42 コモリの願いとブルーの不在
「面白い。まさか、昨日の襲撃の張本人が来るとはな」
「…面白がってる場合じゃないと思うけど」
タングステンのセリフに呆れたようなスーイの声。
あの後、倒れたコモリは城の中にある、人目につかない空き部屋へ運ばれた。
巨大な蝙蝠を運ぶのはなかなか大変なことだけど、そこは魔法の国。巨大生物用のタンカでコモリは運ばれていった。
「フォッシルウッドを助けてほしい、か」
タングステンはコモリを見つめている。
「…拘束はしないの?」
スーイの質問にタングステンは腕を組みながら眉を下げた。
「必要ないからな。……主のために奔走する者を無碍にはできない」
タングステンはどこか悲しそうに微笑んだ。
「こいつは妖精だ」
「コモリが!?」
てっきり蝙蝠の姿は変身魔法とかなのかと思ってた……。
「コモリってフォッシルウッドのペアだよ」
続けてヒノコが何でもないように言った。
え、ていうか……。
「ヒノコ、コモリのこと知ってたの?」
「うん」
あっさり頷くヒノコ。
「…それ、先に知りたかった」
スーイがジト目でヒノコを見た。
「えー? なんか、言うタイミングなくて」
無邪気な顔で笑うヒノコに、力が抜ける。
「妖精はペアのために動く。それは善悪、倫理を超越する。特にこいつはそれが強そうだ」
タングステンが淡々と言った。
みんなが柔らかな絨毯の上に眠るコモリを見下ろす。
「…つまり、この蝙蝠は嘘を言ってないってこと?」
「さてな。ーー話しを戻す。コモリの話は主観と憶測が多いのは前提とするがーー……」
タングステンは言葉を切り黙り込む。
「タングステン?」
声をかけると、タングステンは仕切り直すように言った。
「おっと、すまん」
この人が言葉を濁すなんて珍しいな。
「ブルーは神殿に、リュウセイとユウについて報告と召喚術の調査に向かった。2、3日は戻らない予定だ。しかし、早急にこちらから出向き、奴と話す必要がある」
「おれが行って話をしてくるよ」
気付いたら言葉を発していた、と思う。
タングステン、ヒノコ、スーイが目を丸くしてこちらを見ている。その中ですぐにヒノコが反応した。
「アオバが行くのはナシでしょ」
「…ヒノコに賛成」
とスーイが続く。
「な、なんでだよ」
「フォッシルウッドに対して、召喚の儀に細工をする様に仕向けたのが、本当にブルーだったのなら」
タングステンが低い声で言った。
「ブルーの言い分によっては、やつを危険分子だと認定せざるおえない」
「なっ……!」
ブルーが危険って。あいつが?
おれの頭によぎるのは、のんきそうな顔や、心配顔のブルーだった。
「ただ、まあ。今はそれも分からんしな。とにかく話を聞くことをしないと始まらん」
「じゃ、じゃあ行っていいってこと?」
「しかし、流石に一人では行かせられん。そもそも海底の神殿には一人では無理だ」
そうだった。おれはスーイの魔法によって行けただけだ。
「…じゃあ僕が一緒にいく」
「だめだ。俺が少し外に出る用事ができたのでな。貴様は残って、コモリといるんだ」
「ーーおれが行きたい、けど。水の中が無理だ」
悔しそうにヒノコが言う。その時だった。
「ではワタシがいこうじゃあないか」
突然、空中からカマード博士が現れた!
「博士っ!?」
ヒノコが驚きの声を上げる。
こ、この人……!!
「ーーえっ、じゃ、おれも連れてってよ!」
不満げに叫ぶヒノコにカマード博士がぴしゃりと言った。
「だめ。ヒノコはここにいなさい。フォッシルウッドが来ないとは言い切れないよ」
「むぅ…」
ヒノコは悔しそうに黙り込む。
「ーーというわけだ。よいかな?」
カマード博士がタングステンに聞いた。
「ふん、そうだな。本人に聞こうか」
みんなの目が一斉におれに集まる。
「……カマード博士、お願いします」
「よし! 決まりだね」
カマード博士が嬉しそうに言った。
そこへ兄弟とチビがドアを開けてするりと入ってきた。
「本当はおれたちもアオバ兄ちゃんと行きたいけど、こっちにのこったほうがが役に立ちそうだし、我慢する」
「がまんする」
真剣な顔でおれを見上げる2人に、しゃがみ込み目線を合わせた。
「2人ともありがとな」
「賢明な判断だねえ。君たちの能力から見ても、その方がいい。チビ、任せたよ」
「みゃ」
兄弟の後ろからチビが顔を出した。
……チビだって、ブルーのことが心配だろうな。
「チビ、ブルーと話してくるからな」
チビの顔を撫ぜると気持ち良さそうに鼻をひくつかせた。
「では行くよ、アオバくん」
「はい。よろしくお願いします、カマード博士」
それはあッという間だった。言葉を発すると同時におれはカマード博士に抱き上げられ、目の前の割れた空間へ入っていった。
「えっ」
そして、気付いたときは港にいた。一瞬だった、よな?
「あ、れ……」
「さあ着いた。ここからだけど、アオバくんはどの方法で海底の神殿へ行きたい? ①変身魔法で魚になって泳ぐ。②空気の膜を全身にまとって泳ぐ。③呼吸をエラ呼吸に変化させて泳ぐ。④水の妖精に丸呑みしてもらって運んでもらう。⑤海水になって移動する。まあ、初心者にはこんなものかな。どうするかな? 個人的には⑤がスリルがあってオススメだがねえ」
「カ、カマード博士!」
「なんだろうか?」
思考が追いつかないけど、とりあえず聞かないと。
「あ、えっと……それ、おれがホントに選ぶやつですか?」
もしかして冗談だったりして……と思い、念のため聞いてみる。
「ホントに、とは?」
あ。マジなやつだ。
「えーと……に、2番? の、空気の膜の……でお願いしていいですか?」
昨日、神殿に行った時にスーイがおれにもかけてくれた魔法だよな。
「了解した」
カマード博士がそう言ったと同時におれは巨大なシャボン玉に包まれた。
「うわっ!」
スーイの使う魔法とは、根本的に規模が違った。
「行こうか」
自身も巨大なシャボン玉に包まれると、カマード博士とおれは海の中へと入っていった。
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