VRMMO「スフィア」概説
攻略圏と育成圏。
その違いは何だろう?
ハイ(廃)レベルPCの集う場所と中堅レベル以下PCの集う場所?
はじまりの街から南北西に5つ目の街を境に内側と外側?
エントリー10万名以上のうちログインPL推計3万。
そのうち、35%が攻略圏におり育成圏は65%ということか?
端的にいうなら、
『コスプレ会場が攻略圏』
『ロケ現場が育成圏』
だろう。
VRゲームの基本として、アバターとリアルに差があればあるほど違和感を生じる。
動作はすべて体感覚にフィードバックされる以上ゲームライフの重要な問題だ。
例えばリアル5頭身、バーチャル8頭身にするとどうなるか?
歩けない。
慣れるまで何日もかかる。
例えばリアルAカップ、バーチャルIカップなら?
歩けない。
足元が見えないから転ぶ。
そしてバーチャルになれるとリアルで歩けなくなる。
理屈は真逆に同じ。
ゲーム内なら使えるシステムアシストが全くないからより危険だ。
(IからAならよく見えるから大丈夫?いやいや、肢体の重心が変わるのは相当キツイ)
オフィシャルも『体系変更は±5%以内推奨』としている。
まあ、多少の不便を我慢すれば、無理も効くのであくまでも『推奨』だが。逆にオフィシャルの禁止ラインまでは設定ができる。
そこでプレイスタイルによってアバター作成の方向がわかれる。
ゲーム攻略重視は言うまでもなくリアルに合わせる。
慣れに伴うロスタイムを回避し、長時間ログインから生じるリアル回帰後の事故を避ける為に。
PLの大半が選ぶ戦闘職はアバターの操作性が死命を決する。
視界を重視して顔の造作までリアルに統一することも珍しくない。
ゲーム的な遊びは、せいぜいが髪や肌の色をいじる程度だ。
中には、現実の肉体を鍛え上げてゲーム内の優位を目指す剛の者もいる。
ロールプレイ重視(雰囲気重視ともいう)は言うまでもない。
理想の自分を磨き上げる。
ゲーム世界に合わせ、自分が活動するフィールドに合わせ、むしろ世界を自分色に染め上げる為に。
性別身長体重スタイル髪に瞳に肌の色、極端な場合はオフィシャルの用意したテンプレートを一切使わず魔改造に励む。
ゲームエントリー後、アバター登録まで一か月費やした剛の者もいる。
まあ大抵は支障が生じない範囲で、オフィシャルが用意したテンプレートに少し手を加えて楽しむ。テンプレートは多岐にわたり、よほど特殊なリアルじゃない限り、誰でも10種類程度から選ぶことができる。
スタイルより顔のほうが支障が少ないために、勢い、美男美女がそろうことになる。
さて、理解されただろうか?
攻略圏が(日本国内某日某所の/あるいは本日?)コスプレ会場。
育成圏が(海外作成ファンタジー映画の)ロケ地。
この意味が。
そしてここにも、拳法家のコスプレ少女が一人。
「コスプレゆーな!」
まあ、ギリギリ普通の社会にもみられる武道系胴着のように見えなくもない。ただ、篭手や胸甲が付いているのでやっぱり・・・。
「やかまし」
あ、はい。
というわけで教都の隣町。
攻略圏の第一都市『タワー』である。
名前の通り、街の中心に尖塔がある。
高い高い高い尖塔は、てっぺんから見下ろすと二つ先の街まで見えたりする。
ノースキルでそれだから、スキルを使えばどのくらいまで見えるのか?
研究中。
それ以外は普通の街。もちろん、育成圏とは桁違いの高レベルモンスターが徘徊しフィールド周辺のダンジョンや固定イベント、クエストの難易度も上がる。
「しっかしよ・・・なんで隣?」
そう。ネコカフェ一同は教都の隣街に移動したのだ。わざわざゲートを使うのだから、一気に最前線攻略都市カマルにだって行けたのである。そのままクライアントに合流もできただろう。
ゲート周辺の事故リスクも、どこにでも『お友達』をしつらえているニートなら安全確認用のソレも作っているだろうから、問題にはならない。
「楽っちゃ楽だけどよ」
まあ、街道を数時間進むのに比べれば。
「誰が聞いてるか分かりませんでしたから」
「「「?」」」
セイ、トモ、フミノが視線を向けた。
「ゲートのそばに人がいたでしょう」
三人は考え込む。
教都のゲートそばには、移動してきたヒャッハーや解説席周りの野次馬がいた。
「いましたね」
小首をかしげるフミノ。だからどうなのかわからない。
「「あーあー」」
頷くセイ、トモ。わかってはいるらしい。
ニートが二人にハンドサイン。人に説明するのは自分の勉強にもなるという真理。
「あれだあれ」
「ですです」
もういいよ。
説明が苦手な二人だった。
つまり。
ゲート移動時は移動先を言葉で唱える。
当然、近くに人がいれば聞こえる。
小声でもはっきりと発音しないとシステムが認識しないし、スキルを使えば必ず聞き取れる。
「?」
ニートの説明にも疑問符なフミノ。
「追手に移動先が知られるリスクがあるので、ワンクッション置いたんですよ」
そーそーと頷くセイ&トモ。ドヤ顔だが何も説明してない。頷いてただけ。
