はじまりの日。はじまりの街。
私が気がついたのは、午前三時ごろだと思います。
あちらの時間で、ですけど。
スフィアでは午前午後が逆ですしね。
あ、すいません、私はフミノ。
運営プレイヤーです。
スフィアのクローズテストから参加して、正式運営後も残りました。
仕事は観測です。
え、と観測というのは、「バイオセンサー」と呼ばれたりするんですが、システム、ゲーム世界を体感して報告したり調整のときに調整前から後を体感して報告したり……そんなことです。
ふふっ……他の会社でバイトしてる友達もいますけど、運営プレイヤーってだいたいそんな感じですよ。
実際にゲームバランスを操作するシステムの人たちは基本は外で、わたしたちと話す時も外と中で話します。
シフトに穴が空いたとき、息抜き混じりで管理者の社員さんがinする事もありますが……システムは少ないですね。
あの日、十万プレイヤー突破イベントの日も午後六時、現実時間で、からinして指定エリアで観測してました。
休みを挟んで12時間の予定です。
ええ、4時間in、outして休憩1時間、3時間in、outして休憩1時間、最後が2時間inしてクールダウンに1時間。
へんな感じはしていたんです。
途中から、です。
ゲームそれ自体への違和感じゃないんですが……運営の掲示板が開けなくて……零時過ぎくらいだと思います。
管理者に報告しました。
ゲーム内の。
わたしたちのアカウントはシステムの人たちを直接呼び出す権限がありませんから。
それが変でした。
すぐに返信が来たんです。
あ、つまり、ゲーム運営に支障をきたすような話じゃなければ普段返事は来ないんです。
報告したのは私だけじゃないでしょうし。
ただ内容は……これです。
「把握。業務継続」
あ、メッセージはテンプレートがあるので単語の羅列になるんです。
それからは、指示通りに観測を続けました。
スケジュール通りに、二時間くらいでしょうか。
昼休みから3時間くらいたってましたから、休憩を取ろうということになったんです。
気がつきました。
………………ログアウトできないことに。
――――――――――――――――――――。
……ごめんなさい。
すぐ連絡しました。
何回も。
30分位で返事も来ました。
すぐに転移で最寄の街に移動しろ、と。
私たちは転移結晶を支給されていて、始まりの街と、その日の割り当ての近くの町がマークされています。
私たちというの……うぅ……ごめ……二人で動いてい……。
――――――――――――――――――――。
近くの街ではあまり騒ぎになっていませんでした。
攻略エリア近くでしたから、みなさん、徹夜覚悟の熟練プレイヤーばかり。
ログアウトする人が少なかったんだと思います。
記念イベント開始は零時からでしたし。
ただ、攻略ギルドの、つまり、凄く装備がよさそうな人たちがどんどん街に転移してきて。
街の門近くで、フィールドに出ないように呼びかけ始めました。
ログアウトできないことが皆に伝わり、それを呼びかけた人たちは広場や門の近くで車座になり、コンパネを操作し始めました。
彼らが宿屋に入らなかったのは、門外に出ないように見張ることと、様子がわからなくなるのを避けたんだと思います。
時間が経つにつれて不安そうに騒ぐ人も居ましたけど、大半があせりながら、我慢している感じで、騒ぐとすぐに抑えられてました。
抑えに回っていた人たちは
「絶対殺すな」
「街から出すな」
と怒鳴ってました。
怒っていた人は知っていたんだと思います。
私たちは気がついていなかったんです。
Lostすれば…………・死ぬと。
――――――――――――――――――――。
私たちは状況をメッセージし続けました。
何かしていないと……。
翌朝、招集がかかりました。
始まりの街へ。
柴田さんは、あ、運営プレイヤーの管理者さんです。
頼りになるお姉さん……みたいな人で…………。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――。
集まったみんなに説明していました。
・ログアウトできないこと
・おそらくログインも出来ないこと
・アバターが死亡処理されれば命に関わること
細かい理屈はわかりませんでしたが、広瀬さんがうなずいていたから信じました。
