コミュニケーションの応用2会議の胆は『雑談』
「話、すすまんね」
独特のイントネーション。
「会議だけで回を重ねた伝説のアニメもあるっす」
二人は互いを見ていない。
だけど注目中。
「お三方、かたなって」
「固……あ、そっちっすか」
ヨイツ、土方、ユーリア。
フリーズ中。
他の皆は円卓の一角を注目中。
「っか、山科っす?」
「あらわかるん?」
「VRでお茶?」
のはず。
「ちがう」
ヨイツ、関西弁もどきはどうした?
「ロ、リ、コ、ン」
機械音声?ボーカロイド化したユーリア。
ヨイツが答えた。
「ヤダナー人妻殺シノ土方クンガ十歳以下ノ幼女シカ愛セナイ真性ナ訳ナイジャナイデスカ」
好青年な表情。
誰だよ。
「棒読みっす」
「こ、怖いです」
「どっちが?」
前門のヨイツ。
後門のユーリア。
挟まれてるのは?
「なんだこりゃ」
土方のつぶやき。
無表情で感情が読めない。
(……マジ当惑っす)
(判るのかの)
(表情筋のエフェクトっす)
(ややわーシステム解析?敵にまわしたないわー)
ゲーム演出で感情がダイレクトに表情化するVRゲーム。
そこを開き直ってウリにしているスフィアでポーカーフェイスは難しい。
「うそ、ですよね?」
「ウソです!!ボクは嘘つきです!!!」
ユーリア、ヨイツ。
嘘つきが自分を嘘つき呼ばわり、これ如何に。
「あー、落ち着け」
肩をすくめた土方。
難しいことをやり遂げる者。
それと気がつかない奴。
パン!パン!
Cが注目を集めた。
「深呼吸っす。ひーひーふぅー、はい」
ヨイツ、ユーリアが深呼吸。
「再開するっすよ~」
円卓を見回す。
皆が頷いた。
「ロリコンっすか?」
「ちげーよ!」
D.C.
振り出しに戻る。
「いい加減にしろよてめーら。遊んでる場合か!俺の性癖なんかどーでも良いが、ちげーよ。話は終わりだ」
ちっちっち。
Cが指差した。
「「重大な問題」っす/よ」
え!
ユーリアとC。
少女たちの主張。
皆注目。
Cも振り返って注目。
注目、しても、されてもいるユーリアは土方の後方3cm。
「すいまへん!」
フライング土下座。
もちろんヨイツ。
いや、円卓中央にジャンプ。
「つい、カッと、いやちゃう!」
ヨイツ。
口調が不安定。
「ほほぅ」
「マジやね」
「えー?えー?」
「みろ、覗きこまない」
南方の面々。
Cは円卓中央に立ち、土下座中のヨイツを爪先でつついていた。
ニンジャコスのの内側はきわどいきわどい短パン、らしい。
顔を上げないヨイツ。
物理的にありえないことである。
「めんどくせーからやめろ!忘れてやる!」
呆れ顔の土方。
「どういうことです!」
その背後に詰め寄るユーリア。
「ええやんか!!本人達が幸せならええやんか!!」
卓上から見栄を切るヨイツ。
正座しながら決まってるのが凄い。
「No Touchは原則や!しかし!せやけど!」
頭身が少なくパーツがでかい。
いわゆる役者顔のヨイツ。
「法律がなんや!道徳がなんや!」
「……はぁ?」
ユーリアを宥めていた(どうどうどう、というノリで)土方がヨイツを見た。
「ワシは妬んどった!僻んどった!!怨んで!!!嫉んで!!!!」
真っ黒な泥ついた感情。
「リアル8頭身で十代で美人姉妹とお母さんがいて人妻ギルドを率いて」
「それってなんてエロゲ?」
Cの流し目。
土方が呆れ顔。
「俺ギルマスじゃねーし。ゲームで主婦が多いのは普通だし、身内の見た目がなんだってんだ?」
ギルド、蝦夷共和国の女性PLは主婦が多い。
子供連れや夫婦参加もいる。
じっさいのところ広く一般で、ネトゲ高レベルプレイヤーの王道は主婦だったりする。
生徒学生より暇してるからね。
仕方がないね。
「PKしようとするたびにお姉さま方の流し目に裏切り者が出て制裁されてそれってなんてご褒美」
ヨイツの涙声。
「なんてことを!」
「腹もたたねーな」
怒るユーリア、呆れる土方。
「だがしかし」
卓上を一瞬で滑り端の土方に到達する動きは妖怪じみている。
「わいはおどれをゆるしたんや!!!!!!!!!!」
「お、おぅ」
ヨイツが土方の手をとった。
ゲームでは手汗手脂は再現しておりません。
「二人の姿を見たら、赦すしかない!応援するで!」
視線の先にいる二人。
土方、ユーリア、この二人?
