北風と木漏れ日。
ニートが誠心誠意、心を込めた謝罪を観察している頃。
はじまりの街。
真昼の大捜索。
「よろしくお願いします」
ひたすら平身低頭する少女は、アーネである。
そして此処は警邏隊本部。
警邏隊って何?
とたいていのプレイヤーは思う。
そりゃそうだ。
ヴァーチャルゲーム『スフィア』のガイドブックはおろか、設定資料にもそんなものはない。
5日前から始まったデス・ゲーム(状態)。
ログアウト不可で運営行方不明(諸説紛々)。
この状況で、いろいろ、そしてしかして、さまざまな経緯があった(前話まで参照/22~32話までで良いかも)。
まあ、よろし。
簡単に言えば姿が見えない運営の代行。
『評議会』はプレイヤー(有志)の自治協議の場所。
『警邏隊』は評議会が作った自警団。
そもそも評議会自体が『はじまりの街』の秩序崩壊、有り体に表現すれば、暴動への対処がキッカケでできたのだ。
真っ先に治安回復、維持体制を作ったのは当然だろう。
誰も正確な所は判らないが、評議会の見積もりだと『はじまりの街』単体でプレイヤーキャラクター(PC)人口は約一万人くらい。
大手ギルドの連合体である評議会。
彼らが治安維持にさけるのは二千人程度。
まず十分、と各ギルド上層部は考えていた。
「だから無理!体制変えるなんて無理!!」
上層部は、考えていた。
あくまでも、机上で。
「やっとパトロールの体制が、いや、連絡網が組めたんだぜ?ローラー作戦?聞き込み?追跡?」
今のところ、各ギルドの抽出PCをまとめているスタッフの中心は、平身低頭しているアーネと同じギルド『黄金の夜明け』所属だ。
だからこそ、偽らざる本音。
「ざっけんな!!!!!!!!!!」
少し偽ろうか?表現周りを特に。
まだ暴動中は良かった。
各ギルドが競って目に付く暴徒を押しつぶし追い散らした。
むしろ統制も指揮もいらなかった。
どうせ、頭に血が上って、考えなしに暴れてるだけだし。パーティーなど組む暴徒は、当然いない。
ただ、数に任せて追い散らせば十分だった。
だが、それが終われば秩序維持。
見えない敵を、いないかもしれない敵を、手応えのない相手を想像してルーチンワーク。
ギルド『黄金の夜明け』は実質ギルド連合体だ。
リアルのゲームコミュニティー出身の大中小ギルド。
彼らが傘下ギルドとして同じ『黄金の夜明け』看板を建てて便宜をはかりあっている。
ただし、情報交換や自由参加のイベント、コミュニティーで知り合い仲良くなったから共同ハント・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そんなレベル。
それでも、まし。
情報交換以外に他のギルドと没交渉。
他のギルドと組む経験は他のゲームでやったことがある気がする。そ
んなギルドの方が多い。
そこから抽出されたPC。
中堅レベルで戦闘職(職人商人以外全部)。
戦闘経験が(対モンスター/PC問わず比較的)多い。
パーティー単位で参加優先(ソロも多かった)。
個々の戦力としてはまずまず。
だが、致命的にばらんばらん。
かろうじて、警邏隊が同じ目的に向いているのは戦力の半分が『黄金の夜明け』だから。
だからといって数と力で押し切って、評議会に参加しているほかのギルドに行動を強要するわけにもいかない。
「うちも含めてどんだけ苦労してるかわかるか?24時間交代で決まった行動をお願いしてるんだぞ!」
最初の24時間さえこれからだ。まだ経ってないが。
なにしろみんなプレイヤー。
義務や責任がある訳もなし。報酬がある訳でもない。
さらにひとりひとり、警邏隊の活動に温度差もある。
「全力を尽くす奴!できるだけな奴!気分が乗る時乗ら無い時!他人が気になる気にならない!」
俺がやるからオマエもやれ。
強制される謂われはない。
指示を出すのは誰だ。
誰が決めた。
自分のギルドマスターに聞いてからじゃないと。
そんな話は聞いてない。
警邏隊がもめ事を防ぐために手順を決めようとしたらもめ事が起こり・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・パトロールがはじまったのは奇跡であり、目のまえでわめき散らす警邏隊本部スタッフの努力と才能の賜物だ。
アーネは我知らず、敬礼した。
スタッフ、名前はまだ知らない、も気恥ずかしく思う余裕を取り戻した。
「すまんが、なにも出来ない。一応、目撃情報は集めたが、裏付けは期待しないで欲しい」
アーネは、お礼より先にすべき事をした。
「ご迷惑おかけしました」
深々。スタッフは手を振った。
「俺も『黄金の夜明け』だ」
それだけで、通じる。アーネが悪いんじゃない。スタッフが悪いんじゃない。
「だから緊急事態だと言ってるだろうが~~~~~~~~~~!!!!!!!!!!言うことを聞かない?どこのギルドだ!すぐに呼び出せ!パトロール中?だからなんだ?ギルドマスターは誰だ!そいつのアドレスは?把握してない?なぜだ!なぜしておらんのだ!貴様のギルドはどこだ!ギルドマスターは?おまえか!『黄金の夜明け』??????????貴様が!やる気がないならゲームを辞めてしまえ!!!!!!!!!!」
誰の声か一応。
警備本部に、アーネより先に来た、クラウンさん(ギルド『黄金の夜明け』幹部)である。
ギルド『黄金の夜明け』であるスタッフ、アーネ、ため息をつき、向き直る。
他ギルドの皆さん。
警邏隊が複数ギルドの共同作戦だから『黄金の夜明け』以外もいるわけで・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・『黄金の夜明け』の2人に
「どんまい!」
「聞き流すからさ」
「お茶飲む?」
優しかった。
「さっさと貴様の上司をだせ~~~~~~~~~~」
響き渡るクラウンの怒声。
ギルド『黄金の夜明け』古参幹部なら、クラウンの音くらい聞き流すのだか。
すでに『声』ではなく『音』呼ばわりな所で扱いがわかっている。
「あの・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
辺りを憚るアーネの小声。
「あくまでも、例えば、例えばですが」
皆が耳を澄ませる。
「わたし達が街中で助けを求めたら・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ギルド『黄金の夜明け』の新規加入者達、わたし達、が通りすがりの警邏隊にすがりついたら?
「それなら大丈夫」
「めんどくさがったりしないよ」
「あ、でも手配犯とか言うとマズい」
「考え込んじゃうね?」
「あーウチの奴らなら、おそわれたー、って言えば大丈夫」
皆が請け合った。
「ニートでしょ?結局」
アーネ以上に皆、まあ、各ギルドから調整役に派遣されたPCたちは、ニートを知っているらしい。
「警邏隊じゃなきゃ殺りたがる奴らはいるな」
「うちにも」
「あたしは名前しか知らないけど?」
「ヤバいかヤバくないかで言えば?」
「「「「ヤバい」」」」
「このシュチュなら殺しはしないさ」
「わざわざ街の外ってなーないな」
「じゃあま、実害はなし」
「心の傷?」
「プライドくらいで」
「いい経験だよ」
まあ、概ね、警邏中を巻き込む分には問題なし、と。
「では、よろしくお願いいたします」
また頭を下げたアーネ。
「後ほどまた、お詫びに参ります」
警邏隊スタッフのギルド『黄金の夜明け』メンバーも頭を下げた。
アーネは警邏隊本部を飛び出だす。
警邏隊スケジュールは抑えた。
予定は変わったけど、行動は変えなくていい。
大通りに整列している新人たちに号令。
「出動!」




