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前科 交通事故の死神   作者: エントラル
第4章 死神の共鳴
46/54

36 豊穣の黒巫女

さあ誰のターンでしょーか?by 白庄 天海


あんたテンション高いわね。by 荒杉 理性


orz by 坂追 竜治

これは理性が情報屋を訪ねる約30日前。とある村に於いての出来事なり。そこには様々な災厄から村人を救う巫女がいた……。





「巫女様」


暗い神社のような屋敷の中で老けた老人が、祭壇の前で背中を向けている長髪黒髪の黒い巫女装束に身を纏う少女に向かって呼び掛けた。


「何事か?」


その声は何の感情もない無機質な問いかけだった。巫女はそのまま動かない。老人の言葉を待つ。


「また田畑で害虫が現れたのでございます。どうか、巫女様の力でどうにかして欲しいのです」


老人は土下座で頼み込む。何故なら彼は村を代表して彼女にお願いしているのだ。断られたら村がただでは済まないのは目に見えている。


「また……現れたのですか」


巫女は両手に持つ黒い鏡睨み付け映る自分の顔を見て、髪を手櫛で直しながら溜め息をついた。これで何度目なのか、と明らかに言いたげだった。


「はい。最近は気象が余り思わしくないもので……。恐らく陽光の神様のお怒りかと」


「陽光の神様……ね」


彼女はそう自分にしか聞こえない小声で呟き、鏡をその場に置いて立ち上がった。そして目を閉じ、目前の何もない空間に右手を差し出す。すると瞬く間にその周りから黒い霧が噴き出し、伸ばした右手を包み込んだ。


霧が暫くして消えると、巫女の右手には一つの漆黒に染まった横笛が握られていた。老人は目が悪い為に笛が霧から現れたことを微塵も疑わない。


彼女はそうしてようやく老人の方を振り返った。その際に長い黒髪がふわりと揺れる。


「分かりました、引き受けましょう。その代わり……」


「住民の避難でございますか?」


「いかにも」


老人の質問に即答で答えると、黒巫女は彼の前を通り過ぎ、障子を開けて先に外に出た。残された老人はすぐさま後を追う。


余談だが、先程まで黒巫女が覗いていた鏡は既に部屋の中から消失しているのにも老人が気付かなかったのは言うまでもない。


簡素な赤い鳥居のある外玄関には既に村人達が集まっていた。その誰もが屋敷から姿を表した巫女に対して感謝の言葉を投げ掛ける。


「巫女様、どうかお願いいたします」


「これがやられれば我々は飢えに苦しむしかないのでございます!!」


「我が豊穣の巫女様!!」


村人は口々に彼女へと未だ懇願するように頼み込んでくる。どうやら切迫した状況は変わらないらしい。


「厳粛に」


巫女は彼らを必要最低限の言葉で制す。小声で出した筈のその声は、鶴の一声のように人々の騒ぎ声を鎮めた。


「貴方がたの気持ちはよく分かりました。私の力で畑にいる邪な存在を退けましょう」


願いを聞き入れてくれることに村人からは喜びの歓声が次々と上がった。その光景を彼女は静かに見つめる。


巫女がいる。それは最低限日本のような木の家が集まった村ならば違和感はないだろう。しかし、彼女の屋敷と村人の家には“かなり”の違和感があった。彼女の屋敷が木材を用いた神社の屋敷なのに対し、村人の家は石材を用いた西洋風の家屋なのである。


また、彼女だけ容姿が違った。周囲が金髪や茶髪なのに対し彼女は黒髪。目の色さえ他人のように鮮やかな色合いがない。明らかに大勢の民衆の中でも目立っていた。


「では皆の衆、その問題の畑に案内を。そして私がその場所に着いたらすぐに皆は離れること」


淡々と言葉を述べる巫女の言葉に全員がその条件に頷き、集団で彼女を守りながらその畑へと案内する。もう何回も行っているので一人にすることに何の疑いも抱かない。結果オーライだから。





「巫女様、ここが問題の畑でございます」


村人に連れられて数分。彼らが案内したのは村から離れた麦畑の一角だった。一見すると何ともないように見える新芽が出ている緑色の畑。しかしよく目を細めると所々枯れた箇所がある。


「では皆は出来るだけここから離れて下さい。決して見てはいけません。そして……」


巫女は足を止めて周囲の人間に等しく聞こえるよう黒髪を揺らして振り返る。その表情はかなり真剣かつ警告のような感情を込めていた。


「決して耳を澄ましてはいけません。耳を押さえてくれると幸いです」


この警告に大半は承諾して離れたが、一部の村人はやや訝しげな視線を向けてきた。しかし、彼女の目が段々と射殺すようなものに変わってきたため余計な詮索は危険と判断し指示通りにその場を去っていく。


しばらくして畑周りは彼女一人になった。人がいなくなっただけに不気味な程の静寂が漂う。


巫女は紫色の瞳でじっと畑を観察する。紛れもない食害の跡。種まきをして越年させただけに村人のショックは大きいことだろう。


(食害を引き起こす虫は大抵、荒らし終わるまでそこから離れない。一応周囲一帯をやった方がいいわね)


巫女は大体の方針を固めると、手に持っていた漆黒の横笛を口に充てた。そして、呼吸を整えると笛の中に息を吹き込む。


(畑を荒らす邪な虫達よ、この音色と共に消えよ!!但し、畑には無害とする)


