1-4 約束が違う!
それは、舞が脱走する前の日のことだった。
訓練施設の宿舎の一室には、穂村舞、此秦瑞希、ヘレン・ヴィドミナの3人が相部屋で暮らしていた。
窓の外を見た舞がつぶやく。
「今日もきれいなお星さまが輝いてるね」
その様子を見た瑞希が笑う。
「お星さまって、アンタいくつよ。私たちと同い年じゃない」
そこにヘレンが言う。
「でも、こういう山の中だからきれいな星が見れるのよ。街だとネオンの光に邪魔されて、ほとんど見れないらしいわ」
「ふうん…」
そして、しばらく窓の外を眺めてた舞が言う。
「私…街の中のネオン、見てみたいな」
それを聞いたヘレンが、
「私は海を見たい。波の音を聞きながら砂浜を駆け回るの。うち、海岸沿いだったから毎日海を見ることができたの」
二人の話を聞いた瑞希は、
「私は…外に出られたらクレープ食べたい。食べたことないんだ」
それを聞いた舞は
「いいねえ、クレープ。私も食べたことない。みんなで食べよう」
笑顔でそうは言ってたが、舞の目は笑っていなかった。連日の訓練で舞のストレスは限界に近づいていた。
その翌日の夕方、宿舎から舞の姿が消えた…
そして現在、葛桐高校では舞と紫苑は危機にさらされていた。スマホの音でホウキ頭に居場所がばれ、学校に入ってこようとしているのだ。
紫苑は提案する。
「奴に見つからないように校舎を出よう。とにかくあたしについてきて」
それだけ言うと、学校に入ってくるホウキ頭に気づかれないように、下駄箱の陰に隠れてやりすごした。舞もそのあとについてくる。
隣の列から金属がすれるような音が聞こえてくる。ホウキ頭の靴音だ。
「トカゲちゃん、ど~こかな~…」
時折聞こえてくるホウキ頭の声に寒気を覚えながらも、物音を立てないようにゆっくり出入り口に近づく。
そしてついに学校の外に出ることができた。
「よし、あとは学校の外に出れば…」
紫苑がそう言いかけた時、頭の中の声が叫ぶ。
「Vγ、身を屈めて!!」
いわれたとおり身を屈めると、紫苑の頭上を何かがかすめた。校門のほうを見るとニードルのようなものが突き刺さっている。
後ろを振り返ると、ホウキ頭が右手を前に出した状態で悠然と校舎から出てきたのである。どうやら気づかれたらしい。
「一般生徒ちゃぁ~ん?その子をどこに連れて行くつもりかなぁ~?」
「そんな…どうして…」
「なんでだとおもう~?」
舞は紫苑の後ろに隠れていう。ホウキ頭は笑いながら自分のサングラスを指さす。よくみると、左側のサングラスの表面に小さな赤い点が映ってる。 レーダーになっていたのだ!
「ちい、ハナッからあたしらの場所がバレバレだったってのかよ!」
「へへへ、逃がさねえよ。トカゲちゃんも、そっちの子もなあ」
そこに、紫苑の後ろにいた舞が勇気を振り絞って前に出た。
「来ないでえ!!」
舞は両手を突き出して、そこから直径がほぼ両手ほどの大きさの火の玉を出した。威力はありそうだが、いかんせん弾速が遅い。
ホウキ頭は鼻で笑いながら右手を出すと、5本の指先からやや大きめの液体金属の雫を飛ばして、火の玉を消してしまった。
「コレが…これが所長さんが血眼になって探してるVβだあ?こんなボヤ程度の炎しか撃てねえおこちゃまのどこにご執心なのかねえ。ああ、わかった。所長はロリコンジジイなんだ…うひゃひゃひゃひゃひゃ!!!連日カワイイお子ちゃまのオンナノコでハーレム作らないと気がすみませんってか、おじいさ~ん、年は考えましょうね~え?」
ホウキ頭は笑い転げたが、すぐに立ち上がった。
「でもね、そっちの一般生徒ちゃんには死んでもらうぜえ…中にいた子たちにも言われたと思うが、姿を見たやつは生かして帰すなと所長さんに言われてるんでね」
それを聞いた紫苑の眉が再びぴくっと吊り上がった。
