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前科 交通事故の死神   作者: エントラル
第3章 旅路
40/54

32 情報屋の場所

そろそろクリスマスが近いわね。みんな過ごし方決まってる?by 荒杉 理性


何か映画でも見ようか。 by 坂追 竜治


雪景色でも見ながらこたつでホットミルクでも一杯……。by 白庄 天海


俺は外に何か食べに行こうかな。by 多代崎 翔


誰と?by ラウェンド


……。by 理性・多代崎

「情報屋って結構目立たないところにあるのね」


市街の明るい路地を折れて暗く薄汚れた赤煉瓦の建物と建物の間を縫ってラウネンの後に続きながら理性はふと呟いた。


昼食を終え、一旦宿屋に戻ってから理性はラウネンと共に今この路地を歩いている。ちなみにスクレーンは理性が情報屋のことを話して興味を持ったが、旅の疲れを取りたいという理由から同行しなかった。それに誰もいない部屋の荷物の見張り役がいるためにどちらにしろ彼女には無理だった。


また、後々に理性がスクレーンを誘い、連れて行こうとしたことをラウネンに珍しく注意もされた。


「情報屋のことをあまり周りに話さないで欲しい。存在自体が隠されているから」


要は秘密事項。この世界だって裏はあるのだろう。情報屋の存在もそれかもしれない。理性は軽はずみな自分の性格を少しだけ反省した。思えば遠くの情報なんてこの世界では貴重だったわね。


そんな訳で現在に至る。


「当たり前だよ。情報屋は常に中立に立っているからこそ成り立つものだからね」


辺りを警戒しながら裏通りの角を右に曲がり答える。


確かに情報屋なんて街中に堂々とあったらボロ儲けはできるだろうが、国が関与しようとするのは必至であり、そうすれば様々な情報がその国所属である故に他国の情報を得られなくなる。また偽の情報を流されたり、自国の情報を隠蔽したりといった権力者の情報操作に利用されかねない。


常に中立の立場で情報を提供する。それこそが情報屋の売りなのだろう。


「そう言えば……貴方はどうして情報屋のことを知ってるの?」


理性は疑問に思って聞いた。その存在が秘匿されるのならなぜ彼がそのことを知っているのだろうか?


ラウネンの足が止まる。そして彼はこちらに背を向けたまま沈黙した。まるで聞いてはいけないことを聞いてしまったようなそんな感じの反応に彼女は相手の返答に対して緊張してしまう。


「それは情報屋に着いてから分かるよ。今はそれ以上は聞かないで」


その声はさっきまで耳にした優しい声ではなく、厳しく冷たい警告の言葉だった。理性は目の前の少年が別人のように見えて思わず後退りしそうになった。


「ごめんなさい……」


口頭での情報流出すらラウネンが許さないことを態度から読み取って理解した彼女は俯き、静かに謝罪した。口が軽いって最悪ね……。


「下手をすれば一気にお尋ね者にされるかもしれないから」


そんな重大なことを普通に口にされ、更に空気が重くなる。要は情報屋のことに関わるということは同時に危ない法律の綱渡りをするのと同義であるのだ。


「ほら。着いたよ」


彼の控えめに指差す方向に理性は目を向けるとそこには灰色の岩で建てられた屋根が平らな建物。看板こそないが、尖った何かで謎の文字の羅列が刻まれ、すっかり色褪せた茶色のドアが見えた。一見すると普通の空き家だが、ここらしい。


「えっ……ここなの?」


教えられたとしてもその場所の状態が理解を困難にする。なぜなら周りが暗いというのに明かり一つ灯っていない。更にドアのすぐ隣にある窓はカーテン無しで中が丸見え、とどめに中は空っぽの部屋である。にわかに信じられない。


「誰だってこれは見逃すし、素通りしてもそれが当たり前だと思う。でもこれが情報屋の表向きの顔だよ」


ラウネンは見た目空き家の灰色の壁を軽く叩き、その存在を自慢するかのように話す。ただ、声は小さめに抑えているが。


「だいたい予想はしてたけど……空き家に化けているなんてね……」


小説を読むと隠れ家なんてこんなもの、と感じてはいたが実際に目の当たりにするとその隠れ具合は遥かに違った。完全に街中に溶け込んでいる。


「ほら、入るよ」


彼はそう言って閉ざされた扉にかけられている南京錠もどきの鍵穴に、ポケットから出した自分の鍵を差し込む。それから右方向に一回、左に二回回し、奥に押し込むと軽い金属音と共に錠前が外れる。


