最恐の防具?
よろしくお願いします。
手の上で、モゾモゾ動き出す黒い箱……。
蓋をこじ開け、隙間からワラワラ湧き出す、小さくて黒い生きもの達。
それは箱から手へ、手から腕へ、腕から体へと、じわじわとモンジを覆い尽くす。
何千何万という、黒光りする小虫が、体中カサカサと音を立てながら這い回る。
──ゴッゴッゴッ、ゴキブリじゃねえかぁぁぁ!!
全身総毛立ちの鳥肌。膝はガクガク、身体はブルブル震えだす。 ジャワジャワする、ジャワジャワする、全身がジャワジャワするよう。
顔も、体も、腕も足も全部がゴキで覆われたモンジの姿に、近くに居たはずのイエが光の速さで遠ざかったのは、言うまでも無い。
気持ち悪い、不気味、汚い、不快、グロい、キモい、エグい、無理、臭い、こそばゆい、臭い、ムリ、不快、汚い、死ね、エグい、気持ち悪い、不気味、臭い、死ね、無理、エグい、臭い……。
ものっ凄っ不快な感情しか出てこない。心無しか、先程より離れた位置で傍観している皆々様。
「アバババババババババ……」
……お願い、誰か助けて!
チョイチョイと四季様に手招きされる繁忠、遠くから首を横に振っている。
ぁあ"ッー!早く来いよ、ブタゴリラ!!終わんねぇだろうがよ!! ケツから腕突っ込んで、奥歯ガタガタ言わせたろかッ、ゴミカスがッ!!
渋々近付いくる繁忠、若干腰が引けている。
「繁くん。これ、あっ!こ、こほん。……モンジ君をさ、思いっきり殴ってみてよ」
はぁー? 何言ってんだっ、このクソ陰陽師!しかもコレッて言っただろ今! 吊るすぞチンカス野郎!!
キレまくりのモンジを無視して、シュッシュッと楽しげにパンチの真似事をする陰陽師。サイコパスか、この野郎!
繁忠もやれやれと言った表情で肩を回し、ファイティングポーズをとる。
「モンジ。すまんな」
そう一言謝ると、遠慮無しに思いっきり殴り掛かって来た。けれど……。
ゴキブリ人間のモンジに、繁忠の右ストレートがクリーンヒットする……はずだった。
が、しかし、ゴキブリの鎧でパンチが逸れた!? 滑った!? しかも、繁忠のパンチにゴキブリ共が群がり始めてる!
「モンジ君、解除するよ。『オフ』って言って、早く!」
なんだよ『そわか』とかじゃねぇのかよ!『オンとオフ』ってスイッチじゃねぇーか!
ボヤきながらも「オフ」と口にした。すると……。
潮が引くように、逆再生を見てるみたいに、その小さき悪魔達は箱の中へとゾロゾロと戻って行く。そして最後の一匹が入ると、パコンッと蓋が閉じた。
後に残されたのは、黒い箱片手にアホ面放心状態の、わたくしオンリー。
繁忠も渋い顔で、パンチを出した手を擦ってる。
汚物を見るような皆々様の視線。まさにじいぃショックだ。
その中でクソ陰陽師だけは、うっとりとした顔をしていた。
「ふふふっ。かわいいよね ♪ 『じいぃ』」
殺すぞッこの野郎! クソ陰陽師に殺意を覚えた瞬間だった。
「して、先程のあれは一体、なんだったのですか?」
腕に無数の咬み傷を付けられた繁忠は、眉をひそめながら質問をした。その問いにクソ陰陽師は得意顔で。
「エッ、『じいぃ』だけど?」
「い、いえ、名前を伺った訳では……」
珍しく困惑している繁忠に、四季はポンッと手の平に拳を落として。
「ごめん、ごめん、あれは式神だよ。攻防特化のね ♪ しかも、僕が特別に作ったヤツなんだよ〜。モンジ君のために〜 ♪ 」
エッヘンって感じで、無い胸を張る四季。「攻防特化?」思わず聞き返していた。
「そっ、攻防特化。読んで字の如くね ♪ それで使い方は、さっき見て貰った通りなんだけどぉ。黒い箱を持った人が術者ね。その人が『オン』と言えば動き出して『オフ』っ言えば戻るの。ねっ従順でかわいいでしょっ♪ 」
「は、はぁ……」
気の無い相槌の繁忠に、えらくご満悦な様子の四季様。
そゆことね。確かに繁忠のパンチは防いでくれた、しかもその腕に群がって攻撃をし始めたもんだから、ビックリ、クリクリ、クリックリ、てなもんだ。
いやー、認める、認めるよ。ホントに凄い、凄いと思うよ、でも……。でもなぁ〜、じいぃかぁー。生理的になぁー、きびしいなぁー。じいぃかぁー。
んっ、視線を感じる。遥か遠くにいる絹さんとイエ姉の視線だ。
あのポーズは……。腕をクロスして中指を人差し指に絡めるポーズ……『えんがちょ』じゃねぇかっ! 絹さん、遥か遠くで『えんがちょ』してやがるっ! クゥ───ッ!!
