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〔墓守り紋次の物語〕  作者: 猫屋敷 中吉
26/122

救いを求める声。

よろしくお願いします。


 自らの過ちに気付いた土門さんは、深い悲しみとともに真摯に謝罪をしてくれた。


「俺の勘違いでこんな事を……。本当に申し訳無かった。俺のしょぼくれた首なんかは、いつ落としてくれても構わない。けど、手前勝手な言い分なのは分かっているが、アイツらだけは許してやってはくれないか?……頼む」


 平身低頭、土下座をする土門さんに俺は、奥歯を噛み締め、拳を握りしめていた。そうだ、怒っていたんだ。


 だって、そうだろう。話がツラすぎるし酷すぎる。聞きながら目頭が熱くなって来たし、我慢し過ぎて鼻水まで出て来た。

 

 話を真に受けるなら、拠ん所無い理由で賊に加担していたって事だろ。余りにあんまりの事情、度し難い理由に俺は憐れんでいた、不憫に思ってしまった、同情して同調してしまった。……俺は共感しちまった。


 突然の悲劇で大切な人を失った彼の悲しみ。仲間を奪われた悔しさ、親しい人に二度と逢えない寂しさに俺は、共感していた。


 土門さんも血の通った同じ人間だと、そう思えたから。


 土門さんが話した内容は真実とは限らない。嘘かも知れないし、ハッタリかも知れない。……だけどそうは思えない。血を吐くような土門さんの言葉に、そうは思え無いと心で納得したから。


 それほどまでに、彼は心悲(うらかな)しい顔をしていた。


 バカじゃないの? って言われるかも知れない、間抜けだなって罵られるかも知れない、この表六って悪口を言われるかも知れない。分かってる。

 だけど俺は土門さんの話を信じる事にしたんだ。同じ悲しみを背負った者として、俺だけは信じるって決めた。


 ハッ! 自分の滑稽さに鼻で笑っちまった。何が命の価値を確かめるだ、笑わせんな!俺は何様だっつーの!


 小難しく考えてんじゃねぇよ。自分で言うのもなんだが、お(つむ)の出来も大したことねぇくせに。

 学校の成績だって中の下、優作が下の上だったから小馬鹿にしてたけど、テメェも大して変わんねぇっつーの!

 

 価値なんてテメェの尺で決めればいいんだよ。ましてや、命の価値なんて皆んな同じだろ。同じなんだよ!


 いい奴も悪い奴もみんな同じ、同じなんだよ。命の重さなんてカッコつけで言う奴もいるけど、そんなの考えたら訳が分かんなくなっちまう。だから等しく同じって考えりゃあスッキリする。


