コミュニケーションの応用3「何を言っているか」ではなく「誰が言っているか」が重要
※第一部ラスト・オブ・モヒカン/第二部ラスト・オブ・モヒカン2の直後。
…………………………。
「ルーさん大丈夫でしょうか」
マサムネ。
「そこ?そこ?」
「どうでもいい、とは言わねーが」
ツォンがつぶやいた。
「殺す、とこだったな」
ユエと、ネコもか?
バーサーカーのネコはともかく。
デス・ゲーム真っ最中に、デス・ゲームの原理を解説して見せ、「ゲームで死ねばリアルでも死ぬ」といった人間が。
プレーヤー・キャラクターを殺しそうになった。
それはつまり先ほどまで殺人者と同席していたということ。
ユーリア、唖然。
土方、憮然。
蓮華は扇子で口元を隠し、シュバイツァーは腕組み。
マサムネは頸を傾げ、ツォンはため息。
球す…スフィア・タイムズの中継が終わって真っ白な壁面ディスプレイ、いや、投影魔法が消えた。
「っども! 」
Cが帰って来た。
「かっもっ~~ん」
手招きと共に入って来るギルドメンバーや同業者。
ノルデン、蝦夷共和国、ジェントルメン・クラブ、バザール番頭や用心棒、馬借に生産職にリヴィングストンの面々。
カマルに集まった南北有力プレーヤー・キャラクターの付添い。
「ブレイクタイム♪」
皆が手に携えた皿やポットにカップ、軽食に菓子に果物にお茶にコーヒーなどなど。
「ユエ様は首実検中っすから、ゆるゆる続けっす」
首実検、言葉はアレだが、意図は伝わった。
数百人のプレーヤー・キャラクター受け入れに忙殺されて戻れないから続けてろ、と言うわけだ。
「訊きたいことがあったんだが」
コーヒーを受け取りながら土方がC、の後ろを見た。
「なにかしら」
とD。
「ゲームを終わらせるのはハイリスクだ。それは理解出来る」
ログアウト不可から三日。
「リアル側からゲームを終わらせるだけなら幾らでも手がある」
ヘッドセットを外す。
サーバーを止める。
回線を切る。
不可能な訳がない。
ならば。
「やるにやれないわけだ」
安全にゲームを止められるなら、とっくに全プレーヤーが現実に帰っているだろう。
「今は無きログアウト以外の方法、即実行できるヤツはリスクが高い」
土方が続けた。
「納得するしかねーな」
皆が頷いた。
現実側の、つまり専門家の判断。
直接目に出来る範囲で数百、確認出来るなら数千、最悪なら万単位の人間が意識を失っている。
何がしかの対処は始まっているだろう。
「三日間あればひととーり、終わっすね」
先進国、日本で起きた大事故、か事件。
他の国々からも、人類最高の人材が集められた筈だ。
その結論は、今のところ、現状維持らしい。
「それを踏まえなお確かめておきたい」
ある者は頷き、ある者は同意の目、皆が賛成。
「っら質問タイム!きょしゅ!」
Cが見回した。
「わたしが答えるわ。貴方々が大変なのは判るし」
「割に合わないっすねぇ~ギルドマスターは!」
きゃはは、と笑うCだが、笑い事ではない。
オフィシャル不在の中、理不尽な責任を背負わされたのがギルドの運営プレーヤーだ。
現状で相談事は、酷ければ不平不満も、ギルド運営、最終的にはギルドマスターに向かう。
ゲームを超えた問題に責任も対処能力もないが、理解出来る、割り切って動けるメンバーばかりではないだろう。
ギルドマスターとギルドメンバーが不一致なら新たな悲劇を生みかねない。
「一致し過ぎても自殺行為だけど」
Dが見回した。
「背負えないモノを背負い込んで自滅するバカはいないでしょうね?」
紛れ込んだ害虫を探す視線。
「ギルドマスター同士で愚痴りあうのも一興じゃて」
「質問タイムの後は懇親会っすね!」
シュバイツァーとC。
「ならQ&Aを済ませましょう」
Dが見回す。
「日々、メンバーから聞かれてるんでしょう」
土方がDを受けた。
「本当にアバターが死ねばリアルで死ぬか」
「なら死ねば?」
身も蓋もない。
シュバイツァーが割って入る。
「じゃ収まらんわい」
黙らせても仕方ない。
この場合は。
「まず、みながいっちゃん納得したぁないんは、死ぬこと」
蓮華が見回した。
「使い古されたネタだけにな」
「うっうー!自殺すればログアウト出来る、って説が」
マサムネは地が出てきてる。
「やった奴は?」
「知らんけど」
「知らんだけか、いずれしるか」
茶の香りを楽しむD。
瞑目したまま。
「メニューからヘルプ、約款第七章13項」
皆が慌ててメニューウィンドウを操作。
『ハード/ソフトウェアの改変は心身に重大な悪影響を及ぼす場合があります』
バーチャル環境が、単なる夢ではなく、命に関わる環境であるということ。
「これが前提、わかる?」
デス・ゲームの由縁。
理論を説いても専門家以外は理解出来ない。
納得しやすい権威が欲しいんでしょ?
