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〔墓守り紋次の物語〕  作者: 猫屋敷 中吉
34/122

絹は負けず嫌い

 よろしくお願いします。


「っあっら〜、逃しちゃったじゃなぁ〜い。も〜、どうしてくれんのよぉ、あたしのオモチャなのに〜」


 モンジに逃げられまいと、袖に仕込んだ棒手裏剣を投擲した不全。繁忠の一刀によって弾かれ、憮然としている。


 “ ドォォーン ” ” ドォーーン ” ”……パラパラ ” “ ……元さまの……攻めて来たぁー ” ”わぁーー ” ” わぁーー ” ”厳元さまの正規軍が攻めて来たぁー ” “ ギャーー ” “ …厳元さまのーー ” “ ドォーン ” ” ……パラパラ ”


 嵌った。

 城の中は大混乱状態。

  てんやわんやで逃げ惑う兵達。てんでんバラバラごった返している。そんな中、繁忠は一人ほくそ笑む。


 ──いいぞ、絹、土門。作戦は順調だ。


 スッと、素に戻る繁忠は刀に手を添える。

 腰より愛刀を抜き去り、澱みない所作で正眼に構えた。長刀を両手にだらりと引っさげる不全に、静なる威圧で相対する。

 モンジ、綿姫様を頼んだぞ! 鋭い視線を長駆の二刀流に縫い付けたまま、己が願望を隻腕の少年に送っていた。


 “ ドガアァァァ── ン!”

 爆弾が城に直接、当たった。


「ひっ、ひぃ───っ!」


 情け無いほどの金切り声が響く。

 声の主、厳伍は腰を抜かしたまま、這うようにして四つん這いで、奥座敷に逃げ込んでしまった。


「土門! モンジの後を追え!」


 繁忠と背中合わせの土門は、後から入って来た鎧武者四人と対峙していた。


 やわら「おう!」と一声張り上げると彼は、自身の獲物である大槍を頭上にてグルンと一振り。敵を牽制すると、グッと腰を落とした。

 ここで一拍。腰に構えた大槍で力を溜めて土門は、刃の無い大槍で、高速の突きの連打を見舞ったッ!


 速さと手数が尋常ではない土門の刺突。

 なす術も無く、突き飛ばされてゆく黒武者ども。土門の疾風怒濤の連突きが炸裂するッ! 

 喉元、鳩尾、金的と、的確に急所を捉える土門の突きは、あたかも至近距離で放たれた、弾丸のようでもあった。次々と鎧の猛者等を弾き飛ばしていく。

 瞬く間に最後の一人を蹴散らすと土門は、脇目も振らず座敷を後にした。


「うふんっ、土門ちゃんも連れないわねぇ。だ・け・ど・下の階にはあたしの可愛い弟『保全ほぜん』がいるからねぇ〜。あの子、音に敏感だから今頃、大層ご立腹中じゃないかしら〜。うふふっ」


 さも愉快そうに、不全は口角を(いびつ)に吊り上げ、歪んだ笑みを溢す。けれどその目はまるでガラス玉ようで、人間味の欠片もない。

 奴は瞬きもせずにそのまま、繁忠だけを見つめていた。


「でも……。よく見れば貴方も中々のいい男じゃない。つまみ食いしちゃおうかなぁ〜」


 舌舐めずりしながら、毛の無い眉と無感情な目を弓なりにして不全は、喜々とした表情を作る。

 繁忠を見据え、ゆるりと両の手で抜いた大太刀を胸の前でクロスさせた。


 刀身の長さもさる事ながら腕の長さも相まってか、不全の間合いは槍ほどの遠い間合となっている。


 相対する繁忠は身じろぎもしない。不全の挑発も聞く耳持たぬと努めて平静を保ち、愛刀を静かに正眼に構えていた。


 繁忠の愛刀『鴉斬り丸』が行燈の灯りに照らされ、鈍く藍色に光る。

 


