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〔墓守り紋次の物語〕  作者: 猫屋敷 中吉
31/122

吹き出すお茶

 よろしくお願いします。


「……こんなところかな」


 二人からの話も聞き終えた頃合いに、土門さんの砦ザックリ見取り図も完成した。畳の上に広げられた見取り図を皆んなで見下ろすと。


 森の中ではあるが、小高い丘の上に砦は建っており、そこだけポッカリと空いたように周りは木も生えておらず、街道から続く橋を守る形で、その砦は造られていた。


 砦をグルッと囲むのは板塀。

 板塀の後ろには足場と、横長の射出口があり、板塀の裏からでも弓の攻撃が出来るらしい。


 東と南には門が一つづつ設置されており、板塀の内側、塀と城の間には武器庫、倉庫、馬の厩舎と並び。

 そして、その奥。砦の中央には三階建ての城とプラスその上に、厳伍専用プライベートルームがあるとか。

 実質、四階建てと更に城の下にある地下一階部分に、兵士達の詰所と捕虜の監禁場所があるらしい。


 地図上で視線を走らせ、次に注目したのは裏手の橋。 

 橋のある砦の北側は断崖になっていて、断崖の下、崖下には川が流れていた。

 すぐ上流には滝があり、苔むし滑りも酷い為、そこからよじ登っての砦へのは侵入は困難だとか。


 そもそもが、北からの侵攻に備えての砦なので、ある意味、北からの侵入は到底無理っぽい。

 なんか、他人事のように聴いていたんだが、今更現実味を帯びてきた事態に俺は、意味も無く体を上下にゆさゆさと、揺らしていた。浮き足立ってる証拠なんだろうな。


 身を乗り出し、地図と睨めっこ。

 砦の周囲を囲むのは板塀。

 塀の大きさは大体で、片面の長さが三十間、高さが四間と、この地図には書かれていた。メートルじゃないと、いまいちピンと来ない。


 ん〜、確か……包丁の長さが一尺あるとかなんとか。母親から聞いたことがあるから、間違い無いと思う。

 それでも、一間の長さがピンッと来ず、隣りにいた絹さんにコソッと聞いてみた。


「チッ!─── はあ?」


 はい。絹さんから、舌打ちからの「はぁ?」、頂きました。

 そんな恐い顔しなくてもいいのに、この子。

 面倒くさそうな顔して、ったく、知らんもんは知らんし、しぁーないじゃん。ねえ。ホント、無知の知って知らんのかね、この子は。


 でも、なんだかんだで結局、教えてくれた絹さん。

 彼女なりに、猿でも解るように考えた挙句が……横の長さが土門さん三十人分で、縦の長さが四人分だと、土門さんの尺で教えてくれた。

 これには土門さんも、微妙な苦笑いをしていたけど。いやいや、どうして、俺にはとっても分かり易かったです。はい。


 って事で、土門さんの身長がニメートルぐらいだからぁ。

 板塀の横の長さは『六十メートル』で縦『八メートル』ってところか。ふむ、ふむ、猿でも解りましたよっと。

 けれど、結構、しっかりした造りなのね。しかも裏は崖だし。うん、こりゃあ、攻めるの大変そうだなぁ。大丈夫か? 俺達。


 どうやらこの街道自体、領主様の居城まで続いているらしく。すぐ北にある『睦之領』からの侵攻を食い止めるべく、かなり頑丈に出来ているとかで、そこそこの要塞らしい。


 しかしながら今は、『睦之領』の姫様を厳元様が正妻に向かい入れた為、同盟国として良好な関係との事。

 そして、更に北からの脅威を無くす為と『睦之領』の上にある『津之領』に綿姫様を嫁がせたらしいんだが。何故だか姫様は、件の砦にいらっしゃると。


「しかしあの砦、今は最低限の兵しか置いとらん筈だが、確か……『林下砦はやしげとりで』だったかのう」


 繁忠が訳知り顔で補足する。

「はやしげ。……はやしした」土門さんは、その砦の名前にえらく反応していたな。何か、思い当たる節があるんだろうか?


「ともかく、この『林下砦』に綿姫様は捕らえられているようだ。よって、モンジの案を参考に、ワシなりに考えた作戦だが……」


 繁忠が作戦を語る。

 こりゃまた結構、出たとこ勝負な作戦であった。

 このあと、他にこれといった妙案も出ずに結局、繁忠の作戦を皆んな、渋々了承する事となった。


 結局の所、みんな気持ちは一つで、一刻も早く綿姫様を助け出したい訳だから、スピード重視で納得していた。


 とりあえず決行は明日の日の入り前に出発。

 場所は、剣術道場前に集合って事で決定。

 もろもろの準備は、繁忠と河口兄弟がやって置くとのことで、俺は遠慮なく丸投げさせて貰った。


「明日は寝る暇なんか無いからな。モンジ、お前はしっかり休んでおけ」との嬉しいお言葉を頂戴して、この日はそのままお開きとなった。


 はふぅ、マジしんど。……疲れた。


 今夜中に繁忠と土門さんは、砦攻略の詳細を詰めるらしいが、俺は真っ直ぐお家に帰らせて貰います。

 もう、結構な遅い時間になってるしね。イエ姉も心配しているんだろうし、目がしょぼつくし、イエ姉にハグしたいし、お胸タッチしたいし。それは無理か。はあー、本当に疲れる一日だった。



