6 大人の事情と急展開
「驚かせてすいません。この男は私の友人で、皆さんを帰す方法を探すためによびました。無害なのでご安心ください」
ブルーはちょっと困った様子でフォローした。
「無害とはなんだ、俺は虫かなにかか?」
と言って笑い飛ばす様子に、変わらず目を丸くしているリュウセイとユウ。ここはおれが大人として動かなくては……。
「はじめまして。おれの名前は知ってるみたいだけど、改めまして、草野青葉です。よろしく」
高い位置にある顔を見上げながら挨拶をする。
く、首が痛い……。男はおれの目をじっとのぞき込んで笑った。
「よろしくたのむ!」
「こっちの子たちはハヤシリュウセイとハヤシユウ。2人は兄弟なんだ。今は……ちょっと緊張してるみたいだから、挨拶はあとでいいかな」
2人はいつの間にか俺のそばにやってきていて、後ろに隠れてしまった。
「ふむ」
タングステンはしゃがみ込むと俺を挟んで、後ろに隠れた兄弟に言った。
「君たち、甘いものとしょっぱいもの、どちらが好きだ?」
急な問いかけにちびっこたちの驚く気配。
「……おれ、甘いの」
リュウセイがぽそりと言った。続いて慌てたようにタケルも口を開く。
「しょっぱいの」
「ほお!」
タングステンはいつの間にか包みをひとつ持っていて、俺たちに見せつけてニヤッと笑った。
「実はな、土産の菓子を持ってきたのだが……」
「これは甘いのとしょっぱいの、どちらの味だかわかるか?」
「甘いやつかな?」とリュウセイ。
「しょっぱいのーいい!」と、ユウが続けた。
緊張していた2人だが、いつの間にかタングステンににじり寄っている。男は「実はな……」と呟き、何故か得意げな顔で勢いよく立ち上がった。
「甘いのとしょっぱいの、どっちもあるぞ!」
いつの間にか包みはふたつになっていた。
リュウセイとユウは目を輝かせてジャンプした。
「「やったー」」
ちょっとした緊張感は消え去り、楽しげな笑い声が響いた。
夕食後のデザートとして、タングステンが持ってきたお菓子。甘いものはカラフルな色をしたグミのようなもの。しょっぱいのは細長いポテトチップスみたいなものだった。なんでも町で流行りのお菓子らしい。どちらも美味しくて、リュウセイとユウは嬉しそうに食べている。
ブルーとタングステンの前には紫色の飲み物が出されている。なんだろう、ワインみたいなものかな?
「ねー、たえたらかくれんぼしたい」
ユウがお菓子を口いっぱいに放り込みながらタングステンに話しかけた。
まゆ毛を下げてタングステンは「悪いのだが」と前置きをして口を開いた。
「ちょっと忙しくてな」
そして、ブルーを顎で指した。
「この男と話をせねばならんし、おれは今夜には帰る。残念だが、君たちと遊ぶのは今度にしてもいいかな」
白い歯を見せてニカッと笑う。ユウは「えー」とほっぺを膨らませ、リュウセイも残念そうにしている。
改めて、タングステンはブルーに向き合い話し始めた。
「で、だ。神殿は表向きは何ごともないようにしているが、内部は嵐だ。神子候補も落胆している」
「君のところの子は?」
「怒り心頭だな。俺は放っておいている」
「はは……。先生は? ……怒ってたかい?」
「トゥビット先生は多分な。なんせ谷の花が一気に枯れた」
ブルーは青ざめた。
「ああ、どうしよう……!」
「すぐに報告をしていないだろう? そのせいだ」
「だってさ…。わからないことだらけで……」
いや、分からないことだらけなのは俺の方だ。さっきから初めて聞く単語だらけでなにがなにやらわからない。
「ところでだ。カマード博士が神殿に現れてな。そのときの言動に不可解な点があった」
ブルーは顔をこわばらせた。
「え?」
「それがーー」
タングステンに耳打ちし、おれと兄弟を見ていった。
「あの、もう遅いですし。そろそろ、寝ましょう! さあさあ!」
立ち上がり、せかし始めた。
「なんだよ、急に。まだ話は続くんだろ?」
絶対にかまーどはかせ? がなんかしたんだろ?
