37 兄弟とチビ
力が抜けたらいろんなことが頭に浮かんできた。
というか、さっきの女の人だれ?
でかいコウモリしゃべってたよな?
ヒノコがなぜかいるし。
リュウセイとユウが急にーー。
おれは嬉しそうにまとわりつく兄弟を改めて見た。
「いやいやいやいや! リュウセイとユウ! 帰ったんじゃ…!?」
焦るおれに2人はキョトンとした表情。
「確かにおかしいな」
タングステンが顎に手をあてて唸った。
「本来なら2人の偽物を疑う自体ではあるが、先ほどの行動や今までの言動から本物のリュウセイとユウにしか思えんな。ふむ……」
タングステンはしゃがみ込み、兄弟に目線を合わせる。
「ふたりとも! あの時、折り紙で何を折ったか分かるか?」
「うーん……紙ヒコーキ!」
「ヒコーキー」
タングステンは破顔した。
「ーーその通りだ」
そうか、神殿で三人はたくさんの紙飛行機を折ってたよな。
「アオバにいちゃんにあげたのだけ、色塗ったやつあげた!」
「ユウくんも!」
「そうだったな」
タングステンが目を細めて笑った。
青いカミヒコウキと黄色いカミヒコウキ。
「大事に持ってるよ」
おれが言うと、2人は照れくさそうに笑った。
本物なのかなんて、考えることではないよな。なんで2人がここに来たのかよくわからないままだけど、とにかく元気そうで良かった。
「あ、ていうか、さっきは助けてくれてありがとう」
そうだよ。2人はおれを助けてくれたんだ。突然現れて……。
照れたようにモジモジする2人に聞いた。
「2人とも急に現れた、よな? どっから……」
「えっと、これ」
リュウセイがTシャツの襟ぐりを広げた。その中からから小さな茶色い毛玉が飛び出して、おれの腕にくっついた。
「みゅっ」
一声鳴いた毛玉は……小さな子猫だった!
「か、かわっ……!」
「ぷるる」
子猫はおれの腕をよじ登ったり、肩に乗ったりと遊んでいる。
「この子が連れてきてくれたんだ」
「そうだよ」
ユウも自慢気に小さな胸をはる。
「連れてきた?」
「うん」
頷くリュウセイ。
話が全くわからない。
「また、アオバにいちゃんと一緒にいられるね!」
「ね!」
兄弟が飛び跳ねて喜んでいる。
一緒って……でも……。
「いや、お母さんやお父さんは?」
あっけらかんとリュウセイが言った。
「いないよ」
「いない? で、でも」
「そうよー」
ユウもにっこり、同意する。
「またアオバにいちゃんといられるね!」
「ねー!」
2人にしがみつかれる。
い、いや…気持ちがついていかない。
そんなおれの様子に構うことなく子猫は頭までよじ登ってくる。
「にーう」
「いててて……こら」
さすがに痛いので、手をのばして子猫を捕まえた。子猫は急に大人しくなりクリクリの目をおれに向けてきて……。
「かわい……」
は! いや、いまは違う。また話が脱線してしまう。
「……ん……」
ふいにおれの下から声がした。
「ブルー! 気がついたのか!」
「…ブルーさん!」
皆が、意識を取り戻したブルーに嬉しそうに声をあげた。
「ブルー、良かった……」
ホッとして手が緩み、子猫がぽとりとブルーの顔に落ちた。
「わっ」
「みゅぅ!」
「チ、チビ、あなた何して……へ? あ、あれ? リュウセイ君と……ユウ君!? ……え!?」
ブルーは自分を取り囲む皆を見て、一気におかしな状況だと慌ててるみたいだ。そして可哀想なくらいに顔が真っ赤になった。
「ブルー、大丈夫か?」
ブルーの顔をのぞきこんだ。
「すすすすすすす、すみませんっ!!」
ものすごい勢いで飛び起き、俺から離れた。拍子に子猫が俺の手のなかに戻る。
「た、た、大変失礼しました!!」
「……ふむ、大丈夫そうだな」
タングステンが笑いを含んだ声で呟いた。
ふいに背中をぐっと柔らかい何かが押した。振り向くとフワフワの茶色い猫耳。
「チビ」
「うにゃん」
チビはおれの脇からぐっと顔を出す。ちょうど腕のなかにいた子猫と顔を合わせた。そして鼻同士をちょこんと合わせると子猫が透き通り消えていった。
「っーー! き、消えた!?」
びっくりして辺りを見回すがどこにもいない。チビは何でもないように大きくあくびをしている。
「あの、大丈夫ですよ……」
ブルーが口を開いた。
「さっきの子猫は、チビの分体……のようでした。今は本体に戻ったみたいです」
ブルーは呑気に言った。
「分体ってそもそもなに? 消えた子猫、探さなくていいの?」
「探さないでもちろん大丈夫です。本体から分かれて独立した個体のことを分体と呼ぶんです」
「な、なにそれ……」
ブルーが眉をさげた。
「えーと……あ、そうだ。チビの大きさ、元に戻ったでしょう?」
「え?」
チビをよく見ると、確かに小さくなったのが大きくなってる! てか、戻ってるんだ。
「ほんとだ!」
「本体に分体が戻るとそうなります」
キリッとした顔で言うブルー。
「よく分かんないけど、直ったなら良かった…」
ホッとしてチビを撫でると、大きな猫は気持ちよさそうに目を細めた。
「やっぱりチビだったんだ!」
「ちびー」
兄弟が横からチビに抱きついた。チビはまんざらでもなさそうに「みゃ」と鳴いた。
「ねー、おなかすいた」
突然、ヒノコが大きな声で言う。
「なんか食べたい」
お腹を押さえながらピーの背中に寝そべっている。
「ふむ。いいだろう。リュウセイとユウの帰還祝いだ、料理長に何か作らそう」
「やった!」
ヒノコが声を上げた。
気付くと、建物に避難していた人達が外に出始める。タングステンが辺りを見渡しながら言った。
「城に戻るぞ!」
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