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〔墓守り紋次の物語〕  作者: 猫屋敷 中吉
24/122

元気な女性は、カッコいい

 本日21時にパニック短編『ゾンビでデート』を投稿します。余り怖くないので、気楽に読んでくれたら嬉しいです。

 それでは、よろしくお願いします。


 暗雲立ち込める夕暮れ時、雨。

 シトシトと降る雨の所為なのか、人通りの少ない所為なのか、村の雰囲気は重く、とても暗く感じた。

 傘を片手にモンジは一人、虚げな表情で歩いていた。

 村の入り口近くにある捕虜監禁場所に向かっている途中だった。視線を落とし、鉄色の義手を眺める。

 湿気の所為かな。義手と左手の合わせ目が、疼いてしょうがない。


 確かめたかったのかも知れない。

 奴等を自分の目で見て、そこで俺は何を思って、何を感じるのかを。

 命の価値を、確かめておきたかった。


 落としっぱなしの視線に、泥まみれの足が映る。

 どうりで足が重い訳だ。ひとり納得するも、冷えた足先から浸透される、怖気にも似た感覚に俺は、歩みを阻害されていた。


 やっぱり、やめとこうかな……。


 意気地無し。

 気持ちが揺らいだ。

 押しては引くさざ波のように、ゆらゆらと心が揺れ始める。いつもこうなんだっ、俺ってヤツはっ。

 何か行動を起こそうとすると、必ず、後ろ向きな感情が邪魔をする。それで結局何もせずに、後悔ばかりしてきた。


 沼に嵌りそう、ドロドロのネガティブ沼に。


 俺はギュッと唇を噛んだ。

 今回ばかりはと眦を決して。

 鬱々とした感情を腹の奥底に押し込んで、拒む足を強引に前へと弾き出した。


 命のやり取りに、後悔はしたくないと。


 監禁場所につく頃には辺りも暗さを増し、門近くにある小さな監視小屋では、ハト爺のご近所さんであるポッチャリおばちゃんが、門衛をしていた。

 えーと、確か……。タニさんだったかな? タニさん。うん、タニさんでいいや。うろ覚え。


 タニさんが監視していたんだけど……。コレって持ち回りでやってんのかな? チョット疑問に思ってしまった。


「ご苦労様です。……タニさん」


 タニさんは、気さくな笑顔でおばちゃん特有のポーズをしてきた。左手は口元を隠して、右手をバタッと前に倒す仕草でね。


「あらっ、モンちゃんこんばんは。それとアタシはタ・ニ・じゃなくて。タ・ミ・よっ。もぉー、モンちゃんったらっ、面白いんだから。

 あらっ!そうそう、モンちゃん記憶無いんだっけ。それじゃあ仕方ないわね。わ・た・し・は・タ・ミ。 タ・ミ・ねっ、覚えた?

 でも大変ねぇー。イエちゃんもホラッ!口がねぇー、聞けないでしょう。困ったことがあってもイエちゃんには中々聞けないでしょうし。

 分かった!困ったことがあったらおばちゃんに何でも言って!おばちゃん、何でも聞いてあげる。まぁー、でも、おばちゃん何でもって言っても、とりわけ恋バナが大好物かしら、フフフッ。あーでもでも、何でもいいからね!何でも相談して、お金の事以外はね。フフッ。

 あらっ、モンちゃんの左手!ハト爺に作って貰ったんだっけ。良かったわねぇー。これで多少の不便もなくなるもんねぇー。あっ!そうそう、ハト爺と言えば昔……」「あの!チョット会いたい人がいるんで、面会してもいいですか? タミさん」


 話しが終わらない気がして(さえぎ)ってしまった。 でも、何でおばちゃんって口元隠しながら話すんだろう、不思議だ。


「あらっ! もぉー、先言ってよぉー。てっきり、おばちゃんに会いに来たのかと思ったじゃなーい。そんな訳無いか、ホホホッ」


 また、おばちゃん特有のポーズで、照れ隠しのタミさん。「どうぞ」と、馬を放牧する柵? のような場所に入れてくれた。

 でも実際、馬用の柵なんだろうけど。だって、すぐ隣に厩舎が併設されてるし、姿は見えんけど馬の嘶く声も聞こえるもん。


 柵の中に入って目に付いたのが、木の杭を土に挿しただけの簡易的な檻。ひー、ふー、みー、十っ個だな。

 十個ある檻のうち五個は使用されていて、そのうちの一つに、一際大きい男が収監されている。俺は迷わずその檻へと足を向けていた。


 檻越しに対面する巨躯のオッサン。

 瞑目し座禅を組んだままピクリとも動かない。

 雨の所為か篝火(かがりび)も弱く、オッサンの表情もここからじゃぁ窺えない。なに話そう。



「モンちゃん! しばらくのあいだー、ここお願いしたいんだけどー! いー、いー! 子供にゴハンあげたいからー!」


 考えあぐねていたら、タミさんの依頼が飛んで来た。俺的にはオッサンと二人っきりになるのは、ちょっとしんどいかも。

 でも、所帯じみたタミさんのお願いを聞いて、正直緊張が解れて、和やかな感じになった気がしないでも無い。

 俺、結構な人見知りだから、知らない人と二人キリは……やっぱ、ちょっと、キツいっス。


「いっ、いいですよー!」

 

