コミュニケーションの原則:真心以外は飾りです!
あなたなら、どうしますか。
「どどどどどどどどどどどどどどどどどどどど」
マシュマロマンが一人。
「おおおおおおおおおおおおおおおおち」
案山子が一人。
「つつつつつつつつつつつつけつつつつ」
肉団子が一つ。
「「「ギルマス!!!!!!!」」」
みんなの視線が一つになった。
「あたし!ひどーぃ!!!」
「キャラキャラ!」
シナをつくって慌てて解除するヨイツ。
「ど」
「ハイ、深呼吸」
スーハースーハースーハー。
戸口からニートが去った。
「どないしょ」
ヨイツがつぶやいた。弱々しく、涙目。
ギルド『ジェントルメン・クラブ』緊急幹部会議。
「諸君の意見を聴こう!!!!!」
な!ナンだって――――――――――。
皆、視線斜め下45°
全身で気配を探る。
「軍師!キミの知恵を聞こう!」
オレかよ!っと周りを見回し、確認する案山子。救援なし。
「ここは」
ここは?
「つまり!」
つまり?
「だから!!」
だから?
「です!!!」
おい!!!!
「貴様はそれでも栄えある東久留米市市民か!」
ヨイツの叱責!
「自分は美濃加茂市です!!」
いいから。
「軍師の地位を返上するか!そんな事は許さんぞ!」
提出前辞表拒否。責任が戻ってくるから。
「自己批判しろ!そして考えろ!」
考えて!
「よろしい!任せろ!」
案山子軍師が立ち上がった。
クワァ!!
「キミの意見を聞こう!」
肉団子、っぽぃドワーフを指差した。
おぃ!
「よし!聞こう!」
ギルドマスター権限(?)で意見採用。自分以外ならどうでもいいヨイツ。
「イキます!」
ドワーフ、立ち上がった!
「自分はギルマスに絶対服従します!!!」
「自分もです!!!!」
な!
カウンターをくらったヨイツ。
「御命令を!」
「なんなりと!」
平伏。
コーナーでラッシュ。いや、TKOか!
土方は、戸口でUターン。
「逃げんといて――――――――――」
脚にしがみつくヨイツ。無視して歩く土方。
「土方君!キミと僕の仲じゃないか!とっておきのブラチラショットをコピーしよう!隠していたがすぐに恋人が出来て経験値まで手に入るメッセージを持ってるから教えよう!わかった!譲る!18人分の『交換にキスしてくれる』アイテム募集リストを写真付きでええーい!今度こそ出会えるフレンドを紹介」
「見ちゃいけません」
ニートがセイとトモ、フミノを誘導。
ネコは頭上。
遠くから「あ!逃げられた―――」という叫び。
打撃音。
「フライミ――――――――――」
悲鳴が下に消える。
「ドップラー効果まで再現してるんですよ」
普通のPCはあまり体験しない。
「彼らの、10フロアくらい下がよく聴けますね」
ニートがフミノに教えた。えーと。
さ、行きましょう。
と、ネコカフェ一同はギルド『蝦夷共和国』が誇る食堂に向かった。
午前中に一休み。昼食後、午後から軽くレベリングしていたセイ、トモ。
朝の診察後、食事どころではなく、失神から睡眠、夕方に至ったフミノ。
付き添いのニート。
憑き添いのネコ。
言わずと知れた夕食である。
ギルド『蝦夷』共和国の食堂。
間違いない。
【食堂】と看板に書いてある。
しかし、食堂か?
