サイコパス
サイコパス。
それは共感性の欠如だ。
精神医学の常として「サイコパス」には無駄な注釈に付随事項が盛られているが、まったく無意味。
枝葉の根は「共感性の欠如」であり、それ以外はそこから派生しているにすぎん。
サイコパスは隔絶した精神と言っていい。
相手の痛み、喜び、苦しみ、怒り・・・・・・理解はしても感じられない。
他人の感情、すべてがサイコパス自身に影響しない。
他人の喜びや楽しみを、知ることができても感じられない。
人の痛みや苦しみが、知ることはできても感じられない。
だから、抑止力が働かない。
必要と判断し、躊躇なく行動する。
最高の効率で他者の喜びを奪い、傷つけることができる。
その資質は反社会性を意味しない。
社会は他者を傷つけて蹂躙する側面を持っているからだ。
例えば。
警察官が犯罪者を射殺する場合。
警官がサイコパスなら自分の技量を最高に発揮して、社会秩序を守るだろう。以後もセラピストの世話にならず、まったく平常に勤務可能。
これが一般的な感性を持つものであれば?
犯人にも事情があるかもしれない。家族がいるかもしれない。友人だっているだろう。
・・・・・・・結果、犯人を取り逃がし被害が拡大する。あるいは、警官自身が返り討ちになるかもしれない。
犯人を排除して社会に貢献しても、なお続く精神的外傷で、自身と周りの人間を傷つけ二次三次被害をまき散らす。
社会にとって、必要なのはどちらだろう?
専門的な統計によれば、合衆国では数万から十数万のサイコパスが社会で平穏に生活している。
その多くが、社会的成功を収めている。
一般的な感性を持つ者たちが、躊躇してためらう局面で、ロスが生じない。
同じ能力とツキを持っていれば、サイコパスが成功するのは当たり前だ。もちろん、社会が持つ同質化圧力で排除される可能性もあるが・・・・・別の話だ。
つまり、サイコパスは社会に必要とされているとすらいえる。
犯罪に走るサイコパスは極めて限定されており、例外と言っていい。
そりゃそうだろう。
状況により人間は罪を犯す。
ただし、最後の一線を飛び越えるとき、サイコパスは感情に引きずられることがない。
同じ条件なら、社会的成功と同じく、逸脱の可能性も低い。
ここまで聞いて「サイコパスになろう」なんて思うなよ?
なれるもんじゃない。
なって幸せかもわからない。
幸せを感じているかすらわからないぞ?
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――ユエは、アーカイブされていた講義記録をカットした。
ヴァーチャルゲーム『スフィア』では、有料ストレージに様々なデータを蓄積して置ける。
普通はアイテムを保存しておくのだが・・・・・ユエは主に音楽を保存していた。
作業プレイをしているときに聴くために。
アイテムも音楽もデータに過ぎない。やる人間が少ないだけで、可能だ。それは音楽以外でもなんでも可能なわけで。
「さて、どう動く」
ところかわって、はじまりの街。路地裏、宿屋の裏で、イベント『鬼ごっこ』の、注目されていない片隅。
あ、ユエがいる場所は不明です。
Cが、独断でユエの至上命令『セイの保護』を捨てて、ニートを追い詰めた理由。
ギルド『GG』の全員が、C以外が、抱くギルドマスター『ユエ』に対する絶対服従。
Cだけが異分子だ。
皆がユエが死ぬと言えば従う。
命じられれば介錯も行い、見送ってから腹を斬る。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・Dは喉を突くかもしれない。
リアルで、だ。
ユエの言葉は神聖不可侵。
その意志はありとあらゆる全てに優先される。
ギルド『GG』メンバーはソレを疑わない。
だから、誰も気がつかない。
Cが、ユエの意志よりユエの生存を優先している事を。
ユエの命を守る為なら。
「その意志を踏みにじる」
ニートの、静かな静かな、揶揄。
Cは、ピクリと反応したが、堪えた。
ニートがへぇーっと面白そうに笑う。
殺される前に殺しに来た相手で楽しむサイコパス。
(新しきものなし)
ニートには、Cが見えている。よくある類型だからだ。
相手より、自分の欲求を優先する。自分自身より、相手自身より、欲望の充足を求める。
ユエ自身を否定してでも、その生存を強制する。
Cは、どうあっても、自分が死んだ後でも、ユエと名付けられた存在にいてほしい。今も未来も、ユエが消えてしまう可能性を受け入れられない。
そんな自分自身を恥じるC。
彼女が傷つくと判っていて、ニートは、あえて言っている。
オマエが大切なのは、自分だろう?
自分自身の欲に傷つきながら、なおもソレを捨てられないC。
ニートには理解出来ない。
だから楽しい。
だからいじる。
どの程度傷つくか、確かめる為に。好奇心を満たす為に。
Cは、ニートの眼を見て、再び違和感を感じた。
――――――――――コイツが『みんな』を助ける?―――――――――――――――
――――――――――有り得ない――――――――――
――――――――――ニートはやはり――――――――――
だからこそ、Cは迷わない。
ニートは危険だ。
そして、戸惑う。
この、真正のサイコパスが、なぜ、身を捨てて『みんな』を助けるのか。
このままニートを殺していいのか?
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・、ネコちゃんを隠したままでいいんっす?」
Cは切り返した。
ニートを殺すのは簡単だ。一気にフィールドに放り出せばいい。そもそも、中堅プレイヤーでしかない上に、戦闘スキルが高いわけでもない。
ニートの戦闘力は最強の廃プレイヤー、ネコあってこそ。
ネコのレベルはCより高い、が、キャラクタークラスもプレイヤー自身もバーサーカーなネコ。
ニートから切り離された現状なら、脅威じゃない。
Cにネコ単体を倒せなくとも、その守りを破りニートを殺ることは出来る。
それに。
ニートは自分の死、いや、殺される事を割り切っている。
防ぐ気がない。
だが、まだ、ためらうC。
本当に、殺せば済むのか?ニートが繰り返していた言葉。
『ゲームはリアルと違い、殺しても片づきません』
と。ならば、
『デス・ゲームでは殺せば済む』
それはニートが、言ったこと。
その言葉の裏返し。
ニートの言葉に、裏がないわけがない。




