正しい謝罪の示し方。
あやまる。
謝罪する。
詫びる。
目的はいろいろと考えられる。
誰かを思い通りにするための技術。
自らの負担を軽くするための詐術。
相手を傷つけるためだけの暴力。
赦しを求めるならば技術だろう。
ただただ伝えたいだけなら詐術だ。
そもそも必要のない相手にするならば暴力。
それ以外の、とても例外的な、謝罪もある。だが、ニートはソレを見ていることしかしない。
まず先制謝罪で機先を制した。
そもそもニートにはシスター達に謝る理由がない。
『助けられずにすいません』
と自分の立場を
『シスターの味方』
に規定しつつ
『貴女の為に努力した』
と貸しを押し付ける。
一石二鳥はコミュニケーションの基本。
ただし、大抵のマニュアルには書いてない。いずれかの対人関係マニュアルに記述があったらご一報を。
ニートがシスターの役にたっていないのは、言うまでもない。
串刺しになったり、掲げられたり、さんざんである。
だのに何故かシスターは感謝。
この元手ゼロの貸しはシスターの心証を縛る。
次にネコがシスターを解放する。
お見事である。ネコが。
まあ、この段階ではニートが頼んだ(視線で指示)からシスターは助けられたと言っても間違ってはいない。
シスターへの負荷を積み増し。
更にシスターの下敷きになるニート。
『落下から助けた』&『犠牲になった』、シスターの犠牲にな。
いやいや、ちょっと待とうか。
シスターが、ソコに落ちた理由は?
ネコが、ニートの指示で、シスターを解放したからだ。
キチンと背中でニートがシスターを受け止めた。
相手を見ずに的確にキャッチ出来たのは何故だろう?幸運?技術?計画?
見事、ニートとネコの連携プレイ。
マッチポンプと言い換えようか。
だがしかし。
安全圏では偶然の落下は衝撃すら感じない。
衝撃は他プレイヤーの攻撃時だけ。
シスターは助かったのでしょうか?
串刺しからはともかく、その後は?
だがしかし『落ちると痛い』という思い込みはなかなか抜けない。
まあ、リアルで困るから抜けない方がいいが。
だから、安全圏で転びそうになって支えられたら礼を言うのは普通ではある。
ではニートは下敷きになったがそれはどうか。
同じなのだ。
衝撃は感じない。
重くもない。
攻撃や、持ち上げる意志がなかったから。
せいぜい、シスターのお尻の感触を感じただけ。
あれ?ニート得してね?
なのにシスターは感謝と罪悪感を更に更に抱いて積み増しているのだ。
必然的に自然に不可避に。
ポップ、ステップ、ジャンプ!とばかりにシスターの心の警戒線を三段跳びで踏み越えたニート。
素早く犯行現場を後にする。
職業的犯罪者のパターン。
ニートは決して法を犯したりしたとバレるタイプではないが、同じ場所を嫌う。
やっぱり犯罪者じゃねーか!という声もあるが、発覚して有罪判決を受けるまでは違うのである。
とニートは供述しており・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
「ヤツは犯罪者だ!」
おー納得。
実に的確な指摘が響き渡った。
ここは円形劇場、はじまりの街を治めつつある評議会、中枢である。その場所の、客席部分。
「よく見ろ!」
既に皆に画像配布済み。
「議長襲撃犯だ」
は?
皆が頷いた。いいのか。
皆とは三桁にのぼる数の、ギルド『黄金の夜明け』メンバーである。
「大変危険な敵だ」
嘘ではない。
発言者は嘘が大嫌いだから。
事実かとうかは審議中。
「だが安心しろ」
皆、一人残らず不安そう。
周りに集まっているのは、最近、デス・ゲーム開始後に『黄金の夜明け』へ加入した新人ばかりで、中堅クラスがほぼいない。初心者ばかりだ。
「我々には正義がある!」
誰も突っ込めない。
皆が、周りの顔すら伺えない。
互いに見知らぬもの同士、と。
「クラウン様」
少女が挙手。さ、ま?鷹揚に頷いたクラウン。
「先ほどおっしゃいました通り、警邏班は既にヤツを追っております。確実を期す為に、皆には索敵と包囲、しかるのちに警邏により片づけては如何でしょう」
クラウンは、先ほどの醜態を思い出した。
大広場でこいつ等と同レベルの雑魚達は、ネコ一匹に脅えて使いモノにならなかった。
猫とは違うのだよネコは。
怯えるよね。
そんなことは知ったことじゃないクラウン。
警邏なら中堅以上だ。雑魚とは違う雑魚とは。
とまあいろいろ考えるクラウン。
「流石だな」
頷いたクラウン。
「任せる」
つい先ほどまで、役立たずだと思い、忘れていた少女。
メッセージもゴミ箱に振り分けていた。
(だから、少女がクラウンの意に反してフミノに同情的な上伸をしてきた事に気が付いていない)
クラウンは少女の成長が嬉しかった。
「警邏本部に詰めているから、なにかあったら知らせろ」
少女は皆をせき立て、班に分け始める。
「アーネ」
呼びかけたクラウン。
「はい!」
「悪かった」
