悪気はなかったんです
「いーかげんにしろ!!!!!!」
とセイ。
つまりトモがいる。
よってニートがおり、ネコがいて、フミノがいる。
フミノは魔法使いローブで顔を隠してうつむいているが。
土方が頷いた。
土方が背中を押した。ヨイツの。
ふぁぎゃぁぁぁぁ――――――――――。
音が、響いた。
白い影が消えた。
その先を見たくはなかった。
「さ、行きますよ」
無言で歩き出した土方を見て、ニートが促した。
大樹の名前をそのままつけた、北方攻略都市『ユグドラシル』。
廃墟として設定されたユグドラシルは周囲を高さ100m見当の壁で囲われている。内側は復層構造の市街地、であったとおぼしき建造物、抜けると中央に円錐形の塔がある。
その塔がバベル、名付けたのはPCだが、まずは妥当だろう。
上部が崩れているが、ざっと高さが300m。地下が迷宮になっており、現在は5階まで攻略済。
一行が歩いているのは塔の外壁に張り出したような階段。中空に剥き出し。乗り出せば真下が確実に見えます。
現在地、地上50mくらい。
このゲームでは、攻撃判定とは別に物理判定があり、墜落死があり得る。
思い出したように一行を振り返った土方。
「真似するなよ」
「「「する」カー!」わけないです!!」
目を白黒させてアタフタするフミノ、フミノの頭を撫でるニート、ニートの左手に頭を押し付けるネコ。
突っ込んだのはセイ、トモである。
「アイツのレベルなら死なない。だがここはフィールドだからおまえ等は死ぬ」
ユグドラシル到着後14回目の注意。
ニート以下全員が胸元と背中両肩にワッペン。
若葉マークである。
「ガタさんが見本っすよ?」
「すまん」
背後にとりついたCがモミモミ。土方は、肩を揉ませたままCを無視してネコカフェに謝罪。
「悪気ないっすからね~」
ツンツン。
頬をつつくCを無視する土方。三白眼、と言えば言えるが切れ長の鋭い目は、小柄なCにじゃれつかれるとコミカルだ。
「今、わかった事はなんでしょうか」
4人に語りかけるニート。
「悪気はなかった!」
トモ、ばんざーい。ニートが拍手。
「そうですね。そして?」
トモがセイをつついた。
「えーと、ユグドラシルはフィールド扱いだから、レベル次第で事故死がある・・・だから、落ちたり殴ったり斬ったり突いたりすんな」
ニートは頷いて、頸を捻る。
「大切な自覚です。が、今、ではないですね」
重要な事を繰り返すのは良いことです、とセイの頭を撫でた。
「では」
もう一度。ニートは皆を見る。
「誰もが思いつくことですよ?」
「わかりません!」
トモ、バンザーイ。
フミノ、頷いた。
ニートはセイを見た。はっと気がついて左右を見回した。
「タイムアウト」
騒ぐセイは無視。
「つまり」
静寂。
環境音(セイの抗議)除く。
ニートは、コホンと合図。
「あーうっかり安全圏だと思って蹴り落としちゃった~うっかり」
――――――――――静寂―――――――――――――――――――――――――――――――――――――真の。
「おお!」
手を打つトモ。
「ねーよ!!」
ツッコミのセイ。
「??????????」訳が分からないフミノ。
ユグドラシルの特徴。
唯一の都市型フィールド。
都市内は安全圏という常識。
攻略圏と育成圏の断絶(ユグドラシルのような特殊フィールドは事情通以外には知られていない)。
すなわち!
殺意どころか害意すらない(立証不可能)事故を任意に引き起こせるのだ!
