三つ目の提案
よろしくお願いします。
感情露わに、懸命に話す女の子。
要するに、この子の仕えてる『綿姫様』なるお方が、件の砦に囲われて酷い目に遭っているとかなんとか。それで、そのお方を助け出す手助けをして欲しいと。
あと、領主様である厳元様にも、早馬で知らせて欲しいんだとか。
モモが至らないばっかりにとか、モモが守りきれなかったとか、モモがモモがと自虐コメントが多すぎて話が長くなったけど、そう言う事らしい。
厳元様に知らせる? えっ! ちょっと、待ってよ。綿姫様って、どちら様? ピンッと来ない顔をしていたら、絹さんが急に慌て出した。
「綿姫様って領主様のご息女じゃない! でも確か、ひと月以上前に津之領主『相田様』に嫁いだはずよね!」
ねっ! って、そんな真剣な顔で同意を求められても、ワタクシまだこの世界に来る前のお話しですから、分かりかねます。はい。
あう、あう、言ってる俺の代わりに、モモと名乗った女の子が応じてくれた。
「ハァ、ハァ、はい、そ、その通りです。しかし御婚礼のあと急に相田様の態度が豹変しまして、綿姫様を冷たくあしらう様になって。ハァ、ハァ、さ、更に、正妻であられる綿姫様を厳元様の許しも無く、あの様な砦に送り出してしまって。フゥ、フゥ、フゥ、な、納得なんか出来ずにモモは、厳元様の元へとご相談に伺おうとしたんですが。ハァ、ハァ、命を狙われてしまいまして」
「な、何でそんな事に!」
柳眉を顰めて、絹はモモに詰め寄る。しかし彼女も途方に暮れた様子で。
「ハァ、ハァ……わかりません。でも、今思えば相田様の言動がおかしいかったような、そんな気がします。ハァ、フゥ、ハァ、だけど、この瞬間も綿姫様が辛い目に遭っていると思うと、モモは、モモはっ、ゲホッ、ゲホゲホッ!」
ツライ心情を語る彼女、溢れる想いにむせ返り、言葉を詰まらせながら話してくれた。
そりゃそうだろう。大好きな人が、大事な人が酷い仕打ちを受けている。そんな事、一秒でも早く何とかしたいって思うのは当たり前のことだ。
自分が死にそうな目にあってもだ! その人を助けたいって思うのは、当たり前の事だろがッ! だから俺は……。
「それはいつの話!」
身を乗り出して迫る絹に、モモはたじろぎながら。
「ハァ、ハァ、砦に着いたのは昨日で、厳元様の元へ行こうとしたのが今朝方です」
「モンジ、一大事よ! 早く村長に知らせなきゃ!」
勿論、言わずもがなで立ち上がる。「分かった、急ごう」そう言って動き出した俺達の背中に、縋る様にモモの声が追いかける。
「モモも行きます、行かせて下さい」
「アンタはまだ動いちゃイカン!」
「モモが綿姫様をお守りするんです! モモがお助けするんです!」
「その体じゃ無理じゃ!」「綿姫さまー!」
立ち上がろうとするモモを、必死に押さえつける加合様。
背中越しに聞こえるモモの悲痛な声に。そう、だから俺はこの子を助けたいんだ。
自分の事より相手を思いやれるこの子だから、そんな優しい女の子だから。
こんな、人の命が石ころ程度の価値しか無い世界で、俺のいた世界と同じ価値観を持った女の子。だから理由なんて必要ない。
俺は彼女を全力で助ける。そう決めたんだ。
大丈夫だモモ、あとの事は任せてゆっくり寝とけ。何故なら俺は今、猛烈に頭にきてるんだぜ! マジでぶち切れそうな程に!!
襲撃事件のこと、土門さんの集落のこと、モモの大事な綿姫様のこと、全部が全部、砦に居る奴等の所為だろうが! アイツ等の所為で泣かなくてもいい人達が泣いてんだろ! ふざけてんじゃねぇぞ、てめぇら!!
