イエの本領
一話目から読み返したら、余りにも読みづらい駄文の羅列で……。直してたら二週間も掛かってしまった。
今夜21時に、もう一話投稿します。引き続き『墓守り紋次の物語』をよろしくお願いします。
葬儀が始まるまで時間があったから、無理矢理ハト爺の鳩談義を聞かされていました。はい。
イエ姉がご遺族の方達、それとご遺体を担いでくれてる村の人達を連れて戻って来てくれて。正直、助かったぁーって、思いました。
しっかし、ハト爺、俺に鳩の事を色々教え込んでいるけど、まさか俺を『鳩の会』の後継者にしようと企んでいるんじゃなかろうか?
申し訳ないが、ワタクシ鳩にはコレッぽっちも興味無いっス。全力で拒否るっス。サーセン。
合同葬儀。
しめやかに始まる埋葬の儀に、俺とハト爺も墓の隅で参列した。
参列者の方達は皆、鎮痛な面持ちで遺族の方達に至っては、ほろほろと止めどない涙を流している。
痛いほど気持ちが分かる。だからか、見ちゃいられなくて、自然と目を伏せてしまった。
大切な人を失った悲しみ、二度と会えない寂しさや辛さ、それにぶつけようの無い怒り、俺も向こうの世界で経験したから、あの日の自分を思い出してしまう。全てを無くしたあの日の事を。
心が抉られるようで、色んな感情がゴチャ混ぜになって真っ黒になって行く。いっそ壊れてしまいたくなる、そんな気持ちだ。
ネガティブ沼にハマっていたら、ハト爺に耳を引っ張られ我に返った。
「ここからが、お前の姉ちゃんの真骨頂じゃ。その目をカッポじいて、良く見ておけ」
珍しく真剣な顔なハト爺に、俺は素直に従う。遺族の方達と対面するイエ姉に、注目する。
「カンジザイボサツ ギョウジンハンニャハラミタジ……」
心地いいしらべ。
ご遺族、参列者を前にイエ姉が普通に声を出していた。健常者のように。しかもお経特有のリズムで般若心経を。
思わず聴き入ってしまう程の、優しい綺麗な声音。コレが本来のイエ姉の声かと「ほへ〜」って、感嘆の声を漏らしてしまっていた。
耳が聞こえ無いイエ姉。
ここまで流暢にお経が言えるまで、どれだけの練習を重ねたのだろうか。
想像するまでも無い。ひたすら努力したに違いない。すべからく彼女は、本物の努力家って事だ。
視界に映る彼女の勇姿に、俺は憧れてに似た感情を抱いていた。
耳障りのいい静かで透明な美しいお経。濁った心も浄化されていく。そんな気がして、聴き入ってしまった。
イエ姉の流暢なお経を聴きながら、墓穴に納めたご遺体に、皆で静かに土を被せて行く。
一通り埋葬を終えて、皆が手を合わせる頃にはお経も終わり、イエ姉は皆んなに深々とお辞儀をひとつ。
今度はブツブツと小声で何かを唱えるイエ姉。真剣な面持ちのその額には、薄っすらと汗が滲んでいた。
「そろそろ始まるぞ」
緊張するハト爺、俺もつられて生唾を飲んだ。
ハト爺の言葉通り、ご遺族を埋葬した土の中から、五箇所から、光体が浮かび上がって来た。ソフトボールほどの大きさのヤツが。
ソレは白く光る光体で、それと同時に儚い輝きにも見える、なんとも不思議な光体だった。
動きだす光体。
目を瞑り、集中しているイエ姉の周りに集まりだした。一つに集まると次にはパーと、ご遺族の元へと散り、その周りをフワフワと浮遊しながら周回し始めいる。
摩訶不思議な光景である。私見だが、揺らめき浮遊するその姿が、名残りおしそうにも見えてしまった。
頃合いなのか、イエ姉は静かにそしてゆっくりと目を開け、そして空へと指差し天を仰ぐ。すると光体等も、ゆっくりと天高く登り出し、いつしか見えなくなってしまった。
最後の別れのように、光体を見つめながら涙を流し嗚咽を漏らすご遺族達。そこにまだ一つだけ、光体が残っていた。
その光体は、若い女性の周りをゆっくりと、点滅しながら廻っている。その女性は妊婦さんらしく、大きなお腹を摩りながら涙を流している。
寂しそうに、また苦しそうに、唇を噛みしめながらイエ姉はその女性を見つめていた。
頬を伝う汗をそのままに、イエ姉は俺に手招きしている。俺に手伝えと。
幻想的なその光景に、口をだらしなく開け見惚れていた俺は、急に呼ばれて「ほえっ」と変な声が出てしまった。何を手伝えばいいのやら。
「ほれ、お前さんの出番じゃ。行って来い」
バシッとハト爺に背中を叩かれ、訳も分からぬまま、おどおどしながらイエ姉の元へと歩いて行く。
そしてイエ姉の指示通りに妊婦さんの横に立つと、イエ姉はニッコリ笑い、またブツブツと何かを唱え始めた。
すると──スルンと何かが体に入って来た感じ──次に寒気が襲って来て、そして──
