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前科 交通事故の死神   作者: エントラル
第3章 旅路
35/54

28 振り返れば……

体調を崩していて更新が遅れましたが、再び再始動します。


天候は気まぐれ。そして……運命も気まぐれに決まる。by 荒杉 理性


余談だがこの小説もな。by 多代崎 翔

ソルケット村を後にして三人は目標の町クロモスクに向か って歩いていた。


快晴の空の下、雑木林の中は薄暗く静かで時折鳥のさえず る声が耳に入ってくる程度。道は勿論未整備の道で土を掘 り返した跡がそれを示している。また道から少しでも外れ ると雑草が生い茂る深い森だった。理性はその新鮮な景色 に心奪われる。


しかも何故か蚊のような嫌らしい虫は飛び交ってはおらず 、そこは安心するのだが……。


遠い……。理性は最初こそ新たな場所に向かうということ に強い決意で足を運んでいたが、いつになっても景色が変 わらず進んだ気持ちにはなれなかった。山道と森が延々と 続き、続き、続き……。


「ねぇ、その……クロモスクまでどれくらい歩くの?」


今は町の欠片どころか傾斜のある山を登っているので、理 性は不安になり前を確かな歩みで進むナビゲーション役の スクレーンに尋ねた。何度も言うが理性はスポーツ経験は ゼロである。故に足が熱を持っていた。


かといって無闇に死神道具には頼れない。自分が死神であることを隠す必要があるからだ。あれから彼に道具のことを尋ねられていないのは幸いだった。だが、その為にここは自分の力に頼るしかなかった。


「2日よ。途中休息は当然取るけど」


「ふっ……2日!?」


理性はスクレーンのさりげなく明かした衝撃的な事実に絶 句した。嘘でしょ?徒歩で2日ずっと歩き詰めなの……?


「2日よ。ねぇ、ラウネン?」


答え合わせのように経験者同士で会話を交わす。まるで自 分だけ知らないようで恥ずかしくなった。


「うん。まぁ妥当な時間じゃないかな」


と彼は平然とした態度で答える。


妥当って……。理性は気が遠くなりそうだった。村の惨劇 を乗り越えて意識を高めていざ外へと足を踏み出した訳だ が、自動車に鉄道、飛行機という便利にどっぷりと浸かっ た自分にはこの移動は“苦行”でしかなかった。


バスなんてない。自転車もない……。頼るのは自分の体力 のみ。


そのうち道には傾斜ができてきた。段々と苦しい試練が待 ち受け、理性は道に出来た岩の段差を跨いで登りながらた め息をついた。まるで江戸時代の東海道を歩いているよう な感じだった。かといってこれでギブアップしたらこの世 界のどこにも行くことは叶わない。


「理性、大丈夫?疲れてるみたいだけど」


自分の歩くペースが鈍っているのか立ち止まって最後尾に なってしまい、ラウネンに心配された。体力のなさと背中 に荷物を持っていること、そして……。


「大丈夫よ。たかが徹夜したくらいで……」


村の人々を弔い、荷物を回収することに一晩使い果たして しまったので自分は一睡もしていない。おかげで頭痛がす るのだ。でももう戻らないのならあれは必要なことだった と納得しているので後悔はない。


「無理はだめだよ。この道には医者とかの家はないから」


彼は先へ進もうとするスクレーンを呼び止め、理性を休め るために休憩をとろうと提案してくれた。体調が崩れれば そこで諦めないといけない。その上での判断だった。


しかしスクレーンは頷くことはなかった。その場に立ち止 まり、振り向くことなく二人に言った。


「出来ないわ。悪いけど、この山の頂上まで我慢して。休 憩ならそこで長くとるから」


「どうして……?」


納得のいかないラウネンは聞き返した。


「貴方達の気持ちはよく分かるわ。でも今遅れたらクロモ スクまでの食料が足りなくなってしまうの」


食料問題。現実は実に厳しいものだった。ソルケット村か らオルフ村にかけては完全に田舎で道中に宿屋などない。 だから食料の調達は不可能だった。しかも食料配分は一日 ごとに厳格に分けている。山の中腹で休んでしまえば残り を登り切るのに更にエネルギーが必要になり、足りなくな ってしまうのだ。


ここで楽をすると後が苦しくなる。理性にとってはどちら にしろ辛いことに変わりはなかった。


「分かったわ。頂上まで登る」


「理性、でも……」


ラウネンが心配そうに言う。しかし理性はガックリとうな だれた顔を上げて奮起させ、再び足を前に踏み出して遅れ を取らせまいとした。


「彼女に迷惑はかけられないわ」


スクレーンの言い文は正しい。情には欠けた意見だが、現 実はそうなのだ。ここは彼らのペースに自分が合わせるし かない。息切れした呼吸を無理矢理整えて前の山道を見据 える。


