桃源郷
この後、21時に『お面の少女』のタイトルで短編を投稿します。読んで貰えたら嬉しいです。
それでは、よろしくお願いします。
人の声がすると思ったら、絹さんがイエ姉と一緒にいる。普段は動きがうるさいと感じることはあっても、話し声がうるさいなんて無いもんだから。
チョット違和感があるっていうか、絹さんの声がデカいだけなのかも知れないけど。
それにしても、二人は仲良しさんなのね。
イエ姉と絹さん、キャッキャッ言いながら炊事場で料理している。
……でも、イエ姉にまた会えた、メチャクチャ嬉しい。
それと同じぐらい、とても心配にもなっていた。
優作の態度を見て分かった事だけど、向こうの俺は昏睡状態らしいから。
優作が無事だったのも素直に嬉しい、けれどあの状況を見ると、どうも俺と『紋次』は中身が入れ替わって無さそうだ。
だったら本物の『紋次』は何処にいったんだ。
俺の中に、普通に疑問が湧いてくる。
囲炉裏の周りを、考えごとをしながら歩いていたら、絹さんと目が合ってしまった。
なんだ、あの目。
絹さん、道端に落ちてる犬のウンコでも見る様な目で、俺を見てくる。
絹さん、僕は人間ですよ、話すウンコはいませんよ。シタリ顔の俺に、絹さんは舌打ちをしてくる。
「しょうもないモン見せるんじゃないわよ!」
真顔で一喝。……どゆこと? イエ姉もアワアワしてるし。
仁王立ちの己の姿を見てみると、エッ、そゆこと。
上半身は包帯でグルグルピッタリ巻かれて、まるでチビT着てるみたいで、下半身は白のニーハイソックス履いてるみたいに、両足を包帯で巻かれている。うん、それだけ。
……俺ってば、ノーパンじゃん。
分かり易く言うと(白いチビT+白ニーハイ+丸出しチン〇ン+阿保面=変態人間オレ)の数式が導き出される訳だが、コレ、試験に出るから覚えておくように!って、うそです。
チッって、また絹さんの舌打ちが聞こえたのは、ワタクシの空耳でしょうか?
イエ姉が直ぐに飛んできて、着物を着せてくれました。やっぱ、イエ姉は優しいな。可愛いいし、いい匂いもするしな。最近、彼女の匂いをクンクン嗅ぐ癖がついてしまった。ヤバいかな、匂いフェチっぽい?
だ、が、!!
俺は決して変態では無いっ! 皆んなも多分やってるから! 好きな子の匂いって絶対嗅ぐから、ほぼ100パーセント嗅いでるからっ! っねぇ!! ……アレッ、やっぱ、俺だけ? って、別にいいけど。
身支度を整えるのを待っていた絹さんは、親指を立ててクイッ、クイッて外へ誘ってくる。
「モンジ。……チョット顔かして」
さっきまでのふざけた態度を一変、真面目な顔の絹さん。話があるっぽいが、俺も彼女に聞きたいことがあったんだよな。
先にオモテに出た絹さんの後を、俺も急いで草履を突っ掛け追いかけた。お寺へと向かう絹さんの背中が見えたので、彼女に続いて俺も寺の山門を潜る。
そこで、辺りをキョロキョロ見回す絹さんが映った。人に聞かれたくない話らしい。
お堂の前で振り返り俺と向き合う彼女は、真っ直ぐな瞳を向けてくる。そして目を細め、何かを疑っているようもとれた。
姿勢を正す俺。
なんとなくで、そういう雰囲気だから。
腕組みをして絹さんは、口をモゴモゴと何から言い出そうか迷っているみたい。
ちょっとだけ待って結局、俺から先に質問をしてみた。質問って言うか、気になっていた二回目の襲撃事件の詳細、その後の顛末を聞いてみた。
まずは作戦行動を共にした他のメンバーの安否。
繁忠、絹さんは分かるとして、河口兄妹がどうなったのか、知りたかったから。余り話した事は無いけど、仲間意識は無くはない。
絹さん曰く。
河口兄妹はあの後、砦に偵察に向かいはしたが、途中で待ち伏せに遭って作戦中断。命からがら荷車引っ張って、逃げ帰って来たんだとか。勿論、怪我一つ無く。
とりあえず一安心した。
村を出る時、五人全員で無事に帰りたいと思っていたから。とにかくめでたし、めでたしだな。
と言っても、村の状況は最悪だ。