「え?」
「え♪」
ガシッと擬音がしそうな勢いで肩を掴んだ。
「え“」
ユーリアが変な音……声を出す。
土方だけの型を掴んだ漢の友情。
「オドレに痺れて憧れる!」
土方の手を握る丸顔短頭身は涙を振り絞った。
「いつもいつもいつもひっつきひっつきひっつき」
どよめき。
大事な事なので三回言いました。
「マジっす?」
全員に注目され、真っ赤になったユーリア。
セクハラを超えたユーリアが泣きだしてますが憶えがあるんでそうかねぇ
「二人っきりで仲良く同じ個室で夜も朝も過ごし!」
ユーリアが首をふる。
不本意ながら左右に。
「二人だけで温泉でナニしてるかいわんでくれやマジなはなし!!!!!!!」
ヨイツ号泣。
舞台上で天を仰ぐ姿は聖者のそれ。
っつーか、昼間の卓上で舞台をイメージさせる演技力。
(普通ではないのか?)
(ハ!普通かと)
(何処の普通よ)
(米帝だろ)
(グローバルスタンダードはサムおじさんちだけにしてほしっす)
ひそひそ。
GGの面々。
そのまま事態は進行。
「あの子と幸せにな!わいら、わいは味方や!」
再び手を握ろうとして土方に足蹴にされるヨイツ。
その手にはランドセル。
伊達直人のステッカー付き。
「お待ちなさい」
「ふごっ!」
メイスで卓に叩きつけたヨイツにユーリアが迫る。
「あの子?とは?」
ヨイツは生まれたての子馬のよう。
「ゆ、ユーリアはん。気持ちはわかる……がっ!……相手は小学生……ヒザア!……大人として……土方ぁ!わいに任せて先にいけ~!……pまらやっjwptwmta」
Cが二人に寄った。
一人と残骸?
