一人足りない
この時点でアベンジャーズの事を「わかっている」プレイヤーはいない。
キャラネーム、プレイヤー歴、彼ら同士の人間関係、デスゲーム開始以来、どう過ごしていたのか。
断片的には知っている者もいただろう。
見たことがある。
話したことがある。
商売したことがある。
その程度だ。
彼らはオンラインゲーマー、しかも手慣れているがリアルを棄てていない中堅プレイヤー。
当然マナーは理解しており、リアルの話をゲームでしたりはしない。
だから交遊関係はそれなりでも、彼ら同士の関係なぞ彼ら自身以外、知りはしない。
攻略組ならこうはならなかった。
幾つものゲームで顔を会わせ、戦い手を組み牽制する。ヴァーチャル・オンラインゲームの、攻略最優先プレイヤーの常として、ゲームアバターとリアルボディがイコール。
本業はゲームです。
などと真顔で言える人間と、リアルをゲームに合わせる四苦八苦。
イベントに間に合わない他、遅刻欠勤の言い訳がリアル準拠。
自然、リアルとヴァーチャルの敷居が低い、あるいは、ない。
しかもプレイヤー同士の競争、パーティー同士の対立、ギルド間抗争がある。
リアルの生活を探り出し相手が参加出来ない、しにくいタイミングで作戦を立てる。相手の人間関係を調べて、援軍の有無やPKしたあとの報復の度合いを見積もる。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・などなど。
攻略組は互いの人間関係やリアル人生を把握、し合う。
多かれ少なかれ、だ。
だから、アベンジャーズに限らず、中堅以下のプレイヤーは互いのことを知らない。
アベンジャーズを構成する二つのパーティー。
二つの別な学校の高校生。
一方はヴァーチャルゲームクラブに属する六人。
他方は中学校から一緒の仲良しグループ五人。
彼らが接点を持ったのは、姉弟が二つのパーティーに別れていたからだ。
姉は部長、弟はリーダー。
部活の中で部員が集まり、スケジュールに従ってプレイする姉たち。
放課後に思い思いにログインし、都合や飽きでログアウトする弟たち。
時たま一緒にプレイ/遊ぶが、姉弟以外は顔見知り程度の二グループ。
彼らは、姉弟以外は、後々まで後悔し続けた。だが、過ちを犯した訳じゃない。罪がある訳じゃない。誰かと比べて愚かだったわけでもないだろう。
だ・か・ら
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・最悪だった。
アベンジャーズ、になる前の彼ら。
10万人突破イベント当日。二つのパーティーは共同プレイをすることにした。
歳の頃が近く、高校生同士、育ちも平凡な家庭、皆が馴染みやすかった。人好きのする姉弟が媒介すれば、仲良くなれない訳がない。
顔見知り程度から、初めての共同プレイ。
遠慮が更に互いへの思いやりを生み、好感を高める。
理想的な第一印象。
イベントをこなしていくうちに連携プレイになれると、昔馴染みのような安心感を抱き合う。
その後に仇となる
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――錯覚。
深夜零時。
その前に、一度ログアウトする予定だった。
連休中とはいえ、姉のパーティーは部活だったからだ。ヴァーチャル・ゲーム《スフィア》には学校割引で参加している。
ログイン/ログアウトは顧問の教師が管理出来る。
あまり厳しい先生ではないだけに、姉たちは先生の立場を守るためにも自制していた。
だが、10万人突破イベントは零時以降が本番、弟たちはまだまだプレイするつもり。
ただ、区切りをつける為だけのログアウト予定。
なんの問題も、ない。
だけど、みな、惜しいと思った。
こんなに仲良くなれたんだから、もう少し
・・・・・・・・連休中だけに、先生も形式以上には怒らないだろう。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・それは自然な流れ。
それは、みんなの希望。
ただし、誰も口に出さなかった、だから、最悪となる。
弟が、姉を誘う。
もう少し、あと一つ、一緒にイベントをこなそうよ。
姉は困ってみせ、部員を振り返る。
部員の皆が、微笑み頷いた。
あと、一つだけだからね。
弟たち、幼なじみたちが喜んだ。
最近は疎遠になっていたとはいえ、姉も幼なじみの一人だからだ。
零時。
デス・ゲーム、開始。
彼らは何も気がつかない。
イベントボスを倒した後、姉は違和感に気がついた。
弟が帰って来ない。
ログインしなおしたなら、連絡してくるものなのに。
自分たちは帰るが、弟と幼なじみたちはまだまだ、おそらく朝までプレイするだろう。明け方にはログアウトするように言い含め、皆と挨拶して解散するつもりだった。