その意志を心の中で念じながら、彼女は笛を吹き鳴らした。しかし感情を抑えて静かに。


笛の音色が死者を弔うかのように周囲に響き渡った。それはただの音ではなく、ある一つの歌を奏でている。それは哀悼の歌であり、まるで仲間を呼ぶような悲しい歌。名もなき歌。


何故名前がないのか。それは彼女が作曲したからだ。


吾が輩は歌を作った張本人である。曲名はまだない。


原因は彼女自身だった……。


それはともかくとして、音色が畑一帯に届くと至るところからガラスが割れるような儚い音が次々と聴こえてきた。


音源は畑の中。麦の新芽の葉っぱから小さな何かがポトポトと細かい埃のように地面に落ちていく。それは麦の新芽を荒らしていた害虫だった。彼女の笛の音色を耳にして小刻みに体を震わせたかと思うと、力が抜けたかのように葉っぱから崩れ落ちる。


落ちた虫は全て死んでいた。葉っぱの上に乗っていたときの態勢のまま、硬直して動かない。


彼女の出していたのは死を呼ぶ音色だった。耳にした者を死へと誘う危険な音色。本来は全てを対象とするが、自らの意思で対象を限定しているので、麦は枯れなかった。


その名を“崩壊の狂奏曲(Death Concert)”と呼ぶ。


しかし、自らの意思で限定する為に抑制には限界がある。例え効果を抑えていても影響は出てしまうのだ。麦の新芽は思考で除外した為、効果が薄いがその他の生き物は容赦なくこの攻撃を受けた。


彼女がそうして音色を奏でている間に頭上で飛んでいた二羽の雀が突如力を失って地面に落ちた。地中にいたもぐらが動かなくなった。


「くっ……うっ……」


ガラスが割れる儚い音が立て続けに聴こえ、彼女の表情が辛そうに険しくなり口から苦悶の呻きが漏れる。この音は命の核が壊れていく音なのだ。


死を示す音。その音を耳にして平然でいられる人間などいない。


畑から小さな砕ける音が聴こえなくなったところで彼女は奏でる手を止め、笛から口を離した。その息は荒い。


「はぁ……はぁ……」


黒巫女は乱れる息を整える。そして静かに自分の巫女装束をはだけた。前の白い肩が露になるが、人がいないので気にしない。そして首をひねって肩に刻まれた刻印に目を向ける。



006

Suddenly

Completed


Break 10 → 11



「近くに紛れていたのね、死属(しぞく)生物が。今回は不完全体だったみたいだから簡単に死の硬貨(Death Coin)一枚確保か……」


彼女は服を直しそう呟くと耳を澄まして、僅かに共鳴する音を頼りにその発生源の元へ歩き出す。回収すべき事項だからだ。


発生源は音色を奏でていた畑の中から見つかった。新芽の下にに落ちていた虫に混じって。巫女はそれを片手で拾い上げ、掌の上に乗せて観察する。


拾い上げたのは十円玉ほどの黒い硬貨。表面には大鎌のような絵が描かれ、曲がった刃に囲われるようにして文字がその中に刻まれている。



612

Plague



疫病。どうやら今日は駆除をやって正解のようね。広まったらどうなっていたか……。


死神同士の争いは必ずしも“人間だけ”ではない。時には人外の存在とも戦うこともあった。彼女の場合、死神よりもこういった死属生物を倒した回数の方が多かった。


黒巫女は硬貨に片手を重ねて念じる。すると次に手を上げたときには硬貨は消えていた。


それが終わるとようやく緊張が解けたのか、その場に膝をつき、深いため息をついた。


これで何度目だろうか。駆除の為にこうして何度も崩壊の狂奏曲を奏で、村人を助けてきた。しかしそれは同時にこの場にいた関係のない動物達は抑制された音色をまともに聴いたせいで命を失うことを意味していた。何の前触れもなく。人間の都合で……。


だが、駆除の対価として自分がこの場所に居られるのだ。この計らいには感謝しなければならない。


このまま居続ければ……いつかは仲間が自分の持つ道具の共鳴音を聴いてここに来るだろう。しかしそれは何時来るのか?全く分からない。


「私は待つしかない。仲間が迎えに来るまでずっと……粘りながら」


自分はこの世界を渡っていく自信がない。だから待ち続けて村に“偶然”立ち寄る可能性に賭けた。攻めて待つよりも、守って待つ方に。自分の道具が引き寄せる限り、必ず来る筈……。


「苦を堪え……守りて待とう……待ち人を。我が災ひを……世に伝えつつ」


そんな和歌を歌いながら黒巫女こと白庄天海は目の前の青空を見上げ一人呟くと、その場を立ち上がる。


「取り敢えず……アレを回収して村の人にプレゼントしよう。放っておいたら勿体無いわ」


失った命はもう戻って来ない。ならばその死を生かすしかない。ということで白庄は巻き添えを食らった動物達に複雑な思いを抱きながら回収に向かう。一応食料の足しにはなるだろうから。


ちなみに彼女の死神に於いての通り名は“奏殺(そうさつ)”。

感想、意見があれば投稿お願いします。


最後は俺か……。by 坂追 竜治


巫女とか和歌とか……。あいつ、本当に理系専攻だよな?by 多代崎 翔


さぁ~ねぇ。by 荒杉 理性

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