ハツラツ
今夜、21時に『ビッグマミィ』のタイトルでSF短編を投稿します。
私自身、クスクス小笑しながら書いた作品です。暇潰しに読んで貰えたら嬉しいです。
それでは、よろしくお願いします。
恐る恐る元忠様に近寄る。
すると、急に目の前で深々と頭を下げる元忠様。
誰にお辞儀してんだ、このおっさん。俺の横に誰かいるんか? いや、うしろ? 首を左右に、次に後ろを振り向くも、やっぱり誰もいない。
……ヘッ、もしや、俺に頭を下げてんの? 面食らって、間の抜けた顔になるわたくし。そして村長は、頭を下げたままこう告げてきた。
「モンジよ。重ね重ねお前には、面倒事を押し付ける形になってしまって申し訳ない。深くお詫びする。かたじけない」
しばし時が止まる。
ゆっくりと顔を上げた村長は、眉間に皺をよせ、渋面を晒している。
多分だか、申し訳ないって顔だろうけど……俺には怒ってる風にしか見えない。この人、表情の作り方が下手くそだな。
されど、村長の突然の謝罪と下手くそな表情に俺は、元忠様本人に対し、かなり好感が持てたのは確かだった。
「い、いや、俺はそんな……。そんな大したことは……。み、みんなが、助けてくれたから……」
頬をポリポリ掻きながら、途切れ途切れに出た俺の控えめな言葉に元忠様は、初めて優しい笑顔を見せてくれた。だけど、直ぐにまた、いつもの険しい顔に戻ると。
「謙遜するなモンジ。謙虚や謙遜は美徳かも知れんが、本気で言っているなら自分を貶めるだけだぞ」
咎られてしまった。でも、こっちの方がいつもの村長らしいし、シックリくる。
「フフッ、モンジらしいと言うことか。……して、綿姫様が捕らえられているようだが。お主の案、アレで勝算はあるのか?」
あー、勝算があるのかと訊かれると、正直解らん。なにせ俺はズブの素人で、まともに戦った事すら無いんだし。タイマンの喧嘩ですら皆無だもんな。
けれど、皆んなの事が丸く収まればと、素人考えでなんとか捻り出した案なんだから、そこら辺、察っして欲しい訳で。
だけど俺は、胸を張ってこう答えていた。
「……はい。いけると思います」
皆んなの命が掛かっているんだ! 決して投げやりに答えた訳じゃない。
不承不承なれど、イザとなったらまたアイツ頼みになるが、ぶっちゃけ、力尽くでも解決する覚悟は出来ている。
もう、誰も死んで欲しくないし、誰にも泣いて欲しくない。アイツに頼ると俺の体は、相当のダメージを食らう。もう、経験済みだから判りきっている。だがな、無理をしてでも何とかなるなら俺は、腹もくくれる。
いつまで経っても余所者だからな俺は。無理をするのは俺ひとりで充分だ。
「そうか……。綿姫様の件、一刻を争う事態に他ならんが、実際、村も二度の襲撃を受けてこれ以上人員を割かれるのは、かなり厳しい状況だ。……若い奴数名しか出せんが、何とかなりそうか?」
俺が発案者なんだから、俺が音頭をとらにゃならんだろう。責任重大だけど。
いつの間にか隣りにいた絹さん、村長の後ろで静かに佇む繁忠。二人の視線が混ざり合い、俺に向けられる。
二人が見守ってくれている、信頼されてると受け取ったから。だから、小心者の俺は。
「勿論そのつもりです。綿姫様は必ず救い出します」
そう言い切った。
「そうか、よろしく頼む。領主様には急ぎ早馬での報告はするつもりだ、しかし対応に時間がかかり過ぎる。急ぎの件故、モンジ、『綿姫様』の件、しっかり頼んだぞ。あと繁忠に村の若い衆を見繕ってもらえ。それと、砦までの足代わりに好きな馬を使ってもらって構わんからな」
エッ! お馬ちゃん。いいの。 乗ってもいいの!