もちろん、弟へのお礼に、母親にとりなしてあげるつもりだった。連休中とはいえ、保護者が徹夜ゲームに顔をしかめるのはいつの時代でも同じ。
弟が、背後から来たモンスターから姉を守って盾になり、助けてくれたのだからそれくらいはしてあげよう。
きっと、姉と部員たちを引き留めてしまったから、埋め合わせるつもりだったのだろう。
HP回復前にそんなことをするなんて、考えなし。
だけど、死亡ペナルティは姉が払ってあげるつもりだった。
だった、のだ。
――――――――――フレンドから次々と回ってくる噂。
デス・ゲーム、零時から、死んだら死ぬ。
誰もが、姉も、部員も、幼なじみたちもログアウト操作は無反応。システム管理運営への通報は、応答どころか、通報それ自体が機能しない。
街道まで戻ると、皆が急いで街に、安全圏に向かっていた。無数の、焦燥感に駆られて所々で言い争う、ただただ道を急ぐプレイヤーたち。
訳が判らないまま、二つのパーティーは見知らぬ無数のプレイヤー達、その後を追う。
途中で、つかみ合いになった。
弟の彼女が、帰ってこないリーダーが、なぜロストすることになったと叫ぶ。
姉の彼氏が、なぜログアウト不可の前にログアウトしないことになったのか、言い返す。
幼なじみたちは彼女に同調し、部員たちは彼氏の肩を持ち、姉は死んだような顔で立ちすくむ。
そして、ニートが嗤い声を上げた。
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そして気がついたら、街にいた。
街自体が混乱し、ニートたちを見失う。
安全圏で、やるべき事がなく、我に帰る。
姉が皆に指示した。
宿に待機。
考えるのは、休んでから。
精神的に消耗しつくした彼らは、いつも通り、ログアウトは出来ないけれど、個々に部屋をとり休んだ。思えば、翌日の何時に集まるか、決めていなかった。
それから、一週間以上が過ぎた。
アベンジャーズが、ニートの前に整列。
『なんか、まさに、試合っぽいですね!エルコレさん!』
別にどんな風にゲームを始めるか、ルールは決まってなかったが。まさに生徒学生の試合みたいに一礼してから始める気配。
『ですね、してみると、報復を意味するアベンジャーズの由来は《ネコ被害者の会》絡みだったのかな』
ネコには割とマジな被害者の会がある。
誰もが、ネコだから仕方がない、で終わらせるわけもないし。
たいていがそれで終わらせるようになってるのがおかしいだけ。
『うわー!・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・まあ、レベル差を埋めて、ハイレベルプレイヤーの鼻を明かすチャンスなんて、こんな時でもないとあり得ませんよね』
デスゲームでもなきゃ絶対あり得ない。
『参加者の胸元には中継ペンダントがつけられています。ネコさんの姿を映し、発見を宣言すれば試合終了です』
『追跡作戦を相談してもバレないように、中継音声は切ってありますからご安心ください』
ネコは中継なんか無視するだろうが、ニートなら利用するだろう。
『なんであたしの声は拾われたのよ!』
『面白いからです。なお、待機中の他の参加者、9組の音声も場合によっては流しますが、見学待機中だけでして、プレイ中は音を拾いません。ご安心を』
できるかー!とアーネが叫ぶが、この通り中継されなかった。よってご安心されたい。
10mほどの広場。
アベンジャーズは端、ニートは中央、距離5m。
「お久しぶりです」
「まったくですね。お元気そうで何より」
アベンジャーズのリーダー、剣士がニートに挨拶、はともかく、ニートが普通に返した???????????
「元気そうに見えますか」
「ええ、世界で一番活力に満ちているのは復讐者ですよ」
ニートが踏みつけた相手を覚えてるなんて!!よっぽど楽しかったのか???いや、ルーチンワークだったはず。
「今から反省されても手遅れですけどね」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・ああ、なるほど」
「ふざけるな!!!!」
女魔法使いが叫んだ。ニートは肩をすくめる。剣士が女魔法使いを制した。
「あなたにとっては、軽い、いやがらせだったんでしょうね」
ニートは答えない。瞑目している。
「その結果・・・・・・いや、知るわけもないか」
ニートの目が開いた。
「一人足りない」
また、死んだな。
その眼が言っていた。
ニートはにやりと嗤い、アベンジャーズが全員突撃。長剣、メイス、槍、鎌、短剣、手裏剣に短刀が突き刺さり、切り裂き、貫いた。
アーネを。




