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〔墓守り紋次の物語〕  作者: 猫屋敷 中吉
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愛玩動物 ……馬?

よろしくお願いします。


「アレで良かったのかな♪」


 森山村の村道を二人の大男を従え、陰陽師『立花 四季』は眼下、足元へと語りかける。


「んなぁ〜〜」


 暗がりの地面から聞こえる奇妙な鳴き声。そこには三人に遅れまいと小走りのーー『猫』がいた、三毛猫である。小太りの体で懸命に走っている。


「なぁっなぁっ!」


「だと良いんだけど♪」


「なぁー、なぁなぁ!なぁ〜」


「ハハッ、確かに♪」


 視線を絡ませ、当たり前のように会話が弾む一人と一匹。その不思議な光景に後ろにいる大男二人組は、日常の出来事のように、全く気にもしていない。


 村の出口まで来ると猫はペタンと腰を落とした。猫に併せて立ち止まる、陰陽師と大男二人組。

 招き猫然とした座り姿の三毛猫に三人は向き直ると、まるで上位の人間に対する態度で彼等は、頭を垂れた。


「お見送りありがとうございました豊布都(とよふつ)様。それでは、我ら急ぎの用にて、此れにて失礼いたします」


 こう語ると立花四季は頭を上げ、ニコッと眩しい笑顔で三毛猫に視線を落とす。そして踵を返し、大男二人を連れて足速に、闇の中へと消えて行った。


 取り残される『豊布都』と呼ばれた三毛猫は、金色の瞳を輝かせ、二本ある尻尾を器用にうねらせ佇む。そして静かに、瞬きもせずに、彼等が見えなくなるまで、見送っていた。



♦︎♦︎♦︎



 次の日の早朝。

 朝一番で俺は、集合場所である剣術道場の前まで来ていた。勿論、奇襲作戦の為である。

 辺りはまだ薄暗く、海原には朝日が顔を出し始め、潮風も少し肌寒く感じる。良い子はまだまだ、ねむ眠の時間帯である。にも関わらず彼等は、気合い充分と言った様子で出発の準備を進めていた。


「おはようございます」


 から元気で近付いていく。昨日の夜は緊張の余り、ほとんど眠れてなかったから。寝不足気味で、未だ頭がボーとしている。


「遅い!!」朝一番から絹さんに怒られた!


 絹さんの一喝でシャキッとした。

 でも、すぐに背中が丸くなる。だって、イエ姉も着いてきたがったから、危ないもんね今から行く場所。だから、それを振り切るのに時間がかかったんだよね。

 頭の中で言い訳をするが、言葉に出せない小心者のワタクシ。絹さんに言い訳しても、火に油だしな。


「さーせん」小声で謝ると、ちゃんと謝りなさいっ!キーッ!ってまだ怒ってる。……朝からテンション高ぇな、すこぶる面倒くさいよ、この人。



 薄化粧と上が白で下が赤の、よく神社で見かける巫女装束。巫女さんである彼女の戦闘服らしい。

 見ため清楚な感じの彼女に、とても良く似合っていて、普段の着物姿より二割増しで美人に見える。ただ、怒っていなければの話だが。


 しょんぼり肩を落としながら繁忠の元へと向かう。「おはようございます」と元気無く挨拶すると、今のやりとりを見ていたのか、「お、おう、朝から大変だな」と同情された風に返された。


 繁忠と見つめ合い、無言で会話する。女子って難しい生き物だよなって、そう言っているように聴こえたのは俺だけかな。


 パンパンッと、顔を叩いて気合いを入れて。


 そういえば、今日の繁忠の格好も気合いが入っている。藍色の紋付き袴姿で、髪型も油でキッチリ綺麗に結わえていた。

 いつもは適当に髪を結えただけの、熊が服きてるみたいな、もっさい感じなんだけど。

 ……アレッ? そう言えば俺、何にも言われてないから、いつものからし色の着流しなんだけど。ちょい不安になる。

 あと、河口兄弟(繁忠の道場の門下生)ってお兄さんが二人いて、この二人は紺色っぽい着流し姿で、俺と同じラフな格好だったから、少しホッとしたのは内緒の話。



「よし、みんな揃った所で。今日これからの、作戦行動の確認をとる」


 前の晩、陰陽師様から提案された奇襲作戦を、改めてみんなに説明する繁忠。そっか、詳細は詰めてなかったっけ。


 陰陽師様からの作戦まんまを繁忠は説明し、捕虜の受け渡しに関しては、少人数での交渉の為、万が一があっては為らないと却下。交渉材料にはするが、連れて行くのは今回は見送った。

 まぁ、連れて行った捕虜に作戦がバレたら、奇襲作戦じゃ無くなるからね。



「まず、コレから向かう場所は常之領と下之領の領境(りょうさかい)にある賊共の砦だが、昨日説明した通りに奇襲作戦を行う予定だ。そこで、今回の作戦の配置なんだが……」


 

 そこで、今初めて聞いた配置なんだけど、交渉役で繁忠と絹さん、砦攻略時の援護兼伏兵役で河口兄弟、そして今回の要でもある刺客役は……まさかの俺。


 はぁ? 何言ってんだ、このハゲ!……ハゲてないけど。


 イヤー、無理、無理っしょ! 刺客なんて絶対無理だって! こっそり寝首を欠くって、人を殺すって事でしょ。いやー、無理、無理、絶対無理っ! 俺、人殺しなんて絶対出来ないもん!!