 家に帰ると、既に明かりは消えており、イエ姉はとっくに就寝中らしい。帰りが遅くなっちまったから、仕方ないか。はぁーあ、寂しいねぇ。


 仕方ないので、盗人のごとくコソコソお家に侵入。ちゃぶ台に用意されていた、握り飯とぬるい汁物をかき込むと、俺も直ぐに布団に入った。


 明日は大丈夫だよな。

 一抹の不安を覚えながら、彼女の横で布団に包まる。

 疲れの所為か直ぐに睡魔に襲われ、そのまま意識を飛ばしていた。


 次の日目覚めると。

 朝食と着物(綺麗な俺用のいつものカラシ色の着物)が準備されているが、イエ姉の姿が見えない。朝早くから用事があったのかしらと、首を傾げ勘繰る。


 そっかぁ、だから、昨日は珍しく先に寝ていたのかぁ、なるほどな。ひとり納得しながら朝食を頬張る。


 不測の事態を考えてしまう。

 もし、もしもだけど。

 今夜出かけたまま帰れなかったら。

 このまま今生の別れになってしまったら、と。

 ……それは、ちょっと嫌かも。


 だけど、イエ姉に心配かけたく無いし、綿姫様のこともやっぱ……言えないよなぁ。危ないって、反対されそうだもんなぁ。 


 会いたいなぁ。顔見たいなぁ。せめてイエ姉に「行ってきます」は、言いたかったなぁ。


 そんなことを思いながらまた布団を被っていたら、ガッツリ二度寝をしていた。

 気付くと日の入り前でした。ヤバッ遅刻! って、急ぎ身支度を整えるも、まだ帰って来ないイエ姉に、後ろ髪を引かれてしまう。


「無事に帰って来れば、また会える!」そう無理矢理自分に言い聞かせて、剣術道場まで急いだ。



♦︎♢♦︎♢♦︎



 道場に着くと俺が一番最後らしく「おそい!」と、着いた早々絹さんに怒られた。

 「さーせん」と気のない返事で謝ったら、ちゃんと謝りなさいキーッって彼女、顔を真っ赤に激怒ぷんぷん丸である。


 だってさ、イエ姉に行ってきますも言えなかったし、顔も見れなかったんだもん、と心の中で呟くも。

 んっ、このくだり前にもあったな、デジャヴ? なんて思いながら、トボトボ繁忠の元へと向かった。


 「遅れてスンマセン」そして素直に謝る。

 お、おぅ、と一部始終を見ていた繁忠に、微妙な顔をされる。

 はぁー、と溜息をひとつ吐いて、集まってくれた顔ぶれを確かめる。


 えー、いつも元気な絹さん、若干お怒り中と、荷馬車の所に土門さんと、その愉快な仲間達四人。

 それと河口兄弟が忙しいそうに武器やら何やらを積み込んでいる。


 繁忠は隣りで、砦の見取り図と睨めっこ。

 と、ここで不意に出されたお茶を受け取り「イエ姉、ありがとう」ニッコリ笑って、お礼を言う。


「ぶうううううううううぅぅううぅうぅぅ───ッ!」


 口に含んだお茶を、勢いよく吹き出したッ!


「な、な、な、なんでイエ姉がここにいるの⁉︎」


 大声で叫んでいた! 