俺と絹さんは村長の屋敷へと急いだ、腹の中にマグマの如き怒りを溜め込んだままに。
♦︎♢♦︎♢♦︎
村長宅、川辺邸。
老若男女、およそ八十人ほどが、村長の屋敷に集まっていた。今回、前回と、二度に渡る襲撃事件で、被害にあった関係者達である。
雨降りであった為、三部屋ぶち抜いてのお座敷会合となったが、熱気の所為か、座敷の中も少し息苦しく感じてしまう。
現在残っている、捕虜等の処分についての話し合いではあったが、意見は二分し、未だ平行線のまま、いささか議論も煮詰まってはいた。そこで村長の提案で最終決は、多数決で決める事となった。
「……それでは、議論も尽くされたと思うが、いかがか。最終決は多数決で決めたいと思うが、宜しいか?」
村長は、自分の意見に皆が頷いた所で、また話しを続けた。
「二つに一つの決。生かすか殺すかの二択と合い為る。それでは、生かす方が良いと思うもの……」
村長が最終決を取ろうとした丁度そのタイミングで、バンッと、座敷の真後ろの襖が勢いよく開いた。
そして皆様の注目を集めたのは、何を隠そう絹さんと、その後ろにいた俺。
絹さんが村長の屋敷に飛び込んで、そのままの勢いで襖を開けちゃったもんだから、こんな派手な登場になってしまったんだけど。
皆の注目を浴びても全く動じない絹さんの背中が、すこぶるカッコいいと感じたのは、俺だけかな?
なんか、結婚式に花嫁を攫って行く青春映画みたいで、衝撃的だったしね。
そこそこギュウギュウな座敷の中を、そんなのお構いなしに、どいて、どいて、と人をかき分け、村人達をグイグイ押し除けながら進んで行く絹さん。
イヤイヤ絹さん、村人かき分け無くても、隅っこ空いてんだから、そっち通ればスンナリ村長の元に辿りつけるのに。ほら、皆んな迷惑そうな顔してるじゃん。
でも、周りが見えなくなるほど一生懸命な絹さんに好感が持てたのは、言うまでもなく。
だけど気にしいの俺は、隅っこをこそこそと中腰で歩いて行きました。はい、目立つの苦手っス。
村長の前まで辿りついた絹さんは、皆んなにも聞こえるよう大声を張り上げる。
「元忠様、急ぎの報告が有ります!厳元様のご息女が、件の砦に捕われているとの情報が入りました! 急ぎ何かしらの対策を取らねば、手遅れになるかも知れません!」
あれっ、捕われている? 囲われているって言って無かったっけ、モモちん。ま、いっか、似たような意味だし。
「まことか!? ……まことの事か! ……もし事実ならこれは一大事だぞ!!」
「えぇ、事実よ。現に綿姫様の侍女が持ってきた話しですもの。今は加合様の元で治療を受けて貰っているけど」
途端に座敷の中がザワつき始める。村人達の表情も一際険しいものになっていく。村長、元忠様だっけ、知らんかったけど。元忠様の顔も困惑した顔に変わっていた。
「……やはりあの噂は本当であったか」
「あの噂って、なに……?」
元忠の零した言葉に、絹がすかさず反応する。絹を見据えて元忠は言葉を繋いだ。
「お家騒動。今更ながら、厳伍様が厳元様に反旗を翻すといった類いの噂が流れておっての。幸か不幸か、後ろ立ての少ない厳伍様に噂止まりだと鷹を括っておったが。そうか、誰か、強力な後ろ立てを得たと言うことか」
「そんなことよりまず先に、綿姫様の安否を第一に考えるべきよ!」
絹の檄に元忠も思考を切り替える。
「だが、まさか綿姫様を攫うとはな。……これは急を要する話だな。よし、急ぎ対策を取らねば」
依然ザワつく座敷の中。
会合そっちのけで元忠様と絹さんは、対策に頭を悩ませ始めている。俺はというと……。
一人元気に、手を挙げていた。
何故って? アイデアが閃いたから。
それは、屋敷に来る間に無い知恵絞って考えたアイデアで、上手く行けば全てがマルッと収まるだろうと、勝手に思い込んでる解決策なんだけど。
俺の解決策は、生かすか殺すかの二択、そしてプラス三つ目の提案である。
しかし絹さんも元忠様もお忙しいようで、無視による無視。
完全スルーされていますが。いや、笑っちゃうぐらい、全然相手にしてくれないんだけど。だ・が・俺も日本男子、こんな事では挫けないよ!
