ギルド『蝦夷共和国』の日常
その頃の土方。
つまり、会議室でヨイツが天使に遭遇したり悪魔を召還しているとき。
皆に断り会議室から出てバベル上層階へ。
ギルド『蝦夷共和国』はバベル最上層部をまるごとギルドホームにしている。
もちろん、フィールド都市の一角を実力で占拠しているだけ。
フィールド都市『ユグドラシル』にPCが少なくなった後も活動してきた北方御三家。
そのかいあって、地下迷宮発見トリガーを引いた。
本人たちの意図はともかく、まあ、めでたいのではないだろうか。
ところが、そうなると過疎エリアだった北方に新規参入やUターンラッシュ。
わかるよね?
既得権を主張する古株。
根拠なしとして否定する新参。
いつものアレなわけだ。
とりわけ攻略拠点となる安全圏が乏しい北方最前線。特別なアイテムなしで疑似安全圏を作れるユグラドシル内部の不動産(?)価値は高かった。
疑似的安全圏?あるいはセーブエリアと呼ぶべきか?
それはなにかと答えれば、ユグラドシルの特徴から編み出された隠れ技。
ユグドラシルはいろいろ特別だ。
ゲートが街の名の由来となり、街の外にある、大樹の根元である。
街中じゃない。
ふきっさらしの一角。
そこだけがシステム的な安全圏。
冗談ではない。
NPCもいない。
商店も鍛冶屋も宿屋すらない。
都市イベントもない。
ふきっさらしを一歩出ればHPが自然減少する厳しい環境設定と大型モンスターが徘徊するフィールド・・・・・地下迷宮発見までPLに敬遠されるわけである。
そして、フィールド都市『ユグドラシル』最大の特徴。
モンスターの出現ポイントがない。
フィールドなのに。
では、当初街中を徘徊していたモンスターは?
当然外から入ってきていただけ。
そういう習性(設定)があるのだろう。
気が付いたのは、のちの北方御三家。
まあ、延々とモンスター狩りしかない場所で過ごせば気が付くよね。
でまあ、一点目の欠点を解消するために二点目の利点を利用することにした。
発案はヨイツ。
モンスターの出入り口を塞いだのだ。
廃墟とはいえ、西洋チックな城郭要塞都市。
最外壁の開口部は数えるくらいしかない。
ハメ狩りの手口でキルゾーンを作るか、大きさによってはアイテムでふさぐ。
これで、ほかのフィールドではありえないことに、モンスターのいない疑似安全圏(セーブポイントというのが正解か?)をアイテムも何もなしで完成させた。
都市単位の広さで。
あとは、補給物資を備蓄し商人や職人PCを活動させればいい。
限られた数のPCしかいないときは別に良かった。
そうはいかなかった。
理由は先述の通り。
話は戻る。
既得権とはつまりフィールド都市内の区画である。
オフィシャルアイテムではないのでタダ!
(だから誰も所有権登記ができない)
地下迷宮に潜るためのベースキャンプは絶対必要!
(だから価値が出る)
全体がPK可能なので守りやすい場所が好まれる。
(価値に格差が出る)
既得権(先行組がホームを構えている都市の一角)をめぐる新規参入者からの開放要求が始まった。
「誰のものでもない場所に立ち入って何が悪い!」
というわけだ。
先行組にすれば投資と時間をかけて手にした場所を譲ることに納得ができない。
新参からすれば
「主観的な話で根拠などない」
となる。
これにだれがどう答えたのかというと。
御三家で最もレベルが高いPCで構成されているギルド『ノルデン』。
元々女性専用ギルドでもあり、交流を広げたくないから(人が少なかったころの)北方に来たのだ。
交渉など望んでいないし得意でもない。
筋道にこだわるユーリアでは話にならなかった。
御三家で最も口がうまいPLで構成されているギルド『ジェントルメン・クラブ』。
コミュニケーションに苦手意識はないが、交渉ごとに向いてなかった。
その場しのぎを繰り返しほどなく険悪になる。
そして、『蝦夷共和国』。
あっさり片付けた。
交渉、というか、糾弾にきた新参PCたちを。
一人残らず。
刀で。
何度も何度も何度も何度も。
(四回目以降挑戦してくる相手はいなかった)
対モンスター戦闘で『ノルデン』に一歩ゆずる。
ゲーム分析で『ジェントルメン・クラブ』にかなわない。
だが。
対人戦闘で比肩する者がいなかった。
(一応PC相手だが)
文句があるやつぁ斬って捨てる。
フィールド都市『ユグドラシル』。
PK可能、地形把握、ハイレベルPCに不満を行動で示す新参が発生した直後。
他のギルドから『交渉役』を引き受けて即実行。
交渉か?
あっさり両断して見せた土方達『蝦夷共和国』に御三家と呼ばれるようになる『ノルデン』『ジェントルメン・クラブ』を加えた北方最強ギルド。
他の古参ギルドやパーティーが合流。
不満を持ち糾弾してくるPCを解消した。
『御三家筆頭』誕生である。
鬼の副長、土方。
菩薩の組長、佐々木。
すべてをまとめるのは局長。
ゲーム世界スフィア有数の最凶ギルドである。
(なぜかPKギルド扱いはされなかった)
そんなこんなは、今昔。
土方はギルドホーム最上部で待機していた影に一礼、しようとして止められた。
「あなたは目上です」
「貴方が上官」
彼女は土方に敬礼。
ギルド『蝦夷共和国』は大きく二つの編成に別れる。
土方率いる『撃剣部』。
佐々木がまとめる『見廻組』。
攻略の主力は撃剣部であり、ギルドの実質的な指揮はサブギルドマスターの土方がとっている。
「これはゲームですよ」
「死がある時点でその理屈は通らない・・・心苦し」
「解りました」
佐々木の謝罪を止めた。
が、佐々木は続ける。
「大人として詫びるべきところよ」
確かに土方は高校生、佐々木は成人済みのOLだ。
だが、普段からその傾向はあったものの、ログアウト不可以後、佐々木はことさらギルド内の上下関係を態度で示すようになった。
「貸しにしときます」
「なら妹を身も心もお金も好きにしてい」
「先生は?」
言わせない土方。
遮るクセがあるのか?
