解決はしないけれど
大広場。
アベンジャーズの僧侶二人。ボブカット少女と長身の女。
ネコカフェの拳士と鍛冶職。セイ&トモ。
・・・・・・・・・・・・・トモは鍛冶スキル持ちの職人クラスです。いえ、関係ないですけれど一応。
にらみ合う二組。
攻撃力皆無の僧侶たち。
攻撃特化型とスキル構成が解らないセイ&トモ。
まあ、セイが二人の敵を蹂躙する流れである。
「やめてください!・・・・・・・ケホっケホ!」
真剣で、それでいて毅然とした声、せき込んでるけど。二組に駆け寄った。まだ息を切らせている。評議会の設置した警邏本部から大広場までざっと1kmほど。
全力疾走したんでしょうね。
僧侶は回復全振りが多いですけれど、ちょっと極端すぎませんか??
プレイヤーアバターはベースだけでオリンピック選手程度の運動能力はもてる。だがしかし、ステータスに影響しない範囲でプレイヤーの感覚に引きずられる。
感覚ってより、全力疾走したらこうなるであろう、って思い込みか。
疲労判定によるマイナス修正を受けていないのに疲労感を感じたり。
窒息判定によるダメージ反応を受けていないのに息切れしたり。
ヴァーチャルゲーム特有のこうした反応は、攻略組や初心者チュートリアルでは気を付ける点である。ステータス以外の体感反応で動きが鈍り、クエストに失敗したら目も当てられない。
・・・・・・・・・・・・・・・・さておき。
中継映像が分割されて、かくれんぼ会場と大広場に分かれた。ここ、大広場では一人の人物にフォーカスアップ。
「お願いします」
深々と頭を垂れる、清楚な女性。
僧侶クラスでありながら、オリジナルメイドなシスター服・・・・・・・・・・・・・シスターである。
ギルド《マルタ騎士団》のギルドマスター。
大手ギルドであり、大手ギルドの集まりである評議会を代表する一人と目されており、個人として皆に慕われ頼られている。
そんな偉いエライえらいプレイヤーが・・・・・・・・・・・・・・・・・・ものすごく、これ以上ないくらい、頭を下げております。
ココから先は五体投地しかありません。
それだとシスターってより、尼僧ですので別なギルドの話になってしまいますが。
ヴァーチャルゲーム・スフィアの二大女僧侶。
ギルド《マルタ騎士団》のシスター。
ギルド《聖球寺》の聖。
宗教色が薄い、っていうか、雰囲気だけのボランティアギルド。
仏法の守護者たらんとし教祖に絶対服従する原理主義教団。
とても対照的である。
五体投地なら仏教系の聖の方が・・・・あ、豆知識はいいですかそうですか。
「貴女も、復讐はやめろっていうのかしら」
「やめねーけどな!!」
アベンジャーズのボブカット少女、そしてセイ。
二人がシスターに吐き捨てるように言葉をたたき付けた。
いや、セイの場合は復讐に至る原因がまだ発生しておりませんが。
まだ。
復讐の先取り??
シスターが何か言う前に、視線を戻し、にらみ合う二人。
「アンタに復讐されるいわれはないですけど」
「先制報復だ」
どーいう話だ。
「個々の事情は、今は解りません!すいません!!!」
頭を上げては下げるシスター。
解ってないのはシスターだけじゃないし安心していいと思う。
と、たいていのギャラリーや視聴者は思った。
「大切な人を殺された経験は、きっと、一人一人違うと思います。だから、わたしはそれを解るつもりではありません」
ん?
アベンジャーズの二人、いや、視聴者もシスターを見た。
「アンタも殺されたのか?」
ちょ――――――――――――――――――――――
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
セイである。
空気を読まない女、ってか少女、ってか子供。
シスターは、もともと青ざめていた顔を更に白くして、頷いた。シスターにとって、身近で親しい誰かが亡くなったのだろう。
・・・・・・・・・・いや、殺されたのだ。
おそらくは、納得し得るような理由もなく。
「誰ですか???」
おぃ――――――――――――――――――――――――――――――――――
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――!!!!!!!!!!!!!!!!!!