 後ろ手にちっちゃくベロを出して、テヘッって可愛い顔でって、はああ! 意味わかんないっ。


「なんで、なんで、なんでイエ姉が……なんで……」

 壊れた音楽プレイヤーみたいに、同じ言葉を繰り返す俺に、繁忠がバツの悪そうな顔でこう答えた。


「いやー、なにっ、あー、なんだ。……どうしても連れてけって頼まれてしまってな。ハハハッ」

 目を泳がせまくりの繁忠、遠くで絹さんが「バカモンジうるさい!」って怒鳴っているけど、構っちゃいられない。


 イエ姉も頬っぺたを膨らませて、ぶっきらぼうに紙を渡して来る。


 一読(どうせまた、わたしを置いて行く気でしょ!意地でもついて行く!)とのお手紙。プリプリしておられる。


 腕組みをして、更に仏頂面のイエ姉はフグみたいに頬っぺたを膨らましている。多分、前回の事も含め怒っているんだろう。

 でも、普段から怒り慣れていない所為か、彼女の只々可愛いその仕草に、俺の肩の力も抜けてしまい、ついつい声を出して、笑ってしまった。


「モンジの許可も出たようで。良かったなイエ」


 OKちゃうわ、お前が言うなッ! って、ツッコミたい所だけど我慢して。能天気に繁忠が、勢いよくイエ姉の肩をポンッと叩く。


 するとビックリしたのか、頬っぺたをパンパンに真っ赤な顔をしていたイエ姉の口から、「ぷひゅー」と変な音で空気が漏れ出た。ハハッ、マジで、コントかよ。


 絡んだ糸が解れるみたいに、張り詰めていた緊張感が、ほぐれていく。

 どこか重苦しかった場の空気もすっかり和んで、みんなの表情にも笑顔が戻った。もちろん俺にも。これも全部、イエ姉のお陰だな。



 頬を染めるイエ姉が、モジモジしながら近づいて来て、全身で俺を抱きしめてくれた。

 彼女の吐息が耳元に触れる。「い・つ・も・い・しょ」と、小声で囁いてくれた。


 背丈が俺より少しだけ低い彼女。

 囁かれた言葉が嬉しくて、彼女の耳元に口を寄せて、少しだけ本音を出してしまった。


「ありがとう。……大好きだよ」

 誰にも聞こえないよう、小声で囁く。


 イエ姉が顔をズラし、俺と目が合う。そして口の形だけで。

(なんて、言ったの?)


「あ・り・が・と・う」


 イエ姉に分かるようにゆっくりと、嘘をついた。

 分かってる。告白の言葉なんて俺の口から言えるはずも無い、言ってはいけない言葉だから。


 俺は偽物で、イエ姉の好きな『紋次』じゃないから。


 誤魔化すように、彼女を抱き寄せようとしたら急に「アッチッチッ!アッチッチッですねぇ〜 ♪」


「わあぁぁーーーー!!」


 ビックリして叫んでしまった。

 イエ姉の背中から何か生えて来た……。と、思ったら。


 よくよく見ると── 彼女の背中にピッタリくっ付いている男の娘── 陰陽師『立花 四季』が、そこに居やがった。


「いや〜、相変わらず見せつけてくれるねぇ〜 君たちは ♪」だって。

 イエ姉の背中越しに顔を出して、その肩に小ちゃい顎をチョン、と乗せる四季様。なんだそりゃ、ニヤけヅラが腹立つな。


「どうしたんですか? 忘れ物ですか? それとも迷子になったとか」


 空気を入れ換えるみたいに、話しを変えてみる。

 俺の声に気づき、みんなも作業中の手を止め、思わぬ来訪者に声を殺し、一斉にキョトンとしている。


「いやぁ、用事も終わって帰ろうかなぁとしてたんだけどぉ。ホラっ、君との約束思い出しちゃって ♪」


 イエ姉の背中からピョンッと横に飛び出し、後ろ手に恥ずかしそうに話す四季様。 相変わらず仕草も顔も全部可愛いな、こんちくしょうは!


「……あれあれ、何処しまったかなぁ。あっ、あ、あぁー、あった、あった ♪」

 袖の中、腰周り、背中、お腹の中と散々探して見つけたらしい。なんのピンネタだよ!


「コホンッ ♪ では、僕のおすすめアイテムわぁー!ドルドルドルドル……」

 またなんか、自分でドラムロールなんか言っちゃってるし。


「ババーン! 黒の式神、通称『じいぃ』!」

 そう言いながら黒い箱を出してきた。


 楽しそうにババーンって言ってる。

 しかもなんだその、オドロオドロしい黒い箱はよ。上に赤字で梵字みたいなの書いてあるし、普通にキモいだろ、呪いのアイテムみたいでさぁ。


「はい! あげるぅ。どうぞ ♪」

 グイグイ箱を押し付けてきた。だからいちいち首傾げんな! か、 可愛いだろっ!


「……あ、ありがとうございます」


 一応、礼は言いますが。正直、こんな不気味な箱、ちょっと触りたくは無い。

 けど、せっかく四季様が用意してくれたプレゼントだから素直に受け取るけど。指で摘んで取ったら失礼かな? でも、たぶん俺の顔、この時かなり引きつってたと思う。


 んっ、なんだコレ、中身入ってる?

 黒い箱を持った感触がメチャクチャ軽すぎて、中身空っぽの缶ケースを連想してしまった。 一体なにが入ってるんだろ?


「それでは、使い方を説明します ♪ 今、君が持っているから君の言葉で『おんっ』って、まずは言ってみてー、さん、はいっ」


 楽しげに音頭をとる四季様。

 みんなが注目する中、緊張気味に「おんっ」と言ってみた。

 それが、まさかあんな事になるとは、思いもよらずに。





 ありがとうございました。

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