1-3 雨風、のち警報やむ
葛桐高校で侵入者警報が鳴ったほぼ同時刻、そこから遠く離れた繁華街のとある飲食店。
金髪ホウキ頭に丸いサングラス、黒いコートの男がビール片手にピザを食べていた。
「くっは~!やっぱ、ピザをつまみにかっくらうビールサイコー!!」
飲食店は他にもお客がいるのに、ホウキ頭はそれに関係なく一人で騒いでいる。酒癖が悪いのだろうか。
そこにコートのポケットの中のケータイが鳴った。
「もしも~っし?ああ、所長さんどもっす~。アッシがムショから出るのにいろいろと便宜を図ってくれたみたいで」
「今、どこにいる!」
「所長」はホウキ頭の感謝の言葉に返事をせず、一方的に話を進めようとする。
「街でピザパーティーっすよ。セルフ出所祝いってや~つ~?」
「『先遣隊』はすでに目的地に到着しているのに、貴様はまだ遠いところにいるではないか!なぜ合流しない!!」
「急かさないでくださいよ、腹が減っては戦はできぬって言うでしょ。こちとら殺人と器物損壊の判決うけて20年近く臭いランチに鉄格子付きのスイートルームに泊まらされて体中痛てぇんスよ。せめて外の空気ぐらい吸わせてくれたってバチは当たらないと思いますがね」
「ココは保育園ではない!任務以外の外出は認めておらんぞ!」
「任務と言ってもねぇ、所長サン…その先遣隊とやらにも、アッシにも同じ指令を出したみたいっスけどね、あの子たちはヘリで送ってもらってるのに、こっちは徒歩っすよ。いくらサプライズのつもりでも扱いが違いすぎやしませんかね」
「口を動かしてるヒマがあるなら手足を動かせ!いいか、お前の任務はVβの捕獲と先遣隊の回収だ。先遣隊は構わんが、Vβだけは生け捕りにするんだ!死体で連れて帰ったらまた鉄格子付きの何とやらに送り返してやるからな!!報酬もやらん!いいな!!」
「所長」はそれだけまくしたてると一方的に電話を切った。
ホウキ頭も電話を切る。そしてあたりを見回す。周りの客がホウキ頭を注目している。かなり大きな声で話していたらしい。だがホウキ頭は表情を変えずに…
「今の話聞いてた奴…」
そして右手から刃物を出し…いや、右手を刃物のような形状に変えて…
「ぶっ殺す!!」
ホウキ頭は悪魔のような満面の笑みを浮かべた。
たちどころに店内に阿鼻叫喚が響き渡り、客たちは蜘蛛の子を散らすように店から出払ってしまった。
あとに残されたホウキ頭は刃物に変形したままの右手でピザをぶっ刺してそのまま口の中に放り込んだ。ピザは冷え切ってしまっていた。
そして飲食店のドアを蹴破るように足で開けて出て行った。
「ちっ…「俺にまで」GPSを仕込んでんのかよ!」
―― 葛桐高校_PM 6:30
「GPSだあ?」
「そう、GPSの反応をヘリで追ってこの学校に来たの」
「で、屋上からこの2階まで探して回っていたと…」
「残るは1階…Vβはきっとそこにいるわ」
「だったら勝手に探しに行きゃいいだろ!」
「でもアナタに姿を見られた…」
「だから殺すのか」
「そうね…「処分」するわ!」
「「掃除」の次は「処分」かよ、さっきの奴と言い、てめえも人をゴミ扱いすんのかよ」
「能力を使えない「芸無し人間」は総じてゴミよ」
その言葉を聞いた紫苑の眉がわずかに吊り上がった。
「てめえ…」
そして両の拳に力をこめる。たちどころに紫苑の周りに稲妻が走る。
「性根を叩きなおしてやんよ!!」
しかし、ヘレンは表情一つ変えず、
「吹き飛びなさい!」
ひゅっと右腕を振り上げる。その圧力だろうか、「風圧」が紫苑の頬をかすめる。直後、紫苑の頬に刃物で切られたような傷がついた。後ろの壁には鋭利な刃物で切られたような大きな傷跡がついた。かまいたちだ。
「吹っ飛ばすだあ?真っ二つにするの間違いだろ!」
