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前科 交通事故の死神   作者: エントラル
第3章 旅路
36/54

29 クラマドの巣窟

修正のお知らせ。


物語で出てくる乾パンとは非常食の乾パンではありません。一応前書きにもう一度書きますが、辞書の通りの意味ではありません。普通のパン(イメージは学校給食のパン)を乾燥させて保存用に特化したものです。


乾パンは流石にこっちの世界にはないよ。by ラウネン


あったら辻褄が合うのにね。by 荒杉 理性

彼らの故郷に別れを告げ、これから進む方向に目を向けるが、目の前の森の中に消える下り道から先、地平線の果てまで街らしい建物の陰も何もなく緑に囲まれた原生林とそれを貫く蛇行した川だけだった。


自分達が目指す街すら見当たらないということはまだかなりの距離を歩く必要があると解釈すると、すっかり理性は休憩の際に乾パンを口にしたのに気を落とし、二人の後に続き山道を進んだ。


山頂に到着した暁には下りというご褒美が待っていた。山登りとは違い、比較的楽な気持ちで駆け降りる。蛇行した下り道で先が見下ろせて、その先には何があるのかと好奇心が沸き上がった。するとソルケット村は登った山の陰に隠れ、二度とその姿を現すことはなくなった。


「この先には人が住んでいる場所は少ないわ。だからクロモスクまでは野宿よ。残念だけど」


スクレーンは道のりを知らない理性に念のためとばかりに言い渡した。恐らくどこか余裕の表情で歩んでいたからだろう。


「野宿かぁ……。私はそんな経験初めてよ。……というより途中に本当に何もないの?」


理性はあまりに理不尽な状況に立たされていることに不満を感じ、リーダーとして仕切るスクレーンに尋ねた。日本の東海道でも宿屋くらい、人里くらいは一日歩く道中に必ず1つくらいはあるはずだが……。


「レル・ベルタには寄り道しないの?」


スクレーン同様にクロモスクまでの道を知るラウネンが彼女に二人にしか理解できない質問を振った。その口調からしてどこか納得のいかないようだった。彼の知るルートとは違うのだろうか?


「寄らないわ」


「どうして?普通の旅人でも必ず寄る集落だよ。あそこなら壁に囲まれて兵士も常駐してる。それに……」


ラウネンはやや間を置いた。それを強調するように。どうやら立ち寄るのが行程での常識らしいが、それを敢えて通過することが不服だった。


「魔法使いが守っているから安全なはず。そこをどうして素通りするの?」


魔法使いという言葉にスクレーンは何故か反応を示し、身体が少し震えが走った。ラウネンは気付かなかったが、理性は見逃さなかった。さっきからほとんど反応が薄いのに珍しい。


「あまりに目立ち過ぎるからよ。私達の荷物を見れば誰だって旅人だって分かるはずよ。街にいる山賊(下調べ要員)や泥棒に目を付けられかねない」


彼女は自分の背負う黒い肩掛けカバンを筆頭に自分と彼の荷物を指を指してきっぱりと言った。そのまっとうな意見にラウネンは言い返せずに押し黙ってしまった。この世界の治安を知らない理性でも確かに納得のいく内容だった。この世界には警察なんて都合のいい組織なんてない。奪われたら素直に諦めた方がいいというものだろう。命さえあれば何とでもなるから。


「それに……私には時間がないの」


スクレーンは申し訳なさそうに言った。


「「時間がないって?」」


二人の質問に彼女は頷く。


「私のシャロボスに行く用事は期日が決まっているの。その日が過ぎてしまったらこの旅が徒労に終わってしまう。理由は詳しくは話せないけど」


期日が決められた用事とは一体何なのか二人は気になったが、とにかく彼女は急いでいることは事実だ。


いきなりそんなことを言われれば、本当なら反論したいが二人はシャロボスまでの行き方を知らない。ここで別れてしまえば路頭に迷う可能性があった。ラウネンが地図を覚えているのはクロモスクまでの道。そこから先、確実に行ける保証はない。