それを確認すると案内人である彼女は二人に背を向けて再 び歩き始めた。スクレーンには疲れというものがないのか 全く疲弊の色が見えなかった。


「さぁ、行きましょう」


それから一時間後。理性ら三人は山頂の上に何とか到着し た。(何とかは理性対象)頂上には旅人のための休憩所と して周囲の雑草を切り払って作られた空き地が存在してい た。椅子の代わりに細長く削られた石があちこちに置かれ ている。


ここ一帯は山脈でどうしても山頂を越えなければならない 。そして三人のいる山頂が最も越えやすい山だった。


「ハア……ハア……」


理性は頂上に着くなりその場の石の椅子に座り込んだ。疲 労から残る力を振り絞ってここまで登ってきたので着いた と思った瞬間に力が抜けてしまった。


「理性、お疲れ様」


ラウネンが傍に座り、自分に労いの言葉をかけてくれた。 そして休憩の際のエネルギー補給としての乾パン(注意:辞書で出てくる意味ではなく、乾燥させた固いパンの意味としてここでは使います)と水も一 緒に手渡された。彼は自分が異世界から来ていることを知 っている。だからこそ心配してくれた。


「ありがとう……」


すぐさまキャップを開けて皮袋に入っている水を口に含む と一気に失われた気力が戻ってくるような感覚が精神を満 たした。喉が潤い、身体の熱さが少しだけだが和らいだ。 やはりどこでも共通することだが、疲れたときの水は…… 美味い。


一方で……。


「山1つでそんなにバテるなんて驚きだわ……。貴方、も しかしてオルフ村から一度も出たことないの?」


向かい側の椅子に腰掛け、理性の事情を知らないスクレー ンは同じ村人とは違うことに驚き、自分の体力のなさをあ からさまに指摘してきた。彼女の顔色が全く紅潮しないこ とにこの世界の人間はみんなこんなにも強いのかと理性は 思う。


「理性のことを責めないで欲しい。彼女は村を出たのがず っと前で久々だから慣れてなかったんだよ」


ラウネンがスクレーンの疑いの眼差しから自分を守ろうと 必死に持てる知識を動員してフォローしようとしていた。 どうやら会話から察するに村から一度は出ていくことは常 識らしい。何にしろ、異世界の存在のことはあまり話さな い方が得策だ。無用の注目を集めたくない。


「要はひたすら家事の手伝いをずっとこなしてきたってこ とかぁ……。まあそれも良いとは思うけど……」


スクレーンは理性の事情をやや納得したのかそれ以上の言 及は避けて視線を頂上からの景色の方へ移した。しかし、 行く手の視界にはソルケット村同様に霧がかかっていて景 色の欠片も期待できないのだが彼女は霧の向こうを見据え ている。しかも、ここは標高が高いのか涼しささえ感じら れた。


「頂上からの景色を期待してたけどこれじゃあね……」


この状態に落胆したようにラウネンはため息をつき、口の 中に水を流し込んでスクレーンと同じように霧に覆われた 幻の景色を残念そうに見つめた。


「せめて一目でもここまでの道のりを覚えておきたかった な……」


ラウネンにはもう見ることのない風景だったので、それを 目に焼き付けることの出来ないせいで落胆は大きかった。 快晴には快晴なのだが、何故かここだけ霧が掛かっている 。何とも不幸なことだった。


「いいえ、見えるわ」


しかしスクレーンはこちらを振り向き、彼の言葉を否定す るように言った。そして二人に自分の視線の先を注視する ように右手で霧の向こうを指した。だが、理性の目でも白 い霧以外そこには見えない。


「「どこに?」」


「そのうちに霧が晴れるから目を離さないで」


二人は彼女に言われるがまま、ひたすらにその瞬間を待っ た。すると、霧が次第に薄らいでいき、本当に晴れてしま った。そしてラウネンの期待していた景色が三人の前に突 然現れた。理性はその景色に息を呑んだ。


目の前は絶景に相応しいものだった。山を一心不乱に登っ ていたためにあまり気にしていなかったが、本当に高い場 所だった。視界一面が山の斜面を含め緑の雑木林に覆われ ていて自分が歩いてきた道と森を貫く川ぐらいしか地面が ない。視界から空き地にいるという概念を捨ててしまえば 自分は空を飛んでいるような、そんな感覚に陥ってしまう 。ここは山脈で山が連なっているが山平線(地平線を山の 頂上から見立てたもの)の端が見えなかった。両隣りの山 の間には比較的急な谷で繋がり、隣の頂上までの道も険し そうだ。川からは太陽の光を反射してその光が自らの目に 飛び込んでくる。