……という姿勢。
「この手はヨイツが詳しいが……まだか?」
ジェントルメン・クラブの面々に尋ねる土方。
茨に突き落としたのは土方だが。
「トゲトゲが壊せないんすよ~抜くのに手間取って」
都市などセーフティーゾーンの構造物は壊せない。
「アバターバラしゃ早いぞ」
なんでもないことのように。
まあ、手足を失ってもゲーム的に治癒は可能だし、セーフティーゾーンではなにもせずとも治るが。
「パネェ」
「さすが隻腕剣士」
「生体解剖とか考ぇたないわー」
魔犬、犬型モンスター、に食いつかれ動きを封じられたことがある土方。自分の腕を斬り落として自由(?)を取り戻し、治癒前に片腕でモンスターの四肢に首三つを跳ねたのは攻略組の語り草。
「慣れっすか?」
「ねーよ」
痛みの代わりに衝撃と麻痺。
フィールドてはかなり効く。
「よりは体を失う違和感がハンパねーからな」
経験者談。
というか、問題はヨイツの復帰だが。
「じゃ、ま」
Cが窓を開けた。
「ユーリアさん、ピンクっすね」
?
「ブラチラ」
!
WuReeeeeeeeeeeeee!!!!!!!!!!
白い布。
赤い血。
桜色の塊。
が、窓外で変形合体し輝く!
………………………ホラーである。
「ユーーーーーーリアは~~~~~~~ん」
槍。
弓。
手斧。
ナイフ。
火炎弾。
雷撃。
水。
「と!」
止まらない。
全てを受け止め、貫かれ、振り捨てて。
吶喊。
そして轟音!!
「ふぎゃ」
GGギルメン、B。
黒光りする魔槍を操る槍兵。
魔槍の石突で壁ドン。
発生した衝撃波で平面的に壁を打つあたりはスキル攻撃だ。
「もらってくぞ」
卓上のプリンを回収。
「切れっす?」
料理や飲み物はカマルの市場で買って来たものたが、プリンは城の厨房で創られた限定品。
「あちゃー」
Cがヨイツをつついた。
壁に縫いつけられたマシュマロマン…に見えるが、当然セーフティーゾーンの壁は貫けない。
Bが槍を引く。
バラバラから粉々にアップしたヨイツ(?)だった物質が落ちる。
べちょりと。
「さいならーっす」
白いハンカチで見送るC。
B、プリンと共に去りぬ。
「ユーリアはん!」
解放されたヨイツ。
魔槍で貫かれつつ、衝撃波壁ドンで押しつぶされ、元気だ。
「おまえ、魔法使いじゃなくて忍者なのか?」
呆れる土方。
「な、な、な、」
ユーリアの背後で硬直するヨイツ。
ユーリアも硬直。
(や、殺られる!)
冷や汗。
「ヤられる」
Cニヤニヤ。
「の方がらしっ!っす!ガタさん!」
土方、涙目のCを無視。
ユーリアの貞操危機に怯える乙女の涙と比較してみよう!
笑い過ぎ。
土方が、おもむろに拳を振りかぶり、
「だましたんだ!!!!!!!!!!」
天使が通った。
みな、硬直。
騙した?
「ブラチラ、のことっすね」
フルアーマーなユーリアにそれは。
女性たちがヒソヒソ。
性欲、ってか行為ではなく着衣の隙間か透過で見える下着の一部を見るというだけ、それだけの為に自らの手脚や胴体や首を引きちぎってやってきたジェントル。
「僕を騙したんだ!まこと様やゆいちゃんやミネさんやようこやマリさまやジュンコや澄子さんやまこと様や悦子くんや女王様やちータンやマッキーやしのぶやステファニーやまこと様やご主人さまや未來クンやピンクや閣下やまこと様やケイや鈴やローザンヌやヤオや永遠の天使やまこと様や」
「どんだけむしられてんだ」
硬直中のユーリアをCにパス。
土方がヨイツに向き合った。
「脅威のまこっちゃん率!」
「……叱っとく」
拍手のCに不調面の土方。
「小学生、でしたよね?」
「JS!だと!」
「サイテー」
「あれか?お菓子あげるから、的な」
「犯罪者」
ぼったくられ、はねられ、巻き上げられている、被害者ヨイツに向かう皆の視線。
「厳しいなんてモンじゃねーっす!」
唯一の笑顔。
会議冒頭より女性比率が上がっております。
ギルド代表者の付き添いは、女性キャラクターが多かった。
前線で耐久/戦闘力が女性アバターは低め。
後方支援的な役目を追うことが多い。
女性プレイヤーとは言ってない。
が、ヨイツを見る性犯罪者への視線というか汚物を見るような反応を見ると一致しているのかもしれない。
リアルとキャラクターが一致しているなら、若い娘ばかりだから仕方がない。
性犯罪者予備軍などカモでしかない、と割り切る小学生は少ないよね。
「話を戻してください!!!!」
ユーリアの一喝。
眼が笑っていない。
振りかぶった剣にMPが充填されていく。
いろいろありすぎてキレかけ。
正座するヨイツ。
「ヨイツはん」
蓮華が声で撫でる。
「約款第七章13項、してはる?」
とろけ顔のヨイツが表情を引き締めた。
視線は蓮華、の胸元。
「ふん、そこか」
オッパイ?