……広瀬さんというのはシステム管理の方です。
休憩時間にinしていたそうです。
柴田さんは
「外部と連絡は取れないが、気がついていないわけは無いから、対処は進んでいる。しばらく君たちは待機するように」
といわれました。
運営としてプレイヤーにアナウンスをしないのかと聞いたら、
「全体告知は外部からしか出来ない。すでにプレイヤーは気がついているから今は必要ない」
といわれました。
私たちはそのまま待機していましたが……はじまりの街が……おかしくなり始めました。
よくわからない騒ぎが起こり、プレイヤー・キャラクター同士の争いやノン・プレイヤー・キャラクタへの暴力、わかっているはずなのに門の外に飛び出したり……。
翌日には私たちは他の町の様子を見て回りましたが、焦燥感が高まっていました。
攻略の前線から離れるにしたがって危険に感じました。
柴田さんたちが何かを話し合っていました。
他の何もかも目に入らないような……私たちもあせっていました。
閉じこもっていると、外で何か起っているんじゃないか、と凄く不安で……抜け出すと、街の苛立ちに染まりそうで……。
そして、翌日の正午、ログアウト不可から三日目ですが、に運営として暫定発表をすることになりました。
広瀬さんは反対していました。
でも、柴田さんが決めました。
内容はわかりません……でも、何も変わっていない、今、わかっていることをなぞるだけになりそうなのは、なんとなくわかりました。
わたしたちは、わたしたち運営プレイヤーの大半は、改めて引き続き待機、と指示されました。
……未成年以外のアルバイト、派遣の人たちは別に話があったみたいです。
なんか……業務外、ただし補償とは別に特別手当てあり、希望者のみでお手伝い、とか。
……………………………………………………うっ。
翌朝、私は街に出ました。発表はお昼。
でも、じっとしていられなくて……待機といっても、誰も見ていませんから。
……昼前、いえ朝方から街はそのことで騒然としていました。
全体アナウンスは無効なままで、昨夜決まった事がなぜ広がったのかわかりません。
はい、騒然、というのは……怯えたような、怒ったような……トゲトゲしい、ような。
でも暴れる人を一人も見なくて驚きました。
でも不安で広場に向かいました。そこは、もうたくさんの人たちが集まっていました。
昼から、の筈なのに朝から大勢。
でも昼前には広場に声が響きました。
たぶん、大勢が集まってしまったので前倒ししたのだと思います。
広場を見下ろす宮殿前に、柴田さんたちが集まっていました。
空にその光景が浮かんでいました。
たぶんスキルを使って声を響かせて、幻術をアイテムでブーストして広場中に見えるようにしていました。
柴田さんが名前と身分を名乗り……………………………………………………はじまっ……ごめ……。
――――――――――――――――。
……悲鳴とも怒声ともつかないざわめきがあがりました。
柴田さんの声がだんだんかき消されます。
私には何を言ってるか、わかり……そうですね、知っていたから見当がついたのかもしれません。
後ろのひとには空中の映像しか見えなかったかも……。
爆発、しました。
空中で。
誰かが攻撃魔法を使ったんです。
街中で幻術ですから、攻撃されても消えません。
……だから見えました。
柴田さんたちが、大勢に、襲われ……。
とっさに走りました。みんなのところ、いえ、人波に流されただけかもしれません。
気が付いたら……。
目の前に………………………………ひぃぐっ!……しはぃ、き、剣を、柴田さ、刺さって……わた、回復薬を……みんなが……うんえいだ、って、……こ、ころせって、わた……。
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はぅ。
すいません……。
覚えて、るのは、門の向こうが、はじまりの街で、たくさんみんなが、柴田さんが………………………………くび、て、きえて、おいかけられてにげて、ころされる、こわくて、みんなおいて、わたし、にげ……ごめんなさいごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!