死者が二人と怪我人が十二人も出てしまった。最悪だよな、死人が出るなんて。なんか、しんどい。
こんな時どんな顔すればいいんだろうと、それとなく絹さんを見たら、彼女も話しながら暗い顔を落としている。
こっちの世界に来たての俺より、同じ村で長く生活している彼女の方が、もっと辛いんだろうな。俺でも分かる。彼女にかける言葉が見つからない。
ただ、俺が気絶する前に訴えていた『誰も殺したく無い』ってお願いは、どうやら聞きいれてくれてたらしい。捕まえた奴等は今、捕虜として檻に入れていると。
村外れに鎧武者が四人と獣姿の奴等が五人、収監されているみたい。勿論、熊のオッサンも。
敵なんだけど、とりあえず生きていると聞いて俺は、ホッとしていた。
だからこんな、調子に乗った発言をしたのかも知れない。
「俺の所為、なのかな。……俺がもっと上手くやっていたら……」
俺の呟きに、呆れ顔で絹さんは反論する。
「はあ? 何言ってんのアンタ。何様なのよ? アンタ一人で、どうにか出来る訳ないでしょバカ。アンタはただの墓守りで、戰仕事なんかそもそも期待してないっつーの」
絹さんにオデコを指で、ピンッと弾かれた。
額をさすりながら情け無い顔の俺は、何も言い返せない。そりゃそうだろう、彼女の言う通りなんだから。至極、真っ当なことを言っている。
そうだよ、俺はただの墓守りで、ただの高校生なんだ。秀でた何かがある訳でも無いし、ごく普通の人間だ。
ご近所さんが亡くなったって聞いたから、普通に悲しくなっただけ。ただそれだけ。
俺は誰かの期待に応えられる人間じゃない。
無力感に苛まれ、険しい顔で、視線を落とすモンジに、絹さんは畳み掛ける。
「あー、苛つくわねぇ。確かにあなたは頑張ってくれたわよ。認めるわ。でも、勝手に一人で突っ走って、上手くやれたらどうにか出来たなんてアンタ、自惚れじゃないの? 下手したら死んでたのよ! ホント何様なのよアンタ。本当に、なに……。ねぇ、本当は何者なのよ?」
キツい言い方の絹さんは最後に、俺そのものに疑問をぶつけてきた。
「……アンタ、何者なの?」
冷えた口調の絹さん。
バレてしまったのか、バレていたのか。
挙動が変だったのかな。目の焦点が定まらない。全身から嫌な汗が出ていた。
「アンタ、誰? 中身が別人なのは分かっているわ。大人しく答えなさい」
命令口調で彼女は腰に手を置いた。
図法を突かれ、思いっきり動揺してしまった。カマを掛けてきただけかも、知れないのに。
今まで記憶喪失って事で、誤魔化してきたけど。……多分、もう無理ぽい。
絹さんの中で憶測から確信に変わったみたい、
彼女は、かなりキツめの視線を浴びせてくる。白状した方がいいんだろうか。
でも、もし、偽モンジって知ったら。……イエ姉はどう思うんだろうか。やっぱ、俺のこと、気持ち悪いって思うんだろうか。
イエ姉にだけは、嫌われてたく無いな。……でも。
何かを諦めたように、大きく息を吐くモンジ。絹は前のめり気味な体を戻し、今は静かに言葉を待っている。
「……分かった。この身に起きている事実を話すよ。信じられないかも知れないけど。全部、話すよ」
腹を決めたモンジに絹は、腕組みをしたまま静かに瞑目し聞く体制に入る。少年は、言葉を選びながらポツリポツリと語り出した。
まずは、自分のいた世界について、元々高校生だから知ってる範囲も狭いけど、取り敢えず解る範囲で、分かり易く説明した。
偽モンジが語る世界、民主主義国家とか資本主義経済とか、社会インフラとか憲法とか、よく分からない言葉がでてくる。はぁー? ナニいってんの?
軍隊、自衛隊、核ミサイル?……核ミサイルは恐ろしい爆弾なのはわかったわ。
総理大臣? 民草の中から代表を決めるって、あり得ないでしょ。民草はバカしかいないんだから。バカに政治を任せるなんてあり得ないわ。
国は一つにまとまってて、どこにでもいける? 関所はないの? なんで?
国民は武器を持たないって、じゃあ、どうやって自分の身を守るのよ! ハァー? 警察? 軍隊とか自衛隊じゃないの?