はい、はーい、はい、はい、はーい、としつこいぐらいに二人の前で猛アピールを続けた。
「モンジ、他に何かあるのか?」
元忠様じゃ無くて、後ろにいた繁忠が声を掛けてくれた。
綺麗にピーンと手を挙げていたつもりなんだけど、気付いて貰えないって、俺こんなに影が薄かったのね。なんか少しヘコむ、ニヤついてる繁忠がチョイ苛つくし。たけど気を取り直して。
「あのー、最終決に三つ目の提案をしたいんですけど……」
そんな事は後回しにしろ! 今それどころじゃ無い! 村人からの心無いヤジが凄いんですけど。ん〜、泣かないよ! だって男の子だもん。だから勝手に発言する。
「えー、それで三つ目の提案なんですけど、捕虜達に一度矢面にたって貰い、罪を償って貰うってのはいかがでしょう」
なんか皆んな、ピンと来ない顔をしているので話しを続ける。
「捕虜達を使っての、綿姫様奪還作戦を提案します。砦の内情も彼等なら一番良く解っていると思いますし、綿姫様を救い出す事で彼等も罪滅ぼしになるのではと。それで綿姫様もお救い出来れば、一石二鳥的な……如何でしょう」
突拍子もない提案で座敷の中が、しーーんと静まり返る。えっえっ、どういう反応? 絹さんも元忠様も口をポカーンと開けちゃってるし。
勿論これは、土門さん等の協力合っての事だけど、土門さん等を信頼してるからこその提案だけど。
うん、確かに、土門さんとの交渉もこれからな訳で、あの感じだとOK貰える腹積もりでいるんだけど。えっえっ、俺早まった! ナイスな提案だと思うんだけど。誰も、ナイスですね〜って言ってくれないの。
「ブフッ、ダハハハハッ! ……面白いなモンジ。……して、そんな大言吐くって事は奴等との交渉は済んでおるのだな」
「も、も、も、もちろん」
くそ〜、繁忠に笑われちまったぜ。まぁ、場の空気が和んで正解だったけど。だけど、勢いで嘘ついちまったなぁ、後で土門さんにお願いに行かないと。
「だそうだ親父殿。ワシはいい案だと思うが、如何いたす」
真面目な顔に戻し、繁忠は元忠に問う。元忠はしばし悩んだ挙句、やわら皆に向かってこう口を開いた。
「モンジからの提案も受けて、これから最終決を取る! よろしいか!」
各々で乱れ始めていた場の雰囲気も、元忠の一言で引き締まった。皆が頷いたのを確認すると、元忠はまた口を開いた。
「まず、奴等に何かしらの軽い労働だけで罪を無罪放免でいいと言う者、手を挙げてくれ」
すると、十四、五人の手が挙がった。繁忠がすかさず帳面に記帳する。
「次に、奴等に最も重い処分が妥当だと思う者、手を挙げてくれ」
今度は、三十人近い村人が手を挙げている。やっぱそこそこいるな、仕方がないよな。次に残りの全員が手を挙げれば、俺の提案が通る。しかし、手を挙げない選択肢もあるから、まだ分からないよな。
「三つ目の、今此奴が説明した、モンジの提案に賛成の者。手を挙げてくれ」
秒の沈黙。恐る恐ると手が挙がってくる──残りのほぼ全員が挙手をしてくれた。絹さんも繁忠も、勿論、俺も。
ィヨシッ! 提案が通った。あとは、口裏合わせにこっそり土門さんの元へGOだな。うん。
「……では、奴等の処分は砦攻めに尽力してもらう事とする! 皆もよろしいか?」
“ パチ、パチ、パチ、パチ、パチ、…… ”
「綿姫様の件と砦の件、急ぎ厳元様に早馬を送る。近い内に沙汰も降りよう。……では、以上を持って今夜の会合をお開きとする。皆のご足労感謝する」
決定に納得出来ないって顔をしている人達もちらほらいる。それはそれで仕方ないこった。
だって、家族や知り合いを殺されたんだ。主犯じゃ無くとも共犯者であるのは事実なんだから、納得出来ないのも頷ける。
だからこそだ。恨みを恨みで返すのでは無く、罪を罪として、それ相応の償いで返して貰う方がいいんじゃないかって、俺は思ったんだ。綺麗事みたいだけどな。
でも、司法のある世界から来た俺は、やっぱ、この時代とはズレているんだろうか。少しだけ、不安に駆られてしまった。このやり方が、この世界の正解か不正解か、イマイチ分からん。
だけど、村の重要案件をこうして皆んなで決めるって事が、この村は凄くいい村だって思えたのも事実だった。
偏見かも知れないけど、法の無い時代だと有力者の鶴の一声か、密室でコッソリなんて、普通にあるもんだと、勝手に思い込んでいたからな。
これはこれで、たまに参加してた町内会の会合みたいで、懐かしい感じもしたし。
皆んなが帰り支度を始めたので、紛れて俺も抜け出そうとしていた。勿論、土門さんとの口裏合わせの為で、もう一度戻ってくるつもりで。
いい出しっぺの俺が勝手に帰っちゃったら不味いだろうし、ある程度の段取りも繁忠としたいしな。
なので、コッソリ抜け出そうとしたんだが。
「……モンジ、ちょっと来い」
ゲッ、元忠様に捕まってしまった。面倒な奴に捕まった事に顔を顰める。
また文句を言われるのかと内心ビクビクしながら近付くと、元忠様の予想外な行動に面を食らう事とになった。
ありがとうございました。




