2人足りない
ニートは被害者の顔を覚えない。
必要ないからだ。
だからメッセージを読んだ。
≪あの時のアレです、剣士と槍と鎌と弓と魔法使いと魔法使いと盗賊とドロボウと僧侶とプリースト≫
まあ、大意は伝わった。
トモは記憶力が抜群なのに、表現力がない。
だから授業にはついていけるのに、落ちこぼれである。
もっとも、ニートはどうでもいいことを無視する能力にたけているので、トモとのやり取りで苦労したことがなかった。
臨時かくれんぼ、会場。
指定は平面20m範囲、上下制限なし。
『よく考えられています。単純平面なら遮蔽物が幾らあっても、ネコに圧倒的不利でしたが』
解説のエルコレである。中継席はエルコレだけである。
実況はまだキャット・ファイト中?
『20m圏内を平面指定して、高さ制限に触れない事で裏をかいてきました。流石は、ただで負ける気がない詐欺師ニート!』
その詐欺師、エルコレの友達です。だがしかし、ギャラリーも湧いていた。なかなか、見所がある勝負になりそうだからだ。
はじまりの街、路地裏の広場。いや、広場としてしつらえた場所ではない。建物と路地が組み合わさり、たまたま生まれた空間。
その、10m四方程の空き地に佇むニート。
もちろん、ネコはいない。
もう隠れている。
空き地の周りは5階建ての建物が林立。無論、中世の建設技術で都市部に密集して、この高さの建物はできないから、無理がある街区。
だが、まあ、ファンタジーゲームだし。
『周りのレンガ石作りの建物は、オフィシャルメイドの非破壊オブジェクト。出入りは全て窓を開け、ドアを開け、階段を上り下りしないといけません』
フィールド上の農家や小屋なら、中堅プレイヤーの基礎力で壁や屋根をぶち抜いてショートカットできる。
その程度ならHPに影響しない。
とはいえ、多少速度にマイナス補正がかかる。ソレを見込んで避けるか突き破るか考えるのもゲームだ。
それに慣れた中堅プレイヤーは、大木や岩をよける事があっても人造物は避けない事が多い。まあ、ヴァーチャルに人造っていうのもなんだが。
かくれんぼ会場ではそれが通用しない。
ただショートカット不可、というだけではなく、参加者には慣れない動きが強いられる。
そしてニートが立つ中央空き地10mは、遮蔽物なし。
かくれんぼ上の意味が無い。
だからこそネコを探し回る面積を減らし、参加者の負担を減らしているように見える
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――だけ。
周りの、面積計算で行けば20m圏内の大半がダンジョンも同然だ。中央の、ニートが笑う空間のせいで、建物が分断されダンジョンの数が増えている。
一つの建物をしらみつぶしにするのではなく、4面で最低四つの建物をしらみつぶし。
しかも、最低でも、だ。
同じ面積の一つのダンジョンを探ったほうが楽だろう。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ネコが移動しないルールはない。
しらみつぶした建物から、別の建物へ、移動に移動を重ねたら?
確認済みの建物に見張りを置くか、ネコの移動を警戒阻止するか。
そもそも屋内ゆえに見通しが効かず、ネコの隠蔽スキル故に探知魔法/スキルは無効。区切られた部屋々を一つ一つ覗かないとならないが、中には遮蔽物が家具も含めていっぱい。
しかも洋風建築にありがちなことに、部屋と部屋が廊下を経由せずにつながっているかもしれない。
もちろん、見取り図はない。
『ネコが逃げながら室内家具を投げあつめ、バリケードを作ったら?追っ手はひとつひとつ、手でどかさないといけません』
家具も非破壊オブジェクトだからだ。ギャラリーがざわめく。安全圏だけではなく、フィールドにも、破壊出来ない構造物はある。
ダンジョンの壁や扉、罠などだ。その非破壊性を利用して防御や攻撃に転用する
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・攻略組、しかも熟練者の発想である。
モンスターはそうした障害を加味して行動プログラムが組まれているので、どちらかというと、vsプレイヤーの発想。
ヨイツたちのように、ダンジョン内の土で出来ている場所を狙って掘削スキルを開発練成熟練して、一か八かショートカットするのは例外。
本人達も温泉、美女入浴中、そこに意図せず偶然突入するためにすべてを投げ出した、賭けだった。
成功しました。
全員斬首されるところでした。
デスゲーム中に。
さておき。
にこやかに笑うニート。
楽勝ボーナスステージが実はトラップだった件。
ニートを嫌う大勢。ニートを好く一部。合わせて僅かな、ニートを知る者たちは思った。
ま・た・か!
