再開
ゲーム世界は全てが演算処理で出来ている。
情報の流れであり、蓄積ではない。
木の葉の一枚。その色素、、細胞、分子構造、原子を電子化するとしたら?
莫大なハードと管理ソフトが必要になる。
理論的には可能でも技術的経営的に不可能だ。
では、どうやってヴァーチャル世界を構築しているのか?
それはこうなる。
これは木の葉である、としよう。
ゲームシステムから信号を送る。
それを受けた脳は蓄積されたデータから木の葉のデータを抽出する。
さらに前後の認識から適切だと思うものを選び出す。
この関連付けは人間の基本ソフトに組み込まれた自動機能。
影の濃淡から人の顔を読み出すようなもの。
例えば、秋だから紅葉、冬だから枯れ葉、春は若葉、というように。
抽出データは感触を含む複合情報として脳裏に浮かぶ。
紅葉はやや硬く、枯れ葉はぱさぱさ、若葉は柔らかい、などなど。
ゲームシステムは情報を励起するトリガーを引くだけ。
電子化したら実現不可能な膨大な情報とその管理、処理プロセスを人間に丸投げしているのである。
「・・・・・・・・・・・・それって、現実と違いますか?」
「イメージ、あれや、『見てる/感じている』と思とるモンを、引っ張り出すキッカケがリアルかヴァーチャルか、ってとこやね」
近藤先生と生徒のヨイツ君。教えるほうと教わる方が逆だが、まあ。
「それなら、まったく新しいものをどうやって認識しますか?」
「人間は何を見ても感じても、蓄積データの比較で認識するんよ。人間っちゅーハードには基礎データとして五感があるやろ?そこから始めて、コレは甘い、これは赤い、ってタグつけてやね、○○っぽい×○ってな?新しいっても既存データの組み合わせバリエーションの幅に集約されるからやね、まあ、拡張要素が多少なりと有る無しは議論されとるけど、まったく完全に100%未知のモンは認識出来んっちゅーのはFA、ファイナルアンサーかいね」
はじまりの街。
街角。
マントを羽織った長身の女騎士。
まるまっこいローブ姿の魔法使い。
だんだら羽織の少女剣士。
短弓を担いだ少女弓兵。
統一感はないが、パーティーとしてはこんなもの?
デス・ゲーム開始以来、やたらと増えた急造パーティーのモデルのようだ。
皆が学生服をアイテムストレージにしまっても、先生感が無くならない近藤先生、いや、ギルド『蝦夷共和国』マスター、近藤局長。
「やっぱり本職なんですね」
「ええ」
フミノの感想に頷く山崎。
あれが、近藤先生らしい、と言われたら同意するが職業としての教師らしいのかは疑問を感じるのだが。
まあ、師は土方一人のみ、他はあり得ない。
だから近藤先生でも都合は悪くはない。無駄に先生ぶらないために、むしろ好都合。
それはギルド内、生徒たちの総意に近い。
彼女はギルド『蝦夷共和国』監察方の少女である。
近藤先生が勤務する誠導館高校の生徒。
土方副長が主催する剣術部の一員。
土方家が営む剣術道場の門下生。
本名もキャラ名も同じ。
ご想像の通り、近藤先生率いる、ある特徴にこだわりをもつ、二~三十代の女性たちから、出会い頭に決定された役職。
「監察方ね!」
と。
では、監察方とは何をするのかと聞くと、立ち聞き/隊内恋愛の取締り/土方の腹心/道ならぬ恋に苦しむ、などなど、常軌を逸したオーダーが殺到。
師範であり部長でもある土方に仰ぐと、
「史実でみると、スパイだな」
と。
そもゲーム、そもモンスターにスパイとは?モンスターになりすませたり、モンスターから味方を勧誘するのか?
と尋ねると、
「偵察役にあたれ」
と命令されて得心した。
ただし、キャラとしては盗賊や弓兵ではなく戦士。
モンスターと一当たりして力を測ったり、誘導したりする威力偵察役だ。
そんな山崎が、はじまりの街偵察役に配属されたのは、監察方だから、では、もちろんない。
作戦必要人員の条件が合致したからだ。
一つ。
耐久力/戦闘力。
長期間、本隊から孤立して闘う以上、必須。
ギルド『蝦夷共和国』内では、見廻組の大人たちより、撃剣部の生徒たちが適切になる。
二つ。
容姿。
戦闘地域は育成圏、戦闘中は極力目立たないこと。
そうなると、普通以下の容姿は不適切。育成圏では美男美女美少年美少女が普通だからだ。
よって、生徒たちを見廻組の御姉様方がいじくり回し、化粧と演技指導コミで候補を絞った。
土方副長の厳命「生きろ」により自決は許されなかった。
尊い犠牲をだした結果。
補正無しでも「イケる(御姉様方談)」もの一桁。
補正すれば「よりイケる!」二桁確保。
作戦に幅が出来る事になる。
三つ。
コミュニケーション能力。
作戦の性質から言えば、斬るのではなく受け流すのが望ましい。
ギルド『蝦夷共和国』の撃剣部生徒たちには最初からむり。
そこで妥協。
受け流すのは別に担当がつくから、邪魔にならない逸材はいないか?
土方は真っ先に脱落。
山崎、当確。
女子生徒(数は少ないが)のまとめ役。見廻組の大人たちへの緩衝役。なぜかアンパンと白牛乳ばかり差し入れられてもキレない人格者。
ギルドホームで保護したフミノ、この戦闘のキーパーソン、と馴染みがいい事もプラスだった。
彼女なら、真面目で融通が利かない石頭、くらいで済む!
かくして、完成。
はじまりの街探索Bチーム。
指揮官:近藤先生
参謀:ヨイツ
情報提供者:フミノ
護衛:山崎
四人は見事に街に溶け込んだ。
いや、まあ、多少違和感はあっても先頭を行く先生とヨイツがまったく緊張感がなく、近所を散歩しているようなリラックスぶり。
それに、二人が話し込んでいるからそこに割り込んで話しかけてくるものは居なかった。
フミノは顔色が悪かったし、山崎はフミノにぴったりとついているから、余計に。
まあ、違和感をもたれる事はあきらめても、余計な干渉がなければ御の字だ。
そして一行は、道を曲がる。
ヨイツが後ろに下がり、フミノを止めて曲がらせない。
建物を背にとり、近藤局長と山崎が半円に構える。
既に、抜刀済み。
曲がるのを待たずに走り出してきた人影、憎々しげに見るヨイツ。
フミノは目を見開いて、過呼吸に陥る。
ゲーム世界にはないはずの呼吸障害。
走り出してきた人影。
前衛三人。
盾持ちの剣士が中央。
左が長槍。
右が両手斧。
後衛。
弓士。
その横にローブ姿の魔法使い。
フミノ、いや、運営の少女を追ってきたパーティー。
森の中で、フミノを、いや、名も知らぬ顔も初めて見た少女を、殺しそこなった一団。




