ところでネコは?
地平の彼方を響き渡る少女の怒声・・・・・かなり珍しいよね?
でもない??
そんな咆哮を聴けない距離を走るアーネ。
はじまりの街。
街路J-12。
はじまりの街には地図がある。プレイヤーメイドではなくれっきとしたオフィシャル品。
探索探検要素が強い『スフィア』は新たな街やフィールド発見がゲーム自体の大きなテーマである。
しかし、ゲームの始まりであるだけに、はじまりの街の地図メイクまでプレイヤーにさせるつもりはなかったようだ。
って言うか、武器屋や宿屋や冒険者ギルドがどこにあるかわからないとゲームにならないよね?
だが、ゲームデザイナーは、探索要素を捨てる決断はできなかったらしい。だから街に名前がついていない。
円形劇場などの施設名はあっても、地名がない。
いや『はじまりの街』自体が正式名称ではないのだ。
ゲームの初期資料には当然『はじまりの街』が『存在として』記載されているが、固有名詞が全くなかった。
『最初の街から、あなたの物語がはじまります』と記載されているくらいだ。
βテストから参加しているシスターなどは、
「街を行く人暮らす人が、自然に名前を付けるなんて素敵じゃないですか・・・・・・ってデザイナーさんが思ってるような気がします」
と語り、ヴァーチャルゲーム『スフィア』WiKi『有名プレイヤー語録:ポエム』として記載されているほどである。
ばお、シスター率いる、ってっより、メンバーがシスターを見守っている感が強いギルド『マルタ騎士団』では、シスターのポエムが聖典か聖句扱いである。
シスターの前では決して口にしない配慮がギルドメンバーに求められている。
さておき。
爆心地。
爆心地から弾き飛ばされた三桁のプレイヤー。
直撃を受けて攻撃判定発動!粉々一桁。ボロボロ二桁。あとは弾かれただけ。彼らは弾かれた先で、ダメージ判定キャンセルによりアバター再生が始まる。
なぜ爆発?
路上から屋上から屋根の上なアーネ。
まだまだ遠目、アーネは遠見スキルがない。街中の、凹凸が多く見通しが悪い屋根や建物の上を曲がりくねりながら疾走中。
一応、最短距離ではある。
何が起きているかわからない。アーネは訳が分からないまま止まらない。止まって考える、という選択を即座に却下。
それでも走りながら考えるアーネ。
ネコは地面に着くまで攻撃出来ない。魔法使いではなく、戦士、狂戦士だから。
――――――――――――――――――――なのである。
狂戦士って。
ネコ一人しかいないクラスではあるが、ユニーククラスではない。運営が公式Q&Aでクラスチェンジ条件まで公開している。
一般クラス『狂戦士』は条件を満たせば誰でもなれる。
むしろ、オフィシャルがクラスチェンジ条件を公開する方が異例だ。
ちなみに条件は『ネコと同じ事をする』・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・できねーよ!
そんなレジェント天災ネコでもルールは曲げられない。
足場がない以上、身動き出来ない。追っ手に触れられた瞬間、相手に対して力を込めれば動けるし相手を弾きとばせる。しかし、それは攻撃と見なされない。
だから攻撃エフェクトも生じないしアバターも壊れない。
第一、触れられた瞬間に『鬼ごっこ』は終わっている。意味がない。八つ当たりの可能性???
『鬼ごっこ』に負けた腹いせでネコが大暴れしてるとか・・・・すごくあり得る。今までのネコの行動なら普通すぎるくらい。
とはいえ、アーネはその可能性を考え付かない。
・・・・・・・・人柄である。
哀れ。
敬意を表し、その可能性を除外するとどうなるか。
動けなくても、墜ちてはくる。
ネコ(とニート)の落下衝撃は判定される。投擲攻撃扱いだ。爆発には程遠いが、投擲攻撃エフェクトは出るだろう。
だが、安全圏の街中。
ダメージ判定はキャンセルされる。だから、墜落地点に誰かがいれば、アバター(ゲーム内の体)がつぶされはする。だがすぐ復活し、HPもステータスも変化しない。
いや、ただ墜ちてくるだけのモノ(ネコ&ニート)に潰されるか?