やっとわかって頬を染めてうつむくフミノ。
「ここからさらに移動して追っ手をまきます」
もちろん、『タワー』だってゲートを使えば条件は同じだ。しかしここで盗み聞ぎされる可能性は極めて小さい。なぜなら・・・
「おお!ニート殿!みよみよ!!」
すでに手を取ってニートを連れていく魔法使い。魔法使いのローブこそ普通の形だが色が・・・その・・・森林迷彩なのは如何かと。ローブというより野戦用ポンチョであった。
ネコカフェ一同もついていく。
「これこれ!」
え・・・・・・・・・・セイ、トモ、ドン引き。フミノは立ちくらみ。ニートが支える。
コレってあんた。
檻である。
鋼っぽい硬質の、猛獣を入れる場所としてだれもが思い浮かべる、実際に捕獲したモンスターを入れる時に使うアイテムなのだが。
それも結構威圧感がある。
だがそれではない。
すごく問題なのは、そこではなく。
中身だった。
「助けてくださ~~い!!」
「違うんです!違うんです!」」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
救いを乞う。
泣き叫ぶ。
壊れる。
檻の中には人、人、人、人。
「これは?」
悲鳴も嘆願も全く聞こえてないようなニート。
「捕獲した」
自らの行いに胸を張る魔法使い。
うわー。
「全く新しいタイプだ!どう見るね?この顔の輪郭、ボディサイズ、カラーリング!」
檻の中のPCを指差し確認。
「まったく完全に!アバター制作時のオフィシャルモデルと一致している!!」
(作り方よくわからなかったんですよ~ごめんなさい~ゆるして~)
「新種のNPCだ!!!」
聞いてない。
「しかも!」
檻を振り向く。
「一貫して、自分たちがPLであると主張している!!!」
聞いてた。
「こんなものを見たことがあるかね???」
「はじめてみました」
ニートが正確に質問に答えた。
「これをどうみる?ログアウト不可と同じくシステムトラブルではあるだろうが、NPCの作成プロセス時にプリントするアバターデータがPLに提示するモデルと一致するとなればデータベースの管理タグが破損?いやむしろタグの認証識別プロセスがランダム化しているのかもむしろAIはイベント用でモブではないとすればあれか!イベント生成プログラムがなぜか安全圏内部で働いたというしかし攻略イベントのように予告された街頭イベントもあるということは」
眼がイッていればまだ救いがあるが。
「そうか!タイムスケジュール!」
眼がマジだ。
「年代日付時刻設定ないしプロセスのエラーか!!」
ニートをみる。
「どう考えるね?」
「可能性はありますね」
おい。
無言でツッコむセイ。
「後でデータを送っていただけますか?詳しい知人に回覧して意見を回せるようにします」
「頼んだぞ!」
シェイクハンド。
じゃ!
と手を上げて別れた。檻の周りには魔法使い以外、職人や僧侶っぽいPCが集まり記録に励んでいる。
そう!
ほぼすべての攻略組がうっぷん晴らしのごとく取り組んでいる、
『ありとあらゆる異常の洗い出し』
のために!!
「あの・・・」
「ああ、きっと『黄金の夜明け』のみなさんでしょう」
ヴァーチャルゲーム初心者がサンプルそのままのアバターを創ることなど珍しくもない。『10万人突破イベント』と称しオフィシャルが新規参加キャンペーンを繰り返したからスフィアではどのゲームより完全初心者(ヴァーチャルゲーム自体が初めて)が多い。
しかし。
攻略圏のPLはヴァーチャルゲームを延々と渡り歩いてきたものばかり。
ゲーム中もほとんどの攻略組は攻略圏を出ない。育成圏に出るのはギルド幹部か渉外担当的な一部PLだけだ。
そしてギルド幹部はリトライのためにフィールドか町の中心、『タワー』では塔の上のギルド合同指揮所に詰めている。
つまり、気が付きそうな奴はこの場には来ない。
いるのは解析担当のディープマニア。
初心者がやりがちなこと。
言われれば『知っている』だろうが、真っ先に他の、つまり『未知の可能性』を追求する。
「私たちを追って各街に人を送ったのでしょうが・・・」
遠い目。
攻略圏の街の数だけ同じことが起きてるだろう。
『未知の可能性』が尽きれば、初心者の群れが解放される日が来るだろう。たぶん。
別な可能性に夢中になって『後で調べればい~や』とギルドの倉庫にしまわれなければ。・・・ありそう。
「え?あ?その」
慌てるフミノ。
「大丈夫です」
力強く、優しく微笑みながら、肩をたたいた。
「知り合いはいなかったでしょう?」
茫然。
「おっさん!次どうすんだ?」
石になっているフミノを無視してセイが質す。
「お泊りですか!!」
ばんざーい、なトモ。
「ゲートからすぐに移動します。お休みはその先で」
「へ~い」
「は~い」
この街であれば、ゲートのそばで立ち聞きする『敵』はいない。
みな、檻の中だ。
あ、今回のネコはニートの背中にぶら下がってました。