「所長だあ?そいつがこの子を探してるのか。何者なんだそいつは?この子をどうするつもりなんだ」
「おぉっと、口が滑っちまった。ところで、俺がここにつく前に二人のオンナノコが来ていたと思うが、見なかったかぁい?」
ホウキ頭は紫苑の問いかけに答えず一方的に話を進める。
「校内にいた違う制服の二人のことか?今は校舎の中でノビてるぜ」
「そうかい。じゃあまずは一般生徒ちゃんの口封じだな。二人を回収するのは…そのあとでも、遅くねえわ…な!!」
そういって、信じられないスピードで紫苑に近づき、刃物に変形したままの左手を振り下ろしてきた。紫苑は舞を抱えて横に飛び、地面に転がって着地した。空を切った刃はそのまま地面に突き刺さる。
地面に突き刺さった刃は抜けないが、ホウキ頭はそのままの姿勢でにやけ顔になって口を開いた。
「あっぶねえ…Vβちゃんを斬っちまったら報酬がパーになるところだったぜ」
突き刺さった刃の根元は元の手首の形に戻り、刃の先は銀色の水たまりとなって地面に残った。そして立ち上がった紫苑たちのほうを向いてなおも話を続ける。
「俺の報酬は金だけどな、あの「先遣隊」たちの報酬は何だと思う?」
「あ?」
紫苑は目を細めた。ホウキ頭は上を向いてそのままゆっくりと左に歩いてなおも話を続ける。
「あいつらはVβを連れてくれば組織から解放してやると言われたんだぜえ!よっぽど外に出たかったんだろうなあ~」
「な…っ!」
「外に…出たい…?」
舞はおどおどしながらホウキ頭を見る。
「だがよ…」
そして悪魔のような満面の笑みを見せて舞のほうを向く。
「そんなのうっそんプゥのプップクプ~なんだよなあ!!」
「そんな…っ」
舞の顔に絶望の色が見える。ホウキ頭はなおも話を続ける。
「だってそうだろぉ?どこの会社にも企業秘密があるように、組織にだって秘密があるのさあ。その秘密に足つっこんどいて今さら五体満足で出られると思ってんのぉ?成功しても用済みでポイ、失敗したら役立たずとして処分される…かええそうになぁ~どっち転んでもアイツらに明るい未来なんてないのさぁ~」
「てんめえ!!」
紫苑の怒りは頂点に達し、ホウキ頭に突っ込んでいった。そこにまた頭の中の声が止める。
「Vγ、挑発に乗っちゃダメ!!」
向かってくる紫苑に対して、ホウキ頭は待ってましたと言わんばかりに銀色の水たまりに向かってばっと右手を出す。
「おおっと、トラップ発動!」
とたんに銀色の水たまりがトラバサミに変化してガシン!と口を閉じた。すんでのところで紫苑が足を止めたため、罠にはかからなかった。そう、ホウキ頭は紫苑と自分との間に銀色の水たまりが来るように移動していたのだ。
「なんて計算高い…」
「ほほう?罠にはかからなかったか…えら~いねぇ~♪」
ホウキ頭が手を叩くのに対し、紫苑はぎりりと歯を食いしばる。
「つくづくむかつく野郎だぜ!」
それでもホウキ頭は余裕な態度を崩さない。
「人の話は最後まで聞くもんだぜ、一般生徒ちゃあん?」
それを聞いた紫苑はホウキ頭の目前まで来てガンを飛ばす。
「あたしは一般生徒なんて名前じゃねえ、紫苑ひかるって名前があるんだ!もっとも、テメエになんか覚えてもらいたかねえけどなあ!」
「へえぇ、ひかるちゃんねえ…」
ホウキ頭は顎に手を当てて感心したそぶりを見せる。だがホウキ頭に下の名前で呼ばれて逆上した紫苑は黒いコートの胸ぐらをつかむ。
「…つぎ、その名前で呼んだらマジぶっ殺すかんな!」
「おお、怖え怖え」
そう言ってホウキ頭は紫苑の手を払いのけた。
「さて、紫苑ちゃん。ここへ来る途中、あの「先遣隊」とあったのにどうして無事に出てこれたんですか~?」
「返り討ちにしたからに決まってんだろ、ナメてんのか!」