「そうとも言うわね」
風使いが袈裟斬りのように腕を振り下ろした。
「Vγ、左へよけて!」
声に従い、紫苑が左に飛ぶ。右腕に風圧を感じたが、どこも切られておらず、かわりに後ろの壁にさらに大きな切り傷ができた。
「あっぶねえ…まともに食らってたら片腕がなくなってたぜ」
そして、体勢を立て直して風使いのもとに向かって行く。
「間合いになんか入れないわ」
風使いは紫苑を指さした。指先に空気を凝固させ、突風を起こす。
「吹き飛びなさい!」
ものすごい風が廊下中に巻き起こる。紫苑は思わず防御態勢を取ったが、風が頬をなでるだけで何も起こらなかった。
「おかしいわね、何で吹き飛ばないのよ!」
風使いは両腕を振り回していくつものかまいたちを飛ばす。しかし、どの攻撃も紫苑の身体をかすめるだけ。
校内では相変わらず警報が鳴り響いてる。この警報で空気が震えて狙いがそれるのだ。
そのうち、風使いは冷静さを保てなくなる。
「うるさい…うるさいうるさいうるさいうるさい!!!さっきから何なのこの音は!!私はうるさいのが大っ嫌いなのよ!!この音のせいで空気が震えてぜんっぜん攻撃が当たらないじゃない!!」
「へえ…お前の攻撃、音で乱れるのかい」
「オマエもうるっさい!!」
そう言って、再び袈裟斬りのように腕を振り下ろす。
風圧が顔に当たりそうになったタイミングで紫苑が指を鳴らす。指を鳴らした先に稲光が落ち、ものすごい音が鳴る。それと同時に風刃の軌道が大きくそれ、後方の柱に大きな亀裂を作った。稲妻の音でかまいたちが弾かれたのだ。
「やっぱりな」
紫苑がにやけ顔になるが、頭の中の声は言う。
「今の、賭けにでたでしょ…」
「まあな、ものすごい音を出せば攻撃を弾くことだってできると思ってな。攻撃は見えねえけど、当たらないようにすればこっちのもんよ」
風使いに焦りの色が見える。
「あああもう!イラつく…イラつくイラつくイラつく!!!」
そして逆上したように両腕をあげると…
「はやく…死んでよ!!」
両腕を振り下ろすと同時に紫苑が空気の塊に押しつぶされた。
「ぐあっ!?…何が起こった?」
「ダウンバースト…空気の重石よ」
頭の声が紫苑の問いかけに答えた。
「うっそだろ?アレは積乱雲がねえとできないんじゃねえのかい」
「あの子は空気の流れを操って攻撃してる。このダウンバーストは空気を固めて作った物。とにかく今はここから脱出することだけを考えて」
「どうやって出るんだよあたしはそんなに腕力ねえし、風の塊におさえられて身動きもとれねえんだぞ!」
「あなたはさっきヒントを得た。警報はまだ鳴り響いてる、あきらめないで」
頭の中の声が言うように、警報が鳴っている間、押さえる力が弱くなっているように感じた。空気が震えて威力が弱まっている。警報が鳴っている間だけ、紫苑は体を動かすことができた。
そして、「ダウンバースト」から抜け出すと、一気に風使いとの間合いを詰めた。そして風使いの両腕をつかむと、
「しばらく眠っとけ」
つかんだ手から電流を流し、風使いを気絶させた。
「Vγ、今のは?」
「手から電気が出せるんなら、スタンガンの真似事もできるんじゃないかと思ってね」
だが、頭の中の声はさらに問う。
「とどめは刺さないの?」
「なんで?こいつら、根っからの悪人には見えないし」
そういうと、再び階段に向かった。
警報はいまだに鳴り響いたまま。
到着した階段はシャッターに塞がれていなかったので、1階につくことができた。降りた先には下駄箱と、その先には校門が見える。
やっと出られると思った矢先にまたスマホが鳴った。
「やれやれ、また能力者かよ…」
とりあえずVアプリを開くことにした。そして、どんな能力者か確認したら逃げて学校から脱出するつもりだった。