村長の予想外のサプライズで、俄然テンションが爆上中! しかも、村長の二度目のスマイル付きときたもんだ。それは別にいらんか。
でもマジで馬! 俺だけのお馬ちゃん。超絶嬉しいんだけど。
元々、土門さんに会いに捕虜収容所に行くつもりだったから、ついでにお馬ちゃんの顔、拝んでこようかな。めっちゃ、ウキウキするんだけど。
こんな嬉しい気分になったのはいつ以来だったかな、確か……小二の頃初めてチャリ買って貰った時以来かも知んない。いやー、あん時は無駄に毎日チャリ、乗ってたもんなぁ。
速い乗り物が楽しくて、風を感じるのが楽しくて「俺は風になる」って、独り言を言いながらアホみたいに毎日チャリ漕いでたっけ。
村長にお礼を言って、股間を押さえトイレに行く振りで、こそっと屋敷を後にした。
さっき繁忠に、未だ帰るなって念押しされたから演技までして抜け出したけど、早く戻って来ないとアイツ等に何言われるか、わからんからな。
待たせたると、特に絹さんが面倒くさそうだしね。
そして俺が先に向かったのは勿論、捕虜収容所では無く、剣術道場です。はい。
加合様は大丈夫と言っていたが、どうしても少女の事が気になって、しょうがなかったから。乗りかかった船だしな。
俺は人の死に敏感だ。でもそれは好きな人限定ってことも認識した。まあ、当たり前な事だけど。その当たり前を認識した。
だからもう、森山村の人達には誰も死んで欲しくない。土門さんも、土門さんの大切な仲間達も、モモとモモの大好きな綿姫様も、俺と関わった全ての人達全員、誰も傷付いて欲しくない。
だからこそ、だからこそだ。砦にいる奴等を見過ごせない、放置しておけない。
知らんフリをしてしまったら第二、第三の森山村が生まれちまう。間違いない。
そんなのは絶対に嫌だ!
だから俺が出来る事を全力でやってやる。他人の褌で相撲を取るような、俺自身の実力皆無の情け無い手段かも知れないけど、それしか無いなら迷わずその一手を使う。そう強く心に思った。
またイエ姉に心配かけちゃうのが、心苦しいな。
そんなこんなを考えながら、道場までやってきた。
薬が効いているのか、モモは静かな寝息を立てて夢の中だった。熱の方はどうかと、気付かぬよう額にソッと手を添える。
平熱である事にホッと胸を撫で下ろし、目覚めぬよう静かに立ち上がった、その時。
彼女の布団から細く小さな手が伸びてきて、ガッチリ腕を掴まれた。
「……綿姫さま」
少女の小さな呟き。閉じた瞳からひとしずくの涙が、零れ落ちた。
夢を見ているのだろう。夢の中でも大切な人を案じている。
モモ……。リスのような、小動物を連想させる小柄な少女。この小さい手に、華奢な体に、傷付きながらもどれほどの想いを背負って、この村までたどり着いたのだろう。そう思うと胸が熱く、苦しくなってくる。だから……。
「大丈夫、君の大好きな綿姫様は必ず俺が助け出す。だから安心して。モモはゆっくり休んでいてね」
優しく頭を撫でて、そっと腕を戻す。
少女の想いを受け取って、小声で彼女に誓いを立てていた。 ヨシッ、次は捕虜収容所だ。
♦︎♢♦︎♢♦︎
「ハア、ハア、ハア、ハア、ど、土門さんに折り入ってお願いしたい事があります。ハア、ハア、ハア……」
あのあと滅茶苦茶急いで土門さんの檻の前まで来たけど。 ヒーー、疲れた!
