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前科 交通事故の死神   作者: エントラル
第3章 旅路
34/54

27.5 旅立ち

Subの話はこれにて終了しました。彼らはようやく旅立ちます。


展開が鈍いのは私の気のせいでしょうか?立つ鳥跡を濁さずとよくいいますが……by 白庄 天海

「理性……!!」


ソルークは理性の元に駆け寄ってくるのが見えた。自分の両肩を両手で掴み、目を合わせる。彼は泣いていた。


「ありがとう……。これで皆救われた。君のおかげだよ」


ソルークは感謝の涙を流し、ガックリとうなだれる。感動のあまり彼の身体が震えているのが分かった。


「本当に……これで……いいんですよね?」


理性は村人の死を弔い、誰も自分を恨んでいなかった彼らの優しさに心打たれた。自分のせいではない。そう言われると何よりも嬉しかった。


「ああ。これでいいんだよ、理性」


ソルークは言い聞かせるように話した。彼もまた理性のことを許した。


だが理性はまだ本当には立ち直ることが出来なかった。自分はソルークも冥界に送らなくてはいけないからだ。


「これなら……ラウネンにも会わせてあげたかった」


涙を拭い、悔やむように言った。彼だってソルークに最後に話したいことだってあるはずだと思う。


「私も見える姿で会いたい。だが、もう時間切れだよ」


すぐに表情が暗くなった。彼も幽霊だ。だから時間がない以上、もう叶わなかった。


「何か……ラウネンに言いたいことはありますか?私が代弁して伝えますから……」


感傷に浸る時間もなく、理性は話を嫌でも急いだ。彼も救うために。


「何があっても生きてくれと伝えて欲しい。たとえ自分の居場所がなくても」


「分かりました……」


「あと、これを……」


ソルークはそう言うと片手を服のポケットに手を入れ、あるものを自分に差し出した。


差し出したのは白銀と紅蓮の二枚の大きな鳥の羽らしいものと中心に丸みのある青い宝石を糸で通した首飾りだった。


「これは……」


理性は首飾りを両手で受け取り、その装飾を覗いた。


「お守りだ。不死鳥の羽とカルグレイスの羽、フィネイアという宝石で作られている。紐は蒼炎草の蔓だ。これをラウネンに渡して欲しい」


「カルグレイス……、蒼炎草……、フィネイア?」


聞いたことのない単語に理性は頭に疑問符が浮かんだ。


「いずれ、それを見る機会があるよ。それと……」


ソルークは付け加えるように焼け落ちた家の中を指差した。家は焼け焦げて黒ずんで悲惨な状態だった。


「道具を取りに戻ってきたのなら……剣を持っていけ。もうそれぐらいしか残っていない」


つまりは地図は燃えてなくなったということを意味し、落ち込む。それに……。


「知っていたのですか?私のもう1つの目的を」


一言も道具を取りにきたということはもう一度説明するが言っていない。だから理性は怪しんで彼に尋ねた。


「知っていたさ。ロマシンクスでは心細いからね。戻ることはあるかもしれないと予想していたが、本当に戻ってくるとは思わなかったよ」


彼は静かに小さく笑った。そしてソルークは理性の肩を軽く叩き、打って変わって真剣な口調で頼んだ。


「じゃあ、もう私も行かせてくれ。魂にも限界がきている」


彼は理性から離れ、距離を置き大鎌の刃が届く場所で止まり、向かい合った。


「貴方も……消えてしまうんですよね?」


大鎌を下ろしたまま、理性はラウネンの父親と目を合わせ名残惜しそうな声で呟いた。彼の身体はゆらゆらと透明でまるで炎みたいに揺れる。


「ああ。もうこの定めからは逃れることは叶わないからね」


ソルークはそう言うと俯き、話題を変えた。間が少しだけ開いた。


「一つだけ……君に頼みがある」


最後の遺言のように彼は口を開いた。


「ラウネンを……シャロボスの魔法学院に連れて行って欲しい」


「どうして……ですか?」


理性はラウネンの将来を左右する話だと悟ると聞き漏らしのないように耳を立てた。


「あそこなら……安全だからだ。死神の脅威からも……恐らくは守れる。まだあそこなら彼の居場所があるかもしれない」


死神からの脅威。それは理性が最も恐れていることだった。このままラウネンがついて来たらまた自分の騒動に巻き込まれてしまう。だから理性は安全地帯を探していた。彼を置いて行ける場所を。


「理性、ラウネンを守るためにそこへ連れて行ってくれ。アバンドという魔法使いに事の次第を話せば何とかなるはず。これが君への最後の遺言だ」


言い終えるとソルークも村人と同じく、跪いて理性の昇天させる救いの一撃を待った。時間ギリギリまで伸ばしたのでもうやらなくてはならない。


「……分かりました。ラウネンのことは……私がちゃんと面倒を見ます」


自分は名残惜しさと寂しさを押し殺し、大鎌を構えて最後の一撃を繰り出した。大鎌はソルークの残った命の核を破壊し、冥界への道を示した。ソルークの身体が透明になり始め、本当の死を迎えようとする。


