不合理な真実
「貴女に勝利を贈りましょう」
ニートはアーネに囁いた。アベンジャーズが連行されて行く中で、アーネに駆け寄ったニート。気が抜けて、倒れ込んだアーネを自然に支えた。
『大丈夫ですか――――――――――』
ピンマイク相当の通信アイテムをさりげなく外し、可聴範囲外に転がした。ニートの手慣れた動作。アーネの肢体に刺さった武器を次々と抜く。
安全圏故にアーネはすぐに回復する、アバター、つまりゲーム世界の肢体だけは。だからこそ、アベンジャーズを捕らえに来た評議会警邏部隊は救護スタッフがいなかった。
アーネと、アーネが身を挺してかばったニート。何をどう勘違いしたのか、まあ勘違いして当然だが、ニートがアーネを介抱しているのを見て誰も近づかない。
アーネはニートが嫌いであり、弱みを見せるなど御免だ。
しかし、そんな個人的な話を誰も知らないから割り込んでくれない。だから嫌いな相手に介抱されるなどという不本意に甘んじることになるアーネ。
何とかしたいとは思うが、気が張っていた反動で弛緩した肢体は動かない。それに嫌いと嫌悪感は違う。反射的に逃れるような反応はしない。
第一、アーネは介抱してくれる相手を邪険にするような、礼儀知らずではなかった。
かくして成立した一枚の絵。
体を張って自分を守ってくれた少女を介抱する男。
皆が気をつかったのも無理はない。
アーネが客観的に今の自分を見つめたら悲鳴を上げただろう。今はほっとしつつ、釈然としないながらも状態を受け入れた。
――――――――――――――――――――――――――――――ニートの狙い通り、群集の中の死角が生じた。
気を抜いたアーネにニートがささやいた。だからアーネは固まった。ニートは常に相手、この場合はアーネ、に最適な形で囁く。
貴女に勝利を贈りましょう。
鬼ごっこでアーネを勝たせる。
標的のネコ、現在潜伏中、に命令出来る唯一の存在がニート。鬼ごっこの流れを取り仕切るニート。ニートなら誰でも勝たせられる。
アーネにとっても鬼ごっこ勝利は至上命題。
上司のクラウンに命令されたからではない。ちなみにクラウンはアベンジャーズを連行して行き、不在。アーネが勝利を目指すのは皆を守りたいからだ。
鬼ごっこは勝者に賞品が出る。
有力大手ギルドが蓄えているアイテムつかみ取り。
一方的に誰ともしれない相手にはめられて、鬼ごっこに巻き込まれた大手ギルド。
一プレイヤーが掴める範囲とはいえ、レアアイテムなどを取られたらしゃれにならず、納得出来ない。
出来る訳がない。
だがしかし、それを反故にすれば、鬼ごっこを運営している(ことにされてしまった)評議会の信用が無くなる。
せっかく鬼ごっこ運営を通して認知され、アベンジャーズ事件で警察権まで手にしたのに、だ。
ここで混乱を起こせば、育成圏の崩壊すらありえる。
だから、イヤイヤしぶしぶ仕方なく、莫大な賞品拠出を迫られる大手ギルド。さらにややこしいのが、みんなが不幸を共有するときに、一番ツキがない例外。
唯一、賞品提供者リストに入っていないのが、ギルド《黄金の夜明け》
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――アーネの所属ギルド。
みんなが不幸なときに一人だけ難を逃れる・・・・・・・・これ以上の不幸があるだろうか???????
何故?
何故か、リストに入ってなかったのだ。誰かがバラまいた、鬼ごっこ開始告知。その末尾に連なる賞品提供スポンサーギルドの中にギルド《黄金の夜明け》がない。
何故かは誰かが、誰かだけが知っている。
が、今のアーネには関係ない。大手ギルドの集まりである評議会。評議会議長を勤めるギルド《黄金の夜明け》ギルドマスター。
賞品拠出を強いられた他大手ギルド全ての恨みを買えば、評議会の運営が行き詰まる。
評議会が行き詰まれば、やっぱり育成圏、数万の初心者プレイヤーが破滅する。
(かもしれない)
それだけは避けなければならない。
賞品を出さなきゃ破滅。出しても破滅。破滅を避ける方法は一つ。
賞品を出しながら、それを回収し大手ギルドに戻すこと。
ならば評議会の身内に勝たせるしかない。
賞品を出す大手ギルドは、望んだわけでもないのに鬼ごっこ運営を兼ねている。そのメンバーが勝てば八百長扱いされるだろう。
大手ギルドと利害が一致しているから商品を返還するであろうプレイヤーが必要だ。そして作為を疑わせない、ごまかしうる人間が必要だ。
ならば参加者を、ギャラリーを、中継を見ている皆を納得させられるのは?