土門さんも、こんな時間に誰? ってな感じで目をまん丸にしてるけど、今はどうでもいい。村長の屋敷に、絹さんと繁忠を待たせたまんまだから、急がねば。
余り待たせた過ぎると、特に絹さんを待たせて過ぎると、彼女の逆鱗に触れるかも知れん。いや、かもじゃない、絶対怒る、あの人は。
だってあの人『肩パン』とか思っいっきりしてくるんだぜ。地味ながらアレ、ものっすごぉ痛いんですけど。痛いんですけどッ! 大事な事なんで二回言ったった。それはさておき。
「ハァ、ハァ、ち、近々、砦に潜入するつもりなんですが、あの、お願いしたい事があるんです。土門さん達に力を貸して欲しいんです。 ダメ、ですか? ハァ、ハァ……」
土門さん、またまた目をまん丸くさせて、っあ! 急ぎ過ぎて碌に説明してないや。
こんなん、急に言われても分かる訳無いよな。もう、俺のウッカリさん!
てな事で、村長の屋敷での事を説明する。うんうんと、合点が入ったとばかりに土門さんが頷いてくれた。
「そう言う事なら、俺達も願ったり叶ったりだが。……でも、いいのか? 俺達をそんなに信用して。……砦に着いた途端、モンジ殿を裏切るやもしれんのだぞ。……それでもいいのか?」
真面目な顔で真っ直ぐに見詰める土門、それとは裏腹に顔が綻ぶモンジ。
ハハッ、土門さん。裏切るつもりの奴が、わざわざ裏切るかもー、なんて言う訳無いやん。
おいそれと人を信用するなって、戒めの意味で言っているのだろうけど。土門さん自身処分の対象になってんだから、この人どんだけお人好しなんだよ。
平和ボケした元の世界でも、信用して保証人になったはいいけれど、結局、本人に逃げられて多額の負債を抱えちまうなんて話、ザラにあったからな。
優作の親父もそうだった。お人好し過ぎる人だったらしいから。
だからこそ俺は、土門さん達を信じる事にした。土門さん個人を、信頼する事にした。だから……。
「土門さんだから、信じます」
そうハッキリと宣言した。ハハッと、笑いながら頭を掻いて、照れ臭そうにしてる土門さん。
そして俺と目を合わせ真顔に戻ると。
「真平集落長、真平土門。謹んで依頼をお受け致す。……モンジ殿、改めて礼を申す。最大の感謝を」
そう言って深々とお辞儀をする土門さんに、俺は手を差し伸べ、檻越しにガッチリと握手を交わした。
でも檻か……。沙汰が決まるまで、俺ひとりの判断では檻から出してやれないからな。
言いづらいがその旨を伝えたら、気にするなの一言。そしたら逆に励まされた。どうやら不安と緊張が顔に出ていたらしい。うん、やっぱ良い人だ。
他に捕まっている土門さんのお仲間『真さん、大さん、恒さん、貝さん』四人にも説明して、集落長が受けた依頼ならと、皆んな、快く承諾してくれた。
ヨシッ、五人確保出来た。あと繁忠と俺と……河口兄弟は手伝ってくれるかな? まぁ、大丈夫と見込んで、これで九人だな。
今回は綿姫様救出がメインのミッションだから、余り大人数で動くのも目立つだろう。
砦の内状に詳しい土門さん等もいる事だし、この人数で何とかしないとだな。
表門じゃなく、抜け道的なもんでも在ればいいんだけど、そこは後で土門さん交えて繁忠と相談してからかな。
やっぱ戦わずして綿姫様の救出が出来れば、万万歳なんだけど。
こんなんでいいのかな? あまりにも戦仕事が素人過ぎて、もはや願望しか出てこないや。
俺、頼りないよなぁ。足りないもんだらけだよなぁ。ヤバッ、またネガティブ沼にハマりそう。
土門さん達に別れを告げてトボトボ歩く。
あっ! お馬ちゃん。村長がお馬ちゃんを好きに使っていいって、そう言ってたよね。あれは譲るって意味かな? 貸すって意味かな?
でも俺頑張ってるし、プレゼントフォーユーって事だろ!