「ここに・・・長い人が、普通に突き落としてるし・・・まさか・・・こんなことになるとは」
土方を背に、ニートが神妙な表情で目頭を押さえた。
「小芝居いらねーよ!!!」
挙手!はトモ。
「はいトモ」
「三白眼のダンブクロなデスマスクっぽい人がやれって言いました!!」
『段袋』とは幕末から明治初期までの兵士の服装だったりする。
よく知ってたな。
「そこは名前出してもいいんじゃねーか」
と本人、土方。
「工夫はいいのですが、元気いっぱいなのは問題ですね。まあ手段はいろいろあります」
トモをなでながらニートが続ける。
「今までであれば再ログインで報復されますから単独での実用性は今ひとつでした・・・」
間が怖い。
「単独って」
「組み合わせれば?」
「考えんな!」
「そっか!再ログインできないし!」
セイがトモの口を抑えた。フミノは点目。
土方は感心。
Cは笑い転げていた。
「アンタが育てたにしちゃ、まともだな」
肩をすくめた土方。
「創意と自制の均衡が自慢です」
胸を張るニート。
あ、ネコは通常運転「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」でした。
土方は肩をすくめて登りだした。ニートが続き、セイ達は離れて続いた。
「試したのか?」
「システムに変化が無ければ」
殺意と戦闘アクション/スキルの組み合わせで攻撃判定は生じる。
「ありがてぇ」
落下や倒壊によるHP減少が戦いの帰趨を決めてもシステム上攻撃判定はされなかった。経験値やスキル、クラス判定にはならないが、PKにもならない。
故に、ペナルティは、ない。
「礼は?」
情報が有益なら、対価を。
「いりません」
「なら?」
対価を受け取らない、という選択肢は、ない。それは危険だと、攻略組なら知っている。
「宿泊ついでに研修させてください」
土方が振り返った。
「コミだろ」
「5日前までは」
名物『ユグドラシル・ブートキャンプ』。
サポートのパーティーが付き、いつでも瞬殺できる状態のモンスターと戦い安全に経験値を稼ぐ。
そんなことができるのはここだけだ。
PCメイドの檻や拘束具はあるが、小型魔獣を捕まえるのも一苦労で割が合わない。
ユグドラシルなら大型魔獣すらハメることが可能な非破壊オブジェクト(普通に考えればモンスターの侵入ができない安全圏の中にしかない)があふれている。
つまり都市構造物そのものを檻と柵に見立て、モンスターを誘導し、訓練に利用する。
経験値効率が良い北方でのハメ技に等しい手法。
広く行えば設定変更すらあり得る。
とあるPLから警告を受けたので、北方御三家(蝦夷共和国、ノルデン、ジェントルメン・クラブ)はごく控えめに利用している。
『いざとなれば、あえて大がかりに利用して、設定の変更を起こすのもいいですね』
とはニートの言葉。
「そうか・・・だが、コレはママでいい。礼は別に考える」
ニートが一礼。心地悪そうに土方が手を振った。
「ヤマサキ」
「セイ、トモ」
土方、ニートがそれぞれに。
軍装の少女、長身で目立った武装なし、が棒を呑んだように直立。
めんどくさそーに棍で肩を叩くセイと呼びかけにバンザーイで応えるトモ。
「訓練生を任せる」
「おねーさんに着いて、午前中はお休み。午後から訓練。合流は夜。定時連絡は?」
「「「正午以降一時間」ごと」に一回です!」
バイバイのトモ。ヤブニラミのセイ。
「ネコはいつも通り」
そもそも離れない。だれのそばとは言わないが。
そばにいないと何をするかだいたいわかる。
それを体験したくないのはネコカフェと周辺ギルド総意。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
あうあう。
「フミノはこちら」
特に(本人には)覚えがないヤブニラミがフミノを襲う!
「フミノは顔見せの後に診察です」
あ・・・・・・・・・・・・・・・・・・とセイが視線をそらし、ニートを睨んだ。
「大丈夫だろうな?」
任侠を標榜するチンピ・・・社会のク・・・みたいな目つき。
「せー!!!!!」
少しソフトにしたつもりの目線。努力は大切です。
「大丈夫です。なにもかも」
まあ、ニートにはどうでもいいのだが。