トモである。
空気を読まない女、ってか少女、ってか子供。
ここまで来れば、みんなの視線がニートに集まる。
保護者でてこい!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・お答えできません」
シスターの、蚊の鳴くような声。
どうやってごまかそうかな、と思っていたニートは一安心。皆の関心がそれたから。
「なら」
「それでもダメです!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
血を吐くような叫び。シスターは顔を伏せたまま、二人にお願いする。
「これ以上、殺さないでください!殺されないでください!!死なないでください!!!お願いです!!!!!!!わたしの勝手なお願いです!!!!!!!!」
その姿は育成圏全体に中継されていた。
そのお願いは、二人にむけたものだったのだろうか。一人にむけたものだったのだろうか。
でも、なぜか、皆がお願いされたように感じた。
かくれんぼ会場。
アベンジャーズもアーネもシスターに見入っている。
(あと一押し)
のまれていないのはニートだけ。冷静に見積もる。アベンジャーズは既に人、つまりはアーネを切り刻んでしまっている。
(拳の降ろし先が必要か)
ここまでくると、ニートが刻まれてもしょうがない。
むしろぶち壊しになる。
復讐の持つ唯一の効果、気晴らしはもう期待できない。ここで続行しても、アベンジャーズにもギャラリーにも、さらに大きなストレスがたまるだけ。
それこそ余計な軋轢を生みだして、無駄な復讐や報復を連鎖させかねない。その始末には手間と時間がかかる。
ニートは関わりたくなかったが、そうなったら関わらざるを得ない。
ならば、なんとかしないといけない。
やりたくないことをやらないために。
何とかする人間が必要だ。
調達しなければ。
「そこまでだ!!!!!!!!!!」
『そこまでだ!!!!!!!!!!』
かくれんぼ会場を囲む百を超える人影。
大広場で女僧侶二人の肩をたたくエルコレ。
「ア~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ネ、くん!!!!!!!!!!」
百を超える武装したプレイヤーの腕に巻かれるそろいの腕章。
警邏。
評議会直属の治安維持部隊のメンバーである証。頭に巻く鉢巻きは所属ギルド名が書いてある。
複数の、つまり評議会最大のギルド《黄金の夜明け》のみならず、評議会所属ギルド総ての名前がそろっている。
この行動が、評議会の総意であるということだ。
「よくやった!!!!!!!!!!!!!
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
その集団、評議会全体の警邏部隊を率いる、ように見えている、クラウン。
ギルド《黄金の夜明け》幹部メンバーにして、アーネの上司。日々毎日、アーネを怒鳴り散らして無理難題を押し付けていることでおなじみ。
え?
最大手とはいえ、一ギルドの中の話がなぜおなじみに???
・・・・・・・・・・・・・・・・・中継されてました。クラウン自身は中継を見てません。クラウンにその内容を報告する人間もいません。
とばっちりで無理難題怒声罵倒の矛先が向かってくるのは誰でも嫌ですよね?
普段はアーネが引き受けてくれてるんですから。
「犯罪者の逮捕拘束処罰は評議会の責務であり私人による復讐など断じて認められない!!!!!!!!!!!!!」
アイテム拡声器もスキル大声もなく、響く響く。さらに街中に中継されている。
「それが例え極悪非道狡猾無頼無法卑劣言語道断社会秩序への重大な危険分子であるとしても私的な処刑などあってはならない!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
皆よくわからなかった。
セイ&トモには特にわからなかった。
漢字が多いから。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・極悪以下省略がニートのことを言っているとわかったら、セイが大騒ぎするだろう。
だが問題ない。
漢字が多いから。
『評議会からお知らせします』
街に響きわたる男の声。
『アベンジャーズは評議会が拘束します。われわれはどんな理由があろうと、こうした振る舞いを放置しません』
評議会議長、ギルド《黄金の夜明け》ギルドマスターの声。
『この決定に反対な方は、すでにお知らせしております評議会選挙で意思表示してください。詳しい手順や疑問などは評議会正面で受け付けておりますし、すでに始まっていますが有志のお誘いがあれば説明会も開催いたします』
評議会の正当性を担保する選挙。
それはクラウンの発案だったが、プレイヤーに浸透しているとはいいがたい。特にデスゲームにおびえて引き篭もっている初心者プレイヤーが多い育成圏では何事かを周知するのは至難の業だ。
『ご清聴ありがとうございました』
「納得はしていない」
アーネに伝えると、アベンジャーズの剣士が剣を下げた。かくれんぼ会場には警邏隊のプレイヤーたちが次々と降りてくる。
他アベンジャーズのメンバーも、剣士に従い武器を下げた。
大広場では、エルコレに促され、アベンジャーズの女僧侶が二人とも連れていかれた。
ボブカットの少女は力なくうなだれ、長身の女は・・・・・フードを降ろすと少女だったが・・・・目礼。一瞬のことで、すぐに仲間の後を追った。
誰に?
目礼の先には三人がいた。
セイ&トモの二人は、身を挺して仲裁に入ったシスターに向けたものだと思った。
シスターは、一度は命を救ったネコカフェ一同へ向けたものだと思った。