「最上階の北端、塔の下」
土方は舌打ち。
「まあまあ」
宥める佐々木。
(隊士の前ではしないのにねぇ)
土方はそれ以上待たず踵を返した。
(イサミの気持ち、判るけど)
命にかかわる時は、支配が必要です。
あるPLが、一瞬二人きりなった時、ささやいた言葉。
「だんだん、わかってきたわよ」
土方はバベル最上階、いや、外部に露出した塔頂部に出た。
最北方都市(の廃墟)ユグドラシル。フィールド扱いにつき、PCの過ごしやすさなぞ考慮外。
ユグドラシルのど真ん中、崩れかけてはいても、バベルの塔、その最高部。
寒い。
土方はレベルの防御力で弾いているが、HPに影響が無いだけ。
快適な訳がない。
強風の轟音。
なにも聴こえない。
耳を澄ます。
スキル発動。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――。
いた。
・・・・・・・・・うっ・・・ぐすっ・・・・・・・・・ひぃっく・・・・・・・・・ううっ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
声を押し殺している。だから、穏行スキルが発動している。
イラッ。
――――――――――どうしよう。
――――――――――――――――――――どうしようどうしよう。
――――――――――――――――――――――――――――――どうしようどうしようどうしよう。
「会議室へ行くんです」
ふぁっひゃぁ!
「膝を抱えて沈み込む成人女性は絵になりません」
どっひゃぁ!
「なにしてるんです」
「きゃ」
中空に飛び出してしまった肢体を掴み取る土方。
地上80mからフリーフォールで真っ青、から、人生で初めて異性に力いっぱい抱きしめられて真っ赤。
「な、な、な、な、な、な、」んにもしてないよ!!!
バーチャルをカウントする方?
「いや、やれよ」
塩対応になる土方。
何かに勘違い。湯気を上げる彼女はスフィアクォリティー。
「近藤先生」
一瞬で蒼白。
トラウマスイッチ。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
謝りたくても、声がでない。
「謝って済むことじやないから謝れない、と」
うつむき。
「みんなゲームに誘ったから自分のせい、と」
どん底。
いや、上背のある土方に抱えられてるから物理的(ゲームだから電子的?)には落ちないが。
「先生」
近藤はビクっ!
「人生はバックギアがない欠陥品」
なにもかも取り返しがつかない。
「しかしUターン出来るし、迂回路もある」
どうにでもなる。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・な、」ぐさめてくれてる?
土方には先生が何を悔いているか、背負っているか、理解しか出来ない。
ぶっちゃけ、ポエムを読まされてる気分。文字も言葉もわかるが、感じることができない。感じたくもない。
「慰め、なんぞと言えば飼いネコが怒ります」
近藤、フリーズ。
ネコの逆鱗がどこにあるかは謎ながら、ニートの与太話を否定して怒り出すのは十分あり得る。
「与太話ではありますが、俺は気に入ってます。反対ですか?」
ブンブンブンブンブンブンブンブンブンブン・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・!全力で頭を振る。
ネコに噛みしめられたトラウマは深い。
「では。近道に来てください。先生」
腰に手を添えて、そっと降ろした。
ギルド『蝦夷共和国』ギルドマスター、イサミ。
リアルの近藤もコンドウもKONDOUも取られて(?)しまったが故の苦肉のネーミング。
元々、歴史趣味(ジャンル名はあえて秘す)のサークルにいたゲーマー。
自分の教え子に頼み込んでヴァーチャルゲームでごっこ遊び!
まあ、予定外ではあった。
住んでいる町で有名な古流武術道場の門下生一同が、勤務先の高校での部活と完全一致していたこと。
修行感覚でプレイする彼らは下手な廃人より適性があったこと(対PC戦闘がモンスター相手より得意だったが)。
歴女、おっと言っちまったぜ、仲間とリアルリアルと喜んでいたら、ゲーム有数の攻略ギルドになったこと。
――――――――――――――――――――――――――――――デス・ゲームが始まったこと。
「ああ、一般的には責任を感じますね。ご遺族とか保護者とか当事者へ」
と本人に言い放ったのはニートである。
「ああ、ご遺族はこれからでしたね」
と訂正したニートがギルド『蝦夷共和国』に敬遠されたのは当然として。
本人も
「割腹もの」
と自覚している。
わざわざ
「キャラクター的には斬首では?流山で」
と心無いツッコミをしたニートが今日までユグドラシル出禁だったりしたのは余談であるが。
大卒新任教師に過ぎない彼女が、ちょくちょく押し潰され、コッソリ泣いている。
みんなの秘密である。
ユグドラシル共通の他言無用なので、土方が回収役。
土方は他人(え?)の感性に共感も干渉もしないから、先生の落ち込む理屈はどうでもいい。
毎度毎度「みんなに心配をかけまい」として落ち込む場所を工夫するのだけが困りもの。
それだけ。
かくして本日のノルマ達成。
会議室。
戸口の隊士が最敬礼。
にこやかな、女性としては長身な、背筋が伸びた軍服姿。
スレンダーな四肢はよく鍛えられており、きりりとした隊服がよく似合っていた。
「お待たせして申し訳ない」
刀は後に続く土方が担いでいた。
「解決を始めようか」
会議開始。