しかし、画面を見た紫苑は顔をこわばらせた。画面にはこう出ていたのである。
Code name:サラマンダー
Real name :穂村 舞
V-code :Vβ
ability :炎
ability type:災厄[Calamity]
「Vβ…!」
「気を付けて、Vγ…ここで起動したということは付近にいるわ」
「らしいな…さて、どうするかね。おとなしくさせてあいつらに引き渡すか、それとも…」
そういって紫苑があたりを見回すと、階段の裏にそいつはいた。ガタガタ震えて縮こまってる。何かにおびえてるようだ。
「おい、なにしてんだ?そんなところで…」
紫苑が近づこうとすると…少女は顔をあげて紫苑に問う。
「も…もうカミナリ落ちない…?」
「は…?」
紫苑はぽかんとした。その少女…穂村 舞は訓練施設から脱走してこの学校に行き着いたのだが、関係者ではないのに校門から学校に入って警報を鳴らしたのだ。そして、隠れるところはないかと1階を歩いているところに、真上で稲妻の音がしたので驚いて階段の陰に逃げ込んだのだ。
「カミナリ…あなたが起こしたアレね…」
「アレか…」
紫苑には心当たりがあった。風使いと戦ってる最中、大型のかまいたちを弾くのに大きく空気を震わせるために稲妻を起こしていたのだ。その音に舞は驚いたのかもしれない。
しかし、舞は立ち上がると紫苑に駆け寄って紫苑にすがりついてきた。
「おねがい、かくまって!私、アークから逃げてきたの!」
「アーク?」
紫苑は一瞬あっけにとられたが、舞のほうに向きなおった。
「なあ、アークってのはいったい何なんだ?なんでそこから逃げてきたんだ?」
「アークは…」
舞は消え入りそうな声でアークのことを話そうとするが、その声のほとんどは警報でかき消されてしまう。
「アンタがここにいるからこの警報は消えないんだ。いったん外に出よう」
紫苑が舞を連れて立ち上がろうとしたその時、何かが壊れる音と同時に警報がやんだ。
校門のほうを見ると黒いコートにホウキ頭の男が校門に左手に持った刃物…いや、金属の刃物に変形した左手を突き立てていた。
「さあ、出ておいでトカゲちゃ~ん?オジサンと帰ろうか~…」
紫苑たちは階段の陰に隠れていてホウキ頭には見つかっていない。陰からわずかに顔を出した紫苑はホウキ頭を見た。
「なんだ、アイツ?見るからにヤバそうなやつだなあ、おい…」
つぶやくと同時に紫苑は肩を落とした。校門はあそこ一か所しかない、しかし今はそこに「刃物を持った」危険人物がいる…つまり、学校から出られなくなったのである。
二人は息を殺してホウキ頭の様子をうかがった。学校を出るにはこのホウキ頭が校門から離れるのを待つしかない。
ところがなんと、最悪のタイミングでまたスマホが鳴った。ホウキ頭が能力者だったためにVアプリが起動してしまったのである。
画面にはこう表示された。
Code name:ブラックスミス
Real name :unknown
Job :囚人
ability :液体金属
ability type:神託[Gifted]
「Vコードがない…」
紫苑は驚くが、頭の中の声は言う
「組織に所属する能力者は女性に限定されてるわ。こいつは野良能力者よ」
「そんな奴いるのか…」
紫苑が頭の中の声と話しているそばで、舞はまたちぢこまって震えだした。
「アイツ…私を捕まえに来たんだわ…」
当然、Vアプリの起動音はホウキ頭にも聞こえていた。
「おやぁ?そこに誰かいるのかぁい?」
ホウキ頭が学校に入ってくる、紫苑は立ち上がった。
「しゃあねえ、首をくくるか…」
「それを言うなら「腹をくくる」…首をくくったら死んじゃうよ…」
紫苑の一念発起に頭の中の声がツッコんだ。