気取って見回した。
正座しながら。
視線は女性にピンポイント移動。
カッコいい目つきで正座しながら。
胸元を視姦。
「大方、『ゲームのせいで現実に死ぬなんて信じられない』というところやろ?」
いや、それ終わった。
とツッコミそうな面子をギルドマスター陣が視線で黙らせた。
「約款第七章13項のリンクに欧州大脳生理学会HPがある……今は見れん……VR事故、人災も含めて事例が載ってるわ、解析結果付きや。死ぬ可能性が高い、なんてな?まるで生き残れるような言いよう、学者らしわ~」
「キャプチャ希望者はどうぞ」
とDが幻術で表示。
「ちょーだい!2018年?ロサンゼルス疑惑か!資料あったんか!デトロイト・スリーパー?生体実験の!チャイルド・クラッシュも!あれコピープロテクトあったわな?」
ヨイツ大騒ぎ。
「ユエ様はEUアカデミー会員よ。権限があるの」
ハシャぐヨイツ。
D以外はどん引き。
「VRオタ?」
「陰謀マニア?」
「ペドだけじゃなかった」
「合併症じゃ」
ちょーだいちょーだいちょーだいと連呼中。
「ヨイツ」
は?
胸ぐらを掴まれ睨みつけ……いや、土方にガンをつけられたヨイツ。
蒼白。
「ぼぼボボボ簿簿簿帆」
ほ?
「ボクわ屈しないぞぉ!先輩にもクラスメートにも新入生にも!」
はぁ?
「金はない!焼きそばパンが欲しいなら代金と引き換えだ!」
…………………………憐れみ。
「またベタなフラッシュ・バックっすね」
「……可哀想」
マサムネの呟きに賛成こそ無いが共感する女性陣。
「コントはいーんだよ」
土方に非難の視線。
「つーか、義務教育ぶっちした退きニートがどこでパシってたんすか?」
女性陣から集まる疑問。
ヨイツ冷や汗。
おそるおそる口にしたのは……。
「放送大学?」
チッチッチッ、とC。
「定時制の方がリアルっす」
飛びつくヨイツ。
「その発想はなかっ……あ」
女性陣から逸らされる視線。
「あ、あれよ?学校行ってたらパシってたよ?きっと」
「そっすよ~小金持ちのボンが登校放棄してバーチャルライフ満喫して、憐れみの視線に絶頂するドM街道疾走中っす」
耳が汚れるとばかりにマサムネの耳を塞ぐ女性陣。
「ちょーひっどすぎやろCちゃん!」
「ナシっす?」
考えるヨイツ。
「……あり?ふぁが」
疑問形キャンセル。
刀の切っ先を口に突っ込まれたヨイツが必死にジェスチャー。
「良くないっす?」
ヨイツ、ジェスチャー継続。
「あ゛?」
視線で圧迫、いや、圧殺する土方。
「説明はいらん」
ヨイツ、目で頷いた。
「答えろ」
ヨイツ、必死。
「俺たちは、ゲームで死ねばリアルで死ぬのか?」
刀が抜かれた。
「死ぬ」
ヨイツは力を無くした視線で見回した。
「ログアウトプロセス、類似品、なしに回線が切れたりシステムが落ちたり端末が外れて生き残った奴はいない」
見回して言い募った。
「昔、VR開発当初は、プロセスがナノセカンドやなかったし、プログラムも不完全で、危険性の認識も無かったから予備バッテリーもなかったんや!今でこそ単なるゲームやし、死人はハードソフトの不正改造くら」
土方がヨイツの胸ぐらを離した。
「ふひゃ」
「わかんねーから」
見回す土方。
ヨイツのマントで切っ先を拭った。
「死ねば死ぬ」
刀を納めた。
「納得した」
…………………。
マサムネが一言。
「土方さんはヨイツさんを、すっごい信頼してるんですね」
「重要なのはそこか?」