「へえ、ふたりとも脳ミソいじって「パワーアップ」してもらってたのにソイツらに素手で勝ったんだ。キミ、もしかしてケンカがモノすごぉ~く強い不良少女ちゃん?」
「いや、一人目とのケンカの最中に「うっかり」能力に目覚めちまってな…」
紫苑は手から電気火花を散らして見せた。それを見たホウキ頭が冷や汗を流す。
「電気、能力…だと?」
「ああ、コレがあたしの能力だ。それに対しててめえはナニ?金属に液体?ハァ?どっちも電気を通すダブルパンチじゃん、バカなの?死ぬの?」
「てめえ…」
今度は紫苑がホウキ頭を挑発する。今にも一触即発の雰囲気だ。だが、そんな二人を舞が止める。
「ねえ!」
ホウキ頭と紫苑が舞のほうを向く。
「さっきっから先遣隊…とか、外に…でたい…とか、学校でのびてる…とか、脳ミソいじって…とか、言ってるけど、先遣隊って…誰…なの?」
舞がどもりながら紫苑とホウキ頭に問う。ホウキ頭はまたにやけ顔になって答える。
「此秦瑞希ちゃんにヘレン・ヴィドミナちゃん。たしか、そんな名前だったなあ…もしかしてトカゲちゃんの知り合い?」
「私のお友達…なの!あの子たちにひどいことしないで!」
舞の必死の訴えに紫苑は頭をかくが、ホウキ頭はにやけ顔のまま言う。
「やったのは俺じゃねえ、所長さんだぜえ?だってそうだろ?そのまま出したら、仮に見つけても極めて十中八九、お情けで逃がしちゃうかもしんないしぃ?それに…」
そしてホウキ頭は舞のほうを向き…
「「洗脳」すれば死ぬのも怖くなくなるしなあ…」
「………!!」
舞がその場にへたり込む。それを見下ろすホウキ頭の口角がさらに上がる、だが…
「おい!」
紫苑が声をかけるとホウキ頭の笑みが消えた。
「オマエに聞いても無駄だと思うがあえて聞くぜ。その所長とやらは友達を洗脳してまでこの子を捕まえて何がしてえんだ?」
それに対してホウキ頭はまたにやけ顔になって答える。
「兵器に利用してえんじゃねえのぉ?炎ってのは敵や施設を燃やしたりと、「兵器」としては役に立つからなあ。それに引き換え、水と風は兵器として何の役に立つ?立たねえよなあ!」
「いいや、役に立つぜ。潔癖女の鋭いムチとペットボトル爆弾は結構な威力でまともに食らったら危なかったし、パツキンのかまいたちは攻撃が見えなかったしダウンバーストもヘタしたら骨砕かれて死んでたぜ」
紫苑が意見するも、ホウキ頭は顔を近づけてにやけ顔になる。
「役に立たねえんだよ!言ったろ?あいつらは脳ミソこねこねされてパワーアップしたと。素のアイツらは虫一匹も殺せねえ甘ちゃんなんだよぉ」
そこに舞が紫苑の前に立って叫ぶ。
「やめて!瑞希ちゃんとヘレンちゃんをバカにしないで!ふたりとも私と一緒にすっごく…すっっっごくがんばってるんだよ!」
「でも役に立ったためしがねえんだろ?お友達はどんなに努力しても実を結ばない落ちこぼれで、てめえは背の高いおこちゃ…まげぶしゅ!?」
ホウキ頭の減らず口を紫苑が拳で塞いだ。
「てめえはいい加減黙れ!おしゃべりタイムは終了だ、ケンカしようぜオッサン。ボッコボコにされるか、ビリビリしびれるかどっちがいい?」
―― 同時刻 校舎2階
「ヘレ~ン、生きてる?」
自分を呼ぶ者の声で目を覚ますヘレン。起き上がるとそこに瑞希がいた。
「ミズキ…I'm fine.あなたも何事もなくてよかった」
「ま~ね~。頭の中のモヤモヤがとれたカンジ?ほら、立てる?」
「Thanks」
ヘレンを引っ張り起こした瑞希がふと、窓を見る。
「ねえ、あれって…」
「Blacksmith…!」
「舞もいるよ。ほら、あそこ」
「「髪留め」がない…」
「逃げる途中で外れたんだ…「くすぶりモード」じゃん、ヤバくない?」
「合流しましょう、Let's hurry!」
二人は学校の外を目指していった。