「ガタさんがイチャコラ同衾してるってのは、この子っす?」
「してねぇ」
「みせちゃらめ~~~~~~!!!!!!」
スクリーンショットが卓上にアップ。
男が『らめ』とかいうな。
「3Dプロンプターじゃと?」
「こないな使い方もあるんね」
「幻術かぁ」
「可愛い!!!」
シュバイツァー、蓮華、ツォン、マサムネの南方組。
「「あ」」
「らめぇ~~~~~~~~~~」
ユーリア、土方、……………………………………………………ヨイツ。
卓上に浮かぶ……少女?童女?まあ、小学生か、幼い中学生だろうか。
ツインテールに『誠』のハチマキ。
藍色の詰め襟を思わせる制服はギルドの平時隊服。
力強いつり目。
子供特有のきめ細かい肌。
柔らかそうなネコっ毛。
表情が次々と入れ替わり、悪戯っぽい笑顔、頬を染めた半泣き、可愛らしいとしか言い得ない澄まし顔……。
幻術で浮かび上がった姿がなぜか蠱惑的なのは、撮影者の腕か素材の味か。
「おい!プロモーションかよ!!」
『あーしーちゃん』
幻影の少女は満面の笑みで撮影者に抱きついた。
『まこっちゃん!ひさっす!』
「ギルド旗に想人を掲げる土方!かー!」
まあ、ギルド『蝦夷共和国』の旗は『誠』ではある。
「あんひと、新撰組知らんの?」
「……まさか……」
「知らざるを知り知るべきを知らぬ」
「単なる節穴だろ」
南方組がヨイツを見ている。
間にも動画は続いた。
『ガタさんをどーおもっす?』
『好き!』
どよめき。
会議場から。
『もーちょ、詳しく』
『お嫁さん♪』
『確定っすか』
『奥さん♪』
『事後っすか』
「子供に何言ってやがる!」
『カメラの向こうのガタさんに!想いのたけをアピってっす!』
童女は少し考え、ニヤリと笑った。
「よい眼だ」
GGの面々には見えた。
童女の瞳。
あどけない瞳に映るのは撮影者のC。
あどけないハズの瞳に見据えられたC、記録結晶をかまえながら冷や汗。
Cが親指をたてたのが、見えた。
まるで特殊部隊の突入合図。
『マコトは、お兄ちゃんのモノだよ』
ほぁー!とか奇声は無視。
膝をつき両腕を掲げて天(天井)を見上げる顔芸職人も無視。
「ええのん?」
扇で口元を隠した蓮華がユーリアに囁く。
いつの間にか騎士の右斜め後方をとっている。
ホントに商人PC?
「……」
ユーリアはうつむいたまま。
白い髪からのぞく耳が真っ赤だ。
「……妹さん、です」
蚊の鳴くような、声。
「俺の妹にみょうなコト教えてねーだろうな」
土方がCに凄む。
(ほぅ)
心持ち優しく呟くユエ。
(土方は妹と姉と猫と犬と親がおります)
常に不変の直立不動、鎧男(ギリシャ風)。
「実妹ルートkt-------------------------------!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
土方が立ち上がる。
窓に歩み寄る。
Cが窓を開き、閉じた。
土方は円卓に戻った。
「えー窓の下は基本、茨っす、が、圏内っすからHPはへりません」
Cが円卓を見回した。
「次回からは抜きにくい剣山にしようかと」
各ギルドに注意。
カマルに密偵を送り込む時は窓から落ちてはいけません。
HPが減らなくともアバターには刺さります。
自力では抜けない、かもしれません。
「で、うちら南の犠牲の話」
会議再開。
「いいんですか?いいんですか?」
はすっぱなキャラが剥がれ素が出るマサムネ。
「攻略組は大事無い」
シュバイツァー。
「リスク管理はマッピングの基本だからのう」
基本的に人跡未踏の地を開拓する探索ギルドはセーブポイントや安全圏の街を探しながら進む。
つまり、それがあるかないかわからないところで計画を立て行動を始める。だから事前準備や見切りに一番詳しい。
もしかしたら、スルースキルも基本?