「終わり!」
白衣、と言うには豪奢なローブをまとった少女。
泣き崩れた少女は猫の着ぐるみが担ぎ上げた。
「眠らせたから」
白衣で金髪ロング縦ロールの少女が杖を振る。
おそるおそる近づいたのは栗毛に白いジャケットの少女。
「だ、大丈夫なん……」
「バカなの?」
ギロリ。
「アンタの節穴のガラス玉の奥はリアルにかに味噌が再生されてるだろうけど沢蟹の泡を解読するのはナチュラリスト気取りの人間中心主義者に投げてるのよ」
一方的に続ける。
「理解する必要は無いけどPTSDの治癒魔法はまだないからHP全回復状態異常キャンセルなんてお手軽なはなしと違うのよね」
猫は少女を担いで退場。
「寝ても覚めてもフラッシュバック繰り返してる生存者の脳味噌切り刻むご趣味は咎めないから首を括りなさいと言うわけであの娘にこれ以上サディズムをぶつけたらどうなるか考えるフリもできなきゃアタマがややましな誰かに教えてもらいなさい」
そのままフェードアウト。
残された少女はこちらを見て、あちらをみて、再度、向き直った。
「……スフィア・タイムズ特別番組を続けます」
「いやー運営さんたちには謹んでご冥福を」
「ちー!!!!!」
少女が傍らの男を締め上げた。
「なんで言うんですか!!!!!」
男は顎に手を当てた。絞められたまま。
「はて?」
「もう良いです!」
少女はふくれっ面で向き直り、慌てて表情を取り繕う。
「まさか生きてるとか思ってます?」
「なー!!!!!」
真っ赤になった少女は振り返った。
「逃げ場のない広い広場の真ん中ですよ?街中でダメージ判定が無くても衝撃と違和感はある訳で」
「わーわー!!!」
ぴょこぴょこ跳ねる少女。
相手の口に届かない。
「体内に刃が刺さってる感覚はキツいですからね。しかも逆上した群集に全方位から襲いかかられたらゾンビ映画のクライマックス」
男の口を塞ごうとする。が塞げない。小柄な彼女には届かない。
「宿屋か私室などパーソナルスペースに……」
「それです!それなら不可侵じゃないですか!」
食いつく少女。
「広場の宮殿前が出発点ですからね。最低数千人に全周包囲されて、宿屋街の路地に進むのが不可能だったから、大通りを逃げた訳で」
少女は怯む。
「転移結晶は街中では使えませんが、運営用の特殊なエスケープ手段が……」
「それです!」
食いつく少女。
「柴田さんってログイン中の運営で一番偉いんでしょう?あれば使ってたでしょうねぇ」
膝をつく少女。
「手段がなかったんでしょう。門前で首になるほか」
ひっ!となり、恨みがましい目で見上げる少女。
「突かれ殴られ蹴られ刺され斬られても街中じゃ死ねない。痛みこそありませんが衝撃と体がバラバラにされる感触を味わって、逃げたのか追い込まれたのか、門前で八つ裂きになるまで護ったんですな」
二人のうちひとりが生き残った。
証言した少女は怯えて錯乱状態だった。
状況に対応できなかっただろう。
なら、動いたのだ。
柴田さん、とやらが。
目の前の子供を護るために。
「で、あなたは」
どうします?無遠慮にみられた少女が、カメラに視線を合わせる。
「こちらはフミノさんを保護されたギルド『ネコカフェ』のニートさんです」
革の上下に軽鎧。肩当てすね当てをつけ兜は鋭角的。目線を遮らず鼻筋までカバーするタイプ。
「保護した時の状況を聞かせてください」
カメラ目線で手を振るニート。
「我々も様子見で『はじまりの街』に向かいました」
同じように斥候を出したギルドは多かった。
「みっつ隣から徒歩で移動したんですが」
ゲート移動で騒乱真っ只中に落ちるリスクを避け、距離を置いて慎重に接近するのは攻略組の特徴か。
「追手に捕まりかけたフミノさんに出会い、保護しました。まあヴァーチャルでもリアルでも人目を忍べるうえに移動しやすいルートは限られていますから」
はじまりの街が基準点。
去る者と訪れる者
必然的に出会う。
ニートはウィンドウを開いた。
スクリーンショット。
パーティー内画像だろう。
「ちょっと!」
少女が慌てて隠す。
「ステータス出てますよ!」
※配信時はモザイク処理済
「って、これ」
フミノのHPゲージはレッド。
lost寸前。
「フミノさん、魔法使い、で……」
MPゲージは満タン。
詠唱必須の治癒防御魔法はともかく、逃げながらでも簡単な攻撃魔法は使える。
「無抵抗で、殺される最中に」
出会ったわけだ。
「……三日目、はじまりの街、中心広場で起きた事件」
少女はカメラ目線で続けた。
「これが事件のすべてである、と言うつもりはありません。しかし、二次的な周辺証言と矛盾せず、むしろ一致した事を私たちスフィア・タイムズが保証いたします」
デス・ゲーム。
ただ、ログアウトできない。
ただ、それだけ。
それが、『デス・ゲーム』とよばれる所以。
「今のところ伝聞を越えた唯一の一次じょ……証言を、スフィア・タイムズのルーシーがお伝えしました」




