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第49話 モテ期は突然やってくる09


「いたっ」


 ジュデッカが顔をしかめた。


 学院祭の準備期間。


 そにおけるメイド服の裁縫だ。


 針で指を穿ったらしい。


 よく見かける一風景ではある。


「――治癒強化ヒーリング――」


 自身に魔術を掛ける。


 針による出血が治まった。


 体力と魔力の不等価交換。


 肉体の治癒能力を強化する水属性のゼネラライズ魔術だ。


 が、


「ほう」


 不貞不貞しく紅茶を飲んでいたミズキが不思議がる様にジュデッカを見ていた。


「何か?」


「いや、コンセントレーションを維持できるのは大したモノだなと思ってな」


「普通じゃありませんか?」


 ジュデッカには普通だ。


 ついでにミズキにとっても。


 けれども時折、「痛覚によってコンセントレーションを乱し魔術が使えなくなる」と宣う魔術師は少なくない。


『魔力の調達』


 と


『宣言の発声』


 はともあれ、


『詠唱の調べ』


 を維持するのが魔術師にとっての一つの壁だ。


「良く出来ているな」


 別段褒めるでも無く感心するミズキ。


 ちなみにまったく他意は無く、ついでに心の程もかなり星空のディスタンスではあるのだが、そこは彼の十八番だ。


「あ、ありがとうございます……先輩……」


 赤面すると、何処か超然としている乙女も形無しだった。


 普通に普通でちょっとした乙女心の作為。


「…………」


「…………」


「…………」


 かしまし娘が睨んでくる。


「俺が何をした?」


 が率直なところだが、


「乙女心の理不尽さ」


 を、この男はあまり承知していない。


 恋慕への理解こそあるモノの、あくまで辞書を引けば「異性に愛情を寄せること、その心」と書いてあるな……とぬけぬけと言うタイプ。


 紅茶を飲む。


「結局メニューはどうなったんだ?」


 必殺。


 話を逸らす。


「こんな感じで」


 メニュー表を差し出される。


 複数の紅茶と菓子が幾つか。


「金額は?」


 書いてない。


「タダですよ?」


「…………」


 有り得ない言葉を聞いた気がした。


「どうやって稼ぐんだ?」


「えーと……」


 憂うようなカノン。


 だいたい察した。


 詳細の如何ではなく、


「およそ碌でもない」


 ということを。


 そして自分が利用されることも。


「…………」


 半眼で睨む。


 嫌な予感か。


 虫の報せか。


 何にせよ防波堤を築くにしても、ちょっと警戒が遅れて出たのも事実の一片ではあって。


「まぁ学院祭だし!」


 彼女は無理矢理結論づける。


「はっちゃけるのもありかと!」


「人に迷惑がかからん範囲でならな」


 そこの塩梅は然程気にしてもいないが。


「で、結局何するんだ?」


「オークション」


「……んーと」


 意味不明ではある。


「舞台を借りてオークションを開催するんです」


「何の?」


「当然喫茶の席取りですね」


「ああ」


 なるほど。


 納得してしまう。


 要するに席代を事前徴収するということだ。


 なお此処にいる五人はそれぞれが特筆すべき美少女性を持つ。


 ミズキにしてみれば不本意が付き纏うとしても。


「そうなると詐欺罪が適用されないか?」


「そこは人の良心を信ずるところですわ」


 サラダが言った。


「お前は……」


 ジト目。


 が深緑の美少女は飄々と、


「望まれているのですから応えるのが義務でしょう?」


 言ってのける。


 貴族としての誇り高さもここに加味される。


「何だかなぁ」


 天井を眺めて無常を思うミズキだった。


 彼にとっての不本意さは青天井もいいところで。


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