かくあれかし
「あーあのな?知ってるから。おっさんが、あの、アノ、彼の、おっさんがさ、企まないわけねーじゃん。あたしを利用してるなんてさ、百もショーチよ。ってか、よ?」
「わーたしもでーす!ニートさんが利用しないモノなんてないです!何もかも利用してますよ!お日様も風も人も!ゴミも!わたしたちも!」
ご・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
「あたしはさ、バカだから、自分にゃなにもできねーって踏んでた。殴る蹴るははできたけどさ、チューボーまでだろ、拳で片付くなんてさ」
「わたしなんか、なぐるけるもなし!泣いてるだけなんですよ!バカだし!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
「だからさ、おっさんを見てりゃわかんだ」
「っていわれました!ニートさんに!」
??
「「あたし/わたしの『使い方を教えてあげます』って」」
使い方?!ていよく?ううん、あからさまに利用してるだけじゃないですか!
いいんですか!使い捨てられる日が来ますよ!
「「捨てる?」」
笑い声。
「ナイナイ」
「ナンでも利用出来るんですよ!ニートさんは!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・?
「「あたし/わたし、達がどうなっても、おっさん/ニートさんは、使い続けますよ」」
《報道ギルド『スフィア・タイムズ』レポート:『鬼ごっこ』キーマンを訪ねて》
見積もりを間違えた。
つまり、自分は殺されるんだな。ニートはそう考えた。安全圏なぞ、ギルド『GG』が本気になれば、盾にならない。
「この世界は地球サイズの球体としてデザインされ、東は太平洋相当」
「待つっす」
突然話をフられたアーネは目を白黒させる。全く動じないCがニートの口を塞いだ。
「キメってハヤないっす?」
覚悟を決めるのが速くないか、と。
「にげっすか?」
逃げないのか、と。
「いっしょ」
ネコが・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
「何語よ!!!!!!!!!!」
キレ味抜群。
度肝を抜かれて黙っていたが、この場の三人で一番ストレスが溜まっていたアーネ。
ついに自制心が決壊。
ってか、三人?
殺される人、ニート。
殺す人、C。
状況が判らない人、アーネ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・一番、ストレスが、溜まって、る?
「かわいそうに」
ニート、殺される人の感想。
「ゴーメンっす」
C、殺す人の謝罪。
「??????????」
キミは悪くない人、アーネ。
――――――――――説明タイム――――――――――
Cはニートを殺せるし、ニートは殺される。
短いよ!!!
「ばっかじゃないの!!!!!!!!!!」
怒髪天を突くアーネ。
殺人を前にした彼女の反応を楽しむニート。
同意して頷いたC・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・どっちに同意してる?
アーネはわからない。
わからないなりに腹が立つ。
殺す殺されるなんて話を、さも当たり前にしているCとニート、二人に頭にくる。
二人は判っている。アーネが解っていない事を。
指先一つで安全圏を放り出して、瞬殺出来るC。
口先一つで安全圏を追い出して惨殺出来るニート。
自分を殺せる人殺しを前に、平和な怒りをぶつけるアーネ。
「まあまあ」
とニート。アーネは、Cを宥めるニートに訝しげな視線を送った。
「へー」
別にアーネを殺す気がないが、それでも宥められたCは、なおさら嗤いを深めた。
「なぜ?念押しをしてまで、生かしておくっす?」
アーネはCを見て、慌ててニートを見た。
二人が、自分を見ていない?