あー、マジ無理だわ。アレやられると、とんでも無く凹むんだよなぁー。
小学校の時も集団登校で犬のうんこ踏んづけた時、班の全員から『えんがちょ』されたんだっけ、懐かしいなぁー。
アレレッ、目から汗が噴き出て来る。なんかしょっぱいや。ハハッ、ハハハ。
「最後に、モンジ君。右手ちょうだい ♪ 」
凹み中の俺も関係無しに、右手を掴んだ四季様。チクッという痛みが指先に走った。人差し指の先端に血の玉が出来上がる。
「それで、こうして ♪ こうして ♪ こう書くの ♪ 」
いつも楽しそうだなこの人。
四季様は黒い箱に書かれている梵字の周りを、俺の指先で囲むよう円を描く。赤字の梵字を俺の血で囲む。
「はい、お終い ♪ これで、この子達はモンジ君だけの式神だよ ♪ 」
パァーと明るい笑顔で、天真爛漫を絵に描いたような四季様。クッソ可愛いいな陰陽師。可愛いだけ、なんだけどなッ!
「うん、これで約束も果たしたし。じゃあ、帰るね ♪ なんせ帝が首をなが〜くして、僕を待っているからね ♪ キリンさんになる前に、お暇するよ」
「わざわざ、ありがとうございました。四季様」
「忙しい時に押しかけてゴメンね 。……それとモンジ君、くれぐれも無茶をしないようにね、気をつけてね 。あと、あの箱の中身は絶ぇっ対、見ないように!……それじゃあ、皆んなも頑張ってねぇ〜 ♪ 」
急に現れて、意味深な事を言って帰って行く四季様。お礼は言ったけど……正直、あんまり嬉しく無い。見るなって言ってたけど、そもそも気持ち悪くて、中身なんか見る気も起きない。
この手に残る黒い箱。結構、もの凄い物だと分かってる。だが、分かってはいるんだが……。
ゴ・キ……、されどゴ・キ。じいぃかぁ〜、じいぃ、ゴキだもんなぁ〜、せめてカブト虫あたりが良かったなぁ〜、クワガタとかなぁ〜。
でもさ、ナメクジとかじゃなかったから、まだ良い方なのかなぁ〜、……でもゴキかぁ〜。
いや〜、でも本当にヤバイ時、最後の最後、逃げ場なしとか、マジでどうしようもないって時に使わせて貰おう。
いつも腰に下げている巾着袋に、モンジはそっと『黒い箱』を封印した。使う事の無いように祈りながら。
こほんっと、咳ばらいをした繁忠に皆んなの注目が集まる。どうやら解除が早かったお陰で、怪我も大した事が無さそうだ。
気持ちを切り替え、改めて昨日の作戦と配置を説明した繁忠に、緊褌一番、皆んなも気合いを入れ直して力強く頷く。
最終確認は終わった。後は実行あるのみ。
皆んなで無事に戻ってくる! そう、それが一番大事な事だと、自分に誓いを立てる。
日も沈みきり、山向こうにある件の砦をのぞむ。
鋭い視線を送るモンジの姿はまるで、覚悟を決め、死地へと赴く戦士の顔になっていた。
「では、少し刻限を過ぎてしまったが、いよいよ出発する。銀、銅(河口兄弟)馬を引いて来てくれ」
「はいっ!」
河口兄弟が走り出す。あっ!ハッチ! 急に元気を取り戻したモンジは「俺も手伝いまーす」と、軽い足取りで河口兄弟の後を追いかけた。
♦︎♢♦︎♢
で、今現在、昭和のチンピラみたいに、とんでも無くメンチ切ってくる厳伍が目の前にいるんだけど。結構ムカつく顔なんですけど。
へへっ、そんなメンチでビビるかってーの。この、フニャちん侍。
俺はなぁ、中学ん頃、ヤンキーに絡まれようが、ヘラヘラ笑ってやり過ごしたことがあんだぜ! いつでもかましたんぜ。なめんなよっ、このシャバ僧があ!
ありがとうございました。