『鬼ごっこ』の為にタッチすべく、ネコに群がる。だが、ネコは足場がない中空で反撃出来ない。ゲームアバターの基礎能力値から見て、タッチに失敗、自体がありえない。
それでも仮にプレイヤー同士の干渉で失敗したとする。
だが大半のプレイヤーは面積が小さいネコに潰されずに、避けられる。
基本スキルの回避だけで十分だ。
どう考えても爆発に見えるエフェクトが生じる訳がない。安全圏と違い全判定が適用されるフィールドでなら、爆心地付近の地面が土砂となりまき散らされる。
それが爆煙に見えるのだが・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
こちら中継席。
ここでも同じ疑問が吹き荒れる。
『何でしょうあの爆発っぽい何かは?解説のエルコレさん?』
勝敗判定の為に急行した中継班に確認中。
実況席にスタッフが指示。両手を繰り返し広げる。
『フィールドなら地面や木が抉られて爆発にみえますが・・・・・・・・・・・・・・・』
アーネは知らなかったが、攻略組のハイレベルプレイヤーはたまに使う。ノーコスト目くらまし。踏み込み一つで数m~十数mの土砂石片がまき散らされる。岩片が飛び散る
岩場で行えば、初級者なら大ダメージを受ける攻撃になる。
まあその程度の打撃、攻略組では後衛でも防御できるから、あくまでも目くらまし。土や砂地の方が視界を遮り、多かれ少なかれ命中判定を下げられる。
だがここは安全圏。
はじまりの街のオフィシャル構造物は壊れない。プレイヤーアバターやアイテムとは違う。
アーネは街路J-12に走り込んだ。ゲームじゃなければ、息も絶え絶えだろう。
見回すと、爆煙が収まり始めて・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・収まり?
街路J-12。
路上に瞬く間に再生するアバター。手、足、マントに、目玉――――――――――黒いタキシードにシルクハットを持ち、優雅に一礼する。
ニヤニヤ笑顔。
「な!あ!!!!!!!!!!」
最初から来ている中継班もビックリである。街中に響き渡る中継音声。
『なんかマジシャン出てきましたよ!エルコレさ~~~~~~~~~~ん』
なんか拍手が起こる、はじまりの街。
『やりやがった!』
『この人が勝利者ですか?』
エルコレが中継映像、いや、中継班の再生映像を指差した。
『ゲームは続いてる!勝ちたい人はネコを探して!』
『なんですなんです?このマジシャン誰です?』
ついていけない実況のルーシー。たぶんギャラリーも解ってない。
中継がリプレイに切り替わる。
『足場です!』
『はい!足場がないと動けないから、ゲームオーバーなんですよね!』
『空中に足場が在れば動けます!それを全力で蹴れば』
威力の大半は破壊される足場を経由して空中に。足場はネコの莫大な力で瞬時に爆散する。それはつまり作用するということなので反作用がある。
つまり足場があれば動ける。
『じゃあ、あの爆発、みたいなのは?』
『全力ネコキックか全力ネコパンチで粉々になった足場です』
一人分のアバター、の破片でも、それなりに爆発っぽく見えるんだな。とどうでもいい事に感心するエルコレ。
に、しても
(試したのか?アドリブか?)
実況のルーシーはそれどころじゃない。
『いや!いやいや!!どこから足場を持って来たんです!!!!』
空中の映像を、目を皿にして見つめるルーシー。支援者でもでて、空中に足場を投げだのか?
いやいやいや、間違いない。
『なんにも持ち込んでないですよ!』
空中に新たな足場を作っていない。それが意味する答えは?
答えに詰め寄る路上の少女。
アーネはマジシャンに詰め寄った。
「ネコは何処!」
鬼気迫る形相・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・イエ、普段は可愛い娘なんですよ?
中継ではアーネとマジシャンがアップ。試合中の二人の声は拾えない。中継席の音声が被る。
『ネコは、最初から持ってたじゃないですか』
『足場・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・!!!!!!!!!!』
「とっとと答えなさい!」
空中で足場になる物。
ネコが最初から持っていたもの。
踏み台となりネコを明後日の方向に逃がしたモノ。
全力でネコに攻撃されて粉々爆煙状態になり、わざわざ墜落予定地点を狙って吹き飛ばされ、そこでマジシャンスタイルで気取った嗤いを浮かべている。
いや、嗤いって・・・・・・・・・・・・・・・アーネにはそう見える・・・・・・・・・・・・・・・ソーデスカ。
『『「ニート!」さん?』ですよ』
「ってか、昨日言ってたのにな」
「明後日には終わります?」
「疑問型なんですか?」