「あらやだ、あなた、そこそこ出来そぉねぇ。あたし、ゾクゾクきちゃうわぁ〜〜!!」


 とろけた(まなこ)で恍惚とした表情の不全が叫ぶ。次の瞬間。

 叫びながらに不全はその長い脚を使って、一気に間合いを詰めて来たッ。


 肉薄する二人。問答無用の繁忠と、発情気味の不全の一騎打ちが、今ここに始まる。



♦︎♢♦︎♢



 少しだけ時を戻そう。


 ピュー!と高音を奏でる鏑矢の合図が、砦の外まで響いた。砦南門より中の様子を伺っていた、森山村別動隊の面々に、早速緊張が走った。

 息を潜めていた爆破援護隊は、弓に矢を番つつ、ここぞとばかりに色めき立つ。


「イエ姉! 早く、早く、早く火を付けてっ!!」

「……うう!」


 砦から五十メートル程離れた距離で、草によってカモフラージュされた戸板の裏側。

 そこで何やらゴソゴソと動きを見せている、女子二人組がいた。


 絹とイエである。


 戦装束でもある巫女姿の絹と、爽やかな空色、春霞模様の着物でイエの女子二人組は、鏑矢の合図にバタバタしていた。


 爆弾付きの弓矢を構え、力の限りにこれを引き絞りながらに叫ぶ絹のその横で、慌てふためきながらやっとこ、導火線に火をつけるイエの姿が見て取れる。


 先程まで暇潰しにと、あやとりに興じていたこの二人組。夢中になり過ぎて初動の遅れた二人は目下、バタバタしながら混乱中でもある。


 ご覧の通り、緊張感とは無縁の仲良し美女二人組の姿がそこにはあった。

 

 彼女等の身を隠す戸板の周りには何も無く、通常なら砦の監視にすぐにでもバレてしまいそうな近距離ではあるが。

 月明かりの乏しい夜空とモンジの提案した、周りに溶け込む迷彩戸板のお陰で、援護隊は監視に見つかる事も無く身を潜めることが出来ていた。


 本来なら、砦からもっと離れた森の入り口付近からの援護爆破の予定だったが──絹の、この一言。


「これ、実際届くの?」


 即席で作った爆弾付きの矢を見て、絹が発したこのクレームにより、急遽これ程までに接近した位置からの援護爆破となった訳だが。初弾の結果を見るに、どうやら絹の見立てはあながち、間違いではなかったようだ。


 “ ドガァーーン ”


 十メートル程離れた右隣りで、同じく迷彩戸板の裏に隠れる女子二人に対し、これ見よがしにガッツポーズを取る愉快な仲間達四人組が見える。

 予想より重い爆矢に対し、思いのほか悪戦苦闘していた四人組ではあるが、やっと放った一矢が砦の板塀に当たり喜色満面、喜び勇んでいる。


 ぶっつけ本番だった為、上手く爆破した事へのガッツポーズ、との意味合いが強かったはずだが。


「「ギリギリギリギリギリ……」」


 弓を引き絞る音と、絹の歯軋りがリンクする。

 眦を吊り上げ、おでこに青筋を立てている絹さんがいらっしゃる。

 怒っているのか力を込めているだけなのか、分かりかねる絹の動向に、イエは自身の顎に人差し指を添え、首を傾げている。


「ッビン── もうっ! クソッ!!」


 イエは手の平にポンッとコブシを落とした。理解したようだった。絹は今、メチャクチャ怒っているんだと。


 先手を取られて絹は、吊り目、吊り眉のまま、不機嫌全開である。

 そんな絹を残して放たれた爆矢は、導火線から火の粉を散らしながら飛んでいく。


 ” ドォーン ”

「ッイヨッシ!」


 絹の放った爆矢は砦の板塀に見事に着弾、見事爆発した。この結果に少しだけ機嫌が直った絹に、隣りで見ていたイエも安堵の表情を見せる。


 調子に乗りながら次々と爆矢を放つ、絹と愉快な仲間達四人衆。

 少し離れた左隣りでも、河口兄弟が戸板の裏から援護射撃の真っ最中。こちらは普通の弓矢である。一応作戦は順調であった。


 “ ドドォーーン ……パラパラ ”