「ラウネンを頼んだ……理性」


最後にソルークはそう言い残し、身体を四散させ、白い小さな粒を残して他の村人と一緒に冥界へと旅立っていった。


理性はソルークが託した形見を握り締め、絶対にラウネンを死なせないことを胸に誓った。そしてもう彼らの二の舞にはさせないと。


いつの間にか空は既に暗さが薄らぎ、東の水平線からは朝の明るい光が出始めていた。時間切れの正体とはこのことでもあるかもしれない。


(理性……)


ラウェンドが理性の後ろから声を掛けた。理性が幽霊と会話している間は自分が邪魔なような気がしたが、かといって幽霊が怖かったので、ずっと彼は理性の後ろで固まってこの恐怖が去るまでじっと一部始終を見ていたのだ。


(彼らはもう先へ行ったわ。私達も彼らに続きましょ)


振り返らずに理性はそう言うと形見をポケットに入れて焼け落ちた家に入り、幼竜の力も借りて瓦礫の中から彼が言っていた唯一残る長剣を一振り引っ張り出す。ラウェンドは能力で自分の思いを受け取ったので、今は終始無言だった。柄に焦げた跡が残るが、まだ使えそうだ。そしてバック同様、ラウェンドの背中の上に載せる。


当然自分が元々着ていた服などない。そこは諦めるしかなかった。


理性はラウェンドの背中に乗り込み、今回の収穫物を確認する。


収穫は物理的には長剣、バックと少ない結果だったが、ソルークに会えただけでも大きなもの。不安に陥る自分を励ましてくれ、何か目標が見つかるのは何より安心できた。


(もう大丈夫?)


ラウェンドは今の時間に不安を感じながら、確かめるように尋ねてきた。確かソルケット村を発つのは早朝。急がないと不味い状況だった。


(大丈夫よ。さぁ行って。もうここには何も心残りはないから)


刻印に大鎌を戻し、理性はラウェンドの背中の棘に皮を被せ、落ちないように掴まって衝撃に備えた。


(じゃあ行くよ)


ラウェンドは静かに走り始め、ソルークの家の門から外へ出た。魂の弔いが終わったせいか、何故か帰り道に無惨な遺体を見かけることはなかった。もちろん家にいたソルークのものも。まるでなかったかのように消えている。つまり、この村に残るのは焼け落ちた廃墟だけとなった。




元来た道を辿り、ソルケット村の入口まで帰ってきた時にはもう太陽がほとんど水平線から上り、朝の日差しが大地を照らしていた。


(理性……あれだけの幽霊に囲まれて……本当に大丈夫だったの?)


ラウェンドは背中から降りようとする理性を見守りながら心配した。彼女がオカルトには弱いと話していたから余計にそうなる。


(大丈夫よ。元々私は幽霊だったから)


ラウェンドは目を細め、絞り出すような声が出てきた。


(僕……何も出来なかった。怖くて固まっちゃって……)


頭がうなだれ、自分を責めるように彼は呟いた。たぶん、何かの力になりたかったのだろう。


(貴方はあそこまで私を連れて行ってくれた。それだけでも十分力になっているわ)


ラウェンドの鼻面に顔を押し付けてながら言い、その後背中から慎重に回収した荷物を下ろした。そしてそれを肩に背負い村の中に入りかけたが、こちらを見つめる彼を今一度振り返る。


(ありがとう、ラウェンド。また貴方に助けられたわ)


(そんな……。僕はただ……君を運んだだけだよ)


照れているのか彼は自分から目をそらしてしまった。竜の振る舞いには理性は興味があるが、今はそんな暇はない。


(貴方とは……また会えるかな?)


今回からは土地を移動し続ける旅だ。だからもうラウェンドとは会えない可能性が十分にあった。一緒に連れて行きたいが竜を憎むラウネンがいる。そして彼にも親がいるはずだ。


(会えるよ。また……その時は君を助けるから)


ラウェンドは寂しそうに低い声で鳴くと理性に背中を向け、身体を森の中に方向転換した。


(貴方とは今度は普通に一緒にいたいわ。何か目的もなく……何気なく会話して……)


白竜はその言葉にピクッと反応を見せた。


(出来ることなら僕だって……それを望みたいよ)


お互いに躊躇いのある間が開いた。離れ難い思いが両者の心にあった。


(さよなら……)


そうして別れを言って先に行動したのはラウェンドの方だった。彼は理性に踵を返して一匹、森の中へと姿を消して行った。最後まで別れを躊躇ったのは理性だった。


(さよなら……ラウェンド)