いわゆる社員食堂や学生生徒食堂とは、全く違う。
畳である。
マジ。
西欧風ファンタジーゲームのスフィアで。
今更だが。
延々と畳。
広い。
いや、生け花や掛け軸などがそこかしこにあり、道場的なだだっ広さではない。
広大な一室(百畳相当)ながら、花瓶盆栽などの小物で仕切られている。
ただ、規則的ながらおおざっぱな配置で、厳密に分ける気は無いようだ。
セイは、わからないなりに、何がしかの秩序、ニートなら美意識と言うだろう、を感じた。
食堂は閑散としている。
地下迷宮リトライの為、ギルメン、『蝦夷共和国』では隊士、の大半が作戦中。
食事は前線でとる。
むしろ少し前の方が前線に送る糧食調理(食材アイテム加工と搬出)の為に騒々しかっただろう。
本来、ゲームにおいて空腹はリアルに準じて感じる。
つまり、ゲーム内で飲食しても腹は膨れないしのども乾いたまま。ゲーム内での飲み食いには意味がない。
だから当然、腹が減りのどが渇けばログアウト。
ギルドやパーティーでの行動が多い(優遇措置がある)スフィアでは定期ログイン/ログアウトが一般的だった。
(過去形)
だがデス・ゲーム開始以来、軽い空腹感が持続している。
今どうなっているのか?現実とは何なのか?誰にも確認はできない。
だがおそらくは、現実のPLに点滴や流動食などを与えられているのだろう。
その程度だとイメージが優先するようで、ゲーム内の食事による満足感が上がった。
「元々は味を楽しむだけだったんですけどね」
そう。
ヴァーチャルゲーム内での『食事』とはそういうものだ。
アバターのHP回復という効果はあるが、回復薬や魔法のほうが簡単。
ゲーム内で満漢全席を楽しみ、ログアウトして、あるいは薬効時間を計算して、薬品で満腹感を得る。
『ヴァーチャルゲーム・ダイエット』
十万エントリーキャンペーンの大きな柱だったり。
今となっては『食事』を重要作戦と位置付ける方針が攻略組に広がっている。ギルド『蝦夷共和国』はバラエティ管理を集団給食で行うことを数日前に決定した。
「作戦?」
「全てに優先すべきは士気です」
デス・ゲーム。
餓えも乾きも敵もいない。ただ生きるだけなら、簡単だ。
フィールドに出ず街に閉じこもれば良い。
実際、そうなる者は多いだろう。
「わりーの?」
セイ。
自分には無理だが、勝手にすりゃいい。
そう思う。
「いずれ自殺か廃人でしょう」
ニート、断言。
単調な刺激の無い毎日。
制限された毎日。
先の見えない毎日。
最悪の拘禁反応が起きる。
強制的に閉じ込められた場所でありとあらゆる精神障害が派生すると考えればいい。
※不正確な要約
「こうきん・・・こんなにひれーのに?」
何故、閉じ込められた環境での病?
実際、まだ果ては極められていないから、ゲーム世界『スフィア』は無限の広さがある、と言っていいかもしれない。
街だけでもゲート経由で移動出来るのだから、閉じ込められているとは言えないのでは?
「イメージです」
事実としてどうか、ではなく、どう感じるか。
ユエやニートはそう考えている。
攻略組のギルド幹部たちも、程度差はあれ、危機感を共有していた。
脱出方法の探索を続ける為にも、あらゆる士気高揚策が必要になる。
探索自体を破綻防止策と割り切るのはニートぐらいだろうが。
「だから美味しい食事が大切さね!」
「ようこそ!」
「あいかーらずかーいいね」
エプロン姿のお姉さん達が現れた。
手に手にトレイ。
「今日は残念ながら、だけどね」
時間優先の丼メニュー。
「ほーらお食べ。スキルだけならトモちゃんに負けるけど」
食べながら胸を張るトモ。
「いただきます!っでしょ!」
耳つまみ。
きゃいきゃい騒がしいトモ、セイ、お姉さんたち。
和装の食堂と普段着のエプロン。ただしお姉さんズもギルドの隊服(幕末~明治初期の軍服風)。
なぜか、気楽な雰囲気が食堂の緊張感(演出された美意識)とマッチしている。
「あ、あの」
「いただきます」
「・・・いただき、ます」
ニートは食べ始め、フミノはニートに一瞥されて食べようとする。
が、セイ&トモとじゃれあうお姉さんズに目を向けた。
「蝦夷共和国は攻略組最大の人妻ギルドですから」
語感より若い。リアル準拠は攻略組の特徴だから、皆20代だろう。
料理はカツ丼、に見える。みそ汁、っぽいものに沢庵らしき何か。
「材料気になる?」
「ウチの子たちはガツガツしてないから、食材集めの遠征もしてくれるんだよ」
ギルド『蝦夷共和国』は北方御三家でハイプレイヤー集団。だが、元々ゲーム初心者が半分以上を占めるためか、攻略効率優先という雰囲気ではない。
北方御三家の『ノルデン』がゲーム優先、『ジェントルメン・クラブ』がネタ優先なために北方全体が効率軽視なところがあった。
そんな『蝦夷共和国』は遊びの一貫としてギルドホーム開設時に食堂をしつらえた。
フィールド都市の一角をギルドホームにした時に、食堂を決め、資材アイテムや金貨を尽くし内装工事までしたわけだ。
「い、ただきます」
改めて、フミノが、ゆっくりと食べ始めた。
「寝起きだからね」
「全部食べなくてもいいよ?」
「じゃあ残りはわたしですね!」
お姉さんズの言葉にのっかるトモ。
いーかげんにしろ!またまた~!などとキャラキャラ騒がしい。
「・・・・・・・・・」
一口一口、ゆっくり噛み締めるフミノ。
皆、その涙に気がつかないふり。
「あ!美味しいーですもんね!」
は?
皆、キョトーン。
ドヤ顔で頷くトモ。
「ほら!美味し泣きですよ!」
マジか。気づいてなかった。というか、美味し泣き?
皆、唖然。
「ハイ!」
嬉しそうに涙を流したフミノが頷いた。
あなたは、女の子が泣いていたら、どうしますか。