 とりあえず返答しますよ。

 後ろ手に返事をすると「ありがとう!」って、威勢のいい声が返って来た。思うんだが、つくづくこの村の女性は元気だなって感心してしまった。

 

 よく見かける、浜辺で真っ黒に日焼けしながら干物を干す、うら若き女子達。家事仕事の合間に子供を連れて、怪我した旦那の看病に向かう奥様達。

 一人で出産に挑むと覚悟を決めた、強い妊婦さん。巫女さんでありながら、弓を片手に村を懸命に守ろうとする、元気な絹さん。

 墓守りで奇跡を起こし、悲しみに暮れる村人を癒やしてくれる、プリティでキュアキュアなイエ姉。


 みんな強くて、格好良くて、キラキラしてて。尊敬できる女性が多い村だと、本気で思う。そういえばもの〇け姫でアシ〇カが言ってたっけ。女が元気な村は繁栄するって、アレは名言だったんだな。納得したよ。


 たがしかし、俺はナウ〇カ派だけどね! あー、メーヴェ。メーヴェ乗って、空飛んでみてぇー! ハト爺作ってくんないかなぁー、アレ。あー、でもハト爺、鍛冶屋で発明家じゃ無いから無理かなぁー。

 と、そんな妄想に浸っていたら、巨躯のオッサンと目が合ってしまい、お互い気まずくなる。慌てて何か言わなきゃと焦っていると。


「あ、あの……」「モンジ殿で相違ないか」


 オッサンから話し掛けて来た。そして何を思ったか、足を正座に組み換え、深々と頭を下げて来たではないか。な、なんなん。


「俺の命より大切なものを拾ってくれて……。ありがとう」


 深々とお辞儀をしたまま礼を言うオッサンに、逆に恐縮してしまい、アワアワしてしまった。


「……いや、そんな、大したことは。あっ、怪我の具合どうですか?……あ、あの時は、すいませんでした」


 顔を上げキョトンとするオッサン。 アレッ、俺、なんか変なこと言ったっけ?


「ハァッ!ハァッ!ハァッ!いやいや、スマン、スマン。モンジ殿は腕っぷしもさながら、とても器の大きな方とお見受けした」


 豪快に笑う熊さん。

 今度は俺がキョトンとしてしまった。いやいや、なに言っちゃってんのこのオッサン。器が大きいって、チョット前まで俺、ちっちゃい人間だってウジウジ、モジモジしてたっつーの。 俺のちっちゃさナメんな!

 そんな俺の気持ちもお構い無しに、話を続けるオッサン。


「しかし、この村の人達は皆、優しいな。村を襲った俺達にも治療をしてくれるなんて……。俺は、大きな勘違いしていたかも知れんな」


 高笑いしていたオッサンの表情が、急に曇り出す。何かしらの事情を察して質問してみた。


「……村を襲った理由があれば、あの、教えてもらえないでしょうか。……ダメ、ですか?」


 おずおず質問するモンジに、大きく息を吐いたオッサンは、若干考えこむ仕草をして見せた。


 辺りはいつの間にか陽も落ち切り夜だった。

 既に雨は上がっていて、それでも暗雲に覆われた空は月明かりなんて無く真っ暗で、檻の脇にある細い篝火だけでは、オッサンの表情は分からない。

 ややあってオッサンは、重そうに口を開け、ポツリポツリと話始めてくれた。


「……ひと月ほど前、俺達の集落が襲われた。……殺された。……全部、全部、奪われた」


 オッサンはその時の怒りを思い出したかのように、ワナワナと震えながらに声を吐き出している。そして懐かしむような顔に変わり、悲しい顔に変わり、最後は目を瞑り、静かに言葉を紡いでいった。


「……俺達はここいらの山を拠点に、移動しながらの生活をしていたマタギ(狩人)だ。……その集落の長をやらせて貰っていた」 


 体に似合わずオッサンは、俯きながら小さな声で語り出した。その雰囲気に、余り話したく無いような気がして。辛い話である気がして。俺は覚悟を決めて、この人の話に耳を傾けた。

 話が進むにつれて俺の顔色が変わっていく。握り締めた拳が更に力を増すのを、衝撃的な内容とともに感じることとなった。


 ホー、ホーと、後ろの森から聞こえる(ふくろう)の鳴き声が、そんなオッサンを憐れんでいるように、俺には聞こえてしまった。




♦︎♢♦︎♢




 “ ハァ、ハァ、ハァ、ハァ……”


 木々に覆われた街道を、息も絶え絶えに歩いている少女。


 林を抜けた先に、明かりが見えて来た。……森山村の入り口だ。


 少女は口を真一文字に閉じ、奥歯を噛み締めている。


 “ 綿姫様、もう少しの辛抱です。モモが、モモが必ず助けに行きますから ”


 痛めた肩を押さえてながら、亀の歩みだが着実に少女は、森山村に近付いていた。

 

 


ありがとうございました。

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