 ……だけど、同じ命の価値や重さでも、誰かを助けたいって気持ちは違うと思う。守りたいって思いは違うと思う。大切だって想いは、好きだって想いは違うと思う。


 俺は好きな人を守りたい。大切な人を助けたい。シンプルだけど、これが今のベストだと思う。

 諸行無行ってあるかも知れないけど、黒が白に、白が赤に移り変わるかも知れないけれど。

 その時、その都度、真剣に考えた答えが正解だと俺は思う。


 俺は土門さんを助けたい。今はこれがベストだ。よしっ、これで腹は決まった。


 清々しい気分で土門さんと相対する。そして信じたからこそ、この質問をしてみたんだ。


「土門さんの言う、森山村の所為じゃ無い理由、勘違いだって分かった理由を教えて貰えないですか?」


 一呼吸置いた土門さんは、ゆっくりと口を開いた。


「……この村に、戦場で甲冑を着る奴がどれだけいる?」


「……たぶん、いないと思います」


 質問に対する質問に少し戸惑ったが、素直に答える。確か剣術道場に飾ってはいたが、着ている人は見た事無いもんな。


「そうだ、俺もこの村じゃ見なかった。それが答えだ」


 訳が判らず……。


「それが関係あるんですか?」


「あぁ、大有りだ。俺等が見つけた足跡が全部、(つらぬき)って言う革足袋の足跡だったからな」


「……それは、どういう意味ですか?」


 全然見えて来ない。土門さんは苦虫をを噛み潰したような顔になって。


「全身甲冑の奴等が履く代物なんだよ貫ってヤツは、だけどこの村には甲冑姿のヤツはいない。……砦にいる奴等ぐらいしか、俺は知らない」


 土門さんは拳を握り締めて、怒りで体を震わせている。


「それじゃあ、今まで土門さんは……」

「クソッ!! 俺は彼奴等に加担していた、手助けをしていた。憎むべきは彼奴等なのにっ! クソッ!!」


 ダンッ! といきなり地面を殴りつける土門さん、やり切れない気持ちが伝わってくる。


 クソッ、クソッ! と何度も地面を叩きつける土門さんは、全身に悔しさを滲ませていた。

 地面を殴打するその手は、いつしか血に染まっていて、俺はまた掛けてやる言葉を見つけられずに、ただジッとそれを見つめていた。


 はたと動きを止めた土門さんは、「宗石」と誰かの名前を呟くと、今度は頭を抱えだす。


「……何か思い当たることがあるんじゃ」

「……彼奴も気付かないはずが無い。混乱してた俺達とは違って、彼奴はいたって冷静だった。……いや、でもまさか、そんな、彼奴に限ってそれは……」


 何かを思い出したように、急に歯切れの悪くなる土門さん。勿論、何のことやらサッパリなんだが、ただ森山村の住人が冤罪であると分かっただけで、俺は充分だった。


 後は土門さん達を助けるだけだ。あわよくば裏で手を引いている奴等に、ギャフンと言わせたい。


「……そろそろ俺は行きます。土門さんの嘆願の件、村長に伝えておきますね」


「……あっ、あぁ、頼む。……モンジ殿、くれぐれも皆の件、よろしくお頼み申す」


 そう言って深々と頭を下げる土門さん、もちろん土門さんの分もねと、心の中で呟いて捕虜収容場を後にした。



 う〜ん、あの堅物そうな村長を納得させる理由かぁ、う〜ん。思案に暮れながら歩いていたら、ミタさんの姿が見えて来た。


 なんだ戻ってんじゃん。一言ぐらい声を掛けてくれてもいいのに。そんな事を思いながら軽く会釈をする。


「ゴメンねぇ、もんちゃん。戻ったとき声掛けようと思ったんだけどねえ、あの人と話し混んでるみたいだったから。でも助かったわ、ありがとう」


 うわっ!通じてた。気まずっ。顔に出てたのかな、それともエスパーなのかな? 本っ当この村の女性陣って、心を読むの上手いよね。

 ん、まてよ、って事は、俺が常日頃からイエ姉や絹さんに、ちょっとエッチな妄想を抱いてるのバレてる? イカン。イカンイカン。そんな事バレてたらイエ姉に合わせる顔無いじゃん! 

 だって俺、そこそこハードなやつも妄想してるし、メッチャ恥ずいんですけど。マジ、メッチャ気まずいんですけど。 ……まぁ、絹さんにはどう思われようと別に、どうでもいいけどね。

 どうしよう、どうすればいいの?俺の妄想止まらないんだけど、どうすればいいの? 教えて、星ひ〇みさんっ!


 明後日の思考の俺に、気付かないフリをしてくれた大人なミタさん。そのまま話しを続けた。


「もんちゃん、これから村長の家に行くんでしょ」

「なんで知ってるんですか?」

「いいからいいから、それでね、私事なんだけど……。あの人達、助けられないかな?」


 普段のお気楽な感じじゃなく、至って真面目な顔のミタさん。


「えっ、でも、村を襲った奴等ですよ!」

 真相が知りたくて、少しカマを掛けてみる。


「あのね、あたしの妹夫婦のことなんだけど。この前襲われた時に甲冑姿の奴等に、刀で斬られそうになったんだって。そしたら、彼等の誰か分かんないけど、毛皮姿の人が助けてくれたって。妹夫婦もその人に感謝しててねぇ。……それで、もし処分されるような事になったら心苦しいとかなんとか言ってたの。だから何とかならないもんかなって」