理性は幼い白竜の姿が見えなくなるまで見送ってから、ラウネンとスクレーンに合流するために帰路を急いだ。


そうしてスクレーンの家にたどり着いたときにはラウネンとスクレーンは荷物をまとめ、外で自分のことを今か今かと待っていた。


二人は一人で使う家の中から出てくるとてっきり思っていたので外から帰ってきたことに面食らった。


「はっ……?りっ……理性、どうしてそこから出てきたの?」by ラウネン


「どおりで遅いなと怪しんでたけど、まさか家から外に出ていたなんて……」by スクレーン


「ごめんなさい……待った?」


理性は家の敷地に入り、二人の前に来ると背中に背負っていた巨大なバックを下ろした。そして腰に携帯していた長剣を外して地面に置いた。ラウネンはその荷物を目にして態度をガラリと変えた。


「理性……これってまさか……」


ラウネンは疲労でその場に膝をついて座り込む理性に詰めよった。


「オルフ村に戻って使える荷物を回収してきたの……」


息切れした声で答える。


「どうして……そんな危険なことを……」


ラウネンはしゃがんで理性と同じ視線に合わせた。明らかに心配したという感情が表に出ている。


「個人的な理由よ。心配しないで」


「心配するよ!!大丈夫なの?怪我は?」


彼が理性の身体に怪我した箇所がないか慌てて探すが、ないことを知ると安堵の息を漏らした。


「無理をしないで欲しい……。行くっていうなら僕だってついて行くのに」


「私一人で十分だったわ。あと……」


理性はポケットを探り、ソルークから託されたお守りを彼に差し出した。父親の大事にしていた物を目にしてラウネンの表情が強張った。


「これ……どうして君が……」


「お父さんから……貴方に渡して欲しいって頼まれたの」


理性がラウネンにお守りを渡したとしてもやはり納得がいかないらしかった。


「頼まれたって……どういうこと……?だって父さんは……」


お守りを大事に両手で包み込みながら顔を上げて質問してきた。


理性は彼を納得させるために村で何があったのか説明した。村人全員が幽霊となって現れたこと、ソルークからのラウネンへの遺言など詳しく話した。ラウェンドの存在と死神道具のことはやはり秘密にして。


「そう……なんだ……」


ラウネンは当然自分の体験したあり得ないことに対して納得がいかなかった。しかし、お守りが理性の手の中にあること、またお守りが何で出来ているかを教えられ、知っているという証拠から彼は信じてくれた。


「じゃあ、みんな……弔ってくれたんだね?」


「ええ」


理性は頷いた。


「ありがとう……」


少年は頭を下げて、自分に感謝してお守りを胸に押し当てた。一度は折り合いをつけたとしても親と最後の遺言ぐらいは聞きたかったはずだった。だから彼はそれを知ることが出来てとても嬉しそうに見えた。


「貴方はシャロボスを目指して欲しいってお父さんは話してくれたけど、知ってる?」


ラウネンが落ち着くまで待ってから理性は話題を変えて彼に率直に尋ねた。


「いや、知らないよ。そんな話一度もしてくれなかった」


「偶然ね。私の行く場所と被ってるわ」


スクレーンが驚いたように言う。


「でも私だって初めて行くからシャロボスなんてどんな所か想像もつかないわ」


その言葉で三人のテンションが下がった。つまりは実際に行かないと何も分からないということだ。


「その……アバンドっていう魔法使いに会えば何とかなる……のか……」


ラウネンは教えた自分の言葉を噛み砕きながら頭の中に記憶する。父親が遺した遺言だからこそ、彼は真剣になった。


「確かめるしかないわね。そこへ行って」


理性は回収したバッグからお金の入った皮袋と腐らずに残っていた乾パン、応急道具を取り出し、自分の小さな茶色いバッグの中に放り込んだ。バッグの中にある残りの水筒とサバイバルナイフはラウネンのバッグに容赦なく入れた。流石にこんなデカイバッグを一人では運べない。だから分担にした。


「ほら。これを持って。ラウネン」


そう言って長剣をラウネンに差し出した。


「父さんはもう死んでしまった……。なら僕は……父さんの遺言を果たさないといけないね……」


彼は長剣を腰に差してお守りを首に掛けるとバッグを肩に背負った。スクレーンも自分の荷物をまとめて背中に背負う。


理性はソルケット村のもう1つの入口から伸びる未知の世界へ続く道を見据えた。そして刻印に手を添え、この先仲間に会えるのか、何が自分を待ち受けているのかを考えた。


死神は自分の他にもいる。彼らに会わないと何も知ることが出来ない。


「さあ、行きましょう」


スクレーンが二人に呼び掛けた。ここからは彼女の先導で道を進む。ラウネンと理性には分からない道だからだ。


「ええ」by 荒杉 理性


「新しい旅へ!!」by ラウネン


理性はラウネンを助け仲間を探すため、ラウネン自身は父親の遺言に従うために新たなる場所へ向かう旅立ちの一歩を今踏み出した。


同時に朝日が昇り、始まりの朝を迎えた。

ああ……ようやく私も旅に出られる。(バタッ)by 荒杉 理性


おい、しっかりしろ!!旅までの話が長かったからって倒れるな!!理性!!物語はこれからだろうが――――!!by 多代崎 翔


とりあえず……感想、意見がありましたら投稿お願いします。次回更新予定は次の土日ですby 坂追 竜治

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