理性はてっきり次にドアノブを手前に引くかもしくは奥に押すのかと思っていた。しかし、ラウネンは鍵を外すとドアノブのない反対側のドア板に触れ、金具で固定されているはずの方向にスライドさせる。


するとドアは横の壁の中に吸い込まれ、入り口が出現した。


「凄い……」


からくりなど初見の彼女は絶句する。確かに入口に細工をするのは常套手段とは知るものの、それでもその意外性に驚いてしまう。


「ほら、早く。誰にも見つかってはいけないから」


ラウネンがさっさと入ってすぐに入口を閉じようと壁に収容された扉を隙間から取り出した。周囲を警戒し、音を最小限に抑えてまた閉める。


理性も自分も歩いてきた暗い裏通りに目を向けて人がいないか確認してから彼に続いて情報屋の中に入ろうとする。


その時だった。


「……っ!!」


理性は背後に冷たい殺気のような、見られているような第六感を感じ、とっさにたった今見た通りを振り返った。しかし通りには誰も人影はない。踏み込んだ考えだが屋根の上に目を向けても鳥すらいない。


「理性、どうかした?人は見る限りいないはずだけど……」


ラウネンは今の違和感を何も感じないのか、普通に彼は声を掛けてきた。一応警戒はしてくれたと思うが、何かを見落している。


数秒間、路地をじっと見据え何か動きはないかとブルーの目を細めたが視界に見えるのは暗い路地と不気味なそよ風の音だけだった。


「な、何も……。大丈夫」


理性は気のせいだと彼に説明したが、それは表向きの態度で本心はそれでも疑っていた。自分が何の理由もなく違和感を感じる筈がない。準ストーカー+フレンド坂追に遠距離から追い付かれた経験から分かる。


何かが近くにいる。被害妄想かもしれないけど……警戒する必要がありそうね。


理性は違和感を感じた方向を鋭い目で睨み付けるとラウネンに促され、情報屋の中に足を踏み入れた。からくり扉は閉められ、二人の姿は路地から消えた。


だが、理性の第六感は当たっていた。二人の影が消えてから近くの建物の屋根の上から黒いマントに身を包んだ人影が一つ、その空き家の扉を見つめていた。





「じゃあ、情報屋の本体に行くよ」


ラウネンは壁に掛けられたホコリまみれのランプに火を付け、路地より暗い空き家の廊下を進む。理性は彼の隣にいて、先にあるものに目を見据える。


空き家の中はボロボロで、廊下の両端に現れる部屋はドアが開けっ放しで単に何もない空間が広がっていた。ただ、廃墟でない証拠か窓ガラスが一枚も割られていない。


「誰もいないみたいだけど……」


「そりゃいないさ。上には……ね」


ラウネンは謎めいたことを言うと、廊下の終わりにある緑色に塗られたドアの目の前で足を止めた。


「えっ……」


理性が首を傾げる間もなく彼は片足を前に出して床を踏みつける。次は右横を踏み、それから右手に拳を作り、右の木の壁を叩く。そしてまた前方を踏み、最後に左手の拳で左側の壁を叩く。


その動作に木が軋む音がしたが、同時に何かの装置の作動する金属音が響いた。何かが外れ、目の前の扉が小刻みに揺れる。


彼の暗号らしき動作を終えると扉が下の収納口に落ちた。扉から向こうは地下へと続く石の暗い螺旋階段が姿を現す。


「何……この徹底したセキュリティ」


入口のドアといい、二重に仕掛け扉を置くなんてどれだけ厳重なの……?理性にとってはやり過ぎに見えた。


「セキュリティって何かは知らないけど、これはどこの情報屋でも同じだよ。一軒に何十もの仕掛けを施す所だってあるから」


そう説明しながら階段を躊躇なく下りてゆく。自分が扉の中に入ると壁に付けられた白いレバーをラウネンは下ろした。すると沈んだ扉がまた元の位置に戻る。暗闇の向こうからは冷たい空気が吹いてきた。再び先へ歩き始める。