 最後はミタさんも思案にくれる顔をしてたけど、要は殺すほどの事はしてないって事なんだろう。


「だからお願いっ! そこら辺、キチンと村長に言って貰いたいんだけど。……どうかな?」


 おうよ!そのつもりだぜ。ミタさんから証言を貰えた事で、裏を取れたみたいに少しは気持ちも楽になったしな。それと、村長との交渉材料になりそうだし。

 ヨシッ! あとはあのイカツイ村長と話すだけだ。


「分かりましたミタさん。……ありがとうございます」


 そう言い残してこの場を後にしたんだが……。何か、村の入り口が騒がしい、村長の家に急ぎたい所なんだけど……。まさか、二度あることは三度あるって奴かな? やっぱ気になる。

 推測の域だが、とりあえず村の入り口に様子見で行ってみた。



「すみません! 村長さんに会わせて下さい。大事な話があるんです!」

「あー、うるさい! 知らん奴は通すなって言われてるんだ。サッサとどっかに行け!!」

「お願いします。どうか話だけでも聞いて下さい!」

「うるさい!!」


 村の入り口で、門番のオッサンと女の子の言い争う声。あっ! 女の子が門番に押されて倒れた。ッたく、何やってんだよ!


 見ていられず、俺はその場に駆け寄った。


「……何の騒ぎですか?」


 門番のオッサン、これ見よがしにデカイ溜息とともに面倒事、厄介事がまた来たって顔をしている。


 けど俺はメゲナイ! ニュー、ノーマルな時代を生きてきた俺でも、看過できない事態である。

 何故なら女の子が半泣きで助けを求めているから。女子が泣いてたら助ける! 男子なら当たり前の事だよねセニョール。


「俺、今から村長宅に行くんで連れて行きましょうか?」

「だから、知らん奴は誰でも断ってるんだって」


 面倒くさそうに答える門番の人、その奥で倒れたままの女の子は苦しそうだ。 もしや怪我をしてる!?

 後先考えず門番の持つ槍ごと押し退けて、女の子に駆け寄っていた。


「ねぇ、大丈夫?」

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、だ、大丈夫です。それよりお話を……」


 紫色の忍び装束の女の子、よく見れば左肩に酷い怪我をしている。かなりの出血量だ。


「分かった、話を聞く。その前に怪我の治療が先だ」

 手短に話して、女の子を抱き抱える。

「勝手な事をするなモンジ!!」

 門番のオッサンが凄い剣幕で怒鳴りつけてくるが、知ったこっちゃ無い。ふざけんな! この子の命が掛かってんだっ!

「責任は全て俺が取ります。だから通して下さい」

 恐ろしく冷えた声が出て、自分でもビックリした。それ程までに俺は、焦っていたんだと思う。


 渋面で「知らんからな」そう言ってオッサンは、すんなり通してくれた。ひとえに、襲撃事件での俺の大立ち回りをオッサンが知っていたからに他ならないが、今はそんなのどうでもいい!


 俺はおもむろに女の子を抱きかかえると、そのまま走り出した。むろん、お姫様抱っこで。この子を助けたい、ただそれだけの理由しか無い。


 とりあえず加合様(医者)の元へ急ぐも、途中、この子に触るなとか汚らわしいとか、く、臭いとか、散々な事を言われたけど。


 べ、別に気にしてないしぃ、君なんかよりずっと大人だしぃ、悪口なんか慣れてるしぃ。

 脳内で言い返すも、口に出すとボロが出そうだったから結局無視する事にした。


 しかし、こんだけ騒げるなら当面は大丈夫そうだな。正直ホッとしたよセニョリータ。

 けれど怪我をしてるのは事実だしな、とにかく急がなきゃ。

 そしてモンジは走るスピードを上げた。


 ……でもこの子『おろせ』とは一言も言わないのな。ハハッ、面白い奴、正味嫌いじゃない。


 走るモンジの口元が、自然と緩んでいった。



 

ありがとうございました。

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