「まあ、そうですけど……いえ、あの……えーと」
なんかこれ、明らかに、これからの話はおれたちがいるとし辛いって感じだ。
「とにかく!」
とブルーは大きな声を上げる。それから、右手の人差し指をピッと立てると、近くに座っていたチビが立ち上がった。
「うにゃおん」
気づいたらおれたち3人はチビの背中に乗せられていて、風のようにサッと2階の部屋の前に連れていかれていた。
一瞬のこと過ぎて、なにが起こったのか、わけがわからない……!
ブルーが1階から声をかけてくる。
「すみません! ちょっとこみいった話がありますので、アオバくん達は先に休んでください〜!」
「おいっ……」
文句を言おうとした瞬間、おれたちを乗せたチビが部屋の中にするりと入った。
ドアが閉まり、結果部屋の中に押し込められたおれたちとチビ。
「なんだったんだろ、さっきの」
とリュウセイ。ユウはチビの背に乗れたのが楽しかったのか「もいっかい」と喜んでいる。
「急すぎるよな」
正直まだ話が聞きたかったので、不満な声が出てしまう。
リュウセイがそんなおれに向かって意外にも訳知り顔で言った。
「ぼく知ってるよ。大人はこんなふうに子どもをはやく寝かせて、そのあとおいしいものを食べるんだ」
発想に思わず笑ってしまいそうになるが、本人は至って真剣な表情なのでグッと我慢した。
おれたちには心配させたくないってことか? 想像はつくがなんか腹が立つわけで。こっちとしては、自分事なんだから聞く権利はあるはずなんだよな……。
チビはドアの前を陣取り、せっせとおなかの毛づくろいをしている。
下の階のブルーたちと話をするにはチビをどかさないといけないわけだが、この巨大な猫を動かす自信はもちろんない。
「……まあ、もう夜も遅いし寝るか……」
おれは極力、なんでもないと言うように笑った。いまはこのちびっ子たちを不安にさせないようにしよう。
幸いこの部屋には小さいが備え付けの水場がある。歯磨きは出来ないがうがいくらいは出来そうだ。
2人に口をゆすぐように促し、おれはベッド横の小さなタンスの中を確認した。パジャマまでは行かないが、クリーム色のシャツとズボン……シンプルな服がきれいに畳まれて入っていた。ピッタリ3着あるしサイズもおれたちに合っている。ブルーが用意……してくれたんだろうな。
パジャマに着替えたおれたちはベッドに転がる。
「暗くするよ」
俺は天井から伸びた紐を引っ張った。黄色く照らされて部屋が薄暗くなる。
これは電気を消した……わけではない。なんでも、この部屋全体に魔法がかかっていて、しかけによって(今みたいに紐をひっぱるとかすると)ついたり消えたりするそうだ。
リュウセイとユウはしばらく2人でクスクス笑いながらのったり蹴ったりと揉みくちゃとしていた。その後は静かになったと思ったら、小さく、すすり泣くような声が聞こえた。
おれはたまらなくなり、手を伸ばして布団越しの小さな体に手をのせて目を閉じた。
しばらくして。
誰かが上に覆いかぶさる感覚に、目を開けた。ぼやけた視界がひらけると同時にキラキラとした青い目が俺を捕らえていた。頬にかかるさらさらとした長い髪……!?
ち、ちか……。
「だれッ……もが」
ひんやりした手で口がふさがれた。
「!!!」
目の前の奴はしぃーとあやすように言ってからおれに囁やいた。
「喚ばれたやつってオマエ?」
こいつ……!
「う……うーうー」
「あ、しゃべれないか」
「っは…」
口から手が離れたと同時におれは大声を出そうと息を吸いこんだ。
「だめだめ」
そこで意識が途切れた。
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