「なんで?死ぬ前に情報交換?上で得た情報を他人に伝えてどうすんすか?」
アーネはハッとしてニートを見た。
『・・・・地球サイズの球体としてデザインされ、東は太平洋相当・・・・・』
アーネの知識では追いつけない所もある。
だが上空、いや、プレイヤーの誰も届かない高空から見た景色。アーネのような中堅プレイヤーなら、高みから得られる情報量は理解出来る。
山、大木、塔や城壁などから周囲を観測する。
このデス・ゲームの元になったヴァーチャル・ゲーム『スフィア』は探索がメインテーマ。それは基本動作だからだ。
ネコが到達した高みは、さすがに想像できないが。
「どうして?鬼ごっこなんすか。七日目に始めて十日目に終わらせることにしたんです」
「剥き出しになってますよ」
「?」
Cが嗤い、ニートが笑う。
アーネにはCの語尾がなくなってる事はわからない。
付き合いが長い訳じゃないからだ。
育成圏のプレイヤー総てと同じく、一週間目、十日目の意味も知らない。
アーネは育成圏をかろうじてまとめた大手ギルド、その実務プレイヤー。
目先の事に追われまくり、それ以外、考える余裕が無かった。
そもそも、評議会がまとまってまだ三日程度。万を超える雑多なプレイヤーを相手に、一つ当たり数百プレイヤー規模のギルドが連合して秩序の維持に努めている。
そんな奇跡を可能にしているのは、一人一人の過重労働。
暴動を見て、ギルド戦争を戦い、攻略組と渡り合い
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・まとめられた名もなき多数派プレイヤー達の、閉塞感などわからない。
それを外側から眺めて、タイミングを測っている者。
ギルド『GG』の魔法使い、というより参謀のD。彼女も、それを育成圏の誰かに知らせたりはしない。
対処できない破滅を知らせれば、恨みの矛先を向けられる。
安全化するコストを考えれば、やってられない。
数万のプレイヤーをフィールドに追いやるだけで、どれだけ徒労を重ねるか。
(皆殺し前提)
それなら、うたた寝していたほうがマシ。
Dはそう考え、本業の傍ら、観察と隔離だけにした。
本業はゲーム世界調査。
大きくは攻略圏の再攻略、小さくは運営拠点調査。
「教都のDさんから質問っす」
語尾とニヤニヤ笑いが戻った、戻したC。ニートをまっすぐに見る。
『壊れた?』
ニートが。
失礼である。しかも、本人に聞くか。
まあ、言いたい事は判る。普通にサイコパスで普通に人でなし普通に利己主義者。そんなニートの異常行動。
わざわざ地雷を踏んでくるアーネをとりなす。
死ぬ前に全プレイヤーにとって有益な情報を遺そうとする。
「手間暇かけてリスクをしょって」
Cが周り、誰もいない街角、はじまりの街を見回した。
「自滅を防ぐ」
育成圏、そのプレイヤーを、救う。
Dは見積もりをやり直した。
『鬼ごっこ』奇跡的に成立した、としかDには考えられない。しかし、今となっては、それが育成圏全体を巻き込んでいる。
最大人口の、はじまりの街は舞台として。
周囲の街々。
時に『鬼ごっこ』運営に巻き込まれた大手ギルドの地盤として。
時にゲームの起点たる、はじまりの街に注目する野次馬として。
誰もが夢中になっている。
投げ与えられたパンとサーカス。
彼らは、閉塞感を忘れている。『鬼ごっこ』が終われば、落ち着きを取り戻して日常に復帰するだろう。
デス・ゲームという日常に。
つまり、ニートが、作為か不作為かは別にして結果として、彼ら数万のプレイヤーの命を救ったことになる。
「当面は、ね」
「そっすか」
「?」
ニートが注釈。
Cが納得。
アーネは孤立。
まだまだ続くデス・ゲームという危機の中、破綻の萌芽は芽吹き続けている。
だから、仮に育成圏が今救われても、根本的な解決ではない。
が、Cにとってはどーでもいい。
Dにも、ギルド『GG』にも、おそらくは、ギルドマスターたるユエにも。
彼らの力は精神は、プレイヤー全員が死んでも問題ない。皆が死んでなお、デス・ゲーム脱出に邁進するだろう。
問題は。
「せんせ」
ニートだ。
なぜ、サイコ野郎が、皆を守る?リスクを背負い、コストを払い、ノーリターンで。