「イヤッホー!」


 何発目かで板塀をやっと飛び越えた爆弾弓矢に、それを放った愉快な仲間達四人衆が奇声を上げる。


 今日一の飛距離に、彼等は素直に喜んだだけなのに。


「ギョリ、ギョリ、ギョリ、ギョリ……」


 またしても絹から歯噛みともとれる、そんな異音が聞こえてきた。


 イエの頬に再度、冷や汗が流れる。この場面で決して出してはいけない、バリクソ負けず嫌いの絹の本性が剥き出しになっているからだ。

 

「森山村随一の弓取りと言われたこの私が、あんな、あんな、じゃない奴等に負けるなんて……。あり得ないわ」


 本物の狩人に飛距離で負けた巫女さん、絹が、俄然闘志を燃やす。


 絹はスックと立ち上がり、綺麗なフォームで爆弾弓矢を構える。


 “ ・・・きり・・きり・・きり・きり ・・・”


 力一杯、弓を引き絞る絹。


「・・・イエ姉。お・ね・が・い!」

「……ぁ、あぃ!」

 導火線に火をつけたイエ。


 限界ギリギリまで引き絞──る!


 “ ──ッビン!! ”


 夜空に火花を散らしながら、放物線を描いて絹の放った爆矢は飛んでいく。

 角度を微調整したお陰か、誰よりも飛距離を伸ばしてぐんぐんと彼方まで飛んでいった。


 どうよ! と言わんばかりに両手を腰に、鼻っ柱をツンと天に向ける絹。胸当てを付けた小振りな胸を、勝ち誇るみたいにグンッと張っている。……次の瞬間、城に着弾!


 “ ドッガァーーン !……パラパラ 。ギャー、城に当たったぞー、わぁー 、火が、火事になったー、ギャー ”


 ヤッバッ! 飛び過ぎた!

 絹のドヤ顔が一変、驚愕の表情へと変わった。

  彼女の矢は城壁を遥かに飛び越え、城の一階部分に着弾、爆発炎上していた。


 あー、繁忠に、綿姫様の所在が分かるまで城には当てるなって、散々言われてたのに忘れてた。てへっ、このっ! わたしのウッカリさん。ポカッ!


 可愛いくベロを出し、自分で頭を小突いた絹。……洒落に為らない。


「まあ、起きた事は仕方がないわ。弓矢だけに飛んだ贈り物って事で良しとしよう、っうん。ホラッ、みんなも見ていないで、ジャンジャン撃って、ジャンジャンッ! ホラ、ホラッ」


 全く自分の非を認めない、むしろ肯定までしているポジティブ絹さんに、口をあんぐり唖然とする皆の衆。


「さぁー!やってやるわよー。こんな砦なんか、ぶっ壊してやるんだからっ!!」


 日の本一のダイヤモンドハート絹さん。懲りてない発言をしながら拳を振り上げ彼女は、俄然やる気満々の様子である。


 作戦とズレた絹さんのやる気に、苦笑いをこさえる皆の衆。粛々と援護爆破を再開した。

 と、そこに……。


「 ・・・タッ、タッ、タッ、タッ、ヒュンッ! タッ、タッ、タッ、タッ・・・ 」


 絹の真横を一瞬で駆け抜ていった何か……小動物!?


 ──小動物と見紛えたのは、頭の上部に黒髪を一つにまとめ、それをたなびかせつつ走り去る、紫色の忍び装束を纏いしあの少女!? 絹は瞠目した。


 少女は真っ直ぐ砦まで駆けて行くと、苦無を板塀に投擲、それを足場にスルスルと登っていく。一瞬の出来事に、絹はただただ呆然と見つめていた。

 気付くと少女は板塀の天辺。躊躇なく大騒ぎの砦の中へとその身を投じ、そして居なくなる。


 えっ、なになにっ! えっえっ、あの子大丈夫なの? えっえっ!?


 あまりに一瞬の出来事で戸惑う絹と、他のメンバーはそもそも気付いて無い様子で、爆破と弓矢の援護を粛々と継続している。


 イエ姉も、んっ?って感じで佇む絹を不思議そうに見ていた。


 えぇい、ままよっ! 「モンジ! あとは、あんたが何とかしなさいっ!」


 丸投げ発言で絹もまた、計画通りの援護爆破を再開するのだった。




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