”Simple” is ”Best”.
「暴力の長所は?」
その笑顔は殺人鬼のピエロを思わせた。
「ピエロの殺人鬼みたいな顔ですね?」
「ピエロしか殺さないなら安心っすね?」
質問はC。つりこまれそうな笑顔。
応答はニート。受け流す笑顔。
ユグラドシル、ギルド『蝦夷共和国』ホーム某所。
さっきまでついていた『蝦夷共和国』見回り組隊士の姿はなく。
・・・・・2時間前。
「全財産ちょうだい」
「うん」
パカッ。
「ひっどーい!お兄ちゃんがぶったー!」
ユグドラシル41階。
会議室。
ちゃんと【会議室】と掲げてある。間違いなく会議室だ。
「DV!Mロリなんて・・・・・・・・・・・・許さへんで!」
義憤に燃えるマシュマロマン。ヨイツ。
「間っすね」
「萌えましたね」
Cとニート。
「お兄ちゃん!!」
制服の青年、土方はかけよって来た妹をつまみ上げた。
「ダメ♪こんなところじゃヤダ♪」
ほんとーに、嫌なのか?
「もっかいもっかい!なんでもするさかい!!」
全財産供出に全力なヨイツは記録結晶を構える。
げふっ。
「早かったな」
顔面に蹴り。誰のとは言わないが。
ちなみにユグドラシルにエレベーターは無い。
25階から落ちた場合、その肉体で登る必要がある。
「ふっ」
さっと魔法使いロープを翻したマシュマロマン。復活早いな!
「蜘蛛の糸は完成したのだ!!!」
普段なら壁に杖を打ち込み全身で落下を食い止め、這い上がる。
だが、伸縮自在の糸を完成させたらしい。
「あーだから、HP激減っすね」
ステータスシーフ。条件付で相手のHPを読み取るスキル。
「素直に落ちた方がマシだな」
バンジージャンプを壁面でやればどうなるか。紅葉おろし+壁面乱打。
単純落下の十倍以上のダメージ判定。
「ちょちょ」
慌てて回復薬一気。
「お客様?」
妹が兄から飛び降りた。同じ基調の古風な軍服だが、小柄な為に人形のような可愛らしさ。
「せやで~お客様やで~」
「はじめまして。わたしはマコトです」
手を前に揃えペコリ。
ヨイツが、真反対から少女、マコトの前に回る。
「おにいちゃんって呼んでいいのよ?」
無言の腹パン。天井から落ちたてきたとこころを跳び蹴り。
土方が踏んづけて抑える。
誰をとは言わないが。
「兄がお世話になっております」
フミノは慌てて礼を返す、
「わ、わたしは」
「ニューフェイスのフミノです」
ニートが遮った。
「お久しぶりです、ニートさん」
少女、というより童女、マコトは訳知り顔で挨拶。
土方が壁際で足をぐりぐりとしながら皆に呼びかけた。
「ここが出発までのベース。ネコカフェにはガイドをつけるからなんでも言ってくれ」
「んーっすね。フミノちゃんはお医者さんごっこの後、一休み。センセは付き添い。正規の顔見せ&ミーティングは夜っす?」
ニートは頷いた。
「では18時集合にしましょう」
皆が頷いた。
フミノはニートの袖を強く握る。
「さあ胸をはだけて~まず、」
ヨイツは聴診器を取り出した、まま、ネコに放られた。
窓へ。
二時間後。
どうしてこうなったんでしょうね~(ヨイツのことではない)。
「うちの頭脳が怒ってましたよ?」
流し目。
「謝っておいてください。『あたしが全責任を負います』と添えて」
ニート、一礼。
早朝のジョギング中のスポーツマンの笑顔。
「アタシっすね?」
わざとらしく自分を指差した。
褒められた子供のような笑顔。
唇がふれそうな距離。
「Dさん『も』優しい人ですね~」
肯きながら話題を逸らすニート。
「あんヒト『は』優しいっすよ~死にかけの半病人をさらしモンにするのを嫌うくらいには」
Cが話を戻す。
「暴力の長所は?」
「わかりやすさ」
ニートが答え、Cは拍手。
「そそそ!普遍的で絶対的で効率的っすね!」
ニートの背後から。
「ソレを踏まえて、質問でーす」
「・・・キャラ、ブレてますよ」
Cはニートの背にしなだれかかる。
異性愛者ならそのふくよかな感触に鼻の下をのばすべきだろう。
が、目の前数cmから瞬時に背中につかれては、恐怖しか感じまい。
「嘲笑ってますね」
ニートの背中に耳を当てながら続けるC。ニートは意外そうな表情を作った。
「問えば答えがあると思ってるバカ」
歌うようなC。
「答えが正しいと信じるアホ」
「さてさて。どの真実を贈れば喜んでいただけますか?」
ニートは言葉を被せ、両手を上げた。
「なんでもいいっす」