 繁忠にお前なら出来るとか、お前しかいないとか、あいつ等は悪党だから気にせんでもいいとか、さんざん説得されるも人殺しなんて絶対無理ッ!!


 平和な時代に育った俺は、殴り合いの喧嘩すらした事すら無いっつーのッ。つまり、人畜無害な『もやしっ子』なんだよ、俺はッ!!


 だから、ここは断固拒否するッ。刺客役なら河口兄弟にさせれば良いだろ! そもそも、人殺しの片棒担ぐみたいで昨日の夜からへコンでたのに、ったく! ふざけんなよッ!!


 俺と繁忠がギャー、ギャーすったもんだしていると、視界の隅に残念美人さんの怖い顔が映る。


 腕を組みながら指をトントン、トントン、歯噛みをしがら台所の隅でゴキブリ見つけた時のような、そんな目つきで俺を見ている。なんなら、舌打ちまで聴こえて来そうだ。


 河口兄弟に至っては、荷車に荷物も積み終えたのか我関せずといった感じで、腰を下ろしてタバコを吹かしたり、鼻毛を抜き始めたりしている。


 みんなからひしひしと感じる『このヘタレが!』って気持ちもよく解る。たが、これだけは譲れない!


 俺は人殺しなんかしたく無いんだよッ!


 テコでも譲らない俺の態度に繁忠は、フウーと、大きな溜息を吐くと、渋い顔で妥協案を出して来た。

 最悪、殺しはしなくても縄で縛り上げるって事で、納得させられてしまった。うん、まぁ、それならなくは無いからな。

 みんなの視線が冷たく感じる。くっそ〜! 虫も殺せない俺を舐めんなよッ!



 なんとか、話し合いは纏まりはしたが今更ながらに緊張して来る。

 こんな大役、素人の俺なんかに出来るのか? しかも人攫いって、犯罪者やん。いや、無理っぽい。確かに言い出しっぺは俺なんだけども。……ヤバい、緊張でゲロ吐きそう。


「では、行くぞ。馬を引け」


 繁忠の号令に河口兄弟は、三頭の馬を引いて来た。二頭は繁忠と絹さん用、もう一頭は荷車用。う〜ん、馬、馬……馬ッ! うま、小っさ!!


 馬は馬であるが、ポニーを一回りぐらい大きくした小粒の、なんとも愛くるしいお馬ちゃん。暴れるのが大好きな将軍のカッコイイ馬を想像していただけに、そのギャップ萌えが堪らない。

 ……動物園のアトラクションでよくある、お子様用ぐらいかな。


 そのポニーもどきの馬に、颯爽と乗馬する繁忠と絹さん。絹さんはサイズ的に問題ないけど……。繁忠、それは無い。

 ただでさえ体のゴツい繁忠だけに、ポニーが凄くしんどそうだ。この世界に動物愛護団体がいたら、速攻、訴えられそうだな。


 だけど、そんな珍妙な乗馬姿に繁忠が変にカッコつけてるもんだから、プフッ笑いが込み上げてきた。



「なんだ」

「プフッ!……コホンッ! 何でもないです」


 俺の奇異な視線を感じたのか、繁忠は訝しげな顔で振り返るが、すかさず適当な答えで誤魔化す。


 だって、初めて子供と乗馬体験したものの、やっぱり怖くて強引にポニーに変えてもらった、ヘタレなお父さんを想像したもんだから。ちょいウケる。



 ハッ! 意気揚々と小っさいポニーを歩かせる繁忠。……プフッ、ヤッバッ、面白い絵面(えづら)


 でも、おかげで緊張が少しほぐれたかも。

 ちなみに繁忠と絹さんは交渉役なので丸腰、武器は持っておらず、河口兄弟はイザと言う時の為に、小刀を腰の後ろに挿している。

 俺は小刀一本と、捕獲用に細めの縄を腰にぶら下げている。身を隠す俺用の樽も、荷馬車にあるしな。

 そして荷車の下には、繁忠と絹さん用の武器と、爆弾入り木箱を隠して積んである。


 良し、準備は万全! 人生初の奇襲作戦の開始だ! 誰も欠ける事も無く、無事に帰って来るっ!!

 そう心に硬く誓って、俺達は村を後にした。


 意気揚々と村を出立した、視察兼攻略組のモンジ御一行。


 一方で、俺達五人が村から出て行くのを、木の上で息を殺しながら見ていた男達がいた。

 彼等は皆、獣の皮をそのまま羽織っただけの出立ちで、黄色く濁った歯を剥き出し、不敵な笑みを浮かべていた。


ありがとうございました。

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