「ナギ、分かるか?……俺だ」
俺の口を使って誰かが話しだした。……この感覚、アイツに体を取られた時の感覚に似ている。
「アンタ、アンタ、アンタ。うちを一人にしないで」
目の前で、顔をクチャクチャにしながら泣きついてくる妊婦さん。その悲痛な訴えに俺は、かける言葉が見つからない。けれど、俺に入ったこの人が、俺の体で彼女に詰め寄る。
「俺はもう、行かなきゃならない。悔しいけど、辛いけど、お前一人に子供をお願いすることになっちまった。……本当にスマン」
「嫌だ、嫌だ。行かないで。アンタ、アンタ」
見るに耐えない悲痛な叫びに、俺は……。
「すまない、本当にすまない。……俺は死にたく無い、死にたく……無い。お前と子供と三人で暮らしたい。……だけど無理なんだ、無理……なんだ。だから、頼む。子供を頼む。た、の、む」
涙声になる。涙と鼻水で酷い有り様だ。悲しみ、侘しさ、寂しさや苦しみ、負の感情が体の中から溢れてくる。
コレは、俺の体に入った男の感情なのか、それとも俺の感情なのか……分からない。ただ、胸の奥にあるドス黒い怒りの感情は明らかに、俺から湧いて出ているものだ。
肩にソッと触れる優しい手。
イエ姉が俺の肩に手を置いていた、すると、にわかに胸から光体が出てきて、ゆっくりとゆっくりと、空高くまで登って消えてしまった。
半ば強引な印象を受けてしまったこの行為に、イエ姉へた顔を向けると、ぽろぽろと大粒の涙を流している。俺は、開きかけた口を噤んだ。
俺の足に縋り、泣き崩れる妊婦さん。
そのか細く震える背中に、なんて言ってやるのが正しいのか分からず。ただジッと泣き止むのを待つ事しか、出来ずにいた。
♦︎♢♦︎♢
葬儀も無事終わり、皆が帰った後、イエ姉は俺を抱きしめてくれた。そして「ありがと」って綺麗な透き通った声で言ってくれて。
正直俺はその言葉だけで、ヘコんだ気持ちが救われた気がした。
だけど、一つだけ彼女に負い目を感じていたのも事実だ。
昨日の晩、全てを告白しようと思っていたけれど結局、何も言い出せずにいたから。
やっぱり怖くて、イエ姉に嫌われるのが怖くて、今の関係がイエ姉との関係が壊れるのが怖くて、だから。言い出すことが出来なかった。
俺はイエ姉が好きだ。
一目惚れって訳じゃ無く、小さい頃から見ていた『夢』の影響だろうと思う。俺が見ていたものは本物で、この世界の彼女を見ていたと、今なら確信出来るから。あの頃から変わらない優しい彼女は、『夢じゃなく本物』だったんだと。
俺はイエ姉が大好きだ。
これは俺の『トイチ』の気持ちで、この先も色褪せない想いだと誓える。だけど彼女からすれば、俺はいつまで経っても偽物で、もし仮に上手く騙せたとしても、一生彼女を騙し続けなければならないと思うと。 ……居た堪れ無くなって来る。
そんな思いに囚われてしまうと、嬉しいはずの彼女の抱擁が甘い香りが、俺の心を苛み、そして擦り潰して行く。
元々彼女は俺なんか見ていないのだから、存在さえ気付いていないのだから。
結局、どっちの世界でも俺はひとりぼっちなんだ。
好きな人に好きだって言えないのが、こんなに辛い事だなんて、初めて気付いた。
だけど……。俺が一方的に好きなのは罪じゃない。悪い事じゃない。そう思うことで、気持ちを飲み込む事は出来る。
だって俺の願いは、イエ姉と一緒に生きて行くことだから。それ以上は望まないし、願わない。俺なんかがそれ以上望んだらバチが当たってしまう。
そこまで自分の考え方を浄化させたら、なんだかスッキリしてきた。
シンプルに、俺はイエ姉が好きで一緒に生きて行く。
そう思う事で前を向いて歩ける。今後の行動指針が決まった所で、未だ抱きしめてくれているイエ姉を俺はやっと、抱きしめることが出来た。それだけで十分だと。
ちなみに、黒い鎧武者が倒した墓石は河口兄弟が直してくれてたみたいで、今日の合同葬儀でも墓石の準備や設置を手伝ってくれた。
河口兄弟は働き者だな、なんて思っていたら……。葬儀の後片付けをしている河口兄弟の姿が見えた。
抱き合う俺達を、嫌、俺だけを怖い顔で睨んでる。……あー、うん。見なかったことにしよう。
率先してイエ姉のお手伝いを買って出てくれる、河口兄、弟、の気持ちが何となく分かった。
あっ、墓石に石ぶつけて憂さ晴らし始めた。うん。コレも見なかった事にしとこう。
河口兄さん、弟さん。イエ姉は俺のなんでそこんとこ、夜、露、死、苦。
戦線布告がてら、暴走族みたいに心の中で言ったった。
あ、ごめんなさい。今は珍珍団だっけ、あっ、珍走団だった!ゴメンなさい。テヘッ。
ありがとうございました。