いよっし、早速観に行こう。なんかテンション上がって来たよ。
そして、隣りに併設されている厩舎を覗いてみた。
キャッ、ポニーちゃんがいっぱい居る。
ひーふーみーの十頭、ん、意外に少ないか。じゃあやっぱりレンタルってことかな、しゃあないか。まぁ、貰った所で世話なんか出来んしな。
少しテンションを下げながらも、お馬ちゃん達を一通り見て周る。厩舎の中に明かりは無くとも、雨上がりの夜空には雲は少なく、月明かりだけで馬の様子が良く見えた。
お馬ちゃん達は柵から顔をだしている。
一頭づつを、顔を撫でながらの物色していく。鹿毛、栗毛、鹿毛、黒鹿毛、栗毛……皆んな違って、皆んな可愛いい。
間近で見ると思いの外まつ毛はバッサバサ、顔毛は硬い。なんかジットリしてるし。でも可愛いから別に気にしない。可愛いってスゲェな、何でも許しちまえる。可愛いいって最強だな。
厩舎の奥に進んで行くと、青白い月明かりに照らされて、白銀に輝く、綺麗なお馬ちゃんがいた。
思わず、その美しさに目を奪われ、見惚れてしまっていた。
芦毛のポニーに見惚れていた。
ポツリと『オグリ キャ〇プ』と、呟くほどに。
何故、俺がこの名前を呟いたかと言うと『オグリ〇ャップ』とは「芦毛の怪物」と呼ばれていた強い競走馬で、引退レース、ラストランの有馬記念では怪我を乗り越えての見事な優勝と、最高に格好いい競走馬の名前だ。まぁ、親父の受け売りなんだけど。
この時、単勝で大枚賭けてた親父が、かなり、儲けさせて貰ったって言ってたしな。
それと家に、日焼けたポスターが貼ってあったから、この馬だけは知っていた。しかもだ、残念エピソード付きで。
母親に渡した婚約指輪はなんと、この時の配当金で捻出したとかで、親父のダメっぷりを母親が笑いながら話していたのを、つい昨日の出来事のように思い出してしまった。
親父曰く、このレースが競馬人生ラストランだった。
とかなんとか。ギャンブル嫌いの母親と結婚したいから、元々そう決めていたらしい。
まぁ、親父のギャンブル姿を俺は知らないから、本当にスッパリ辞めたんだろう。そもそも下手の横好き、みたいなもんらしいから。
フイに訪れた家族の記憶。頬を伝う暖かい雫に。アレッ、俺……泣いてる?
懐かしい記憶に、幸せだったあの頃に一瞬でも戻る事が出来て、心の奥底にしまっていた感情が出て来てしまっていた。
──逢いたい。また、あの頃に戻りたい。
流れる涙が止まらなくて、俺はこの芦毛の馬に額を擦り付けながら泣いてしまった。
静かに、そして柔らかい舌で、抱きついた俺の腕を優しく舐めてくれる芦毛のお馬ちゃん。幼い頃、母親に撫でられていた記憶と結びつき、更に声を荒げて泣いてしまった。
暫くして落ち着いてきた俺は「ありがとう」と、このお馬ちゃんに一言お礼を言った。すると体にスリスリしてくる。ハハッ、人懐っこい。
俺は迷わず、この子に決めた。
この子の名前はっと、辺りを見回すと柵に書いてあった。名前は『ハツラツ』と。
ハツラツか良い名前だ、『ハツラツ』これからよろしくね。
んー、でも『ハツラツ』ってちょっと呼びづらいな。う〜ん、はっち? うん、『はっち』だな。ねえ、愛称で『はっち』って呼んでもいい?
ハツラツはオメメをパチパチ瞬きさせている。OKって事でいいのかな。はい、それでは今日から『はっち』って呼びます。
これからもよろしくね、ハッチ。
って、ヤバッ! 時間も忘れてスキンシップを取っていた。また絹さんにドヤされる。
ハッチに別れを告げ、村長の屋敷まで全力で走るモンジだった。
ありがとうございました。