ニートはため息。Cはバカでもアホでもない。ニートには、それが残念でならない。
質問は刺激。答えは応え。
反応から事実と虚偽を振り分け、正直の動機と嘘の理由を考えて、ニートを解剖するつもりだ。
(きゃーきゃー言いながらカエルを解剖する女の子がいたな・・・ )
Cが下からニートの顔を見上げた。
知覚出来ないように至近を移動してレベルの差をアピールしている、のかもしれないし、ただ面白がっているのかもしれない。
(じゃれてる、のかも)
猫が鼠に、的な。
「座っても?」
Cが意外そうに見た。逃げるのを諦めたのか?と。
「いえ、隕石でも落ちて欲しいですけどね」
外的偶然で解剖、いや尋問が終われば最善だ。
それ以外、無言で立ち去ってもCに情報を与えてしまう。
「マオちゃんを召還?」
あの子なら隕石直撃並みの破壊をもたらすだろうが、意図して呼ぶのであれば、立ち去るのと変わらない。
「PC名を呼ぶのがマナーですよ」
Cはニッコリ舌を出す。
「久しぶりの授業っすね」
お付き合いするPCのPL情報は抑えておくこと。
相手に知られないように注意。
「・・・我ながら余計な事を言ったものです」
「センセならゲームしながら、コネとカマで聞き出しちゃうっすね~~~」
Cはヒラヒラと手を振る。
「リアルな方々を使って住所氏名経歴まで洗ったのは、オリジナルっす」
胸を張り褒められ待ちのC。
ニートは正面卓上に胡座をかいた彼女を、目を見た。
「取引しませんか?」
へ?っとしか言いようがない表情のC。
「・・・あー、アタシが誰かご存知ですよ、ね」
そもそもCのリアルは隠していない。
「あれ、都市伝説じゃないっすよ?」
報道規制こそあれ、多少のスキルと意欲があればリアルのCがわかるハズ。ニート自身、わかっている風だったし。
「人殺しっすよ」
困り顔のニート。
「・・・さすが」
Cの唇、端がつり上がった。
「どんな取り引きっす?」
「よろしいんで?」
ニートは周りを見回した。
「イェっす!イェっす!!」
ひらひら手を振るC。
「私は質問に答える」
「アタシは?」
「私のお願いを聴く」
「グラッチェ」
C、満面の笑み。
提案、嘆願、お願い。
そんな形をとりながら、ニートの思いのままに進む状況が、彼女には面白い。
「じゃ、イクっす」
Cのターン。
鼻先に迫るC。微かに香るのは課金オプションの香水だ。
「なんで、っすか?」
おおざっぱ、過ぎ。
「世界平和の為です」
仲が良い二人である。
「出来たっす?」
「それがなかなか」
アイテムから緑茶を出したC。ニートは羊羹を並べた。
「モヒカンは?」
「PK防止」
大失敗っすねぇ~とキャラキャラ笑い、お茶を飲み下してら羊羹にかかるC。
交互に含むニート。
「フミノちゃんは?」
Cは敬称を省いても呼び捨てにしないタイプ。
「PKを真似しないように」
ニートはギルドメンバーのみ呼び捨て。
「なるなる」
Cは頷いた。
「現実とは違うっすね」
「殺しても片付かない」
Cに続けたニート。
「せんせ~?」
肘でツツく。
「宗旨替えっす?」
「私は嘘吐きですよ?」
C、拍手。
芝居がかった一礼、ニート。
「かほどに人々を欺いた!!かの人に欺かれん人の列絶え間なし!!!」
Cはお腹を抱えていた。
「ひゃふ、はふっ、っくくく・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・けほっけほっ」
目尻を指で拭いながらつけたした。
「一人一回なら60お・・・あと二万八千回は騙せるっすね」
明るい室内。
「センセは『殺人の前例を阻止』に失敗」
卓上の少女。
「最初の混乱が収まるまで保てば『殺さない』って前例が出来る?」
「筈でした」
既に前例は出来てしまった。
「個人的事件で済めば良かったのですが」
まだしも。
それがどれだけ凄惨な事件でも、何人が死んでも、個人同士の話ならば隔離可能だ。
口先ひとつで。
しかし、事件は最悪の形で起きた。
不特定多数の被害者と加害者。
誰もが共有出来る動機。
誰もが賛同出来ない結末。
必ず、連鎖する。
「目標設定のミスです」
ニートは悔しそうだ。一番危ないヤツらの手当てに関わっている間に、別な花火が上がった。
予測してしかるべきだったのに。
勝てるに決まっている八百長で掛け金をせり上げるのを忘れていたようなものだ。
