第8話
僕達は今、ナイト学園から西の方角にあるトランスパーピィというところに向かっている。移動している時にカリスから聞いたのだが、どうやらそこはウィンクとヤクの暮らしていた場所だそうだ。しかしその後言葉に詰まっていた事から、もしかしたら他にも何かあるのかもしれない。勿論そんなこと聞けるはずもなく、少し気になりながらもその話はなるべく触れない事にした。
それにしても…
「まだなんですか?」
「はい…」
汽車で移動しているのだが、さすがに大きな荷物を持ってずっと立っているのは疲れてきた。その疲れから、どうしようもないというのに思わず案内役のナウに聞いてしまった。ナウも困ったように通信機を見た。
「大変よね、代わる?」
たまたま1つ空いていた席にジャンケンで勝ったため座っていたラルが、少し腰を浮かせて聞いてきてくれた。
確かに疲れてきた。でも、ラルはお姫様だし…この人達に会ったばかりなのに甘えるわけにはいかないし…。
そんな事を考えていると、ふとウィンクがくすりと笑った。
「スリク。そこまで考えなくても、皆さんとても優しいですから大丈夫ですよ」
僕はびっくりして思わずウィンクを見た。
すると、慌てたようにウィンクは言葉を続けた。
「あっ!驚かせてすみません。僕の能力は人の心を読む…というより、勝手に見えてしまう能力なんです。スリクがあまりにも深く考えていたものですから、つい…」
申し訳なさそうにしているウィンクを見て、リスクがポンっと手を打った。
「あれか。今朝お前の心をウィンクが読んでいた時、スリク凄く混乱してたもんな」
今朝…?
気が付けばよく分からないところにいて、カリス達に出会って…そうか、ヤクが僕の過去を見た時にそういえばそんな事を言っていた。
「そういえばそうだった!で、ヤクさんの能力は確か過去を見る能力だったよね!凄いなぁ…」
僕にもそんな力があったらなぁ…。
そんな事を呟くと、とても意外な言葉が返ってきた。
「スリクにも…他の皆にも、色々な能力があるんだよ」
「僕にも!?」
カリスの言葉に思わず少し大きな声を上げてしまった。汽車の中なのを思い出し、はっとなって声を潜める。
「それで、僕にも能力があるって本当…?」
カリスが、僕はまだ11歳だと言っていた。11歳なんてまだまだ小さい子供だ。カリス達は21歳とか13歳とか、年齢としては子供に位置付けられるような年齢も中にはいることにはいるが、僕からしたら立派な 大人だ。 カリス達に能力があるのは理解出来るが、こんな僕にウィンクやヤクのような能力が果たしてあるのだろうか。
いや、そういえば。確かカリスが…
「あ、もしかして、選ばれたとかってやつ…?」
恐る恐るそう聞くと、カリスは少し笑って首を横に振った。
「それもまぁ能力といえば能力かもしれないが、それ以外にもあるんだ」
僕は首を傾げた。
一体どんな能力なんだろう。自覚が全くない。
考え込む僕を見て、カリスは言葉を続けた。
「お前の能力は、人の痛みが分かる能力・ハールスとテレパシー能力のフォーラを使える」
僕は驚いてカリスの顔をパッと見た。
人の痛みが分かる、ハールス。そしてテレパシー能力、フォーラ。
改めて能力を考えると、それはとても新鮮な感じがした。
「あれ…じゃあ、もしかして…」
ふと思った。
先程からたまにズキズキと僕を襲ってくるこの体の痛み、そしてそれを情報として受け入れている感覚。
僕はてっきり何時間か前にやった授業の影響とかそういうものかと思っていたが、もしかするとこれがハールスなのだろうか。
「どうした?もしかして、どこか痛むのか?」
少し俯いてしまっていた僕に、心配そうに顔を覗き込むリスク。
僕は先程から感じていた事を皆に丁寧に話した。指先が切れてしまったような小さな痛みから、締め付けられるような胸の痛みまで。
僕の能力がどの程度までのものなのか分からない。世界中の人の痛みを全て一度に感じ取ってしまうのか、それとも記憶をなくす前の僕の知っている人の痛みだけなのか。ずっと痛みが続いているわけではないにしても、頻繁に痛みを感じる。
僕は今ここで何事もなく息をしている。こうしている間にも、傷ついたり苦しんだり亡くなっている人がいる。
皆が言っていた、僕達は『悪心を持つ者』と戦っているんだって。一度いなくなったと思われていた彼等がまた現れ始めたんだって。前までどんな事があったのかは全く覚えていないし、僕はこれまでにどのくらい痛みを感じ、また自分自身もどれくらい傷ついてきたのか分からない。どんな思いを抱いていたかなんてもってのほかだ。しかし今は今の僕として、この能力による痛みを…特に敵から傷を与えられたという他の人の痛みを、少しでもなくせるようにしていきたい。
今はまだ敵からの痛みを感じてはいない。勿論、正直に言えば感じたくはない。ずっとこのまま、そんな物騒な痛みを感じずにいられればと思う。
果たして僕はそのために、この世界のために何か出来ることはあるのだろうか。自分が何者なのかも分からない恐怖の中、何も分からずにただ体が覚えている記憶を頼りに剣を握るしか今の僕には出来ない。
とても、不安だった。
知らぬ間に震えていた手。その手を、優しく握られた。とても暖かく、僕の不安も全て包み込んでくれそうなほど大きな手。
それは、カリスだった。
「スリク」
彼の口から零れる、僕の知らない僕の名前。
でも、何故だかとても特別な感じがした。
カリスは僕の目をしっかりと見つめると、ニコリと微笑んだ。
「お前のその能力は、お前の優しさが与えてくれた物なんじゃないかな。勿論、スリクはその能力のせいで沢山考えてしまったり苦しんだりすることがあるかもしれない。でもお前は1人なんかじゃない、オレ達がいる。だから、1人で抱え込んだりするんじゃないぞ」
頷こうとして、しかし少し戸惑ってしまった。
僕はこの人達の仲間としてここにいていいのだろうか。
そんな僕に気付いたのか、リスクが肩を組んできた。
「まぁ今のスリクにはまだ僕達を仲間だって思えないかもしれねぇけどな。でもそれはまだまだこれから、ゆっくり作り上げていけばいいんだからな!」
リスクの方に顔を向けると、明るい笑顔がそこにはあった。
僕は嬉しくなって、力強く頷いた。
お久しぶりです!遅くなってしまいすみませんでした。
読んでいただきありがとうございました!
色々あり、やっと投稿することができました。
今回、お話の内容としてはあまり進みませんでした。
これから少しずつ少しずつ書いていきたいと思います!