「オレんとこもな」
ツォン。
「うちとこも……せやけど」
蓮華が続けた。
「それ直だけのはなし……明かされとるうちだけ」
ツォンはそっぽ。
商人PL達なら秘匿された関係者が必ずいる。
ソレが行方不明でも明かしたりしない。
今は緊急時。
だが、所在不明の連絡不能な相手に出来る事は無い。
無駄だから、情報開示もしない。
「常連以外は殺られたこぉもおるわ……確認出来た範囲でも、な」
バザールの商人達は攻略組のアルバイト(資金稼ぎ)や専従のハンターギルドから素材、アイテム、情報を買い集めてNPCや別ギルド/生産ギルド/西方攻略組などに売る。
彼等は連絡がとりやすく、リスク管理が明確なので犠牲は出なかった。
「一見さんは、あてらも把握しとらんから……会合衆で手引きは配ってるけど、掲示板も覗かんモンはどないもこないも」
新規参入ギルド/パーティー、ソロは犠牲を出したらしい。
南方全体が資源地帯と設定され、貴重なモンスター、高額報酬のクエスト/イベント、ドロップ率も高い。リターンはリスクに見合っているが、デス・ペナルティ覚悟で挑む初心者や中堅も少なくはない。
しかも新規参加者が一番多いイベントの真っ最中にデスゲームとなれば。
「三桁、はいかんとおもけど」
重苦しい沈黙。
「推測ですが」
ユーリアが断る。
デス・ゲーム発覚後、攻略組はギルドをまとめ拠点と近くの街を封鎖した。
それ以上は伝手をたどったメッセージで警告するのが限界。
把握出来るのもその範囲。
「北でも中堅以下は犠牲が出ているでしょう」
「むしろ効率優先でリスクヘッジを捨てたり、PL経験値のためにアバターのLossを割り切った初心者も少なくねえな」
攻略組の最前線、中堅が集まる前線内側、はじまりの街付近の初心者エリア。十万名突破イベントは全エリアで行われた。inしたPLの大半はデス・ゲーム開始の瞬間、戦闘中だっただろう。
ヴァーチャルゲーム経験者はともかく、市場拡大を狙って『10万人エントリー』を目指した今回のゲームでは純然たる、ヴァーチャルゲーム自体が初めてという『初心者』が大勢いた。
「いや、レアイベントクリアの為に死なないようにしたかもしれん」
記念イベントやアイテムも多かった。
ゲーム慣れの為に捨てるのは惜しいだろう。
「いずれにしても、飛行機事故クラスの犠牲か」
土方が確認するように呟いた。
「そんなことより、遺族、それに準ずる者が危険」
ユエの右側に注目が集まった。
「死体はこれ以上死なない」
顔をしかめるユーリア、呆然とするマサムネ。
「GGのDよ」
「当ギルドの頭脳っす」
Cが補足した。Dに厳しい視線が集まる。
「犠牲者の友人、家族、恋人……周りにいないか確認を勧めるわ。この中にはいないわね?」
Dが見回した。
「該当者は監視、可能なら隔離がお勧め」
「犯罪者扱いですか!」
「危険物よ」
土方がユーリアを抑えた。
「パージ出来なきゃ理屈を付けて塹壕掘りでもさせること」
「考える隙を与えないわけやね」
蓮華が興味に満ちた視線をDに向けた。
「穏やかじゃないっすね?」
厳しい視線を背景に卓上からCが流し目。
「穏やかに距離を置いて忘れるのが最善」
Cが拍手。
「経験者は語るっすね~」
Dの視線にそっぽを向いて口笛。ユーリアが奮然として立ち上がった。
「同意する」
重々しくリヴィングストンが頷いた。ユーリアやマサムネが唖然とする。
「皆、尻に火がついておる……ワシやヌシら、もだ」
見回した。
「自分に『何か出来る』と思うな!……一緒に焼け死んでも罪を増やすだけじゃ」
意外そうに見つめるDに顎をしゃくるリヴィングストン。
「……傷ついた者は他の全て、誰にとっても危険、覚えておいて」
釈然としない様子でDが受けた。
「休憩っす!」
Cの呼びかけに皆、頷いた。
空気を変えるべきだろう。
ユエが立ちが扉を開けた。
当人は振り返らずに部屋を出た。
続くB。
「入れ」
鎧男(ギリシャ風)が扉の前に声をかけ、行き過ぎた。
一斉に駆け込む各ギルド構成員会議参加者友人知人。
ゲーム的に隔離された会議室の中に、干渉出来なかったのだ。
「お嬢」
「副長!」
「頭!」
「団長!!」
「隊長!」
「まーちゃん!!親方!!!たたた!!!!!」
先着順。
【!】は驚愕比例。
「「「モヒカンが攻めて来た/ました」」」
※Da Capo(演奏記号)