情報が多すぎて、頭が割れそうに痛い。
私は、頭を抱えて蹲ってしまった。
三十分位かけて高校生の知っている範囲で、自分のいた世界の説明をさせて貰った。
最後に、息を大きく吸って、吐いて、吸って、吐いて。
そして……恐る恐るだけど、意を決してだけど、俺は偽物モンジでしかも本名は『上下 十一』だと名乗り、これで締め括った。
絹さんは、頭を抱えてしゃがみ込んで、なんかブツブツ言いだしてる。ちょっと怖い。目がぐるぐる回っているし、なんか頭から煙が出てきそうだ。
オデコを押さえながら、年寄りみたいにヨロヨロ立ち上がる絹さん。
「……半分も言ってること、分かんなかったけど、後でまた詳しく聞くとして。……つまり、貴方は別の世界から来た人間で、その世界は神様が住まうような『楽園』ってことね」
得意満面で、そう解釈した絹さんに俺は。
「はぁ?」としか応えられなかった。どう解釈すれはそうなるの?って頭を抱える俺に、絹さんは応える。
「だってそうじゃない。戦も無くて平和で、民草の中から国の長を決めるんでしょ。しかも、世界を何度も壊す爆弾って。……想像もつかないわ。そんなの神話の世界の話しでしょ。ねぇ、そう思わない?」
人差し指を突き刺さし迫り来る絹さんに、俺は日和るしかない。
「……まぁ、確かに。……言われて見れば、そうかも」
この血生臭い世界で生きている絹さんからすれば、確かにそう聞こえるのかも知れない。
絹さんは後ろ手にクルリと回って、今日のお召し物、白く輝く百合柄で薄紅色のお着物が、その長い袖をふわりと揺らした。そこでまた俺に振り向くと上目遣いで。
「とりあえず。えーと。『桃源郷』から来たあなたの話し、渋々だけど信じてあげる」
可愛いらしいけど上からの感じにイラッときたが、現状、証明する術のない俺は、不承不承なれど信じて貰えた事にラッキーと思うしかないんだろうな。うん。でも、『桃源郷』ってどうなのよ。
何か、後頭部にチリチリと視線を感じる。
視線を辿ると──イエさん!?
イエ姉が山門の影に隠れて、こっそり覗いていた。巨〇の星の主人公、星 飛〇馬の気分だな。
「んー、はぁ、夢みたいな話しも聞けたし、わたしはもう帰るわ。ほら、あそこでイエ姉も心配してるしね。……で、どっちの名前で呼んだらいいの?」
腕をあげて背伸びをした絹さんは、スッキリした顔で質問をしてくる。俺は、もそっと答えた。
「……モンジでお願いします」
「……そ」
素っ気なく返された。
そして、イエ姉に挨拶しながら颯爽と帰る彼女の後ろに、どこから現れたのか、三毛猫よっちゃんが金魚のフンみたいにくっついて、一緒に帰っていった。
「……も〜」
墓の中に取り残された俺に、イエ姉が心配そうな顔で近付いくる。何でもないよ、と返したけど多分、上手い表情は作れてないはず。
この時、今夜にでも彼女にも打ち明けようと、一応、腹の中でそう決めていたから。……でも、彼女が受け入れてくれなかったらと思うと。ヤバイ、胃が痛くなって来た。
♦︎♢♦︎♢♦︎
今日は朝からイエ姉が忙しそうにしている。
襲撃事件で亡くなった村民の、合同葬儀をするらしい。
するらしいって他人事みたいだけど、寺の住職の代わりをしている俺達は、本来なら二人で色々と準備をしなくちゃいけないんだけど。
イエ姉の勅命、俺はまだ怪我人だから、ゆっくり寝てなさい、だって。
代わりに、河口兄弟があれやこれやと、イエ姉のお手伝いをしている。働き者だよな河口兄弟って。
村は二度の襲撃で、合わせて五人も亡くなっている。繁忠は少ない方だと言っていたけど、人の生き死に多いとか少ないとか、あんま言いたく無いな。
一人でも亡くなった人がいたら、やっぱ嫌だな。俺の所為でもあるし。そう思ったら、酷く心が痛んだ。
最初の襲撃事件は、自分の預かり知らない所と幾らか誤魔化しは効くけど、二度目は直接関わった案件で、どうしたって自分を誤魔化し切れない。
あの時もっと周りを見ていたら、あの時もっと上手く立ちまわっていたらと思うと、俺は助けられた命を見殺しにしたんじゃ無いかとか、やはり考えてしまう。はあー、思考がどんどん闇に落ちて行く。
「もっ!」
弾む声。
フイに掛けられたイエ姉の声に、肩が跳ねてしまった。
見ると全身お坊さんルック、つまりは袈裟姿のイエ姉が、顔を上げた俺にクルッと回って、どう?っておどけて見せてきた。
俺が気落ちしているのを見て、努めて明るく振る舞う彼女に、その優しい心根に俺は、顔をクチャクチャにして抱きついてしまった。
少しビックリした彼女は、それでも優しく俺の背中を摩ってくれて。それだけで、沈んだ気持ちが軽くなっていく。濁った心が澄んでいく、洗われたみたいに。イエ姉ってやっぱ、凄いひとだ。