「そうか……分かった」


ラウネンはスクレーンの意見には反対だったが、彼女が急いでいることと無駄な関わりのあるリスクを避けることは一理あると判断したのかそれ以上の言及を控えた。


彼が納得してくれたことに彼女はホッと胸を撫で下した。これでないといけなかったのだろうかと理性は思う。普通ならこの社会で人里を避けるなんて常識外と思うのだが。


「ならどこで野宿をするの?」


小さな議論が終わったと判断し、理性はスクレーンにすぐさま尋ねた。人里を避けるようなことをするならそのバックアップとなる場所くらい知っているのだろう。


スクレーンは先程の動揺の陰がなかったかのようにその問いにはさらりと即答した。


「もちろん休憩場所は知っているわ。そこはちゃんと調べてあるから」


「でも一体どこに?レル・ベルタに寄らない野宿する安全な場所なんて聞いたことがないけど……」


説き伏せられたラウネンがすぐに話題に食い付く。知らなかった情報なのか目を細めてスクレーンに詰め寄った。


「じゃあ、クラマドの巣窟って知ってる?」


スクレーンの巣窟という言葉に理性は嫌な予感が感じた。なんか危ない場所のような気がする。少なくとも、人がいるような場所ではないだろう。


ラウネンは彼女の解答に固まり、顔面が蒼白になりかけた。


「それ、冗談だよね?確かあそこには竜が棲んでいる話だ。君は何をふざけたことを考えているの!?」


竜が一番嫌いなラウネンはあり得ないと叫び、理性の予感は見事に的中した。竜が棲んでいる巣窟にわざわざ行くなんて自殺行為だ。しかも野宿するために。


スクレーンはおかしいのか。理性は本気で考えた。まぁ死神道具を使えば瞬殺で場所を確保くらいは出来るだろう。殺るのは気が進まないけど。


「確かにこの提案は普通の人ならおかしいことは認めるわ。でもここ最近、その竜が討伐されたのよ」


「なっ……嘘!?本当に!?そんな話初耳だ」


ラウネンはそのお知らせに驚愕した。竜嫌いな彼にとっては嬉しいことだと理性には分かる。ただ自分はラウェンドと一緒にいたので複雑な気持ちにもなった。


「証拠は?」


理性はその情報だけでは納得がいかず、追及した。竜がいなくなったとはいえ、また誰かが住み着いたのなら意味がないからだ。


「魔法使いが退治したっていう村からの情報と私がここ最近直接確認した、と言えばいいかしら?」


スクレーンはその豪胆さを自慢したいのか立ち止まり、振り返って両手を腰に当てて胸を張る。


「よく確認出来たわね。私なら行かないわ」


対して理性は腕組みしてその無謀な行いに称賛を送る。


「で、そこは……安全だったの?」


ラウネンは彼女の勇気よりも、その情報を再確認するように尋ねた。


「もちろんよ。今は誰もいないわ。竜なんて用心深いからすぐには新手は来ない。私が……保証する」


確信を持った答えが帰ってきて、今日の野宿場所が確定した。理性もラウネンも人里を避けるスクレーンの態度にはやや疑問を感じたが。





日が傾き、夕方になる頃に一行は例の巣窟に到着した。竜の棲んでいた洞穴であることもあってその場所は少し高い崖の上に存在していたが、人がよじ登れる道が自然に出来ていたために難なく登りきれた。


「本当に誰もいないんだな……」


ランプに火を着けて中に入って辺りを見渡したラウネンは第一声に呟いた。


「かなり中は広いわね」


竜の大きさをラウェンド基準で考えていたため、実際に目にする洞窟のスケールに理性は驚愕しながらあとに続いた。


穴は広く下に向かって窪んだ穴で奥は真っ暗で見えない。中は竜がここ最近まで棲んでいた巣窟だったのか広い天然の岩肌は削れていて所々極端に尖った箇所がある。だが外に出るための通り道は鉤爪の傷を覗けばまだ滑らかだった。天井からはポタポタと水滴が落ちてきた。


洞窟からは野性的だが、やや冷たさを連想させるピリッとした匂いがした。まるで雷が落ちた後に残る雨の匂い。これが竜の匂いだろうか?


「ねぇ……」


理性は洞窟全体を見てから提案者のスクレーンに向き直る。


「何?」


この状態でも彼女は普通に振る舞っていた。そして、何か問題でも?と言うような顔をする。


「いきなり中が崩れたりしない?」


「それはないわ。簡単に崩れる洞窟に竜が棲むと思う?」


「……」


確かに言えている。竜は賢いと言われているのが一般的だ。それにラウェンドを見れば分かる。自分と会話が成立するなら彼らも知能は人間並だろう。でも何で彼女は竜のことにやたら詳しいのだろうか?疑問が浮かぶ。


「それよりこのだだっ広い洞窟のどこに寝るの?」


そこにラウネンが介入して、細かい話はそこで終わりになった。洞窟なので声は異常に響く。ちなみに彼は二人の会話の間に先に奥に到達して、人間には広すぎる竜の寝床を歩き回っていた。竜嫌いだが、その竜がいなければただの洞窟と考えているらしく冷静だった。


「真ん中でいいんじゃない?」


二人は傾斜した岩肌を降りてラウネンに追い付くと理性はそう提案した。竜が寝ていた場所ならさぞ滑らかに岩が削れているだろう。一応行って確かめると本当にツルツルに近かった。


