31.5 異世界転移者の遺産
ラウネンが言う数分後、受取カウンターの方からチリーンと鈴が鳴ったかと思うとそれに続き、いかにもオヤジ臭い響きの声が聴こえてきた。
「番号42番できたぞ!!」
ちなみに42番は自分達のことである。早速、理性とラウネンの二人は席の見張りをスクレーンに任せて料理の出てくるカウンターに向かう。
せわしなく動き、水蒸気すら立ち上る厨房の中から出てきたのは、茶色い衣服で頭に白いハチマキを巻いた、見た目40代後半の短金髪黒目オヤジだった。料理の黒いトレーを二つ持つその片方の手にはあのラーメン特有の装飾が施された白いどんぶりがある。
「へい、お待ち!!」
威勢のいい声と共にカウンターからそれがこちらに差し出される。理性は引換券を店員に手渡すと出てきた料理をまじまじとその場で見下ろした。
ラーメンの中は黄色い麺とネギ、チャーシュー、メンマなどが盛られたお馴染みの組み合わせ。スープの色から豚骨と思われる。そして丁寧に箸まで添えられていた。
本当にラーメンだ……。
味はまだ分からないが、見た目は自分のいた世界に存在するラーメンそのものだったその事実に驚く。
「姉さん、この料理を頼んでくれてありがとな」
ラーメンに釘付けになっている理性に目の前の店員から声を掛けられた。
「えっ……ありがとうって……」
突然の感謝の言葉に彼女は頭の上に?マークがつく。私はこのラーメンの存在に?マークなんだけど……。
「これ、先代の料理人が考案した魂の入った料理なんだ。人気は今もないけどな」
「そう……なんですか」
理性が曖昧な返事をしても意に介さないように店員は少しだけ懐かしむように話す。
「俺達に伝授されているものの、このラーメンの材料、レシピは今も常識はずれなものだよ。あまりに製法は多いしな。でも味は別次元みたいにうまい」
ラーメンのことを称賛するものの、声の調子は落ちた。店員の表情には暗い陰。
「でも結局は客には受けず、現在も売れてないけどな。値段の低さの理由がそれだ」
店員の話を聞いて理性はやはりあることが気になった。
「このラーメンを作った人は今はどこに?」
その問いに店員は静かに言った。
「もう死んだよ。何年もの前に。本人は自分が異世界転移者だ、トーキョー出身とかおかしなことを口にする人だったが、尊敬はしてる」
悲しい事実を伝えられ、一気に雰囲気が暗くなる。尋ねるべきではなかった、と彼女は後悔した。しかし、異世界転移者が何故ラーメンに固執するのか気になる。
「でもまあ、その人のためにも召し上がってくださいな。何せこの料理を世界に広めたい、そんな願いを込めて作った代物だから」
「なら……ありがたくいただきます」
しかし、これ以上話を続けると麺が伸びる危険があるので理性は軽く会釈し、トレーを両手に持ってカウンターから離れた。
その人の名前を聞こうかと考えたが、友達関係最低限ラインのメンツにラーメン好きな人はいないので止めた。しかも死んでいるのなら情報は少ないだろう。
ラウネンは自分と話していた店員と料理の受け渡しをしながら何か話を始めたので、ここは彼に先に戻ると伝え、仕方なく一人で席に戻った。
「へぇ……これがラーメンね」
席に戻るとスクレーンが好奇な目でテーブルに置かれたそれをじっと観察する。
「確かに異次元とかって言われてもおかしくない風貌ね」
それから堂々と匂いを嗅ごうとしたので、理性はその行動に釘を刺した。
「それより貴方も料理取りに行けば?早くしないと冷めるわよ」
スクレーンはあっ……、と掌で口を押さえ自分のことを思い出しすとすぐさま席を立つ。ラーメンに意識がいって完全に忘れていたようだった。
「ああ……席をよろしくね」
そう言って彼女は早足でカウンターに歩いて行った。ラウネンはまだ戻らないので席には自分一人だ。
「さて……」
麺が伸びないうちにいただこう。箸は流石に割り箸ではないのでそのまま手に取る。久し振りの箸に何故か感動してしまった。
「いただきます」
手を合わせ、静かに言うと先ずはどんぶりを傾けてスープの味を確かめた。
うわっ……。
普通……。豚骨スープを口に含んだ瞬間の反応はそれだった。しかし普通だからこそ、逆に懐かしさを感じた。目の前にうっすらと自分が住んでいた世界の街並みが見えたような、そんな気分だった。
東京出身の誰だか知らないけど、美味しくいただきます……。
それからはラウネンやスクレーンが帰ってきてもスープの一滴までどんぶりから消えるまで無言で食べ、二人は自分達の話を無視するその反応の薄さを目の当たりにし、驚愕した。
感想、意見があれば投稿お願いします。また、何かアドバイスをして下さると幸いです。
次回投稿はやはり未定です。なるべく早く投稿するつもりで頑張ります。ただ、投稿は遅れても勉学は優先するつもりです。
ラーメンといえば豚骨でしょ。by 荒杉 理性
俺は醤油だ。by 坂追 竜治
私は味噌味を……。by 白庄 天海
十人十色だろ……。俺は塩だけど……。by 多代崎 翔
次回は情報屋の話になります。




