第50話 モテ期は突然やってくる10
とりあえず学院祭は近づけど、講義も並行して開かれる。
そんなおりしの季節であれど、ミズキは中庭の原っぱでこれもまた当然の様に寝こけていた。
顔には『属性神知入門』の教科書を被せて日光を遮っている。
「やほ」
そこにカノンが声をかけた。
セロリとサラダ……それからジュデッカは講義の真っ最中だ。
ので、平日はよくミズキとカノンが並び立つ。
ソレについての危機感はセロリもサラダも持ってはいるが、
「どうしようもない」
のも確か。
地頭の面でミズキは特筆しており、それに関してなら右に出る者がいない。
実技に関してはかなり劣等生ではあるのだが、コレに関して評価基準を学校側に訂正申請する気が彼には欠片も無かった。
総じて講師としても頭の痛い生徒だが、
「知らん」
で議論を終わらせるミズキでもある。
「暇しているのか?」
ミズキが問うた。
声に反応して起き上がり、白髪の頭をガシガシと掻く。
原っぱの草が服からはたき落とされて風に乗って舞う。
「それなりに」
悪戯っぽくカノンが苦笑する。
「メイド服は?」
「スポンサーの協力有りき」
「お前はぶきっちょだからな」
「ミズキには言われたくないんですけどね」
「然りだ」
くっくと笑う。
「講義は良いの?」
「予習はした」
事実だ。
教科書を読んで、講義の理解はしている。
その理解が、
「あまりに過分すぎる」
と言われ、事実その通りであるから講義に出る必要も覚えないのだが。
「しかし学院祭ね」
今更な言葉。
ワンオフ魔術。
『治癒』
それ故の業で、へっぽこと呼ばれる。
噂を振りまいたのはサラダで、学院の通念。
殊更反論も面倒だが、
「むしろそれ故に」
との想いもある。
「カノン」
「何でしょ?」
「俺の事好きか?」
「愛してる」
一切の躊躇も憂慮もなかった。
ことコレに関する限り、彼女の想いは突出している。
おおよそ恋慕の幻想という点に於いて彼女にとってほとんど現実と同質であって、かりに覚めない夢でも一切の滞りがない。
「ミズキはカノンの王子様だから」
「約束はしたよな」
――童話の中の王子様みたいに助けてやる。
一種の契約。
絶望を希望に変える魔術。
そしてその通りにミズキは言を実にした。
「カノンの王子様」
カノンがそう言うのも致し方あるまい。
唯一ミズキの不条理性を目の当たりにして生きている証人だ。
セロリとサラダにも伝えてはいるが、
「実際に能力を見た」
のはカノンだけ。
ほとんど、
「呼吸する大災害」
だが、ソコには深い知性による使役が存在する。
誰彼喧嘩を売る真似をミズキはしない。
圧倒的な威力を持ちながら、
「面倒」
で事態を受け流し素麺。
「別に畏れ入ることでもないんだが」
とは言うが、
「そんなんじゃないよ」
にゃあ。
抱きつくカノン。
懐いているのだ。
言ってしまえば。
「絶望から救い上げてくれた格好いい男の子」
カノンにとってのミズキがソレだ。
「過大評価は有り難く」
謙遜より卑下に分類される。
勿論自覚が無いわけでは無い。
ただ、
「あまり過信されても」
が背中をつつく。
自身を、
「万能だ」
などと思わないよう戒めているミズキであるから、
「先のアレは偶然だ」
と思わざるを得ない。
仮にカノンと出会わなければ、
「無視して終わり」
だったはずだ。
ワンオフ魔術。
誰より優しい魔術だが、
「それでも世界平和には程遠い」
それもまた事実だった。