時間も差し迫り。
行ってくるねって感じで、胸の前で小さく手を振る彼女。それを見送る役立たずな俺は、ひとりお留守番。
狭い家の中が、彼女が出掛けただけで急に広く感じて、不安な気持ちがまた、ネガティブな思考を呼び覚ます。
視線も落ち、そこに見える肘から先の無い左手に、ハト爺の顔を思い出させた。
義手、あっという間に壊してしまったな。また頼みたいけど、どんな顔して会いに行けばいいんだろう。そんなことに気落ちしていると。
「モンジいるかー」
突然の来客に顔を上げると、麻袋を担いだハト爺が現れた。タイミング良すぎだろハト爺、しかも、今、会いづらい人ナンバーワンなんだから、あんたは。
なんかでも、気まずいんだけど。……でも、ハト爺、白い麻袋担いでる姿が、地味なサンタさんみたいで、チョットウケる。
失礼なこと考えていたら、ハト爺について来た鳩に、家の中でフンをされてしまった。あっ、コンニャロー。
「おー、モンジ。コリャまた男前になったのー」
ズカズカと家に入ってきたハト爺が、全身包帯まみれの俺を見てのたまう。それに苦笑いしか返せないワタクシである。だって、せっかくタダでくれた義手を、直ぐに壊してしまったんだから。なんも言えねぇよ。
「合同葬儀って聞いてな、ワシも参加しようと思うての。そのついでじゃ」
気まずそうにしてる俺を、さして気にもせず、普段通りのハト爺に少し気が楽になった。
そしてドンッと麻袋を目の前に置かれた。コレはチョイ、イラッと来たな。
まぁ、合同葬儀の予定もイエ姉が亡くなった方の家々を周り、ご遺体を運んで来るって言っていたから、まだ始まるのは時間がかかりそうなんだけど。
ハト爺に説明しようと思ったら「どれ、どれ」と、おもむろに左腕を掴まれた。
左手の具合を確認してくるハト爺に。
「すいません。……直ぐに壊してしまって」
素直に且つ、元気無く謝る俺。
「ええって、ええって。アレはそんな風には、作っておらん、日常生活用じゃ。……じゃから、今度はコレを持って来た」
ニヤっと含み笑みで麻袋の中から、義手を取り出した。今度のは、木製では無く金属製? 鈍い銀色に光る義手に第一印象は。重そう、だけど強そう、だった。
「腕は大丈夫そうじゃが。……どうじゃ、着けてみるか?」
前歯の無い口でニカッと笑うハト爺に、俺は頷く。
ハト爺に装着させてもらって、左腕を曲げたり、捻ったり、回したりして具合を確かめてみる。見た目通り前の義手より若干重たいが、うんっ、問題ない。
「……どうじゃ?」
不安気に聞いてくるハト爺。
「……大丈夫です。問題、ないです」
そう答えると、ホッと胸を撫でおろすハト爺。
さっきまでの顔は真剣そのものだった。職人なんだなと、今更ながらに感心してしまう。
ここで、キチンと確認して置かなければならない事がある。とても大切な事だから。
「……あっ、あの。お幾らでしょうか?」
そう、お金は大事だからね。
仕事に対してキチンと、それに見合った報酬を支払わなければいけない。俺もバイト代キッチリ貰ってたんだし。無から有は生まれないって、錬金術師の漫画で言ってたしな。
ここで一つ問題がある。俺、この世界のお金の価値、知らんのよ。後払いでいいかな? もしくはローンで。
だけど、鳩が豆鉄炮を食らった顔でハト爺は、すぐに破顔すると。
「ええって、ええって。村の恩人から金なんか取れん」
そう言ってくれた。……恩人って。でも、頑張りを評価して貰えたのは、素直に嬉しいけど。俺、なんもしとらんのよね。ほとんど、アイツのお陰なんだよね。
「そうじゃ、そうじゃ、一つ言い忘れておった。ホレッ!手首の所に鉄の紐が解るじゃろ」
んっ、確かに。手の平の下、手首の所にワイヤーがフックみたいに引っ掛かっている。
「この前、お前さん言ってたじゃろ。義手にナンチャラ仕込んでくれって」
「あー、ハイハイ。言ってましたね」
「じゃから、試しに仕込んでみた。使い方は、相手に左手向けて、その鉄の紐を引くと……プフッ、面白い事が起きるでの」
えっ、なんだろ! ワクワクすんだけど。
試しに無言でハト爺に向けたら、メッチャ怒られた。
「それはイザッ!って時ようだ、安易に人に向けるんじゃない!」
あい、ツゥイマテン。でもなんだろう、マジでワクワクするんだけど。もう、少しぐらい教えてくれてもいいのに、イケズだなぁハト爺。
そんでこの仕掛け、使い切りみたいでアタッチメント的な丸い筒を幾つが貰ったんだけど。ん〜、益々気になる、あとで海岸あたりで試し撃ちしてみようかな。
ありがとうございました。