「寝るには十分だね。申し分ない」


ラウネンが岩の手触りを実感しながら満足そうに言った。


「じゃあ、今夜寝る場所はここで決定でいいかしら?」


「そうね」


スクレーンが全員の納得を聞いてから、バッグから就寝用らしい茶色い皮のマットを複数敷いた。流石に寝袋とか、被る布団の代替はないらしい。分かってはいたけど。


夜はやはり乾パンが主食だったが、オルフ村から回収してきた野菜を今回は追加した。ただ保存がこれ以降利かないので今回限りになるのは仕方のないことだ。どうせならバリエーションを増やそうと近くの森で動物を採って来ようかと理性は言ったが、二人に反対されて諦めた。


「第一夜は暗くて危険よ。それに今まで竜がいたから獲物は少ないと思うわ」


栄養バランスを……とか贅沢染みた言い訳を何とかこらえて理性は乾パンにかじりついた。疲労感は拭えないが、何よりも全てが徒歩であること、不便が付きまとうことに精神的なストレスが貯まった。それを一時的に癒すのがこの食事時間だった。食べている間、何か山を登る登山家の気持ちが少しだけ理解出来るような気がするのは気のせいか。


食事が終わると少しの軽い会話をしてお腹がある程度消化するまで待った。話の内容はスクレーンの住むソルケット村の伝統やそれに負けじと出てきたオルフ村での思い出話など多岐に渡った。ラウネンは村が壊滅した悲しみには触れずに明るい話題で就寝前の会話を盛り上げた。


しばらくして話の種が尽きると三人は滑らかな岩の上に敷かれた皮のマットにそれぞれ横になった。ランプの火を消してそれぞれ就寝する。時計はないので時間は知らないが大体午後9時くらいだろう。真っ先に眠りについたのはスクレーンだった。


自分にとっては早寝に属するが旅の疲れが本格的に出てきてすぐに眠りそうになった。仰向けになって目を閉じようとする。


「ねぇ、理性……」


隣からラウネンが話掛けてきた。理性が横になりながら顔を向けると彼はこちらに体をずらしていた。暗闇と月明かりで黄緑色の瞳が光って見える。


「何?ラウネン」


「旅って辛いとか思わなかった?」


彼は本当の旅を知らない理性を心配しているようだった。自分の世界のことを教えたので、便利さに浸かっていたことからの質問であった。


「確かに辛いわ。でも……」


理性は視線を洞窟の外に向ける。ここからは空だけだが、やはり空気が澄んでいるからか沢山の星がくっきりと見えた。


「仲間に会えるのなら私は辛いとは思わないわ。ここで諦めたらどこにも行けないから」


理性は強い意志を込めて言った。目的のない旅なら諦めていただろう。しかし。異世界のこの世界に飛ばされ、先が見えない状況を何とか解決したいのなら話は別。何としてでも多代崎達に会うつもりだった。


「そう……ならいいけど」


「あなただって辛くない?村を失って私と一緒で先が不鮮明な旅をして」


理性は自分を心配するラウネンに逆に聞き返した。彼の境遇は自分よりは酷いはずだ。親と故郷を目の前で破壊されたから。


「確かに辛いよ。取り柄がなくなったから。でもシャロボスに行けば僕は居場所が見つかる可能性があるって父さんは遺言で残したんでしょ?目指す場所がはっきりしてる。だけど……理性にはない」


だから心配されているのね。仲間はどこにいるのか、生きているのかさえ情報は0。全てはクロモスクでの情報収集が行き先を決めるから。あまりにも不鮮明過ぎて……。


「私は大丈夫よ。絶対に見つけるつもりだから」


もう一度言い聞かせるように理性はラウネンに言った。自分に対しても含めて。


「分かった。それを聞いて安心したよ。おやすみ、理性」


ラウネンはそう言って自分に背中を向けて眠り始めた。しばらくすると深い寝息が聴こえてきた。


「おやすみ、ラウネン」


理性も彼に一声掛けてから洞窟の天井に目を向けて目を閉じた。マットの下が岩で硬いのが気になったが疲れていたために夢の中に落ちるのは早かった。

感想、意見があれば投稿お願いします。作者からは削った方がいい箇所の指摘をCome backです。


私はMusicのFallだと定めよう。汝は?by 白庄 天海


俺はスポーツ!!by 坂追 竜治

私は読書。by 荒杉 理性

俺は……観光!!by 多代崎 翔

僕は実りの秋。by ラウネン

食欲かしら?by スクレーン

狩りの秋。by ラウェンド

さあ(作物)ひと刈り行こうぜ!!by ソルーク


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