アーネだけだ。
アーネはギルド《黄金の夜明け》メンバー。賞品で言えば利害関係がない。ただし運営を仕切る評議会の中心ギルドだけに公正さを疑われる可能性はある
――――――――――――――――――――――――アーネ以外のギルド《黄金の夜明け》メンバーならば、だ。
上司のクラウンがアーネに勝利を命じた理由。いや、作戦を命じるならともかく、勝利それ自体を命じる発想は余人にはうかがい知れないけれど。
最初から鬼ごっこに参加して痛い目を見続けて、参加者ギャラリー視聴者、皆に親しまれたアーネ。彼女なら疑惑は無視出来る。
たから、ニートは囁いた。
貴女に勝利を贈りましょう。
アーネも状況は理解できた。
踏んだり蹴ったり刺されたり怒鳴られたり、憐れまれたりするアーネ。決して、バカじやない。むしろ聡明な方だとニートは観ている。
「よーく、わかりました」
評議会にとって、育成圏のプレイヤー多数にとって、それが最善と理解したアーネ。
――――――――――――――――――――ニートが見込んだ通り、アーネは現実が理解できる人間だった。
「ふざけんな」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ニートが耳を疑うのは、人生で初めてかもしれない。
アーネはふらつきながら立ち上がる。
「失礼しました」
ぺこりと頭を下げたアーネ。
「正々堂々と競います」
ニートを睨む。
「だから、お断りします」
傍らのピンマイク相当の通信アイテムを拾うアーネ。
『皆さん!!!!!!!!!!』
中継がアーネに集中。どよめきが街中からあがる。
『次は私の順番です!』
歓声!!!!!!!!!!
『かくれんぼ、再開です』
のちに、《アベンジャーズ事件》と呼ばれる暴力事件。
その余波でなんとく流れそうになっていた、鬼ごっこ中のミニゲーム、かくれんぼ。
アーネの再開宣言に歓声が上がる。
誰も、評議会も中継スタッフも中継席も、中止や休憩を宣言していない。なし崩しに運営を任されてしまっている皆が互いをうかがっている状況。
明確な指揮系統がない。
――――――――――――――――――――言ったもの勝ちである。
『さーさー再開しました!かくれんぼ!!大事件の後でしたが大丈夫なんでしょうか?解説のエルコレさん??』
『一番大丈夫じゃない人がやる気満々ですからね・・・・・・・ただ、元気には見えません』
『そういえば、ふらついているような・・・・・・声援が飛んでます』
『生真面目な娘ですからね』
中継のルーシーは解説のエルコレと参加者のアーネが同じギルドだと思い出したが、それには触れないほうがいいと判断した。
『かくれんぼが一通り終わったら、休憩にして方がいいかもしれませんね』
『あ、評議会で話し合いに入ったみたいです・・・・・・終わるまでには決まるでしょう』
『位置につきましたよ』
かくれんぼ会場。
約10mほどの空間の真ん中がニート。離れて相対するアーネ。全周20m四方の大半は5階建ての建物で、全体がかくれんぼ会場となる。
ふらついているアーネ。
たった一人。
ハイレベル隠ぺいスキルを発揮して隠れているネコ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・勝負になりません。
アーネちゃんは真面目だな。
アーネちゃんは苦労性だな。
アーネちゃん、もうゴールしてもいいのよ??
みな、納得顔。
委員長気質で決められたことを誠実にやり遂げようとする姿勢。捨て身で人をかばうところも含めて、まあ、仕方ないよね、という暖かい視線。
ニートは、まいったな~というように見ている。勝たせてあげるのに、あからさまにそれを拒絶してくるアーネ。
ニートは賭け事はやらない。八百長はする・・・・・可能性を否定しない。
鬼ごっこ中にブックメーカーが乱立していたし、ニートはそれにも関わっていたかもしれないが、すべて展開を操作できるからこそ、だ。
・・・・・・・・いや、関わっていたとは言わないですけどね。
しかし、相手と合意ができないと八百長ができない。
アーネはフラフラだ。
アバターのステータスに悪影響こそないが、真面目に殺しにかかってくる7人と正面から向き合ったのだ。精神的なモノだろう。
鬼ごっこと違い、かくれんぼなのだから見つけるだけでいいのだが。
(さて・・・・・仕方ない)
『位置につきましたね?カウントしてよろしいですか??』
中継席から。
アーネがうなづく。ニートも続く。そもそもニートは参加者ではないのだが。
『10,9,8,7,6,5,4』
アーネの肢体に力が入る。
『GO!!!!!!!!』




