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〔墓守り紋次の物語〕  作者: 猫屋敷 中吉
15/122

再びの襲撃!

よろしくお願いします。


 一時間ほど街道を進んだ辺りで絹さんが、みんなに提案をして来た。休憩がてら腹ごしらえをしないかと。

 目的地まではまだ二時間近くは歩く事になり、尚且つ、みんな朝の準備で忙しくて、朝食を食べ損なったとの理由からだった。正直俺も腹ペコで、足に力が入らん。


 だって昨日の夕飯、緊張しすぎであまり食べる気になれんかったから。

 おかげでイエ姉に、物凄く心配されたっつーの。誰の所為だよ、ったく! はい、自業自得です。あいすいません。


 だけど絹さんの本当の目的は……。お花を摘みに(トイレ)行きたかったらしい。馬を降りてからも、ソワソワ、キョロキョロ、しかもモジモジもしてるから皆んなにもバレバレだ。


 荷物の中から花柄の巾着袋を取り出して、コソコソしているその背中にポロッと「小用ですか?」って、空気も読まずに聞いてしまった。


 そしたら絹さん、珍しくニコニコ顔で俺に近付いて来て、それに多少の違和感を覚えるも。

 やっぱ笑顔だと可愛いなぁ、なんて呑気な事を考えていたら。

 バチンッ! って思いっきり『肩パン』されたッ! 肩クッソ痛ってー! まじコイツ洒落になんねー!!

 フンッと、鼻を鳴らして絹さんは杉林の中へ消えて行ったよ。本っ当、残念美人だよな! バファリン飲んで優しさ蓄えろっ!


 

 街道を挟んで、右手が杉林で左手が田んぼと田舎によくある風景。空も快晴で、生っぽい真水の匂いのする風が、いまだ成長途中の稲を優しく撫ぜてる。


 人の手で作ったであろう、均一に植えられた杉林の入り口にお地蔵様が三体と、その足元には泥団子がお供えしてあった。子供に愛されているお地蔵様だな。そう思うとさっきまでの苛立ちも消え、ホッコリした気持ちになれた。


 ついでにお地蔵様の隣りには、みんなが腰を下ろせるくらいの空間が空いていたので、ここで朝食を取る事にした。 しっかし、絹さん遅いなぁー、

『薔薇の木の伐採』(大きいほう)の方だったのかなぁー。また、変な勘繰りをしてしまう懲りないワタクシ。


 しばらくすると、何気ない表情で戻って来た絹さん。手拭いで手を拭ってますが、それはどっちの意味でしょうか? 


 イチ、手を綺麗に洗ったので普通に手を拭いている。

 ニ、手に飛び散ったので普通に手を拭いている。さあ、どっちでしょう?……final answer?


 なんて、もちろん聞けず口を窄めていると。真顔で近寄ってきて、いきなりまた、思いっきり『肩パン』されたッ! なんて理不尽! メッサ痛てー!!


「いやらしいっ! エロモンジ! 死ねっ!!」


 あんた、エスパーかっ!!


 絹さん、俺に肩パンした事で心もスッキリしたみたいで、フンッ♪フフンッ♪と鼻歌混じりで荷物をいじっている。


 アナタノ、オヤクニタテテ、ナニヨリデス。


 へへっ。棒読みの感情を垂れ流してやったぜ。言葉にはしていないがな!

 ちなみに、絹さんの腰には竹の水筒がぶら下がっていた。キチンと手を洗ったみたい。一応、彼女の名誉の為の補足。



 荷車から絹さんは、笹の葉に包まれたお弁当を取り出すと、竹の水筒と一緒に皆に配っている。どうやら彼女の手作り弁当らしいんだが、みんなには手渡しなのに、俺にだけは放り投げて来やがった。なぜに、俺にだけ塩対応!?


 仲間内に女性が一人だけの状況で、彼女なりの気遣いなんだろうが、俺にだけ当たりが強いのは気の所為なんだろうか?

 心理的に、好きな異性に対し照れ隠しからか、つい乱暴な態度を取ってしまうみたいな。あり得るのか?


 ……やっぱ絹さん、俺の事好きなのかな? そんな勘違いをさせる程に、巫女装束の彼女は……。何と言うか、とても綺麗だった。


 分かり切ったあり得ない妄想を抱きながら「いただきます」と、絹さんの手作り弁当(塩結び三個と沢庵)を、有り難く頂くことにした。

 賊からの襲撃を警戒しつつ、一つのグループで纏まり、遅めの朝食を取っていると。


 田んぼの畦道(あぜみち)を一人の青年が、こっちに向かって走って来るのが見えた。

 一応、皆んなにも教えると、自ずと手持ちの武器に手を掛け、若干、警戒色を強める。


 農民、二十歳ぐらいの青年。その青年は息を切らせ、流れる汗もそのままに俺達の前まで来ると。


「あっ、あのっ!はっはっ。……お侍様、んはぁ、はぁ、聞いて欲しい事があります!ゲホ、ゲホ」


 膝に手を置き肩で息するこの青年は、いの一番に紋付き羽織袴姿の繁忠に、必死に訴えかけて来た。


 青年に水筒を渡すと、彼は小さく頷きゴクゴクと喉を鳴らしながら水を流し込む。少し呼吸も落ち着いたところで、改めて繁忠に向き直り。


「あ、あの、昨日の晩のこと何ですけど。いつも通り田んぼの見回りに来ていたんですが、林の中に怪しい男達の姿が見えて。……なんだか悪い予感がして、俺、隠れながら様子を見ていたんです」