ポカーンとするアーネ。
ギルド『黄金の夜明け』のメンバー、昨日今日入った人間でなければ驚くのも無理はない。
何に驚いたのかはお察しください。
「役立たず共をつけて無理な任務を命じてしまった」
アーネは跪いた。
「いえ、お役に立てずにもうしわ」
「最後まで任務に努力したのはお前だけなのに、評価しなかった」
最後まで言わせないスタイルは健在。
「すまない」
そう言ったクラウン。
「いえ、そんな・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
最後まで聞かないスタイル。立ち去り済み。
アーネは気を取り直して、割り振りを手早く進めた。
その頃の犯罪者(クラウンより称号発行/ステータス未反映)。
「いつもの席を」
はじめて訪れる酒場。
NPC経営のいわば世界の一部。
はじまりの街はプレイヤーの商業利用が禁止だからだ。
まあ、プレイヤー同士の売り買いやアイテム、素材などは買えるので、出店禁止だと思えばいい。
道端で露天商をすればと思うかもしれないが、システムからの自動警告対象だ。
NPC経営の店には隠しコマンドがある。
初回来店時のみ『いつもの席』を頼むと、酒場の奥に通される。
『通』気どりを救いたいのか、笑いだいのか。
いずれにせよ、表からわからない場所で飲み食い出来るわけだ。
「お好きなモノをどうぞ」
「けっこう」
こんな場所、密室で、飲み食いするとは限らない。正しい使い道は密談です。
「では、シスターにはカルアミルクを」
「あ、すいません」
シスター足留めの布石。
ニートはさっさと注文した。
正しく使っても飲み食いしないとは言ってない。
人数分-(マイナス)『遠慮』した5人分。
シスターについているパーティーのリーダーは気が付いたようだ。
護衛対象のシスターが頼んでから注文を(有無含め)決めるべきだった 、と。
「フミノも好きに食べてくださいね」
大きな声のニート。
皆が囲む大きなテーブル(四角をニートが選んだ)から離れた小卓で、山崎と一緒。
ってより、隠れてる。
「は、はい」
ニートは返事を確認して向き直る。以前、いや、一昨日、フミノを殺しかけたパーティーの5人は機先を制され黙らせられた。
だからわざわざ『おびえて隠れるように離れているフミノ』に呼びかけたのかもしれない。
とまで考える人間とはなかなか楽しく付き合えないだろう。
四角いテーブル。対峙する二組。
ニート、近藤が左。ヨイツと山崎がフミノを死角に置き、ネコがニートの膝上。
シスター、リーダーが右。
パーティーの残りが背後に立つ。
シスターはニートに遠慮して、パーティーメンバーはフミノ、を背負うニートに引け目を感じている。
フミノにとっての加害者であるパーティーはともかく、出会いがしらのシスターをおでんのように扱った近藤。
・・・・・・・・・・・・・特に何も感じていない。それでいいのか社会人。
振り切れ気味の生徒に毒されているのかもしれない。
ニートは朗らかに笑った。
「シスター、まずはお先に」
切り出すキッカケをつかめずに焦っていたシスター。救われたように立ち上がった。
「まずはお詫びを」
「それは俺が」
リーダーが立ち上がった。
彼のパーティーが、半死半生の、いや、むしろ瀕死のフミノを追い詰めた。
何時間も何時間も。
友達も知り合いもなぶり殺しにされ、自分も殺しかけられ、街中のすべての人間から逃げて逃げて。
逃げ込んだ森の中を気絶すらできずに追い立てられた。
ネコカフェに救われるまで。
「まず、俺はマルコ」
名乗り。ニートも近藤も座ったまま。
「昨日からマルタ騎士団に席を借りている」
正規のギルドメンバーではない、と。
「本来はキチンとしてからにすべきだったが、俺達の都合は関係ない」
ニート、近藤に向き直った。
「俺達がやったことは俺達だけが責任を持つ」
否定も肯定もしないニート、近藤。
マルコはフミノの方を見た。
ヨイツが立ち上がり、フミノを隠す。
「貴女の名を呼ぶ許しを請う権利はない。まず謝罪させてもらいます」
パーティーメンバーがリーダーに続いた。
「「「「「ごめんなさい」」」」」
頭を下げた。
「何が起きているか、知らないまま、言われるままに貴女を追い回した」
深く頭を垂れる6人。シスターも。――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――数分。
「聞きました」
フミノの様子を見ていたニートが引き取った。
「まだあの子には答えを求めないでください」
謝罪を受け入れられるかどうか。赦すことが出来るかどうか。
「生涯、答がでないかもしれない、そう、心得ております」
シスターが引き取り、そしてリーダーが、パーティーメンバーが頷いた。
――――――――――謝れば済む。じゃなかったのかな?
済むさ。謝って済まないなら、他にできることは何もない。
そこで区切られる。