良くも悪くも、誰も彼も、何もかも。裏切った、裏切る、裏切り続ける。笑い、嗤い、わらう。ニートの本質。すべてにむいた笑顔。
『どーいうコトでしょうエルコレさん!』
あ、帰って来た。実況ルーシー。最初からずっといましたとでもいうよう中継席に復帰している。
勝って来た?中学生との罵りあい。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・涙目。
そっとしておこう。
『おっと、ニートさんが中継スタッフを手招き』
『勝ちましたか?ルーシーさん』
――――――――――やめたげて――――――――――
さっそく腫れ物をいじるニート。
『あーつまり』
エルコレは二人を無視。ルーシーいじりで場を流そうとするニートにはのらない。
巻き添えで滂沱、硬直するルーシー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・やっぱり負けたか中学生に。
『プレイヤーはエントリー時点でリアル比オリンピック選手級の身体能力を持っています。かくれんぼ参加者、中堅レベルともなれば人外級』
・・・・・・・・・・中継席に復帰したルーシーはフリーズ中で合いの手を入れられない。
敗北の涙に濡らす高校生、では、中学生、セイ、が勝ったのかと言えば
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・真っ白に燃え尽きている。
胸元を抑え、目の前の鏡に拳をめり込ませたまま。
「セイちゃんだいじょーぶ?だいじょーぶじゃないよね?詰んだ?オワタ?」
トモはセイを慰め・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・んのか?まあ、よろし。
気力で二人を無視するエルコレ。
『プレイヤーが一跳びで10m跳び上がろうと、100m5秒で走ろうと、人間サイズの岩でお手玉しようと、非破壊オブジェクトのオフィシャル建築の中では無意味』
ヴァーチャルゲームの売りは、リアルを超えたリアル。
現実感を持ちながら(そう思い込みながら)現実を超えた力を体感すること。
だがしかし。
超人的ゲームパワーがまったく無意味な、かくれんぼ。壁も天井もぶち抜けない。しかも、かくれんぼ。速さを競う場面でもない。
『プレイヤー随一の隠蔽スキルを持つネコには、探知他スキルもアイテムも魔法も無効』
底面積で10m圏内の建物は5階建。四方の建物に囲まれた10mほどの空間は、そのまま建物間の移動を阻害する。
リアルボディで5階建てのビル4棟を捜索、その中に隠れた小学生を見つける。
何人で、どれだけ時間かかる?
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――制限時間、5分。
出来そうな、無理そうな、やっぱり出来そうな、気がしない?
『いや!無理じゃありません?』
『でもありません』
叫ぶルーシー、いなすエルコレ。復活したんか!
『頭を使うことです。今までのネコ、ニートの逃げっぷりは誰もが見てましたよ?』
特に、かくれんぼ参加者、鬼ごっこのメインプレイヤーは、三日間じっくりみていた筈だ。
『答えにならない大きなヒントを贈ります』
皆、ギャラリーもエルコレに注目。
『指示するニートが側にいないネコは、考えなしなのに、自制心も無くなります』
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ルーシーは、わかった。
『パワーの意味がなくなるのはお互いさま。ネコさんは探知スキルのみ。参加者は判断力と人数で挑むわけですね!エルコレさん!!』
野生のカンvs人間の英知。
失敗でも成功でも高度なプレイになるだろう。
なんか失礼な言い方だが。
期待が盛り上がるギャラリー。
『さあ、一組目が会場に降りました』
かくれんぼ参加者、10組。
最初の一組以外は、ニートが立つ広場の周り、四周を囲む建物の屋上に立って見下ろした。
アベンジャーズの7人は顔色一つ変えず、会場内に降り立つ。