「センセのミスの捨て仕事、誰が引き受けたっす?」
Cがジト目。
「どうせ、一番厄介なヤツらがユエ様の足元なら『まあいいや』っすね」
人型の影に切り抜いたような目がニートを睨む。
知ってる。
という眼。
デス・ゲーム開始直後にネコの機動力を使って、モヒカンのキャンプに現れた事。
デス・ゲームを受け入れられず、否定も出来ず茫然自失のモヒカンたち。
ギルドマスターやサブマスらの間に響いた怒声。
モヒカンが突然カマルを、ユエを目指したこと。
恐慌状態の連中がすべてを投げ打って走り出した。
「大きな大きな大事件」
詠うC。
「みんながみんな!我知らず」
踊るC。
「一番大きな声一つ」
パニック寸前の集団は、ただ大きな声に従う。
「センセの小細工のせいでプランBがパ!」
Cの手のひら。
「ちなみに」
にじりよるC。
「聞きたくありません」
耳元を抑えるニート。
「プランBは」
ニートの両手を縛るC。
「ユエさんとあなた方GG以外皆殺し」
ニートが先に答え。
ゲームではPCは死なない。死なないようにすれば。クエストには答えがあり、モンスターには処法がある。
「PCの敵はPC」
ニヤニヤなC。
「ユエ様だけなら、どうにでもなるっす」
「独り?」
「っす」
ニートは解かれた手を揉んだ。
C達は、自分たちも始末するつもりだったわけだ。ユエを守る為に。
ニートは一息。
(邪魔して良かった)
とは言わないが。
「コレからも邪魔するっすね」
読まれたニート。否定も肯定もなし。
「ま、いっす」
とC。
「センセが要を読み違えたあげく、うちらに大迷惑をかけた背景はラジャっす」
覚えておけ、というこどだろう。
Cはニートから離れた。。
ターンチェンジ。
「っす?」
Cは聴くだけ。
ニートは聴かせるだけ。
「自信家っすね~~」
耳に入れれば、大丈夫。みな、従う。
「ユエさんに人を殺させないでください」
「っす?」
Cは首を傾げた。
ユエは予告も脅しもしない。
殺そうとすら思わない。
鞘に納めながら、殺した相手を一瞥すらしない。
瞬間より刹那。
それはニートも知っている。
「ま、出来るだけ、で」
ユエも常に全力ではない。『GG』のハイPCなら、止めるのが不可能、とは、限らない。
だが。
「っす?」
なぜ、Cに『ユエの邪魔をしろ』、いや、逆らえ、裏切れと言うのか?
技術的にも、奇襲隠蔽穏行の忍者には、『後の先』必至なカウンターは不向き。
「貴女は違う」
ギルド『GG』のメンバーとは。ユエを崇拝し、例えどんな意志にも服従する彼らとは。
絶対にユエに逆らわない彼らとは。
違う。
Cから表情が消える。
ニートを蹴り飛ばし壁に叩きつけた。
「貴女は違う」
ニートの肩を握り潰した。
「ユエさんの死に耐えられないから、」
顔を潰す。
壁を叩き続け、再生する側からニートの頭、いや、舌を砕き続ける。
ここはフィールド。
HPが何度も何度も0になる。
「そろそろ、いい?」
白と金。
豪奢な魔法使いローブのブロンド。
Dが、緑茶と羊羹をつまみながら、聞いた。
「それ、かして」
肉塊ニート。
「やーっすね!『それ』っすか~センセも生きてるっすよ?」
Cがニートを掴んで突き出した。頭部だけなので、すぐに再生する。
「あの娘に必要だから、殺すのは後ね」
戸口からネコが覗く。ニートが手をふり、牙が、しぶしぶ引っ込んだ。
「フミノがなにか」
埃をはらったニート。
「眠れないのよ」
さっきまで、フラッシュバックの衝撃で失神していた。気がつくと、今度は眠れない、と。何も言わずに、固く目を閉じ、ただただ硬直している。
休ませないと、アバターはともかくリアルの体が危ない。
「あなたたちと移動している時は眠っていたんでしょう?」
ポンっと手を叩いたニート。
「枕が変わったからですね」
「?」
ネコを見る。
「抱き枕?」
ニートはネコと一緒に部屋を出て行った。
「彼女のトラウマに組み込まれたのね」
Dはフミノを縛る病理を考えた。解呪の方法は、
「ふふ」
解呪、とは、飛んだゲーム脳だ。
Cを見る。
仲間を見る眼。
「殺す?」
Cは肩をすくめた。
「見張るっす」
頷いたD。任せる、ということ。
では、次。
「話はついたわ」
Cにもメッセージは届いている。予定、人選、計画。
目的選定と確認手段はDとヨイツ。
行動計画と調整はニート。
承認はユエ。
今夜、会議。
明日未明、出発。
始まりの街へ。