 眉をひそめて話す青年の言葉に、言い知れぬ胸騒ぎを覚えて、皆と視線を交わす。彼はまた水を一口、口に含むと説明を続けた。


「あいつら、甲冑やら何やら着込んでて、刀や槍も持ってまして。……まるでこれから戦でもおっぱじめるような、そんな雰囲気でして。怖くて一晩中眠れずにいたら、お侍様の姿が見えたので、居ても立っても居られず、こうして馳せ参じた所にございます」


 話を聞き終わる前に、繁忠の表情は一変しており、強面の顔を渋いものに変えていた。俺はすかさず、村の方角へと視線を頭ごと振った。


「……!?」


 ここに来るまでに抜けて来た森。その木々の隙間から、細い煙が何本も立ち登っている。


 快晴の空に狼煙の如く立ち登る煙に、繁忠の渋面がさらに渋くなる。驚愕と怒りに包まれる一行に、進むか戻るかの選択肢が迫る。たけど、リーダーである、繁忠の指示を待てずに俺は。


 二の句も告げずに走り出していたッ!


 脱兎の如く、一目散にっ! 俺達の村に向かって後先考える暇も無く、無我夢中で走り出していたッ!!


「チッ!……あのバカ、一人でっ!」


 最初に口を開いたのは絹だった。柳眉を歪め、小さくなって行くモンジの背中を睨むその目は、憂いを含むものだった。


「そうでもないぞ!」


 否定から入った言葉。渋面をいくらか柔らかくして繁忠は、絹と向き合う。


「アイツは、あぁ見えて、やる時はやる男だ」


「はぁ? それって、普段ポンコツな奴が普通のことをしただけで、高評価に写るってだけの事じゃないの?」


「確かにそうかも知れんが……。ワシには確信があってな」


 緊急事に置いての冷静さを取り戻した繁忠は、既に一人の武人の顔に戻っている。(いぶか)しげな視線を送る絹に、彼はこう告白した。


「アイツはとんでもない化け物だ。……否、正しく言えば、アイツの中に化け物がいる。百人程度の賊なら、一人で蹴散らす程の化け物がな」


「な、何言ってんの!」


 驚愕の表情の絹に、恐ろしく冷めた眼で諭す繁忠。その顔は訳知り顔にも取れた。


 フッと短い息を吐いて、いつもの厳つい岩を張り付けたような顔に戻した繁忠は、また細めた優しい目で、既に見えなくなったモンジの背中に視線を送る。


「まぁ、上手く使えればの話だがな」


 破顔しながら、そう付け加えた。


「なんなのよっ! 訳わかんない!」


 対照的にプリプリご立腹中の絹を他所に、緊張に包まれたこの場に、繁忠の指示が飛ぶ。



「河口兄弟は引き続き、賊共の砦の場所の特定と偵察を頼む。手出しはせんでいい。砦の規模と形状、周りの状況が解れば充分だ」


「「はいっ!」」


 緊迫した面持ちで河口兄と弟は、荷車から各々の武器を取り出し、目的地へと駆けていく。


「絹とワシは、村の加勢へと向かう。……宜しいかな?」


「もとより、そのつもりよ!」


 不安げに尋ねる繁忠に、真っ直ぐな瞳で応える絹。その瞳には強い意志が宿っていた。


 繁忠は、改めて今回の情報提供者の青年に、姿勢を正して向き直ると。


「改めて礼を言う。お主の功績により多くの命が救われるであろう。よって後日、日を改めて礼に伺うという事で、よろしいか?」


 そう言うと、懐に忍ばせてあった家紋入りの小刀を差し出す繁忠。


「これが証拠の品になる、預かっていてくれ」


 ワタワタと困惑している青年に強引に手渡すと、繁忠は深々と頭を下げた。


 此れにて御免と一言、踵を返し荷車から自身の愛刀を取り出す繁忠に、既に自分用の武器を装着済みの絹は溜息と共に、こう漏らした。


「本っ当。硬っ苦しいのよあんた! 顔も性分も!」


 ジト目で覗き込んで来る絹にキョトンとする繁忠。切れ長の目を幾分柔らかな眼差しに変え、絹に向ける。


「絹は、本当に可愛いのお」


 ははははっ、軽快な笑い声と共に、向けられた繁忠の笑顔に、一瞬で頬を染めた絹さん。


「バカじゃないの! 繁忠といい、モンジといい。バカの相手をするコッチの身にもなりなさい!」


 怒り口調ではあるが、嬉しさを隠しきれない絹の態度に、その素直で可愛い性格が、繁忠のお気に入りの一つである事は間違い無かった。


「では参るぞ」


 繁忠と絹は馬に跨り、急ぎモンジの後を追う。そこで絹は、今だ朱に染まったままの顔で、言葉を一つ落とした。


「……モンジが化け物って」


 悲しげな声音で零れた疑問。その小さな声は、生っぼい真水の匂いのする風に吹かれ、何処かへと飛んで消えてしまった。


ありがとうございました。

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