじゃないッ。あのバカ、打ち終わる頃には戻って来れるって、自信満々に言っていたんだからッ」


 何かしらの予想外の事態が起きていると、彼女の胸に不安が膨らむ。心配性の絹の眉間に深く皺が刻まれた。

 絹を中心に、四人衆、河口兄弟、イエ姉に囲まれ、しゃがんで輪を作る彼等。絹は腕組みで思案に耽る。


 モンジ達が心配。でも砦に向かうにしても、逃げるにしても決断は速いに越した事は無い。

 分かっている、解ってはいるけど、決断に皆の命が掛かっていると思うと……。


 二の足を踏んでしまう。


 フッとイエ姉に視線を向けた。イエ姉は瞳をキラキラさせながら、まん丸のお月さまを堪能中であった。


 えッ! まずいじゃないッ!?


 夢中になり過ぎて、周りが見えて無かった。あちゃーと、額に手を添える絹さん。


 これじゃあ、私達まる見えじゃない。


 月の隠れた、暗闇だからこそのカモフラージュじゃない。迷彩戸板も、こんな明るいかったら全く意味が無いし。逆に何も無い草原ではこんなの、違和感しか無いじゃない。


 絹は即座に決断した。『撤退』の決断を。


 他の面子の配慮も勿論あるが、ひとえに非戦闘員であるイエ姉を、これ以上危険な目に遭わせたく無いという絹の独断である。


 脳裏にモンジの間抜けヅラがよぎったのもそうだけど……。とにかく、今は逃げなきゃッ!


「わたし達は一旦、撤退……ぎやッ!!」


 短い叫び声を上げる絹さん。急いで両手で口を塞いだ。眼を見開きイエ姉の背後を凝視している。


 絹の悲鳴の原因。あろうことか、イエ姉の背中から何かがニョッキリ生えて来たからだった。

 絹につられ、皆の視線もイエに集中。何の事か分からず、イエ姉は首をキョロキョロさせて困惑している。


「ッしいぃぃぃ〜〜」


 夜光に閃く白銀の狩衣、この声の主とは。形のいい瓜実顔に、ちょこんとした鼻と唇。

 男の子らしい短めに刈られた髪型に、細い髪質の所為か吹いてる風も微風にも関わらず、サラサラと優雅に揺らいでいる。

 少しかかる前髪の奥から、大きなエメラルドグリーンの瞳が覗いていた。


 その瞳は月光に晒され、美しく煌びやかに輝いていた。

 その男の娘は、しなやかな人差し指を唇に添え沈黙を訴えている。


 紛れも無い、帝お抱え陰陽師『立花 四季』が、いつの間にやらそこにいた。



 ありがとうございました。

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