どうせ手遅れなんだからあわてる必要はないよ?
後から判る事は多い。
いや、むしろ『後からしか判らないことばかり』と言うべきなのだろう。
それさえわかっていれば大丈夫。
慌てなくて済む。
「暴動発生は育成圏全体にすぐ伝わりました」
ヴァーチャルゲーム『スフィア』育成圏のギルド。
PL同士の遊び場としてゲームに参加する『コミュニケーション』型。
PCになりきって遊ぶ『ロールプレイ』型。(PKギルドもその一種)
大別すればその二つ。
例外はひとつ。
初心者の面倒をみて、ある程度レベルが上がり要領が掴めたら、好みのエリアやギルド、パーティーに送り出す『スタートアップ』型。
昔からギルド単位での初心者育成は定番だし、古参ゲーマーが個人的に初心者をフォローするのもよくある話だろう。
だが、育成そのものをギルドの目的と割り切って、他のギルドやフィールドに育成後のPLを送り出すのは最近の傾向だ。
もちろん、多数ではなく、スフィアでも一つしかない。
ゲームが一年も二年も続けば同種のギルドも増えたかもしれないが、その可能性はなくなった。
育成圏ギルドのタイプは三種類、あるいは、二種類と例外。
特徴はPL/PC交流が盛んだということ。
ただしそれが連携ではないことに注意。
運営からの発表予告。
情報が伝播する中心はギルドだ。
であれば対応もギルドが主軸になりソロや非ギルドパーティーはそれに流される。
ならば各ギルドはどうしたか。
はじまりの街にメンバーこそ置いてはいない。
デス・ゲーム初期に安全策としてギルドホームに閉じこもり、はじまりの街にホームを置けないルールだったからだ。
だが、伝手には不自由がない。
はじまりの街で予告された運営の発表に、実況を依頼したケースもあったようだ。
「ただ、結局ことが起きても詳細不明でしかなかったようです」
実際、中心になった運営すら全体把握が出来ていなかった(だから壊滅した)。
暴動参加者、巻き込まれた周辺、野次馬が『状況』と言える広範囲を知る事など出来ない。
「周りの街のギルドは、危険を承知で、偵察を出さざるを得なくなります」
依頼した伝手が、依頼のせい(ととれなくもない状況)で、騒動に巻き込まれたからだ。
「悲しい事件だったね」
ニートが肩をすくめた。
「で終われなかったと」
やれやれなニート。
なんかわかってしまい頭を抱えたくなる攻略組。
「そやかてニートはん、ゲートはないわ」
ニートが拍手。
「正解」
頭を抱えてしまう攻略組PL。
育成圏複数ギルドの偵察はゲートをくぐった。
はじまりの街を目指して。普段通り。
なにも考えなかったのではない。いや、考えなかった者も少なくないが、考えたものも居た。らしい。
「「「「なにを?」」」」
まあ、フィールドを移動する時間とリスクを比較したのではある。
たとえ、はじまりの街の隣街からでも、フィールド移動じゃ5~6時間。
しかもデス・ゲーム中。フィールドでモンスターと戦えば命がけ。
ゲート移動なら街から街。死ぬ心配だけはない。
だけ、は。
「ゲート」
「ああ」
「広場」
「ああ」
暴動の中心。
「偵察役は定番、か」
耳を塞ぎたくなる会議室。
「速度と感知を重視のシーフか魔法使いっす?」
でないといいな。
みんなの思いが一つになった。
「せやないやろ」
攻略組なら打撃力重視の戦士にタンクを付け数で押し込む。
「実際にゲートに突入した後どうなったかと言いますと」
攻略組なら、そもそも二次遭難を避ける為にゲートは使わない。
「いわんといて」
「速度と感知を重視して軽装で少数の偵察役」
あえて言う。
「悲鳴を上げて消息不明」
いわんことなかった。いったけど、。
結果が変わらなかった。
育成圏ギルドの偵察のみなさん。
幸あれ。
「と行けば良かったのですが」
二段オチ。
「ギルドメッセージで恐慌状態の悲鳴と救援要請が切れ間なし」
「三段オチかい!」
皆、お通夜状態。
「今度こそフル装備大人数のレイドを組み」
「「「「懲りろよ」」」」
とは言っても一昨日の事なので。
「1日で三段オチコンプっすか」
Cですら食傷気味。
「育成圏ですから」
とりなし気味のユーリア。
作戦失敗時に攻略組ならどうするか?
撤退出来なければどうするか?