「ちなみにここの手順を間違えるとどうなるの?」


「ここだと床が抜けて真下にある竹槍に刺される」


彼はさりげなく言ったが、理性には驚愕の事実を教えられ一気に背筋が凍る。


「冗談でしょ?」


「うん、それは冗談……」


即嘘だと自白して今度は一気に安堵の息を洩らした。流石にないわよね……ソレ。


「心臓に悪いわ……冗談はやめてよ」


「ごめん。でもそれくらいの覚悟でいないといけないんだ」


謝罪しつつもまともな話が彼の口から出てきた。基本真面目な彼だからこそ、その口調が本当のことを言っているのだと分かる。


「理由はさっきの話と殆ど同じだよね?」


「うん」


要は情報屋の存在自体が漏れた際は、今までの仲間が敵側に回るということ、そして仲間を見殺しにしてでも情報は守るということだろうか?


螺旋階段を何十回か目が回るくらいに降りるとようやく終端が見えてきた。そこからは少しだけ直線の通路が伸び、頑丈そうな分厚い深紅の二枚扉が立ち塞がる。


「あれが情報屋だよね?」


一応案内人のラウネンに扉を指を指して確認をとる。これでまだ終わりではないと言われたら精神的に持たない。


「あれで間違いないよ。正真正銘の情報屋の本体だ」


その終着宣言に理性は深い溜め息をついてしまう。


「正直世界の裏側まで続いているかと思った……」


二人は二枚扉の前で立ち止まる。二枚扉には一枚の木の板が掛けられ、しかもセンスのないへたくそな黒インクで書かれていた。



秘密世界情報交換局 No.96m04u9:クロモスク支部



「じゃあ入るよ」


ラウネンは扉を押した。この扉だけは鍵が掛けられておらず、何の抵抗もなく左右に開く。


中は歩いてきた通路とは違って明るい光で満たされてさいるせいか、眩しくて部屋が見えない。


「ううっ……」


思わず目を閉じ、右腕で視界を遮るが光は故意に暗くした視界の中にも入ってきた。だが時間が経つと光に馴れてきて眼の痛みもなくなる。


「ここがクロモスクの情報屋だよ」


彼の声に理性は右腕を下ろし、目を開けて周囲を見渡すとその全貌に身体が固まってしまった。


「何……なの?これは……」


視界に捉えたのは裕に3メートルを超す本棚だった。しかもそれは一つだけではない。幾つも数え切れないくらいにあり、その一つ一つがびっしりと本や巻物、紙の山で埋まっている。本棚の通路の果てはここからでは見えず、どこまでも続いているようだ。明かりは本棚のブロック毎に置かれ、地下部屋を照らす。


ただ、この広大な部屋の散らかり具合も並みではなく所々棚から紙がヒラヒラと扉を開けたときの風で宙を舞い、床に落ちる。


情報屋というよりは国立図書館の方がふさわしい場所であった。


「おや」


しわがれた声が情報屋の内部に響いたかと思うと、すぐ側の本棚の陰から60を越えていると思われる全身を茶色い服に身を包んだ白髪頭で黒い瞳のお爺さんが一冊の本を片手に現れた。


「珍しいな、ラウネン。お前がここを訪ねてくるなんて」


「そちらこそ、まだこんな場所に籠っていたの?グロンザ・フロレート」


老人の問いにラウネンは驚くどころか冷静に、また親しげに話す。その振る舞いに理性は彼に対してある疑念を更に抱いた。


情報屋の人間と親しいってことは……まさか……。


「ラウネン、どういうこと?もしかして貴方は……」


彼女の言葉が最後まで言い終わらないうちにラウネンはこちらを振り返り、はっきりと答えた。


「そう。僕はこの情報屋の人間だよ」

情報屋の話が終わったら主人公視点から別サイドの話に切り替える予定です。


感想、意見があればできる範囲で答えます。

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