「どう?綺麗だろう?」


ラウネンは自慢げに言いつつも感動してその景色に見入っ ていた。ちなみに彼が見ているのは理性とは逆の方向、自 分が今まで歩いてきた道の方へと向けられていた。それに 気付き自分も彼と同じものに目を向けた。眼下には蛇行し て続いている山道とその先にある朝出発したソルケット村 があった。


「私達、こんなにも歩いてきたんだ……」


理性はそう呟きつつもラウネンと一緒にソルケット村の先 、ここからだと一つ山を隔てて隠れてしまったオルフ村の ある方向を寂しく見つめた。もうあの場所には帰ることも 、見ることも出来ず記憶の中に封印されるだろう。自分に は良い意味での馴染みが薄かったが、この世界の旅を始め た場所として記憶し、決して忘れまいと心に誓った。


「ありがとう。村のみんな……。そして……さようなら、 父さん」


ラウネンにとっては無念の村との別れだった。これでもう故郷には二度と戻ることも目にすることもないかもしれない……。そう思えば彼の心は自分以上に病んでいるだろう。理性は彼の立場を想像し、その痛みに苦しみを覚えた。


もし、彼が真実を知ってしまったらどうなってしまうのか不安にもなる。自分が死神で村の惨劇を引き起こした元凶が隣にいるとしたら……。想像したくなかった。でも、自分に直接非がなくても原因の部類からは脱却出来ないだろう。彼の言葉は理性にプレッシャーを与えた。


「どうか……ご冥福を」


理性は両手を胸の前に合わせて昇天したオルフ村の人々に向けて再度弔いの言葉を述べ、目を閉じ約一分程黙祷をした。


「理性、両手を合わせて何をやっているの?」


「えっ……。貴方の村の風習じゃないの?」


「違うよ。あんなの知らない」


スクレーンとラウネンには黙祷の意味など知る由もないが構わなかった。自分が今出来るのはこれだけだから。


理性は二人の会話を無視してひたすらに自分の中に閉じ籠り、静かな自然の音のみを聴きながらその場に立った。そよ風が吹き、長く青い髪がたなびく。彼らの会話はすぐに耳に入らなくなった。


しかし、一分が過ぎようとしたところで鋭い鳴き声が黙祷の静寂を破った。鷹が鳴きそうだが、ややモスキート音が混ざったような耳鳴りを感じる変わった声。自分は自然の音に集中していたため、それははっきりと聴こえた。


「何?この変な鳴き声は……」by 理性


「この声……聴いたことがあるわ」by スクレーン


「あれだ!!僕らの真上にいる!!」


ラウネンが叫び、指差した方向を理性は眩しい太陽の光を片手で遮りながら空を見上げた。


そこには大きな鷹が一羽こちらに全長約四メートル程の影を落としながら上空を旋回していた。広げた羽根の色は灰色だが、所々に青と紫の斑点が見える。理性はあんな特徴を持った鳥を見たことがなく、思わず見とれてしまう。


「あの鳥は何?」


理性はラウネンに尋ねてみた。しかし当のラウネンは上の空。自分以上に見据えていて無視されているようだ。


「嘘でしょ……この目で見ることが出来るなんて……」


彼は信じられないような顔で突然現れた乱入者をじっと見続ける。さっきまでの暗い目付きとは正反対に瞳から輝きを放っていた。


「貴方は何も知らないの?」


スクレーンは自分が反応が薄く、また知らないことに驚き、常識を確かめるような言い方だが親切にも彼の代わりに説明をしてくれた。


「あれはセレドゥクトホークよ。千年に一度くらいしか現れない伝説の鷹。異世界を渡る鳥って言われているの。見ることが出来た人には幸運が訪れるとか。まさかこんな時に見られるなんて……」


スクレーンも説明を終えるとラウネン同様に珍しい鷹を見上げ、歓喜の声を上げてすっかり上機嫌になった。


理性もそれに習って一緒に真上の鷹を眺める。


異世界を渡る鳥……。そして幸運の象徴。日本で例えれば鳳凰などといった類なのか。異世界を渡る存在には確かに憧れを抱く。もしかしたら自分のいた世界を知っているかもしれないから。


だが……あの幸運の象徴はこの旅を祝福しているが、実際には自分が招き寄せた不幸が原因で旅立ち、ここにいる。果たしてそれは幸運と呼べるのか……?それは歪んでしまった幸運のようにも理性は見えた。

次回更新は未定です。なるべく早くを心がけます。季節の変わり目の体調管理ほど難しいものはないですね。スロー展開から脱却させようとは努力しています。


私にも……出番がそのうち来る……だろう。by 白庄 天海



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