『最大限敵に打撃を与えるか、さっさと死んで戻ってこい』
コレがデフォ。
まあ言い方はギルドによるから、
『貴官の献身は永遠に忘れない』
(ジェントルメン・クラブ)
『闘って死ね』
(蝦夷共和国)
『義務を果たすことを期待します』
(ノルデン)
『アイテム譲渡してから突撃』
(ネコカフェ)
などなど。
まあ、ネコカフェは攻略組ではないが。
「仲良しギルドに死守玉砕命令は、ないな」
攻略組ですらデス・ゲームではさすがに事例がない。今は。
「やめーや『今』て」
いずれにしても、はじまりの街の中ならLostしない。
なら、見捨てる。
攻略組ギルドマスターならどんな悲鳴が聞こえても
『報告以外口閉じろ!』
と怒鳴りつけ、ギルマス権限で音声を切りかねない。
「たりめーだ」
仮にそれがフィールドで、命が、マジにかかっていても。
「よけーだ」
見捨てる断言。
デス・ゲームならよけい犠牲者を減らさないといけない。
理屈通り行動できる男。鬼の土方。
が、死ぬことは考えられない、街を追い出されれば別だからゼロとは言わない、はじまりの街。
今回、そうはならなかった(過去形)。
「オチは」
ニートがホワイトボードに向かう。
・同一ゲート
・同一時間帯
・複数ギルド
「三題話かい!」
だが、伝わった。
未知の脅威への怯え。
悲鳴だけ聞こえてくる仲間への焦燥。
取り敢えず、顔が見える範囲、同じ街のギルドが最強戦力でパーティーを組む。
同じ街とはいえ慣れない連携相手。
レベルが全体として低いため、どうしても数に頼りがちになる。
突入!
衝突!
反撃!!
みんなが!!!!
誰に?
・・・・・・・・・・・・誰も攻撃しなかったんじゃないだろうか?
ゲートの向こうは戦場だった。
「・・・・・・・・・・・・・・・事故、ですか」
その時点。
混乱の中心が広場から門へと広がっていたようだ。
だが、相当数のPCが広場にいた。
暴動の参加者も居れば、後から様子を見に来た者、安全な場所がわからないから広場に留まっていた者。
ゲートから出現したパーティーが衝突。
接触事故的な意味で。
次々と。
「同時転移アラートは鳴りましたが」
聞き慣れない警報と表示。
『自分たちが大人数だから』
アラートが鳴った、と解釈した。
「ただのお知らせで、制限や強制力はないですから」
これが通常のゲームなら、ゲートの実力突破/阻止はあり得るからだ。
よほど長期化しなければ、運営の指導は入らない。
「かくして蓋は開かれた」
育成圏には15の街がある。
顔が見える範囲(同じ街)しか意識してない。別な街のギルドとは付き合いはある。それだけ。
「だれも他の動きを探ったり、いや、聞いてみるとか」
その発想が無かった。
全部の街が同じようにした訳ではない、が、10以上の街で同じようにした。
参加ギルドは40以上。
数百PCの一次接触事故。
「一次?」
衝突した彼らはすぐに反撃開始。
誰に?
突撃して来た相手に。
「あー、お互いゲートから飛び出したから」
街中安全圏だからHPは減らない。
余計に悪化。ある意味で。
誰も死なないし撤退もしない。数が増えるばかりで指揮系統が曖昧化。最初から指揮がとれていたか怪しいが。
更に悪化要素追加。
「どうせ死なないっすか?」
「自制が効かない」
衝突の衝撃で前衛混乱、ただただ支援を求めた。HPが減らない安全圏ゆえに、敵を追い散らす攻撃魔法が求められた。
後方の魔法使いたちは味方を巻き添えにしない範囲で攻撃を散らす。
流れ弾(攻撃魔法)大量発生。
広場に元からいた連中がどう考えたか。
「想像出来ますな。なにしろ、ゲートから出現した連中に反撃したそうですから」
運営によるデス・ゲーム宣言(?)。一斉に攻め込んでくる謎の軍勢。
「魔王軍襲来」
「に」
「みえるやろね。え?みえない?」
三つどもえ、どころか数十どもえ。
「街ごとに組んでいたのでは?」
10程度の街、なのに数十どもえ?
「開幕直後にバラバラ」
PC、つまり、アバター同士の接触は下手な魔法より強い。
「期せずに起きたチャージング」
「期せず、互いに不意打ちな」
「・・・・・・・・・・・・・・・数百人」
衝撃でレイド崩壊。
もちろん登録が消えるわけではないから味方の位置は解る。
「混戦か」
人間はどうしても視覚聴覚に頼る。
システムアシストで視界の敵味方は解るし、ウインドウを開けば俯瞰で把握もできる。
だが、敵味方が個々人で錯綜しきった状態でそれができるかというと。
「自信ありません」
攻略組でも。
だが攻略組なら事前に想定戦場にランドマークを置く。
訳が分からなくなれば命じられなくともそこを目指す。
それがまずいときは上中下とそろった指揮役がまとめる。
「実際に何が起こったかというと」
はじまりの街広場は悲鳴と爆音とPCで埋め尽くされた。
暴動とは別口に。
さらに遠い街で増えた悲鳴と救援要請に増援が投入される。
「おい!」
練度が低いから待機していた予備兵力が続々投入。
まあ、言わなくてもわかる、負の連鎖。
「翌朝には停戦できたそうですよ」
一晩中戦ってたんですね。
暴動発生が昼前、偵察派遣が昼過ぎ、突撃開始が午後一杯。
「つーか、なら、停戦できたのは昨日かよ」
ニートたちがフミノを回収した日。出会う5~6時間前か。
「かかわらないようにしよう」
みんなの思いが一つになった!!




